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馬の文献:喉嚢真菌症(Lingard et al. 1974)

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「喉嚢真菌症による急性鼻出血を発症した馬の二症例」
Lingard DR, Gosser HS, Monfort TN. Acute epistaxis associated with guttural pouch mycosis in two horses. J Am Vet Med Assoc. 1974; 164(10): 1038-1040.

この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)による急性鼻出血(Acute epistaxis)を発症した馬の二症例が報告されています。

一頭目の患馬は、六歳齢のサラブレッドの牝馬で、七日間にわたる重度の回帰性鼻出血(Severe recurrent epistaxis)の病歴で来院しましたが、それ以前の六週間にわたって、粘液膿性の鼻汁排出(Mucopulurent nasal discharge)を示していました。来院時には、明瞭な収縮期心雑音(Pronounced systolic murmur)や粘膜蒼白(Paled mucus membrane)が認められ、血液検査ではPCV値低下が示されましたが、患馬の扱いの難しさ(Intractability)のため、内視鏡検査(Endoscopy)は実施できず、三週間にわたる保存性療法(Conservative treatment)のあと退院しました。

しかし患馬は、その三日後には再び鼻出血の病歴で再来院し、レントゲン検査(Radiography)によって喉嚢内の水平液体ライン(Horizontal fluid line)が認められ、輸血(Blood transfusion)と補液療法(Fluid therapy)が試みられましたが、七日後にまたも重篤な鼻出血を呈したため、残念ながら安楽死(Euthanasia)となりました。剖検(Necropsy)では、10cm大の黄色プラーク様真菌病巣(Yellowish plaquelike fungal lesion)が喉嚢内に見つかり、内頚動脈(Internal carotid artery)の侵食が確認されました。

二頭目の患馬は、六歳齢のアメリカン・サドルブレッドの牝馬で、初期病状としての鼻出血の後、抗生物質(Antibiotics)とビタミン剤(Vitamin B12, B-complex, C, K)の投与が行われましたが、五日間後に致死的鼻出血(Fatal epistaxis)を起こして斃死しました。剖検では、内頚動脈部における、2cm大の灰色プラーク様真菌病巣が認められ、動脈壁の破裂(Rupture of arterial wall)によって出血に至ったことが確定診断(Definitive diagnosis)されました。

この研究では、二頭のいずれの症例においても、鼻出血の症状発現、および、全身性の抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)に不応性(Refractory)を示した所見から、喉嚢真菌症の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されましたが、例えば一頭目の症例では、初回来院時に内視鏡検査が実施されていれば、より早期の確定診断が可能であったと推測されています。自発性の鼻出血(Spontaneous epistaxis)は、馬の喉嚢真菌症に好発する初期症状で、舎飼い馬(Stabled horses)における晩春~夏季(Late spring to summer)に発症しやすいという知見もあります(Cook. Proc AAEP. 1968:336)。また、抗生物質の投与による常在菌への影響が、真菌増殖(Fungal outgrowth)および喉嚢真菌症の発症に関与した可能性を指摘する文献もあります(Boucher et al. JAVMA. 1964;145:1004, Peterson et al. JAVMA. 1970;157:220)。

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新型コロナには遺伝子ワクチン

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新型コロナウイルスのパンデミックは、ワクチン開発技術の歴史的な転換をもたらすのかもしれません。

新型コロナの感染拡大が続くなか、ワクチン開発によるパンデミック終息を切望する声も聞かれます。ただ、通常は五年から十年も掛かるワクチン開発が、新型コロナではたった半年程度で実用化されようとしているのはナゼなのでしょうか。それは、いま開発されているワクチンが、従来の鶏卵法で作成される不活化ワクチンではなく、遺伝子組み換え技術を使って作成された「遺伝子ワクチン」だからです。

例を挙げると、モデルナ社(米)やキュアバク社(独)が開発しているmRNAワクチン、ファイザー社(米)が開発している脂質ナノ粒子ワクチン、イノヴィオ社(米)や大阪大学(日)が開発しているDNAワクチン、アストラゼネカ社(英)やジョンソン&ジョンソン社(米)が開発しているアデノウイルスワクチン、サノフィ社(仏)が開発しているバキュロウイルスワクチン、田辺三菱製薬(日)が開発しているウイルス様粒子ワクチン、などがあります。

これらの遺伝子ワクチンは、核酸やウイルス等を介して私たちの細胞のなかに遺伝子を送り込み、その遺伝子を転写・翻訳した私たちの細胞が、新型コロナのスパイク蛋白を合成します。そして、そのスパイク蛋白の存在を免疫細胞が探知して、新型コロナの侵入であると認識することで、抗体生成や細胞性免疫が誘導されて、新型コロナに対する抵抗性を得るという仕組みになっています。

遺伝子ワクチンの最大のメリットは、短期間でワクチンを量産できるという点です。これまでは、鶏卵の内部でウイルスを増殖させて、それを薬品で不活化させてワクチン抗原として用いていましたので、ワクチンの製造に6~12ヶ月もの長期間を要していました。一方で、遺伝子ワクチンの成分である核酸やウイルス粒子は、短い期間(1~2ヶ月)で大量に増幅することが出来ますので、今回のようなパンデミックにおいては、迅速に多量のワクチンを提供できることになります。

しかし、遺伝子ワクチンにもデメリットはあります。たとえば、RNAワクチンは、成分が不安定であること、DNAワクチンは、遺伝子発現効率が低いこと、と言ったデメリットが知られています。また、アデノウイルスワクチンは、アデノウイルスそのものに対する抗体もできるので、再度投与した場合には効果がない、などの欠点が挙げられています。その他、本来は増殖能を持たないワクチン用ウイルスが、接種されたヒトの体内で増殖してしまう副作用も報告されています。

そして、何よりも不安なことは、そもそもこの「遺伝子ワクチン」というものは、大規模なヒトの感染症における実用化事例が過去に無いという点です。これまでは、古典的な鶏卵法でも、時間を掛ければ必要数のワクチンを製造できていましたので、わざわざ有効性や安全性が未知数な遺伝子ワクチンを使うことは殆どありませんでした。また、遺伝子組み換え技術を使ったワクチンというだけで、私たち注射される側の心情的に許容されてこなかった、という面もあるのだそうです。

今回の新型コロナのように、たまたま(?)、感染力の強いウイルスが世界中に広まって、迅速にワクチン開発する必要性が高まったことで、遺伝子ワクチンという新技術が活躍する場がもたらされた、というのも皮肉な気がします。もしも、新型コロナを遺伝子ワクチンで抑え込むことが出来れば、人類は感染症に対する新たな武器を手にすることになり、将来的に、新型コロナよりも更に死亡率の高い病気がパンデミックを起こしても、それを短期間で素早く封じ込めることが出来るようなるのかもしれません。

ただ、少しうがった見方をすると、何だか遺伝子ワクチンの新技術を世界的に試験してみたい思惑が先にあって、そのためには、「短期間でワクチンを作って欲しい!」と世界中の人たちに切望してもらう状況が必要でしたので、あえて、それほど病原性の高くないウイルスを、さも非常に危険であるかのように煽ってきたのでは?、という疑念も持たされてしまいます。

いずれにしても、私たちワクチンを接種される側としては、いま開発されている新型コロナのワクチンが、過去に実用化された実績の乏しい遺伝子ワクチンの技術を使ったものであることを認識して、安全性に対する十分な検証を行ったり、健康リスクを鑑みて本当に接種する必要があるのか否かを熟考することを忘れるべきではないと思います。感染拡大への恐怖から思考停止に陥り、不安要素の大きなワクチンに飛びついてしまうべきではないと感じます。

少なくとも、政府が数憶回分もの数のワクチンを国費で確保して、あたかも、国民全員がワクチンを接種するのが当たり前だ、という空気を作ってしまうことに対しては、警鐘が鳴らされるべきではないでしょうか。

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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Lacourt et al. 2011)

「遮蔽式の鉤状柳葉刀を使用した起立位手術での経口腔軸性分割による馬の喉頭蓋捕捉の治療」
Lacourt M, Marcoux M. Treatment of epiglottic entrapment by transnasal axial division in standing sedated horses using a shielded hook bistoury. Vet Surg. 2011; 40(3): 299-304.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1996~2007年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下された八頭の馬に対して、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal approach)および内視鏡誘導(Endoscope-guidance)を介して、遮蔽式の鉤状柳葉刀(Shielded hook bistoury)を使用した、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われました。

この研究で開発された遮蔽式の鉤状柳葉刀には、開閉式のカバーが付いており、捕捉されている組織を器具の尖端で掴む時以外は、このカバーで鋭利な刃先を覆う仕組みになっており、軸性分割のため捕捉されている組織を切っていく過程、および、器具を鼻腔へと到達させたり引き戻す過程において、周囲組織を傷付けない工夫がなされています。この結果、八頭の症例に対する手術では、術中合併症(Intra-operative complications)を起こすことなく、披裂喉頭蓋襞の軸性分割が達成された事が報告されています。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的療法では、来院症例(Outpatient basis)としての治療が可能な、起立位手術による施術が有効であり、これには、経鼻腔および経口腔(Transoral)の二種類のアプローチが応用されています。このうち、経口腔アプローチでは、嚥下反射(Swallowing reflux)を起こし易く、捕捉組織から柳葉刀が抜け落ち易い(喉頭蓋の下方からアプローチしているため)という欠点があります。ただ、経口腔アプローチのほうが、より腹側部の披裂喉頭蓋襞まで分割線を伸展できる(=より長く切ることが出来る)、という長所も指摘されています(Ross et al. JAVMA. 1996;203:416)。

一方、経鼻腔アプローチでは、捕捉組織を切っている最中に、馬が嚥下したり暴れたりすると、柳葉刀によって軟口蓋(Soft palate)に裂傷(Laceration)を起こす危険があり(=致死的疾患になりうる)、その実施は禁忌(Contraindication)であるという提唱もなされています(Epstein. Eq Resp Med and Surg [1st eds]. 2007:459, Stick. Equine surgery [3rd eds]. 2006:566)。しかし、今回の研究で試験された遮蔽式の鉤状柳葉刀を用いて、軟口蓋を重度の医原性損傷(Severe iatrogenic damage)から保護できることが示されており、経鼻腔アプローチによる起立位手術を見直すことが出来る、という考察がなされています。

この研究では、経過追跡(Follow-up)のできた六頭のうち、治療成功と判断された馬は83%(5/6頭)で、レース復帰(Returned to race)を果たした馬は67%(4/6頭)でした。また、レース復帰できなかった一頭においては、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)の術後合併症(Post-operative complications)が認められました。今回の研究では、サンプル数が不十分であったものの、これまでの外科的治療(通常型の鉤状柳葉刀やレーザー焼烙を用いた手法)と同程度の治療効果が期待できる、という考察がなされています。

この研究で開発および試験された遮蔽式の鉤状柳葉刀は、比較的に安価で製作でき、レーザー機器を導入するのに比べれば、設備投資費(Investment in equipment)を抑えられると考察されています。また、外科手技的にも、遮蔽式の鉤状柳葉刀の操作のほうが、レーザー手術に比べて、手術手技の体得が容易で、さらに、通常の鉤状柳葉刀に比較した場合にも、周囲の軟部組織を損傷する危険性が少ないため、捕捉組織を切る速さをそれほど気にする必要がない、という利点も挙げられています。

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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Perkins et al. 2007)

「15頭の馬における起立位手術での内視鏡誘導による喉頭蓋捕捉の経口腔軸性分割」
Perkins JD, Hughes TK, Brain B. Endoscope-guided, transoral axial division of an entrapping epiglottic fold in fifteen standing horses. Vet Surg. 2007; 36(8): 800-803.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、2005~2006年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での経口腔アプローチ(Transoral approach)を介して、内視鏡誘導(Endoscope-guidance)による鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)を用いた、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が試みられた16頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、16頭の患馬のうち15頭に対して、起立位手術での内視鏡誘導による、喉頭蓋捕捉襞の経口腔軸性分割が、術中合併症(Intra-operative complications)を起こすことなく達成され、この15頭の全症例において、呼吸器雑音の完全な消失(Complete resolution of respiratory noise)と、意図した用途への運動復帰(Returned to intended use)が達成されました。残りの一頭では、極めて深い鎮静(Heavy sedation)にも関わらず、十分な保定(Adequate restraint)および経鼻腔的な内視鏡検査を許容しなかったため、全身麻酔下(Under general anesthesia)での軸性分割手術に切り替えられました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での経口腔アプローチを介した、内視鏡誘導での披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、運動および競技復帰を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的治療では、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal approach)、または、全身麻酔下での経口腔アプローチによって、鈎状柳葉刀またはレーザー焼烙(Laser ablation)を使用しながら、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式が応用されています(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)。これらの手法では、喉頭切開術(Laryngotomy)が必要ないため休養期間(Resting period)が短縮でき、治療費を安価に抑えられるという利点が挙げられています。そして、今回の研究では、起立位手術であっても、適切な鎮静および保定が実施できるならば、開口器(Mouth speculum)で内視鏡を保護することで、視認しながら経口腔的に軸性分割する術式が、十分に応用可能であることが実証されました。

一般的に、起立位手術での経鼻腔アプローチによって、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する場合には、捕捉されている組織を切っている最中に、馬が嚥下(Swallowing)したり暴れたりすると、柳葉刀によって軟口蓋を裂傷(Laceration)させる危険性があります。このような、軟口蓋に対する重度の医原性損傷(Severe iatrogenic damage)は、外科的な整復が難しく(致死的合併症になりうる)、プアパフォーマンスや誤嚥(Aspiration)を引き起こす場合もあります。また、鼻腔を通した内視鏡では、軟口蓋が背方変位した状態では、術部の視認が妨げられる可能性が高いことも知られています。これらの点を考慮して、起立位手術での経鼻腔アプローチは、馬の喉頭蓋捕捉の手術法としては禁忌(Contraindication)である、という提唱もなされています(Epstein. Eq Resp Med and Surg [1st eds]. 2007:459, Stick. Equine surgery [3rd eds]. 2006:566)。

この研究では、患馬に意識がある状態での経口腔アプローチであるため、繰り返し嚥下反射(Swallowing reflux)が起きると、罹患箇所の診断や施術が妨げられた事が報告されています。このため、この術式が応用される場合には、かなり多量の局所麻酔(Local anesthesia)を塗布することで、口腔咽頭部に粘膜感覚(Mucosal sensation of the oropharynx)を十分に取り除いて、頻繁な嚥下を抑制することが必須である、という考察がなされています。また、経口腔アプローチに際しては、口腔側で喉頭蓋を操作するために、手動で軟口蓋を押し上げて、喉頭蓋を軟口蓋の下部に変位させる必要があり、また、その後は、舌を引き出して手術助手が保持しておくことで(Rostral traction on the tongue)、喉頭蓋が軟口蓋の上に戻ってしまうのを防ぐことが重要である、と提唱されています。

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新型コロナの第2波は来ない?

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新型コロナウイルス感染症は、日本では既に収束しているのかもしれません。

京都大学の上久保教授らは、日本では新型コロナの第2波は来ないという研究結果を発表しています。その理由としては、日本では昨年11月から今年1月にかけて、弱毒性のコロナウイルス(K型)に対する集団免疫が確立されており(人口の約五割)、これによって今年3月以降に入ってきた武漢型・欧米型の強毒性コロナウイルス(G型)への抵抗性が獲得されていることが挙げられています。その結果、K型コロナとG型コロナを合わせると、人口の約85%が免疫を確立していると推測されています。確かに日本では、PCR検査で新型コロナに陽性なのに無症状である方の割合が非常に多く、また、死亡者数は諸外国の100分の一くらい少ないことから、未知の要素が好影響している可能性が示唆されていましたので(いわゆるファクターX)、集団免疫が既に確立していたという知見はこれを良く説明しているように見えます。

言い換えると、日本人の殆どが新型コロナへの集団免疫を得ている以上は、マスク着用や社会的距離政策も必要なく、普通どおりの生活に戻って構わないことになります。もっと言えば、新型コロナへの免疫は数ヶ月で減退してしまうことが知られていますので、むしろ定期的にウイルスに暴露されるのを繰り返すことで(この場合は感染も発症もしない)、新型コロナへのブースター免疫を維持することが重要であるとも提唱されています。さらに、大急ぎで開発して安全性に不安の残るワクチンに関しても、新型コロナに対する集団免疫がある以上は、国民全員にワクチン接種する必要も無くなると言えると思います。ただ、今回の知見に関しては幾つかの疑問も浮かんできます。

まず第一に、日本で既に実施されている抗体検査では、新型コロナの抗体保有率は0.03~0.17%であることが報告されており、人口の八割以上が集団免疫を確立されているという主張と矛盾します。しかし、抗体の測定においては、アッセイのカットオフ値をどこに設定するかによって、抗体陽性と陰性の区別が難しいことが知られており、実は抗体保有率はもっと高かった可能性もあると考えられます。何より、今回の知見は、新型コロナの感染による干渉作用によってインフルエンザ感染が抑制されていたという事象を解析することによって実証されていますので、本当は抗体を得ていた人が多かったという説にはうなずけます。また、一般的な抗体検査はB細胞免疫の評価ですので、T細胞免疫による抵抗性の状況は反映していないことも考えられます。

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もうひとつ疑問なのは、北欧のスウェーデンでは集団免疫政策を取ったにも関わらず、周辺国よりも死亡率が高くなってしまった、という失敗例があることです。これに関しては、実はスウェーデンには弱毒性のK型コロナが入っていない状態であったため、強毒性のG型コロナによって、重傷者数や死亡者数の増加につながったことが提唱されています。加えて、スウェーデンではトリアージ方策も取られており、高齢者の発症者を治療しない事象も多いことから、見た目上の死亡率が高くなったケースも考えられるかもしれません。むしろ、日本と同じようにK型コロナが入っていたと推測されるアジア諸国において、日本と同様に死亡率が非常に低い現実を見ると、弱毒性ウイルスによる集団免疫が強毒性ウイルスによる被害を抑えた、という説には説得力があります。

そして、今後のことについても疑問が浮かんできます。たとえば、K型コロナへの免疫によってG型コロナへの抵抗性が得られたという過去の事象が真実だったとしても、ウイルスは常に変異していますので、この後、より感染力の強いウイルスが出てきたときに感染対策を取っていないと、急に多数の重症者や死亡者が出てしまう危険性もあるのではないでしょうか。しかし、前述の研究者らは、今後、さらに感染力の高いウイルスが上陸したとしても、既存の免疫があることで、集団免疫に要する罹患率は上がることから、その必要分だけ感染すると集団免疫に達する、というメカニズムを挙げています。つまり、既にK型とG型コロナによる集団免疫が確立している日本では、別の型のウイルス(Y型やH形など)によって多数の死者が出るリスクは低いと考えられます。

もうひとつ大きな疑問は、日本人の50%がK型コロナに感染していたとすると、G型コロナに感染した35%の人は免疫が無かったのだから、これらの人々の中から欧米並みの死者が出るハズでは、という点です。これに関しては、欧米ではK型ではなく、S型コロナという別のウイルスによる特異抗体(B細胞免疫)が産生されていて、G型コロナの感染によって抗体依存性感染増強(ADE: Antibody dependent enhancement)を誘発して死者数が多くなったことが挙げられています。一方、K型コロナの感染では強力なT細胞免疫が獲得されることから、これによってG型コロナが撃退されたと考えられています。つまり、中国から日本への渡航者制限が三月初旬まで遅れてしまったことが、逆に適度の集団免疫を得る結果につながったという事のようです。

今回の知見に則って、全ての感染予防対策をすぐに止めてしまうのは不安です。しかし、私たちは、新型コロナの感染拡大の状況を冷静に見つめて、確率論に基づいた論理的方策を取るべき時期に来ているのかもしれません。たとえば、先日の専門家の分科会では、PCR検査の陽性者の総数ではなく、症状を示している陽性者数(いわば厳密な意味での患者数)に着目して解析をおこない、患者数は七月末をピークに減少傾向にあると報告しています。また、八月になってからは、新型コロナの実行再生産数(Rt)は全国的に1以下になってきており、疫学的には感染が収束していく状況であると見なせそうです。

新型コロナを正しく恐れるためには、固定観念に捕らわれたり、思考停止に陥ってしまうことなく、新型コロナ感染の特性や集団免疫の状況を適切に検証して、何が最適な方策なのかを精査していくべきなのではないでしょうか。

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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Russell et al. 2007)

「27頭の馬の喉頭蓋捕捉に対する野外治療」
Russell T, Wainscott M. Treatment in the field of 27 horses with epiglottic entrapment. Vet Rec. 2007; 161(6): 187-189.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、全身麻酔下(Under general anesthesia)での経口腔アプローチ(Transoral approach)を介して、鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)を用いた披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われた27頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、27頭の患馬のうち、レース復帰(Returned to racing)を果たした馬は96%(26/27頭)に及び、このうち、半数に当たる13頭では、競走能力の一つの指標とされるハンディキャップ比率(Increased handicap rating)の上昇を示しました。一方、レース復帰できなかった一頭は、持続性の軟口蓋背方変位(Parmanent dorsal displacement of the soft palate)の続発が確認されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、全身麻酔下での経口腔アプローチを介した披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、多くの馬が競走へ復帰して、競走能力の向上(Improvement in racing performance)を達成する馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的治療では、起立位手術(Standing surgery)による鈎状柳葉刀またはレーザー焼烙(Laser ablation)を用いて、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式が応用されています(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)。この手法では、喉頭切開術(Laryngotomy)が必要ないため、治療費が安価で、休養期間(Resting period)も短縮でき、また、捕捉されている披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)が切除されて、喉頭蓋下組織(Subepiglottic tissue)の伸縮性が妨げられる危険性が少ない(=軟口蓋背方変位を続発しやすい)、という利点が挙げられています。

一方で、起立位手術のための、充分な保定(Adequate restraint)を許容しないような、難しい気質(Temperament)の症例においては、術中に術者や患馬に危険が及ぶ可能性があるため、今回の研究の術式のように、全身麻酔下での経口腔的な術式が有用であると考察されています。同様の手術が応用された過去の文献では、内視鏡下(Under endoscopic view)で柳葉刀の操作を視認することが推奨されていますが、今回の研究では、野外手術(Field surgery)として、術者の手指の感覚のみで盲目的に分割(Blind division)する方法が試みられており、内視鏡を使わなくても、十分に安全な施術が可能であるという治療成績が示されました。しかし、術者の手のサイズが大きいと、十分な潤滑剤(Lubrication)を使用しないと、喉頭蓋まで指先を到達できない場合もあった事が報告されています。

この研究の試験された治療法では、全身麻酔を用いることで、術者の怪我防止につながるだけでなく、舌根部の筋緊張が少ないため、喉頭蓋下組織を十分に手前に引き寄せながら軸性分割できる、という潜在的長所(Potential advantage)も指摘されています。しかし、鼻腔側からではなく、口腔側から罹患部位を操作する際には、喉頭蓋の下方からアプローチする事から、捕捉されている軟部組織が喉頭蓋から抜け落ちて、十分な長さの軸性分割を達成できない危険性もあると提唱されています。このため、手術に使用する鈎状柳葉刀は、十分に鋭利な尖端を持ち、なおかつ、分割の最中に披裂喉頭蓋襞が滑り抜けてしまわないように、指先で堅固に喉頭蓋を保持することが重要である、という考察がなされています。

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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Greet. 1995)

「経鼻腔鉤状刀を用いた喉頭蓋捕捉の治療経験」
Greet TR. Experiences in treatment of epiglottal entrapment using a hook knife per nasum. Equine Vet J. 1995; 27(2): 122-126.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での内視鏡誘導(Endoscopic guidance)を介して、経鼻腔鉤状刀(Hook knife per nasum)を用いた披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)、ネオジウムヤグレーザー焼烙(Nd:YAG laser ablation)を用いた軸性分割、または、喉頭形成術(Laryngotomy)を介した喉頭蓋下粘膜切除(Subepiglottal mucosal resection)が行われた38頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、経鼻腔鉤状刀を用いた治療が選択された29頭の症例のうち、喉頭蓋捕捉の“軽減”(Alleviation)が認められた馬は76%(22/29頭)で、また、経過追跡(Follow-up)ができた25頭のうち、喉頭蓋捕捉の再発(Recurrence)が認められた馬は12%(3/25頭)であったことが示されました。また、これらの症例のうち、レース復帰を果たした馬は14頭で、勝利した馬は四頭であったことが報告されています。対照的に、ネオジウムヤグレーザー焼烙を用いた軸性分割、および、喉頭形成術を介した喉頭蓋下粘膜切除が選択された症例のうち、“治療成功”を示した馬は、いずれも50%であった事が示されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での経鼻腔鉤状刀による披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、競走および運動に復帰できる馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。

この研究では、術前の内視鏡検査において、喉頭蓋低形成(Epiglottic hypoplasia)が認められた三頭では、いずれも治療後に喉頭蓋捕捉を再発しており、喉頭蓋の形態異状によって、術後合併症(Post-operative complications)の危険性が高まるという、過去の知見(Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971)を再確認させるデータが示されたと言えます。また、披裂喉頭蓋襞が過剰に切除されてしまうと、術後に軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)を続発しやすくなるという知見もあり(Haynes. Pract LA Surg. 1984:444)、今回の研究でも、喉頭形成術を介しての喉頭蓋下粘膜切除術が応用された二頭において、間欠性(Intermittent)の軟口蓋背方変位の合併症が見られた事が報告されています。

この研究では、五頭の症例において一過性(Transient)の喉頭蓋捕捉が示され、これらの馬では、内視鏡下で何度か嚥下(Repeated deglutition)をさせる事で、数秒間にわたる喉頭蓋捕捉の発現が認められました。このような症例では、捕捉されている披裂喉頭蓋襞の組織に、鉤状刀を引っ掛けることが困難な場合が多く、適切な外科的治療が難しい病態であることが知られています。今回の研究における、一過性喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、鉤状刀で牽引した際にも、捕捉組織が喉頭蓋から抜け落ちるのみで、軸性分割できなかったため、喉頭形成術を介しての、喉頭蓋下粘膜の正中剥切(Axial strip of subepiglottic mucosa)が行われました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的療法では、喉頭形成術を伴わない起立位手術を応用することで、来院症例(Outpatient basis)としての治療が可能になり、治療費や術後の休養期間(Post-operative resting period)を減退できるという利点があります。しかし、患馬の気質(Temperament)が難しく、十分な保定(Restraint)を許容しないケースでは、術者や馬自身に危険が及ぶ可能性も指摘されており、今回の研究でも、術中に馬が飛び上がり、鉤状刀が鼻腔内に刺さってしまうという事故が報告されています。このため、起立位手術での軸性分割の実施に際しては、適切な鎮静剤(Sedation)の投与、および咽頭喉頭部への局所麻酔(Local anesthesia)の塗布を行うことが重要であり、手術の安全性が確証できない場合には、全身麻酔下(Under general anesthesia)での経口腔アプローチによる施術を躊躇するべきではない、という警鐘が鳴らされています。

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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Lumsden et al. 1994)

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「馬の喉頭蓋捕捉の外科的療法:1981~1992年の51症例」
Lumsden JM, Stick JA, Caron JP, Nickels FA. Surgical treatment for epiglottic entrapment in horses: 51 cases (1981-1992). J Am Vet Med Assoc. 1994; 205(5): 729-735.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1981~1992年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、全身麻酔下(Under general anesthesia)での披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の経口腔的な軸性分割(Transoral axial division)が行われた22頭の患馬(グループ1)、全身麻酔下での喉頭形成術(Laryngotomy)を介した披裂喉頭蓋襞の切除術が行われた16頭の患馬(グループ2)、喉頭蓋捕捉以外の上部気道異常(Additional upper airway abnormalities)が行われた13患頭(グループ3)における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、グループ1の症例はグループ2に比べて、治療費(Treatment cost)、入院期間(Duration of hospitalization period)、手術から競走復帰までの休養期間(Resting period to first race start after surgery)、および、術後合併症の発症率(Incidence of post-operative complication)が、有意に少なかったり低かった事が示されました。また、馬主への聞き取り調査(Survey)では、治療成功と判断された症例の割合は、グループ1では82%に達したのに対して、グループ2では27%にしか過ぎませんでした。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、経口腔的な軸性分割による治療のほうが、喉頭形成術を介した披裂喉頭蓋襞の切除術に比べて、有意に優れた捕捉組織の整復(Correction of entrapping tissue)が達成され、より高い治療成功率(Successful rate)と良好な予後が期待できることが示唆されました。

一般的に、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対する外科的療法では、喉頭切開術によって捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織が切除された場合には、喉頭蓋下部にある軟部組織の伸縮性が損失し、喉頭蓋が上方に反転する動きが阻害されて、喉頭蓋捕捉の再発(Recurrence)や、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)および嚥下障害(Dysphagia)を続発する危険性が高いことが知られています(Speirs. J Eq Med Surg. 1977;1:267)。一方、鈎状柳葉刀またはレーザーを用いて、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式では、広範囲にわたる組織切除を避けて、披裂喉頭蓋襞を真ん中から切り分けるだけなので、術後に喉頭蓋の可動性を妨げる度合いが少なく、また、喉頭形成術の切開創治癒(Incisional healing)に要する期間や合併症を防げる、という利点があります(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)。そして、今回の研究では、このような軸性分割術の治療成績の高さを裏付けるデータが示されたと言えます。

この研究では、グループ3の症例はグループ1や2に比べて、術後の競走&競技能力が有意に低かった事が示されました。これらの馬における、喉頭蓋捕捉以外の異常所見には、間欠性または持続性(Intermittent/Persistent)の軟口蓋背方変位、喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)、喉頭蓋下嚢胞(Subepiglottic cyst)、披裂軟骨異常(Arytenoid chondropathy)などが含まれました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、術前の内視鏡検査において、喉頭蓋捕捉の存在だけに目を奪われる事なく、それ以外の上部気道の異常所見を慎重に見極めて、適切な予後判定(Prognostication)に努めることの重要性を、再確認するデータが示されたと考えられました。

この研究では、全身麻酔下において、捕捉されている披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式が応用されていますが、他の文献では、起立位手術(Standing surgery)での手法(鈎状柳葉刀またはレーザーを使用する術式)も報告されています。しかし、今回の研究では、手術そのものに要した時間は五分程度であったのに対して、起立位手術では手術そのものに32~60分を要する事が報告されており、気質(Temperament)が難しい馬が長時間にわたる保定(Prolonged restraint)を許容しない場合には、起立位手術によって、術者に危険が及ぶ可能性もあります。また、起立位手術では、患馬に意識があり、披裂喉頭蓋襞に対して後方への緊張(Caudal traction)が掛かっていたり、分割が完了する前に柳葉刀が吻腹側に外れてしまい(Rostroventral dislodgement)、充分な長さの軸性分割が達成できず、喉頭蓋捕捉の再発につながり易い、という知見も示されています(Jann et al. JAVMA. 1985;187:484)。

この研究では、五頭の症例において間欠性の喉頭蓋捕捉が見られ、このうち二頭では、トレッドミル運動中の内視鏡検査によってのみ、喉頭蓋捕捉の発症が確認されました。このため、安静時の内視鏡検査では、間欠性の喉頭蓋捕捉を見落としてしまう可能性がある、という警鐘が鳴らされています。しかし、その反面、このような運動時のみに起こる間欠性喉頭蓋捕捉が、競技&競走能力にどの程度の有害作用(Adverse effect)を与えるかは定かでは無いことから、この所見のみから運動不耐性(Exercise intolerance)およびプアパフォーマンス等の臨床症状との因果関係(Causality)を特定するのは適当でない、という考察もなされています。

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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Ross et al. 1993)

「馬の喉頭蓋捕捉の治療のための内視鏡誘導による経口腔軸性分割」
Ross MW, Gentile DG, Evans LE. Transoral axial division, under endoscopic guidance, for correction of epiglottic entrapment in horses. J Am Vet Med Assoc. 1993; 203(3): 416-420.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での内視鏡誘導(Endoscopic guidance)を介しての経口腔アプローチ(Transoral surgical approach)による、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われた20頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

この研究の外科的療法では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での右側横臥位(Right lateral recumbency)において、開口器(Mouth speculum)を装着させてから舌を引き出し、手動で軟口蓋(Soft palate)を押し上げ喉頭蓋(Epiglottis)をその下方に移動させてから、口腔内に内視鏡を挿入しました。そして、内視鏡誘導によってステンレス鈎状柳葉刀(Stainless steel hooked bistoury)を捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織に引っ掛けて、この組織の軸性分割が施されました。

結果としては、20頭の患馬のうち、術後に競走および運動への復帰(Returned to exercise or racing)を果たした馬は100%(20/20頭)で、喉頭蓋捕捉の再発(Recurrence)が見られた馬は10%(2/20頭)、および軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)が見られた馬は10%(2/20頭)であった事が示されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での披裂喉頭蓋襞の経口腔的な軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、競走および運動に復帰できる馬の割合が高いことが示唆されました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する古典的な治療では、喉頭切開術(Laryngotomy)によって、捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織を切除する術式が報告されていますが(Speirs. J Eq Med Surg. 1977;1:267)、過剰な組織が切除されることで、術後に軟口蓋背方変位を続発する危険性が高いことが知られています。一方、起立位手術(Standing surgery)によって鈎状柳葉刀またはレーザーを用いて、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式では(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)、組織を切除せず真ん中で切るだけなので、喉頭蓋下部の軟部組織の伸縮性が維持されて、術後に軟口蓋背方変位を起こしにくく、また、全身麻酔を要せず、入院期間や治療費が抑えられるという利点があります。

しかし、患馬の気質(Temperament)が難しく、充分な保定(Adequate restraint)を許容しない場合には、術中に術者や馬自身に危険が及ぶ可能性があるため、全身麻酔の使用を余儀無くされるケースも多々あります。そのような症例に対しては、今回の研究の術式のように、全身麻酔下において経口腔内視鏡で術部を確認しながら、鈎状柳葉刀を使って施術することで、喉頭切開術を介することなく披裂喉頭蓋襞を軸性分割でき、代替的手法(Alternative procedure)として有用な治療法になりうると考察されています。この際には、鈎状柳葉刀に一定の牽引を掛けながら分割することで、軟口蓋の医原性損傷(Iatrogenic damage)(=致死的な怪我になりうる)を予防することが重要であると提唱されています。

この研究では、オス馬よりも牝馬のほうが、サラブレッドよりもスタンダードブレッドのほうが、喉頭蓋捕捉の有病率(Prevalence)が高い傾向が認められましたが、このような性別および品種の違いが、なぜ喉頭蓋捕捉の発症素因(Predisposing factor)になりうるのかに関しては、この論文の考察内では、明確には結論付けられていませんでした。

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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Tulleners. 1991)

「ネオジウムヤグレーザーによって治療された競走馬の喉頭蓋捕捉における内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見と競走能力との相関」
Tulleners EP. Correlation of performance with endoscopic and radiographic assessment of epiglottic hypoplasia in racehorses with epiglottic entrapment corrected by use of contact neodymium:yttrium aluminum garnet laser. J Am Vet Med Assoc. 1991; 198(4): 621-626.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1987~1988年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位での内視鏡を介したネオジウムヤグレーザー手術(Transendoscopic Nd:YAG laser surgery)による、披裂喉頭蓋襞の軸性分割(Axial division of aryepiglottic fold)が行われた79頭の患馬における、内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見(Endoscopic and radiographic assessment of epiglottic hypoplasia)と競走能力(Racing performance)との相関が評価されました。

結果としては、術前と術後に三レース以上の出走を果たした馬を見ると、サラブレッド競走馬では83%が獲得賞金の維持または向上を示し、スタンダードブレッド競走馬でも85%が獲得賞金の維持または向上を示しました。そして、術前のレントゲン検査における喉頭蓋の長さ(Epiglottic length)を見ると、症例郡の平均測定値(サラブレッド:7.28cm、スタンダードブレッド:7.21cm)に比べて、健常な対照馬の平均測定値(サラブレッド:8.56cm、スタンダードブレッド:8.74cm)のほうが、有意に低かった事が示されました。さらに、内視鏡下で喉頭蓋低形成であるという判断が下された症例馬の平均測定値(サラブレッド:6.64cm、スタンダードブレッド:6.93cm)は、喉頭蓋低形成ではないという判断が下された症例馬の平均測定値(サラブレッド:7.57cm、スタンダードブレッド:7.36cm)に比べて、有意に短かった事が報告されています。

この研究では、術前の内視鏡検査およびレントゲン検査における、喉頭蓋低形成の所見の有無、および、喉頭蓋の長さの測定値は、術後の競走能力および獲得賞金とは有意には相関していませんでした。しかし、サラブレッド競走馬に限って見ると、術前よりも術後のほうが獲得賞金額が増えた馬の割合は、喉頭蓋低形成が認められた場合には0%であったのに対して、喉頭蓋低形成が認められなかった場合には22%であった事が報告されています。このため、喉頭蓋低形成の有無や重篤度を確かめることで、ある程度の予後判定指標(Prognostic indicator)になりうる可能性が示唆されています。一方で、術後の競走能力の低下または向上においては、もともとの競走能力の高さも関与するため、内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見のみから、外科的療法の治療効果を推定するのは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。

一般的に、喉頭蓋捕捉の罹患馬においては、喉頭蓋の低形成を併発していた場合には、術後に喉頭蓋を再発(Recurrence)したり、捕捉されている披裂喉頭蓋襞が外科的整復されてその伸縮性が減退された結果、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)の術後合併症(Post-operative complication)を続発する危険性が高いことが知られています。そして、喉頭蓋低形成の診断に際しては、内視鏡検査よりもレントゲン検査のほうが、喉頭蓋の長さや厚みをより正確に測ることができ、また、披裂軟骨の石灰化(Artenoid cartilage mineralization)の発見や(=披裂軟骨炎の初期症状の場合がある)、喉頭蓋の下方にある軟部組織の異常を確認できる、という利点があります。一方、内視鏡検査では、喉頭蓋の幅や色、潰瘍(Ulceration)の併発などを判定でき、喉頭蓋の形状や、軟口蓋(Soft palate)と喉頭蓋との機能的関係(Functional relationship)を評価できる、という利点が挙げられています。

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