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疝痛の獣医療での地域差:イスラエル

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馬の疝痛では、各地域で飼養されている馬の品種や年齢、用途、飼養形態などの要因に起因して、発症状況や医療ケアの方針に関して地域差が生まれると考えられます。そして、どの要因が、どのような地域差に繋がるのかを知ることで、海外の知見を日本での馬の獣医療に応用する際に、どのエビデンスを重視するか、または、重視するべきではないのかを推測するのに役立つと言えます。

ここでは、中東のイスラエルにおける、馬の疝痛の獣医療に関する知見を紹介します。この研究では、イスラエルのエルサレム大学の獣医病院において、2003〜2006年にかけて、疝痛の診断および治療のために外来した208頭の馬における医療記録の回顧的調査と、オッズ比(OR)の算出によって危険因子が解析されました。

参考文献:
Sutton GA, Ertzman-Ginsburg R, Steinman A, Milgram J. Initial investigation of mortality rates and prognostic indicators in horses with colic in Israel: a retrospective study. Equine Vet J. 2009 May;41(5):482-6.

結果としては、症例全体の死亡率は25%(51/208頭)であったものの、そのうち、大腸疾患での死亡率は26%(28/108頭)に留まったのに対して、小腸疾患での死亡率は63%(17/27頭)に達していました。また、絞扼性疾患の死亡率は60%(30/50頭)に及んでいたのに比較して、非絞扼性疾患の死亡率は18%(15/85頭)に過ぎませんでした。このように、小腸疾患および絞扼性疾患での死亡率の高さは、他国の知見とも一致していますが、小腸疾患における死亡率は、米国や英国の文献でのそれよりも高い傾向になっていました。この要因としては、今回の症例群に含まれる重篤例の多さが挙げられており、外科的治療(開腹術)が必要となった症例は、全症例の65%に及んでいました。そして、内科的治療された馬の死亡率は7%(5/72頭)であったのに対して、外科的治療が選択された馬の死亡率は34%(46/136頭)に上っていました。

一方で、この研究では、安楽殺を嫌うという文化的な特徴が、重篤症例の死亡率の高さに影響した可能性もあると考察されています。つまり、他の文献では開腹術に踏み切った症例を分母として死亡率を計算していたため、この研究では、術前検査の段階で予後不良と判断されて、安楽殺される症例数が少なかったことで、結果的に、開腹術後に生存できない馬の割合が高くなったと推測されています。

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この研究では、多因子の回帰分析において、絞扼性疾患(OR=3.8)や外科的治療(OR=4.6)のほうが、死亡する確率が四〜五倍も高いことが分かりました(前者は小腸疾患に限定した場合)。一方、疝痛馬の検査所見としては、口腔粘膜の色が異常であった馬では、死亡する確率が七倍近く高い(OR=6.6)ことも報告されています。この理由としては、口腔粘膜の異常色を引き起こすことの多い内毒素血症、および、それに続発する敗血症(いわゆる全身性炎症反応症候群: SIRS)の発症が、予後不良に繋がったためと推測されます。このため、二次診療施設での開腹術や内科的な集中治療を、早期に決断かつ実施することで、生存率の向上に繋げられると考えられました。

この研究では、単因子解析による危険因子の評価では、心拍数、ヘマトクリット値、赤血球数などが死亡率と相関しており、いずれも測定値が高いほど、死亡率が有意に高くなっていました。しかし、これらの項目は、多因子解析では有意性が示されなかったことから、個々を独立して見るよりも、複数の測定値を複合させて予後判定の指標として活用することが有用だと考えられました。また、これらは、多因子解析で有意となった項目(絞扼性疾患や口腔粘膜の色など)との統計的相互作用があったと推測されるため、特定の条件下では有益な指標になる可能性もあると言えます。

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この研究での疝痛馬のうち、最も多かった品種はクォーターホース(26.9%)で、次いでアラビアン(25%)となっており、サラブレッドは5.3%に留まっていました。また、平均年齢は7.5歳でした。このため、日本のように、サラブレッド種の多い地域における疝痛の発生状況とは、異なった傾向が示される可能性はありそうです。一方で、性別の分布としては、牝馬が65.9%に達しており(妊娠牝馬は17.3%)、騸馬は18.3%、牡馬が15.9%に過ぎませんでした。このように、牝馬の割合が多かった原因は考察されておらず、純粋にメス馬の飼養頭数が多い地域性なのか、それとも、オス馬には高額な疝痛治療が選択されにくいバイアスが働いた(その結果、二次診療施設には搬入されなかった)ためなのかは不明でした。
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疝痛の獣医療での地域差:カナダ

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馬の疝痛では、各地域で飼養されている馬の品種や年齢、用途、飼養形態などの要因に起因して、発症状況や医療ケアの方針に関して地域差が生まれると考えられます。そして、どの要因が、どのような地域差に繋がるのかを知ることで、海外の知見を日本での馬の獣医療に応用する際に、どのエビデンスを重視するか、または、重視するべきではないのかを推測するのに役立つと言えます。

ここでは、カナダの大西洋側地域における、馬の疝痛の獣医療に関する知見を紹介します。この研究では、カナダのプリンスエドワード島大学の獣医病院において、2000〜2015年にかけて、疝痛の診療のために外来した575頭の馬における医療記録の回顧的解析、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の評価が行われました。

参考文献:
Kaufman JM, Nekouei O, Doyle AJ, Biermann NM. Clinical findings, diagnoses, and outcomes of horses presented for colic to a referral hospital in Atlantic Canada (2000-2015). Can Vet J. 2020 Mar;61(3):281-288.

結果としては、疝痛の原因疾患としては、結腸食滞が最も多く(18.4%)、次いで結腸捻転(6.2%)、結腸右背方変位(5.7%)、痙攣疝(4.3%)、大腸炎(4.0%)となっていました。また、症例全体の生存率は69%でしたが、このうち、大腸疾患での生存率は74.6%に上ったのに対して、小腸疾患での生存率は38.5%と顕著に低いことが分かりました。このため、対照群に比較して(病態不特定)、大腸疾患では生存できない確率が二倍以上高く(OR=2.53)、小腸疾患では生存できない確率が七倍以上も高い(OR=7.39)というデータが示されました。このため、疝痛の初診時には、疼痛の強さに関わらず、小腸疾患の有無だけは速やかに鑑別して、外科的治療を要するような難治症例を見逃さないことの重要性が再認識させられたと言えます。

この研究の多因子解析では、死亡率に最も強く影響する要因(オッズ比が最も高い)は、疼痛症状の重篤度となっていました。具体的には、疼痛症状が軽度または認められない場合に比較して、中程度の疼痛では生存できない確率が二倍以上高く(OR=2.25)、重度の疼痛では生存できない確率が十倍近く高い(OR=9.58)ことが分かりました。このため、疝痛の原因疾患のタイプに関わらず、疼痛症状が重篤な症例では、死亡率が顕著に悪くなる事を考慮して、遅延なくアグレッシブな内科治療を実施したり、開腹術の適応を早期判断することの重要性を再確認するデータが示されたと言えます。ただ、疼痛の強さを客観的に定量する基準は多様性があり、痛みへの我慢強さ等の気性や性格によって個体差が大きいと推測されるため、各症例の品種や年齢などを鑑みて判断する必要があります。更に、鎮痛作用のある薬剤投与の有無によっても、臨床兆候の有意性の解釈に留意することが大切だと考えられます(バナミンが二回以上投与されている馬では、間欠的に軽く前掻きするだけでも、手術を要するレベルの疼痛がある可能性もある等)。

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この研究の多因子解析では、年齢の高い個体ほど、疝痛での死亡率が有意に高いことが示され、年齢が一歳上がるごとに生存できない確率が5%高くなっていました(OR=1.05)。つまり、五歳と二十歳の馬を比較した場合(年齢差が15歳)、後者のほうが、生存できない確率が二倍以上も高くなる(1.05の15乗は2.08)ことになります。この理由としては、若齢馬のほうが消化器病態の治癒能力が高かったこと、若齢馬ほど痛みへの許容性が低く疼痛症状を明瞭に示した結果、疝痛の早期発見や早期治療に繋がったこと、高齢馬のほうが難治性の絞扼性小腸疾患が多いこと(有茎性脂肪腫など)、および、高齢馬の中には、経済的要因から開腹術などの高額治療を選択しなかった可能性もあること、等が挙げられました。

この研究の多因子解析では、二次診療施設への搬入時における疝痛の経過時間が、死亡率と正または負の相関を示していました。具体的には、経過時間が0〜12時間であった場合に比較して、12〜36時間の場合には、死亡率が三倍近くも高い(OR=2.87)ことが分かり、これは、開腹術を要するような外科的疝痛において、手術適応および搬入の判断が遅れると、予後不良になり易かったためと推測されます。また、経過時間が0〜12時間であった場合に比べて、36時間以上であった場合には、死亡率が五割ほど高くなる(OR=1.52)というデータが示されました(統計的な有意差は無し)。この理由としては、36時間待ってから搬入した方が予後が良くなる(12〜36時間の場合に比べて)、という解釈ではなく、便秘疝などの漸増性の軽度疼痛を示した症例では、現場での初期治療への反応性を見てから搬入するケースが多くなり、その時点での経過時間は長くなったものの、疝痛自体の治癒率は高かったためと考えられました。加えて、経過時間が12〜36時間の症例群には、絞扼性疾患などの疼痛の強い疝痛馬も含まれており(痛みが強いため開腹術適応が早期に判断されたが、予後は芳しくなかった等)、これらを比較対象としてデータ解析した結果、経過時間が36時間の症例群のほうが、死亡率がやや低い傾向が示された可能性もあります。

この研究の単因子解析では、内科的治療のみ実施された馬に比較して、外科的治療(開腹術)が適応された馬では、生存できない確率が四倍近く高い(OR=3.81)ことが分かりました。しかし、この要因は、多因子解析では有意性が無かったことから、他の因子とのあいだに統計的な相互作用が存在したことになります(小腸疾患や重度疼痛の症例ほど外科的治療となる割合が多かった等)。つまり、開腹術を選択すること自体が、疝痛馬の死亡率を上げた訳ではなく、開腹術を要するほどの重度疝痛ほど、生存できないケースが多くなったためと考えられました。なお、この研究では、搬入前に一次診療の獣医師が診察していなかった場合や、搬入が夜間になってしまった場合では、死亡率はやや高い傾向にあったものの(OR=1.32または1.50)、統計学的に有意な影響は無かったことも示されていました。このため、掛かり付けの獣医が来れずに二次病院に直接運び込んだり、たとえ真夜中でも躊躇せず二次病院に搬入したことによって、生存を果たした疝痛馬もいたのかもしれません。

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この研究の単因子解析では、幾つかの臨床所見が疝痛の予後判定指標となることが示され、これには、初診時の心拍数、呼吸数、行動様式、腸蠕動音などが含まれました。このうち、正常な行動様式であった場合に比較して、抑鬱状態や興奮状態では、生存できない確率が五倍以上も高くなっていました(OR=5.46または7.92)。また、幾つかの血液検査所見も疝痛の予後判定指標となっており、これには、ヘマトクリット値(PCV値)、乳酸濃度、血糖値などが含まれました。このうち、PCV値は、1単位あがるごとに、生存できない確率が約一割高くなっており(1単位あたりのOR=1.10)、例として、PCV値が40%から60%に上がると、死亡率は七倍近く高いと推測されます(1.10の20乗は6.73)。なお、これらの臨床/血液所見は、多因子解析では有意性は無かったことから、単一の項目だけで予後判定をするのは適切ではなく、複数の項目を総括的に指標とすることで、より信頼性の高い判断が下せると考察されています。

この研究の単因子解析では、血液の他に、腹水の乳酸濃度や蛋白濃度も、有用な予後判定指標であることが示されました。このうち、乳酸濃度では、同じ1単位(mmol/L)の上昇であっても、生存率を下げる度合いは、腹水の乳酸濃度(1単位あたりのOR=1.30)に比べて、血液の乳酸濃度(1単位あたりのOR=1.70)のほうが大きい傾向にありました。一方で、蛋白濃度では、同じ1単位(g/L)の上昇であっても、生存率を下げる度合いは、血液の蛋白濃度(1単位あたりのOR=1.01)に比較して、腹水の蛋白濃度(1単位あたりのOR=1.30)のほうが大きくなっていました。このため、血液と腹水では、数値の増減度合いを、異なる基準で解釈するべきと言えます。また、初診時に迅速に予後判定する際には、血液サンプルでは乳酸濃度を測って(遠心分離せずに測定可)、腹水サンプルでは蛋白濃度を測る(一滴しか採取できなくても測定可)という方針が有益なのかもしれません。

この研究では、調査対象となった症例馬のうち、最も多い品種はスタンダードブレッド(28.8%)、次いでクォーターホース(15.5%)となっており、サラブレッドは全体の9.8%に留まっていました。また、性別は、牝馬が47.9%、騸馬が36.9%、牡馬が15.2%となっており、年齢の中央値は7.7歳でした。このため、品種や年齢分布が異なる地域や産業領域では、この研究の知見と異なる傾向が見られる可能性もあることに留意する必要がありそうです。
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馬の外科的疝痛におけるPCV値と心拍数

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馬の疝痛においては、その多くが内科的治療によって回復しますが、開腹術などの外科的治療を要するような重度の症例では、手術適応を早期判断したり、手術が選択肢で無いときには、アグレッシブな保存療法を初期段階で開始することが重要となります。このため、外科的疝痛の診断指標を確立させることが、馬の疝痛を診察する際に有益であると言えます。

ここでは、疝痛馬のPCV値と心拍数によって、内科的および外科的疝痛の鑑別と、短期生存率との関連性を調査した知見を紹介します。この研究では、スロベニアのリュブリャナ大学の獣医病院において、疝痛の診療を受けた125頭の馬の医療記録の回顧的解析、および、オッズ比(OR)やROC曲線下面積(AUC)の算出による鑑別能の評価が行われました。

参考文献:
Kos VK, Kramaric P, Brloznik M. Packed cell volume and heart rate to predict medical and surgical cases and their short-term survival in horses with gastrointestinal-induced colic. Can Vet J. 2022 Apr;63(4):365-372.

結果としては、PCV値の中央値を見ると、内科的疝痛では40%であったのに対して、外科的疝痛では48%と有意に高いことが分かりました。この結果、PCV値が1単位増すごとに、開腹術を要する確率が4.6%高くなる(OR=1.046)ことが示されました。例えば、PCV値が40%と48%の馬を比べると、後者の方が外科的疝痛になるリスクが四割以上高くなる(1.046の八乗は1.43)と予測されます。

一方で、心拍数の中央値を見ると、内科的疝痛では48回/分であったのに対して、外科的疝痛では75回/分と有意に高いことが分かりました。この結果、心拍数が1単位増すごとに、開腹術を要する確率が8.0%高くなる(OR=1.08)ことが示されました。例えば、心拍数が48回/分と75回/分の馬を比べると、後者の方が外科的疝痛になるリスクが八倍近く高くなる(1.08の27乗は7.99)と予測されます。

また、PCV値と心拍数による外科的疝痛の鑑別(開腹術の必要性)では、中程度の鑑別能(AUC=0.79)が達成され、感度は0.77、特異度は0.81となりました。つまり、PCV値と心拍数の適切なカットオフ値を確立できれば、それに基づいて、その馬が開腹術を要すると予測された場合には、それが外れる割合は約四頭に一頭(偽陰性=1-0.77=0.23)となりますが、その逆に、その馬が開腹術は不要だと予測された場合には、約五頭に一頭で外れる(偽陽性=1-0.81=0.19)というデータが示されました。

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この研究のPCV値では、疝痛の原因を小腸疾患と大腸疾患に分類したときに、興味深い解析結果が示されました。疝痛馬のうち、開腹術を要した小腸疾患に限ってみると、発症から五時間未満でのPCV値は40%(中央値)に過ぎず、内科的疝痛と同等に留まっていましたが、発症から五時間以上経ったあとのPCV値は52%(中央値)と有意に高くなっていました。つまり、初診時にPCV値が正常であったケースでも、小腸疾患が疑われる症例においては(経鼻チューブで多量の胃逆流液が見られた場合など)、経時的にPCV値を測って変化を監視していないと、数値上昇を見逃して、開腹術適応の判断が遅れてしまう危険があると考えられました。

以上の結果から、疝痛馬を検査するときには、PCV値や心拍数を診断指標とすることで、内科的疝痛と外科的疝痛を鑑別診断する一助になることが示唆されました。ただ、鑑別能は"非常に良好"というレベル(AUCが0.9以上)には達していなかったため、今後は、より多症例のデータを解析して、此処の地域ごとに最適なカットオフ値を決めることで、鑑別診断の信頼性を向上できると言えます。

この研究では、疝痛馬の短期生存率(生存して退院した馬の割合)を見ると、症例全体では78%(98/125頭)でしたが、このうち、内科的疝痛では94%(60/64頭)に上ったのに対して、外科的疝痛では62%(38/61頭)と顕著に低いことが示されました。また、外科的疝痛だけの生存率を見てみると、大腸疾患では69%(22/32頭)であったのに比べて、小腸疾患では55%(16/29頭)に留まっていました。

そして、この研究では、PCV値や心拍数が生存率とも相関していることが確認されました。内科的疝痛のPCV値(中央値)を見ると、生存馬(40%)と非生存馬(46%)のあいだで有意差は無かった一方で、外科的疝痛のPCV値(中央値)を見てみると、生存馬(42%)よりも非生存馬(52%)のほうが有意に高値を示していました。また、内科的疝痛の心拍数(中央値)を見ると、生存馬(48回/分)よりも非生存馬(85回/分)のほうが顕著に高値であった一方で(統計的有意差は無し)、外科的疝痛の心拍数(中央値)を見てみると、生存馬(70回/分)と非生存馬(80回/分)のあいだで大きな差異はありませんでした。

また、PCV値と心拍数による生存予測では、良好な鑑別能(AUC=0.86)が達成され、感度は0.56、特異度は0.95となりました。つまり、PCV値と心拍数の適切なカットオフ値を確立できれば、それに基づいて、その馬が生存できないと予測された場合には、それが外れる割合は20頭に一頭(偽陰性=1-0.95=0.05)に過ぎませんが、逆に、その馬が生存できると予測された場合には、約五頭に二頭で外れる(偽陽性=1-0.56=0.44)というデータが示されました。

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以上の結果から、疝痛馬の治療に際しては、PCV値や心拍数を目安として、生存予測をする一助になる可能性が示唆されました。このうち、内科的疝痛の生存予測では心拍数、外科的疝痛の生存予測ではPCV値が有用な指標になりうると考えられますが、やはり鑑別能には改善の余地が認められたため、追加研究によるカットオフ値の最適化が求められると言えそうです。

この研究の限界点としては、PCV値と心拍数以外の検査所見による影響は解析されていない点が挙げられています。一般的に、疝痛の原因となる疾患のタイプやステージによっては、疼痛症状の重篤度、直腸検査やエコー検査の所見、血中乳酸値、および、腹水検査などの方が、開腹術の必要性や生存率を判断する指標として有益な場合もあると推測されます。また、単一の検査所見に依存するよりも、複数の所見を合算してスコア化することで、より信頼性の高い指標として活用する方法も考えられます。一方、PCV値や心拍数を指標とするケースでも、初診時の一回の検査値ではなく、治療の前後で測ってその変化を評価することで、より高い鑑別能を得られる可能性もあります。例えば、PCV値が高値であっても、5〜10リットル程度の補液で明瞭に数値が下がったり、顕著な頻脈が認められた場合であっても、鎮痛作用がそれほど強くない薬剤(バナミン等)の投与で、速やかに正常範囲まで戻るのであれば、開腹術の必要性は低く、生存率も高いという判断になるかもしれません。

この研究では、初診時での疝痛の経過時間(中央値)を見ると、生存馬(8時間)よりも非生存馬(18時間)の方が有意に長くなっており、疝痛の早期診断および早期治療の重要性を再確認させるデータであると言えます。一方、疾患のタイプ別に見てみると、開腹術を要した小腸疾患では、初診時での疝痛の経過時間は4時間とかなり短かったのに対して、開腹術を要した大腸疾患では25時間と顕著に長くなっていました。この理由としては、空腸絞扼などの小腸の外科的疾患では、痛みが強く、発症の直後に獣医師への連絡が成されたと推測されますが、その一方で、大腸の外科的疾患の中には、非絞扼性の結腸変位や骨盤曲食滞など、漸増性の疼痛を呈する症例も多かったためと考えられました。しかし、大腸の外科的疾患だけのデータを見ると、初診時での疝痛の経過時間(中央値)は、生存馬(16時間)のほうが非生存馬(33時間)よりも短かったことから、たとえ疼痛症状が軽い大腸疾患であっても、内科治療で引っ張り過ぎることは避け、手術適応の判断が遅れないように努めることで、生存率の向上に繋がると考察されています。

この研究の調査対象となった疝痛馬では、平均年齢は9.7歳と比較的高く、また、サラブレッドなどの軽種馬は、全体の8%に留まっていました。このため、年齢や品種の分布は、日本の飼養馬のそれとはかなり異なると推測されるため、データの解釈ではこの点に留意すべきと言えそうです。
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疝痛の開腹術での予後判定指標:スペイン

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馬の重度疝痛に対する開腹術では、予後不良となるケースも少なくなく、費用も高額になり易いことから、予後を的確に推測する指標が有用となります。

ここでは、疝痛馬の開腹術における予後判定の指標を調査した知見を紹介します。この研究では、2006〜2011年にかけて、スペインの二箇所の獣医大学病院において、疝痛の外科治療のために実施された566頭の開腹術における医療記録の回顧的解析、および、オッズ比(OR)の算出による予後不良の危険因子の解析が行われました。

参考文献:
Iglesias-Garcia M, Rodriguez Hurtado I, Ortiz-Diez G, De la Calle Del Barrio J, Fernandez Perez C, Gomez Lucas R. Predictive Models for Equine Emergency Exploratory Laparotomy in Spain: Pre-, Intra-, and Post-Operative-Mortality-Associated Factors. Animals (Basel). 2022 May 27;12(11):1375.

結果としては、開腹術が行われた疝痛馬のうち、短期生存率は63.6%となっており(生存して退院した馬の割合)、手術中に安楽殺が選択されたのは22.3%で、術後の入院中に死亡または安楽殺となったのは14.1%でした。そして、病変のタイプを見ると、非絞扼性の疾患に比べて、絞扼性疾患では、生存できない確率が五倍以上も高い(OR=5.3)ことが示されました(術中安楽殺)。また、絞扼性の疾患では、入院中に死亡する確率も約1.5倍となっていました。また、病変の発生部位を見ると、大腸の疾患に比べて、小腸の疾患では、生存できない確率が二倍近くも高い(OR=1.7)ことが分かりました(術中安楽殺)。過去の文献[1,2]でも、馬の外科的疝痛においては、絞扼性疾患および小腸疾患における生存率の低さが報告されています。

以上の結果から、開腹術を要するような重度疝痛を適切に早期診断するためには、疼痛の度合いなどから、絞扼性の疾患であるか否かを見極めることが重要であり(バナミンでは制御できないほどの強い痛みや、疼痛症状に波が無い等)、また、たとえ疼痛が軽度から中程度であっても、直腸検査や腹部エコー検査を遅延なく実施して、小腸疾患が起こっているかを鑑別診断することが大切であることを再認識させられるデータが示されたと言えます。更に、開腹術で絞扼性または小腸の疾患が確認された症例では、入院期間中に予後不良になるリスクが高いことを考慮して、慎重な術後ケアを行なうことで(アグレッシブな補液療法による脱水改善や、蠕動促進剤によるイレウス予防に努めるなど)、生存率向上につながるケースも多いことも再確認されました。

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この研究では、季節性要因の影響も評価されており、春や秋に比較して、夏や冬においては、開腹術を受けた疝痛馬が生存できない確率が二倍近くも高い(OR=1.8)ことが分かりました。この理由としては、夏季は発汗、冬季は飲水欲低下により、馬体が脱水を起こしやすい傾向にあったことが、消化器疾患の重篤度や進行スピードを高めた可能性があると考えられました。ただ、疝痛の原因疾患によっては、春季や秋季に好発するものもあるため(大結腸捻転や小結腸食滞等)、必ずしも夏や冬だけが疝痛自体のリスクが高い季節ではないことに留意する必要があると言えます。なお、今回の研究の調査地域(スペインのマドリード)では、気候的な要因によって、夏季(特に八月)の開腹術での術創合併症が多いと述べられており、これが夏季での生存率の低さに寄与した可能性も指摘されています。

この研究では、疝痛馬の年齢も予後に影響しており、九歳以下の馬に比べて、十歳以上の馬では、生存できない確率が約二倍も高い(OR=2.0)というデータも示されています。この理由としては、高齢馬の方が、一般的な自然治癒能力が低くなりがちであったことに加えて、気性がまだ落ち着いていない若齢馬に比較すると、高齢馬では性格が温和な個体が多く、疼痛にも我慢強くなっていた結果、疝痛症状を見せ始めた時点で、既に消化管病態が進行していたケースもあった(開腹術の時点では既に根治が困難であった)という可能性も考えられました。過去の文献では、高齢な疝痛馬ほど死亡率も高いという知見[3]がある一方で、成馬と老齢馬のあいだで疝痛の生存率に有意差が無かったという報告[4]もあるため、年齢はあくまで疝痛の予後に影響しうる一要因に過ぎない、という解釈が適当なのかもしれません。

この研究では、二次診療施設までの物理的距離も、疝痛の生存率と負の相関を示していました。具体的には、馬病院までの距離が70km以上であった場合には、70km未満の場合に比べて、生存できない確率が二倍近くも高い(OR=1.7)ことが分かりました。この要因としては、開腹術の適応判断から、実際の搬入および施術までに時間を要したために、原発疾患が進行してしまったことが挙げられています。このため、手術施設までの距離がある症例では、外科的疝痛かどうかの鑑別を遅延なく行なう(前述の絞扼性疾患/小腸疾患の鑑別診断等)ことの重要性が改めて示唆されたと言えます。その一方で、内科治療で回復できる疝痛馬を無闇に二次診療施設に送ることは、当該施設での医療逼迫や、馬主の輸送料負担などの問題も生じるため、一次診療で正確な診断を下すことや、容態急変を見逃さない慎重な経過観察が大切になってくるのではないでしょうか。過去の文献でも、近隣に手術施設があることが、疝痛馬の生存と相関するというデータ[5]がある一方で、特定の疾患(結腸捻転など)において、病態経過の長さが予後に悪影響を及ぼすという知見[6]もあります。少なくとも、手術施設が遠い状況での疝痛の診察では、変位疝や腸捻転などの、短時間で予後が悪化する疾患だけは見逃さないように、初診の段階で充分に精査する(腹腔全域のエコー検査や腹水検査の実施など)ことが好ましいのかもしれません。

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この研究では、調査対象であった二箇所の病院を比べると、片方の病院の方が、疝痛馬が術後の入院中に死亡する確率が三倍近く高い(OR=2.6)ことが示されています。この理由については、明瞭には結論付けられていませんが、他因子解析において、患馬の年齢や原因疾患のタイプ、病院までの距離、季節性などとは、統計的な交互作用は無いことが示唆されています。このため、それぞれの病院のある地域における気候の違いや、馬主の経済的状況などが、術後の経過や安楽殺の判断に影響した可能性があると考察されています。

この研究では、スペインにおける疝痛馬の開腹術においては、米国や英国の知見とは異なる因子が生存率を左右すると述べられており、また、スペイン国内の地域差も有意に影響しているため[2]、各地域における疝痛馬の治療成績を個別に解析する重要性が指摘されています。この辺りは、日本での疝痛馬の診療においても同様なのかもしれません。

参考文献:
[1] Mair TS, Smith LJ. Survival and complication rates in 300 horses undergoing surgical treatment of colic. Part 2: Short-term complications. Equine Vet J. 2005 Jul;37(4):303-9.
[2] Munoz E, Arguelles D, Areste L, Miguel LS, Prades M. Retrospective analysis of exploratory laparotomies in 192 Andalusian horses and 276 horses of other breeds. Vet Rec. 2008 Mar 8;162(10):303-6.
[3] Drumm NJ, Embertson RM, Woodie JB, Ruggles AJ, Hopper SA, Fimmers R, Handler J. Factors influencing foaling rate following colic surgery in pregnant Thoroughbred mares in Central Kentucky. Equine Vet J. 2013 May;45(3):346-9.
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馬の文献:冠関節固定術(Watts et al. 2010)

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「馬における螺子とレーザー促進による冠関節固定術」
Watts AE, Fortier LA, Nixon AJ, Ducharme NG. A technique for laser-facilitated equine pastern arthrodesis using parallel screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2010; 39(2): 244-253.

この研究論文では、馬の冠関節の骨関節炎(Pastern osteoarthritis)に対して、より治療効果の高い冠関節固定術(Pastern arthrodesis)の術式を評価するため、ダイオードレーザーを用いての最小侵襲手術(Minimally invasive surgery)を介して冠関節固定術が応用された、六頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective)が行われました。

この研究で試みられた最小侵襲手術では、従来法である冠関節の側副靭帯(Collateral ligament)を切断し、冠関節を一時的に脱臼(Temporary pastern joint luxation)させて関節軟骨(Articular cartilage)を除去する方法ではなく、関節腔へと穿刺した針を介しての、ダイオードレーザー焼灼(Diode laser ablation)によって関節軟骨を変性させる手法が用いられました。そして、レーザー焼灼の後、穿刺切開創(Stab incision)を介しての三本の経関節螺子(Trans-articular lag screws)を用いた術式によって、冠関節の不動化(Immobilization)が行われました。

結果としては、術後の六ヶ月までに、六頭の患馬のうち五頭(83%)が跛行の治癒と、意図したレベルへの使役復帰(Returned to intended use)を果たし、残りの一頭も軽度の持続性跛行(Mild persistent lameness)を呈したものの、騎乗使役へ復帰できたことが報告されています(運動復帰率:100%)。また、従来法では術後の八ヶ月~九ヶ月を要する運動復帰の時期が、この研究では殆どの患馬(5/6頭)において、術後の六ヶ月以内に達成されたことが報告されています。このため、馬の冠関節の骨関節炎の治療に際しては、ダイオードレーザーを用いての最小侵襲性の冠関節固定術によって、良好な治癒と予後が期待され、早期に運動への復帰を果たす馬が多いことが示唆されました。

この研究では、六頭の患馬のうち四頭において、手術の翌日には跛行が完全に消失しており(従来法では術後二週間程度で跛行が消失)、このため、ギプスではなくバンデージのみを用いての術後管理が可能となりました。この理由としては、レーザーによって関節軟骨を焼灼する際に、熱せられた滑膜液(Synovial fluid)を介して滑膜内の神経末端(Nerve endings in synovial membrane)も一緒に損傷されて、速やかな疼痛緩和(Pain release)を呈したことや、レーザー照射時の熱で関節包が収縮(Joint capsule shrinkage)して、関節不動化を支持する作用につながったこと、などの要因が挙げられています。しかし、この際に発生する熱が高すぎると、軟骨下骨(Subchondral bone)の壊死を引き起こし、基節骨(Proximal phalanx)と中節骨(Middle phalanx)の癒合を阻害する可能性もあるため、レーザー使用時の適切な冷却度合いについては、さらなる検討を要すると考えられました。

この研究では、従来法のような大きな皮膚切開創を設けない最小侵襲性の術式が応用されたため、手術時間(Surgery time)、遠位ギプス(Distal limb cast)またはバンデージの装着期間、入院(Hospitalization)の期間などの短縮につながり(平均入院期間は13日間)、治療費の総額は従来法の半分から三分の一に抑えられたことが報告されています。これは、側副靭帯の切断を要しない手法であったため、術後に冠関節の安定性が維持されやすく、術部の良好な治癒につながったり、長期間にわたるギプス装着に起因する褥瘡(Pressure sore)を起こしにくかったこと、および、切開創のサイズが小さく、術創感染などの術後合併症(Post-operative complication)の危険が少なかったこと、などが奏功したためと考察されています。

この研究では、六頭の患馬のうち一頭において、レーザー照射に起因すると推測される皮膚壊死(Skin necrosis)が認められ、その後の術創治癒の遅延(Delayed incisional healing)と予後の悪化につながったことが示されています。これは、術中におけるレーザー使用部位の冷却が不十分であったためと考察されており、冷却用の生食を十分に冷やし、静脈注射用のドリップではなく、シリンジを使用して術部に滴下することで、このようなレーザー焼灼が原因で起こる皮膚壊死を予防できると考えられました。

馬の冠関節固定術においては、関節軟骨を除去する必要性について論議があり、他の文献では、ロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate) と螺子を併用する術式(Richardson et al. 2008 ACVS symposium)、または、螺子のみを用いる術式(Amend et al. 2009 VOS meeting)によって、関節軟骨を除去しない冠関節固定術によっても、良好な骨癒合(Bony fusion)が達成できることが報告されています。この研究では、レーザー焼灼によってどの程度の関節軟骨が除去されたのかは特定されていませんが、レーザー使用による手術直後からの疼痛緩和や、術創のサイズが小さく抑えられることなど、最小侵襲手術の他の利点を考慮しても、上述の文献にあるような内固定法に、レーザー照射を併用することで治療効果の向上が期待される、という考察がなされています。

Photo courtesy of Vet Surg. 2010; 39(2): 244-253.

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馬の文献:冠関節固定術(Carmalt et al. 2010)

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「馬の冠関節固定術:二本または三本の皮質骨螺子における周期性の生体力学的比較」
Carmalt JL, Delaney L, Wilson DG. Arthrodesis of the proximal interphalangeal joint in the horse: a cyclic biomechanical comparison of two and three parallel cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2010; 39(1): 91-94.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、10本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、二本または三本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws)による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、周期性の三点屈曲性の生体力学的試験(Cyclic three-point bending biomechanical testing)において、破損までの周期数(Number of cycles to failure)、破損時の荷重(Failure force)、および破損時の変位(Displacement at failure)などの測定値には、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二本の5.5mm皮質骨螺子を使用する術式のほうが、手技的にも簡単で、かつ手術時間の短縮につながり、冠関節背側部における過剰骨増生(Excessive bone formation)の度合いも低くなると考えられました。

この研究での力学的試験の終了点(=冠関節固定部の破損時)では、いずれの術式においても、螺子そのものではなく、遠位基節骨(Distal region of proximal phalanx)の破損が生じていました。このため、馬の冠関節固定術の強度は、螺子が挿入されている部分の骨の強さによって決定され、螺子自体の強度は直接的な因子ではないため、螺子の数を二本から三本に増やしても物理的強度の向上にはつながらなかった、という考察がなされています。

馬の冠関節固定術に関する他の文献を見ると、プレートと螺子を併用した術式の体外実験(In vitro experiment)では、プレートの変形や破損(Plate bending/breakage)が生じたにも関わらず(Watt et al. Vet Surg. 2002; 31: 85)、実際の臨床症例においては、螺子の破損(Screw breakage)が最も一般的な様式であることが報告されています(Knox and Watkins. EVJ. 2006; 38: 538)。これは、体外実験では、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)の遠位組織である種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)を介して、冠関節へと掛かるテンションバンド機能が完全には作用しないことから、生きた馬の肢に起こっている物理的負荷の状況を正確には再現していなかったためと推測されています。このため、この研究の結果に関しても、二本および三本の螺子を用いた術式の違いを、実際の症例に応用してその治癒経過や予後を観察することで、より慎重に評価する必要があると考察されています。

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馬の文献:冠関節固定術(Sod et al. 2010)

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「馬の冠関節固定術の生体力学的比較:DCPと二本の経関節皮質骨螺子または三本の経関節皮質骨螺子」
Sod GA, Riggs LM, Mitchell CF, Hubert JD, Martin GS. An in vitro biomechanical comparison of equine proximal interphalangeal joint arthrodesis techniques: an axial positioned dynamic compression plate and two abaxial transarticular cortical screws inserted in lag fashion versus three parallel transarticular cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2010; 39(1): 83-90.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、30本の屍体前肢(Cadaveric forelimb)を用いて、一枚のダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)と二本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws)の併用、もしくは三本の5.5mm経関節皮質骨螺子による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、圧迫性および捻転性の生体力学的試験(Compressive/Torsional biomechanical testing)の両方において、DCPと螺子を併用する術式のほうが、螺子のみを用いる術式に比べて、有意に高い降伏荷重(Yield load)、降伏硬度(Yield stiffness)、破壊荷重(Failure load)を有することが示されました。このため、DCPと二本の螺子を併用させる冠関節固定術では、三本の螺子のみを用いる術式に比べて、より堅固な関節の不動化(Immobilization)と、それに伴う早期の骨癒合(Bony fusion)が期待されることが示唆されました。

この研究では、馬の麻酔覚醒(Anesthesia recovery)における術部への負荷を再現するため、単周期の圧迫性力学的試験(Single cycle compressive biomechanical testing)が実施され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均29キロニュートン、三本の螺子のみを用いる術式では平均23キロニュートンの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、体重が450~550kgの馬の麻酔覚醒時には、各前肢に21キロニュートンの荷重が生じることが知られており(Rybicki et al. J Biomech. 1977: 701)、この研究で用いられたいずれの術式においても、麻酔覚醒の際に生じる負荷に対して、計算上は十分に耐えられることが示唆されました。

この研究では、馬が馬房内で歩き回るときの術部への負荷を再現するため、周期性の疲労試験(Cyclic fatigue testing)が実施され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均9万6千回、三本の螺子のみを用いる術式では平均7万5千回の負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、馬が馬房内で歩き回る歩数は、一時間当たり190歩であることが知られており(McDuffee et al. AJVR. 2000: 234)、この結果、DCPと二本の螺子を併用する術式では三週間前後、三本の螺子のみを用いる術式では二週間前後の周期性負荷に耐えられる、というデータが示されました。

この研究では、馬が肢をねじったり、回転運動をするときの術部への負荷を再現するため、単周期の捻転性力学的試験(Single cycle torsional biomechanical testing)が選択され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均107-Nm/rad、三本の螺子のみを用いる術式では平均77-Nm/radの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、成馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)は、560-Nm/radの負荷に耐えうることが知られており(Hansonet al. AJVR. 1995; 56: 233)、この研究で用いられた術式ではこの二割弱の強度しかないことが示されました。このため、上述の単周期の圧迫性試験で示唆されている強度に関わりなく、馬の冠関節固定術の麻酔覚醒時には、ギプスなどの外固定法(External fixation)を用いて、インプラント損傷の予防に努めることが重要である、という考察がなされています。

Photo courtesy of Vet Surg. 2010; 39(1): 83-90.

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馬の文献:冠関節固定術(Jones et al. 2009)

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「重度の骨関節炎の罹患馬に対する限定的外科アプローチによる冠関節固定術」
Jones P, Delco M, Beard W, Lillich JD, Desormaux A. A limited surgical approach for pastern arthrodesis in horses with severe osteoarthritis. Vet Comp Orthop Traumatol. 2009; 22(4): 303-308.

この研究論文では、重度の骨関節炎(Severe osteoarthritis)を呈した馬に対する、限定的外科アプローチ(Limited surgical approach)を介しての冠関節固定術(Pastern arthrodesis)の治療効果を評価するため、2000~2007年にかけて、冠関節固定術が応用された11頭の患馬(12箇所の冠関節)の医療記録(Medical records)の解析が行われました。

この研究で試みられた限定的外科アプローチでは、従来法である冠関節の側副靭帯(Collateral ligament)を切断し、冠関節を一時的に脱臼(Temporary pastern joint luxation)させて関節軟骨(Articular cartilage)を除去する方法ではなく、関節を脱臼させることなく、ドリル穿孔(3.2mm、4.5mm、または5.5mmのドリルビットを使用)によって関節軟骨を削切する手法が用いられました。そして、関節軟骨の除去後、プレートと経関節螺子(Trans-articular lag screws)の併用(八箇所の冠関節)、もしくは経関節螺子のみを用いた術式(四箇所の冠関節)によって、冠関節の不動化(Immobilization)が行われました。

結果としては、11頭の患馬のうち、10頭が少なくともグレード一段階の跛行改善(Lameness improvement)を示し、八頭は意図した用途への使役に復帰(Returned to intended use)したことが報告されています。このため、骨関節炎を呈した馬においては、限定的外科アプローチを介しての冠関節固定術によって、良好な治癒と予後が期待できることが示唆されました。また、術後にインプラント破損が起きたのは、11頭の一頭のみで、背側繋部における過剰な骨増生(Excessive bone formation)が認められた馬は、11頭中の二頭にとどまりました。

この研究では、術後に遠位肢ギプス(Distal limb cast)の装着を要した期間は平均13日間で、入院期間は平均19日間であったことが報告されています。他の文献(Knox and Watkins. Equine Vet J. 2006; 38: 538)によれば、冠関節固定術後のギプス装着期間は14日間、入院期間は25日間であったことが報告されています。このため、限定的外科アプローチでは、側副靭帯の切断を要しないため、術後に冠関節の安定性が維持されやすく、術部の良好な治癒と、入院期間の短縮につながった、という考察がなされています。

この研究では、冠関節固定術の治癒が不完全であった三頭の患馬(=意図した用途への使役に復帰できなかった馬)のうち、二頭は経関節螺子のみを用いた術式による関節不動化が実施されていました。このため、限定的外科アプローチによる冠関節固定術では、関節軟骨は部分的にしか除去されないため、基節骨と中節骨の骨癒合(Bony fusion)が起きにくい場合が多く、プレートと経関節螺子を併用した、より強固な関節固定術を要すると考えられました。

この研究で用いられた術式では、冠関節を脱臼させて広範囲にわたる関節軟骨を除去する過程が必要でないため、手術時間は平均111分で、他の文献(Knox and Watkins. Equine Vet J. 2006; 38: 538)で示されている冠関節固定術の手術時間である144分よりも顕著に短い傾向が示されました。

Photo courtesy of Vet Comp Orthop Traumatol. 2009; 22(4): 303-308.

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馬の文献:冠関節固定術(Wolker et al. 2009)

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「馬の冠関節固定術:無頭漸減不定ピッチのチタン螺子と5.5mmステンレス皮質骨螺子の生体力学的比較」
Wolker RR, Carmalt JL, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a biomechanical comparison of two parallel headless, tapered, variable-pitched, titanium compression screws and two parallel 5.5 mm stainless-steel cortical screws. Vet Surg. 2009; 38(7): 861-867.

この研究論文では、螺子のみを用いての馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、Acutrak-Plusと呼ばれる無頭漸減不定ピッチのチタン螺子(Headless, tapered, variable-pitched, titanium compression screws)、およびAO規格の5.5mmステンレス皮質骨螺子(Stainless-steel cortical screws)を使用しての冠関節固定術が施され、その固定部位の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、屈曲性の生体力学的試験(Bending biomechanical testing)における硬度(Stiffness)や屈曲モーメント(Bending moment)などの測定値には、Acutrak-Plus螺子とAO螺子のあいだに有意差は認められませんでした。Acutrak-Plus螺子は、インプラント除去が必要とされず、無頭のため過剰な骨増生(Excessive bone formation)が生じにくく、また、骨と螺子の境界(Bone-screw-interface)がより密着していることから、インプラント破損を起こす危険が低いという利点が挙げられています。このため、馬の冠関節固定術においても、Acutrak-Plus螺子を用いることで、AO螺子に匹敵する物理的な強度を維持しながら、インプラント除去を要さず、過剰骨増生やインプラント破損などの術後合併症(Post-operative complication)の危険を抑える効果が期待されることが示唆されています。

この研究では、前肢の冠関節固定術のほうが後肢に比べて、有意に高い硬度を示しました。この理由は明確には考察されていませんが、近位管部(Proximal aspect of meta-carpus/tarsus)から切除された前肢には、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)の一部である種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)によって冠関節を支持する機能が働いたこと、および、第三中手骨の掌側面(Palmar surface of third metatarsal bone)に存在する深屈腱の副靭帯(Accessory ligament of the deep digital flexor tendon)は保たれているので、力学的試験の際に掛けられた荷重の一部は深屈腱に作用したこと、などの要因が挙げられています。

この研究では、生体力学試験の実施の際に生じる誤差を最小限にするため、関節軟骨(Articular cartilage)を残したまま冠関節固定術が行われましたが、馬の冠関節固定術では、術後の骨癒合(Bony union)を促進させる目的で関節軟骨は除去されることが一般的です。また、Acutrak-Plus螺子によって作用される骨片間の圧迫力(Compressive force)は、AO螺子の四割程度であることが報告されていることから(Galuppo et al. Vet Surg. 2002; 31: 201)、関節軟骨の無くなった基節骨遠位端(Distal end of proximal phalanx)と中節骨近位端(Proximal end of middle phalanx)との接触部位には、十分な圧迫を加えられない可能性もあります。このため、Acutrak-Plus螺子を用いた術式の治療効果に関しては、実際の臨床症例への応用を介して評価することが必要である、という考察がなされています。

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馬の文献:冠関節固定術(Sod et al. 2007)

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「馬の冠関節固定術の体外力学的比較:スプーン型プレートおよび軸性DCPと遠軸性経関節螺子」
Sod GA, Mitchell CF, Hubert JD, Martin GS, Gill MS. In vitro biomechanical comparison of equine proximal interphalangeal joint arthrodesis techniques: prototype equine spoon plate versus axially positioned dynamic compression plate and two abaxial transarticular cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2007; 36(8): 792-799.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、18本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、馬用のスプーン型プレート(Equine spoon plate)、もしくは一枚のダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)と二本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws: TLS)の併用による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、圧迫性および捻転性の生体力学的試験(Compressive/Torsional biomechanical testing)の両方において、スプーン型プレートのほうがDCPと螺子を併用した術式に比べて、有意に高い降伏荷重(Yield load)、硬度(Stiffness)、破壊荷重(Failure load)を有することが示されました。このため、スプーン型プレートを用いた冠関節固定術では、DCPと螺子を併用する手法に比べて、より堅固な関節の不動化(Immobilization)と、それに伴う早期の骨癒合(Bony union)が期待されることが示唆されました。

この研究で使用されたスプーン型プレートは、馬の冠関節固定術のために開発されたもので、冠関節の背側面におけるインプラントの断面積は254-mm2(DCPでは68-mm2)、慣性モーメント面積(Area moment of inertia)は0.072-cm4(DCPでは0.007-cm4)というように、従来法であるDCPと螺子を併用した術式よりも、顕著に高い物理的強度を達成できると考えられました。また、スプーン型プレートの設置は、手技的にDCPと螺子を併用した術式よりも簡単で、また、値段も$225と比較的に安価であることから、今後の臨床症例に対する治療効果の検証が期待されると推測されています。

この研究では、馬の麻酔覚醒(Anesthesia recovery)における術部への負荷を再現するため、単周期の圧迫性力学的試験(Single cycle compressive biomechanical testing)が選択され、スプーン型プレートでは平均124キロニュートン、DCPと螺子の併用では平均29キロニュートンの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、体重が450~550kgの馬の麻酔覚醒時には、各前肢に21キロニュートンの荷重が生じることが知られています(Rybicki et al. J Biomech. 1977: 701)。つまり、この研究で用いられたいずれの術式においても、麻酔覚醒の際に生じる負荷に対して、計算上は十分に耐えられることが示唆されました。

この研究では、馬が馬房内で歩き回るときの術部への負荷を再現するため、周期性の疲労試験(Cyclic fatigue testing)が選択され、スプーン型プレートでは平均62万回、DCPと螺子の併用では平均10万回の負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、馬が馬房内で歩き回る歩数は、一時間当たり190歩であることが知られており(McDuffee et al. AJVR. 2000: 234)、この結果、スプーン型プレートでは四ヵ月半にわたる周期性負荷に耐えうるのに対して、DCPと螺子の併用では一ヶ月未満の周期性負荷にしか耐えられないことが示されました。

この研究に用いられた二つの術式では、スプーン型プレートは八本の螺子(基節骨に五本、中節骨に三本)で固定されたのに対して、DCPと螺子の併用では、三本のプレート固定用の螺子と(基節骨に二本、中節骨に一本)、二本の経関節螺子しか用いられておらず、この螺子の数の差が物理的強度に影響した可能性は否定できません。また、スプーン型プレートの臨床応用に際しては、その設置に際して数多くの螺子が使用されることで、術後に冠関節背側面に過剰な仮骨増殖(Excessive callus formation)が起こることも考えられます。

Photo courtesy of Vet Surg. 2007; 36(8): 792-799.

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馬の文献:冠関節固定術(Knox et al. 2006)

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「プレートと螺子の併用による馬の冠関節固定術:1994~2003年の53症例」
Knox PM, Watkins JP. Proximal interphalangeal joint arthrodesis using a combination plate-screw technique in 53 horses (1994-2003). Equine Vet J. 2006; 38(6): 538-542.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より治療効果の高い術式を評価するため、1994~2003年において、プレート(DCP: Dynamic Compression Plate)と螺子の併用による冠関節固定術が応用された、53頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、53頭の患馬のうち、経過追跡(Follow-up)が出来なかった七頭を除くと、治癒が達成された馬(=意図した使役への復帰を果たした馬)の割合は87%(40/46頭)で、また、騎乗使役された馬を見ても、85%(23/27頭)において意図したレベルの運動復帰が達成されたことが報告されています。このため、馬の冠関節固定術においては、プレートと螺子を併用する術式によって、十分に堅固な関節固定と治癒が達成され、良好な予後を示す馬が多いことが示唆されました。

この研究の術式では、一枚の幅の狭いDCP(三孔、四孔、または五孔)と二本の経関節螺子(Trans-articular lag screws: 5.5mm)による冠関節の不動化(Immobilization)、および関節軟骨の除去(Articular cartilage removal)が実施され、海綿骨の移植(Cancellous bone graft)を要した馬はありませんでした。この論文の筆者の他の文献では、三孔DCPと二本の螺子を併用する術式は、三本の螺子のみを用いる術式よりも、周期性負荷(Cyclic loading)に対する金属疲労耐性(Fatigue resistance)が有意に高いことが示唆されています。

この研究では、治癒が達成された馬の割合は、前肢の冠関節固定術では81%(20/25頭)、後肢の冠関節固定術では95%(20/21頭)であったことが示されました。また、騎乗使役された馬を見ても、意図したレベルの運動復帰が達成された馬の割合は、前肢の冠関節固定術では73%(8/11頭)、後肢の冠関節固定術では94%(15/16頭)であったことが報告されています。つまり、前肢よりも起立時の体重負荷や運動時の負重が少ない後肢のほうが、冠関節固定術における予後は一般的に良い傾向が認められました。

この研究では、冠関節固定術が応用された53頭の患馬において、遠位肢ギプス(Distal limb cast)の装着期間は平均14日で、このうち、装着期間が15日未満であった症例は93%(50/53頭)にのぼり、二度目のギプス装着を要した馬は8%(4/53頭)だけであったことが報告されています。他の文献を見ると、螺子のみによる冠関節固定術における遠位肢ギプスの装着期間は、平均27日間(MacLellan et al. Vet Surg. 2001; 30: 454)、平均57日間(Martin et al. JAVMA. 1984; 184: 1136)、平均62日間(Caron et al. Vet Surg. 1990; 19: 196)などとなっています。このため、螺子のみを用いる術式に比べて、プレートと螺子を併用する術式では、より強固な関節固定と早期の骨癒合(Bony union)が期待され、その結果、遠位肢ギプスの装着を短期間に抑えることが出来たと考察されています。

この研究では、それぞれの患馬の適応症(Indication)を見ると、骨関節炎(Osteoarthritis)では治癒成功率は86%(18/21頭)、冠関節亜脱臼(Pastern joint subluxation)では治癒成功率は100%(9/9頭)、軟骨下嚢胞(Subchondral bone cyst)では治癒成功率は100%(6/6頭)、そして、中節骨骨折(Middle phalanx fracture)では治癒成功率は100%(6/6頭)などとなっています。しかし、感染性関節炎(Septic arthritis)を呈した患馬における治癒成功率は50%%(2/4頭)で、他の適応症と比べて予後が悪い傾向が見られました(統計的な有意差は無し)。

この研究では、三孔DCPによる冠関節固定術では治癒成功率は93%(25/27頭)であったのに対して、四孔DCPによる冠関節固定術では治癒成功率は88%(15/17頭)で、この二つの術式の違いによる予後の有意差は見られませんでした。また、両側性(Bilateral)の冠関節固定術では治癒成功率は80%(4/5頭)であったのに比べて、片側性(Unilateral)の冠関節固定術では治癒成功率は88%(36/41)で、両側性と片側性の違いによる有意差も認められませんでした。

この研究では、十頭の患馬において、術後の5~9ヵ月目にインプラントの除去を要し、これらの馬では、インプラント周囲の放射線透過性(Radiolucency around implants)、過剰な骨増殖(Excessive osteoproliferation)、持続性跛行(Persistent lameness)、排膿孔形成(Draining tract formation)などが観察され、また、四頭の患馬において、将来の競技能力や外見的美容への影響を心配する馬主の依頼によって、インプラントの除去が選択されました。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2006; 38(6): 538-542.

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「馬の冠関節固定術:二本の5.5mm皮質骨螺子と三本の5.5mm皮質骨螺子の生体力学的比較」
Read EK, Chandler D, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a mechanical comparison of 2 parallel 5.5 mm cortical screws and 3 parallel 5.5 mm cortical screws. Vet Surg. 2005; 34(2): 142-147.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、三本の5.5mm皮質骨螺子(Cortical screws)もしくは二本の5.5mm皮質骨螺子による、冠関節固定術の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、冠関節固定部の三点屈曲性生体力学検査(Three-point bending biomechanical testing)では、最大曲げモーメント(Maximum bending moment)や多層硬度(Composite stiffness)などの測定値において、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式のほうが、手技的にも簡易で、手術時間を短縮できると考えられ、螺子の数を三本に増やしても、物理的強度の向上にはつながらないことが示唆されました。

この研究では、三本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、40%(12/30本)の螺子が破損したのに対して、二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、35%(7/20本)の螺子が破損したことが報告されており、二つの術式のあいだに顕著な違いは見られませんでした。また、生体力学検査の終了点には、その八割において基節骨が折れることで、冠関節固定術部位の破損に至っていました。

この研究で用いられた術式においては、三本の5.5mm皮質骨螺子の慣性モーメント面積(Moment of inertia)は34.2mm4で、二本の5.5mm皮質骨螺子の慣性モーメント面積である22.8mm4よりも顕著に大きかったものの、冠関節固定部の強度そのものには反映してしませんでした。このため、馬の冠関節固定術においては、関節固定箇所の強度は、螺子が挿入されている箇所の骨の強さによって決定され、螺子自体の強度は直接的な因子ではない、という考察がなされています。

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馬の文献:冠関節固定術(Watt et al. 2002)

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「馬の冠関節固定術:二枚の3.5mm七孔幅広DCPと4.5mm五孔幅狭DCPの生体力学的比較」
Watt BC, Edwards RB 3rd, Markel MD, McCabe R, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a biomechanical comparison of two 7-hole 3.5-mm broad and two 5-hole 4.5-mm narrow dynamic compression plates. Vet Surg. 2002; 31(1): 85-93.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、二枚の3.5mm七孔の幅の広いDCP(bDCP)もしくは二枚の4.5mm五孔の幅の狭いDCP(nDCP)を用いた術式による、冠関節固定術の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、冠関節固定部の三点屈曲性生体力学検査(Three-point bending biomechanical testing)では、多層硬度(Composite stiffness)、降伏点(Yield point)、最大曲げモーメント(Maximum bending moment)などにおいて、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二枚の五孔nDCPを用いた術式のほうが、手技的にも簡易で、手術時間の短縮につながり、二枚の七孔bDCPを用いた術式と同程度の強度の関節固定術を達成できることが示唆されました。また、二枚の七孔bDCPによる冠関節固定術が行われた肢では、11%(15/140本)の螺子が破損したのに対して、二枚の五孔nDCPによる冠関節固定術が行われた肢では、8%(8/100本)の螺子が破損したのみであったことが報告されています。

この研究では、七孔bDCPに使用された螺子は直径3.5mmで慣性モーメント面積(Moment of inertia)は1.6mm4であったのに対して、五孔nDCPに使用された螺子は直径4.5mmで慣性モーメント面積は4mm4で、顕著に強度が高いことが示されています。しかし、そのぶん、七孔bDCPでは四本多い螺子を挿入させることが出来るため(二枚のプレートを使った術式においては)、結果的に五孔nDCPと同程度の物理的強度を得られた、という考察がなされています。

犬の屍体肢を用いた他の文献(Johnstonet al. Vet Surg. 1991; 20: 235)では、七孔bDCPのほうが、五孔nDCPよりも強度が高いことが報告されており、この研究の結果とは相反するデータが示されています。これは、馬の基節骨(Proximal phalanx)および中節骨(Middle phalanx)における皮質骨(Cortical bone)は、犬の脛骨(Tibia)における皮質骨よりも厚く、螺子の保持力(Holding power)が高かったことが影響していると考えられています。また、上述の犬の文献では、片方の骨片に対して、七孔bDCPでは三本の3.5mm螺子、五孔nDCPでは二本の4.5mm螺子が挿入されているのに対して、馬の冠関節固定術では、中節骨に対して、七孔bDCPでは二本の3.5mm螺子、五孔nDCPでは一本の4.5mm螺子が挿入されているのみであるため、七孔bDCPの術式における「細いが数の多い螺子を使える」という利点が十分に発揮されず、五孔nDCPに比べて有意な強度向上につながらなかった、という考察もなされています。

この研究では、七孔bDCPのほうが、五孔nDCPよりも設置が難しい傾向が示されました。この理由としては、七孔bDCPにおいては、(1)僅かながら長めのプレートを使う必要があるので、プレート遠位端が末節骨伸筋突起(Extensor process of distal phalanx)に接触する危険があること、(2)中節骨に二本の螺子を挿入する必要があるため、螺子の先端が舟状骨(Navicular bone)に達する可能性があること、などが挙げられており、二つの術式のあいだに物理的強度の有意差が無いことを考慮すると、敢えて七孔bDCPを選択する利点は少ないと提唱されています。しかし、中節骨の粉砕骨折(Comminuted fracture)に対して冠関節固定術が応用される場合などにおいては、中節骨の骨折片の整復のために、プレート一枚あたり二本の螺子を使えるという選択肢が広がるため、骨折治療という目的においては、その多用途性(Versatility)を向上できるという利点があると考察されています。

この研究では、検体準備の際に生じる手技的な誤差を減らすため、関節軟骨(Articular cartilage)を残したまま冠関節固定術が施されました。ただ、実際の臨床症例では、術後の骨癒合(Bony union)を促進するため、関節軟骨を外科的に削切する場合が多く、この結果、基節骨と中節骨のあいだの接触面積(Contact area)が減少すると考えられることから、臨床上の冠関節固定術における手術直後の強度は、この研究の計測値よりも低くなると推測されています。

この研究では、同筆者の他の文献において(Watt et al. Vet Surg. 2001; 30: 287)、三本の4.5mm皮質骨螺子および二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式を試験しており、この際のデータと、今回の研究のデータを比較すると、螺子固定よりもプレート固定のほうが(五孔nDCPまたは七孔bDCPの違いに関わらず)、より堅固な冠関節の不動化(Immobilization)を達成できるという結果が示されています。このため、冠関節脱臼(Pastern luxation)や重篤な中節骨骨折(Severe middle phalanx fracture)など、冠関節の周囲軟部組織(Peri-articular soft tissue)が損傷され、関節の安定性が低下している病態に対しては、プレート固定を積極的に実施するべきであると考えられました。

Photo courtesy of Vet Surg. 2002; 31(1): 85-93.

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馬の文献:冠関節固定術(Watt et al. 2001)

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「馬の冠関節固定術:三本の4.5mm皮質骨螺子と二本の5.5mm皮質骨螺子の生体力学的比較」
Watt BC, Edwards RB 3rd, Markel MD, McCabe R, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a biomechanical comparison of three 4.5-mm and two 5.5-mm cortical screws. Vet Surg. 2001; 30(3): 287-294.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)においてより強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、三本の4.5mm皮質骨螺子(Cortical screws)もしくは二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、冠関節固定部の屈曲性生体力学検査(Bending biomechanical testing)では、最大曲げモーメント(Maximum bending moment)や硬度(Stiffness)などにおいて、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式のほうが、手技的にも簡易で、三本の4.5mm皮質骨螺子を用いた術式と同程度の強度の関節固定術を達成できることが示唆されました。また、三本の4.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、53%(16/30本)の螺子が破損または屈曲したのに対して、二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、25%(5/20本)の螺子が破損または屈曲したのみで、後者の術式のほうが有意に少ない数の螺子が損傷したことが報告されています。

この研究では、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式を見ると、前肢の冠関節固定術のほうが後肢の冠関節固定術に比べて、有意に高い最大曲げモーメントの計測値を示しました。この理由としては、(1)前肢の屍体肢では繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)が保たれていて、種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)による冠関節の支持機能が作用したこと、(2)前肢には深屈腱の副靭帯(Accessory ligament of the deep digital flexor tendon)(=遠位支持靭帯:Distal check ligament)が存在するので、掛けられた負荷の一部が深屈腱によっても中和されたこと、(3)馬の前肢には体重の六割以上が掛かるので、一般的に前肢のほうが後肢よりも強度の高い構造であったこと、の三つの要因が挙げられています。

この研究では、生体力学試験における手技的な誤差を減らすため、関節軟骨(Articular cartilage)を除去することなく冠関節固定術が施されました。しかし、実際の臨床症例に対する手術では、術後の骨癒合(Bony union)を促進するため関節軟骨を外科的に削切することが強く推奨されています。この際には、球状の形をしている基節骨遠位端(Distal region of proximal phalanx)では関節軟骨除去によって半径が減少し、受け皿状の形をしている中節骨の近位端(Proximal region of middle phalanx)では関節軟骨除去によって半径が増加することから、関節軟骨が除去された場合には二つの骨端の接触面積(Contact area)が少なくなると予想されます。このため、臨床上の冠関節固定術における手術直後の強度は、この研究の計測値よりも低くなる可能性があるという考察がなされています。

Photo courtesy of Vet Surg. 2001; 30(3): 287-294.

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「22頭の馬における冠関節固定術」
Schaer TP, Bramlage LR, Embertson RM, Hance S. Proximal interphalangeal arthrodesis in 22 horses. Equine Vet J. 2001; 33(4): 360-365.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis: Proximal interphalangeal arthrodesis)の治療効果を評価するため、1986~1998年にかけて、冠関節の慢性骨関節炎(Chronic osteoarthritis)や繋部の重度外傷(Severe traumatic injury of pastern)の外科的治療のために、冠関節固定術が応用された22頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、螺子固定のみによる冠関節固定術が行われた患馬では、前肢の場合には50%(3/6頭)、後肢の場合には88%(7/8頭)の馬が健常状態(Soundness)まで回復したのに対して、螺子固定とプレート固定が併用された患馬では、前肢の場合には50%(1/2頭)、後肢の場合には80%(4/5頭)の馬が健常状態まで回復したことが報告されています。このため、短期生存率(Short-term survival rate)は71%(15/21頭)で、冠関節固定術による外科的療法では、比較的に良好な予後が期待されることが示唆されました。また、馬の冠関節固定術では、後肢のほうが前肢よりも予後が良い傾向が見られましたが、二つの術式の違い自体は、その予後には顕著に影響しないと考えられました。

一般的に、馬における冠関節固定術は、冠関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)および中節骨骨折(Middle phalanx fracture)などの治療に応用されます。この研究では、22頭の患馬のうち、15頭が冠関節の慢性骨関節炎を呈し、残りの7頭が繋部外傷を呈し、冠関節の慢性骨関節炎の罹患馬のほうが、繋部外傷の罹患馬よりも予後が良い傾向が示されました。また、中節骨における重度の粉砕骨折(Severe comminuted fracture)は除外されています。つまりこの研究では、冠関節の支持機能を担う周辺軟部組織(Peri-articular soft tissue)の機能が極度に失われた患馬はあまり含まれていないと考えられ、これが比較的に良好な予後を示した要因の一つである可能性もあります。このため、今後の研究では、重度の骨折症例などの医療記録を解析することで、冠関節の安定性(Pastern joint stability)が損失した症例に対して、どの術式の冠関節固定術を用いるべきかを検証する必要があると考察されています。

この研究では、螺子固定のみによる冠関節固定術が行われた患馬では、遠肢ギプス(Distal limb cast)の装着を要した期間は平均13週間、跛行が消失するまでに要した期間は平均12ヶ月であったのに対して、螺子固定とプレート固定が併用された患馬では、遠肢ギプスの装着を要した期間は平均5週間、跛行が消失するまでに要した期間は平均8ヶ月というように、有意に短期間であったことが報告されています。また、螺子固定のみの術式では、二頭の患馬における術後レントゲン検査(Post-operative radiography)によって、インプラントの損傷(Implant failure)が確認されました。これは、螺子固定とプレート固定を併用した術式のほうが、より堅固な冠関節の不動化(Stabilization)を達成でき、短期間での治癒につながったためと考察されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2001; 33(4): 360-365.

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馬の文献:炎症性気道疾患(Read et al. 2012)

「炎症性気道疾患の罹患馬におけるクレンブテロールの持続的投与による気道反応性および発汗への影響」
Read JR, Boston RC, Abraham G, Bauquier SH, Soma LR, Nolen-Walston RD. Effect of prolonged administration of clenbuterol on airway reactivity and sweating in horses with inflammatory airway disease. Am J Vet Res. 2012; 73(1): 140-145.

この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)に有用な治療法を検討するため、八頭の炎症性気道疾患の罹患馬に対して、三週間にわたるクレンブテロールまたは生食の持続的投与(Prolonged administration)を行い、それを、一ヶ月の休薬期間(Washout period)をはさんでの交差試験(Cross-over testing)として実施して、その後に、容積変動流速計測法(Flowmetric plethysmography)およびヒスタミン気管支吸入誘発試験(Histamine broncho-provocation test)による肺機能評価(Lung function assessment)と、エピネフリンの皮内注射(Intradermal injection)による発汗機能(Sweating function)の評価が行われました。

結果としては、総気道閉塞を35%増加させるのに必要なヒスタミン濃度(Concentration of histamine required to increase total airway obstruction by 35%: PC35)を薬剤の判定指標とした場合、クレンブテロール投与開始から14日目までには、生食投与時に比べて、このPC35値が有意に増加しており、吸引ヒスタミンへの気道反応性(Airway reactivity)が、クレンブテロールによって減退された事が示されました。しかし、八頭の実験馬のうち七頭において、クレンブテロール投与開始から21日目までには、PC35値が基底値(Baseline value)よりもむしろ減少しており、クレンブテロールの持続的投与に起因して、急速耐性(タキフィラキシー:Tachyphylaxis)が発生したことが示されました。このため、炎症性気道疾患の罹患馬に対しては、クレンブテロールの持続的投与によって、気管支拡張作用(Bronchodilatory effects)という薬剤の効能が、二~三週間で急速に失われる事が示唆されました。

一般的に、クレンブテロールは、ベータ2アドレナリン受容体作動薬(Beta-2 adrenoceptor agonist)として、可逆性気管支痙攣(Reversible bronchospasm)の改善効果を有し、馬に対しては、回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)および炎症性気道疾患の治療に用いられています(Erichsen et al. EVJ. 1994;26:331, Mair. Vet Rec. 1996;138:89, Couetil et al. JVIM. 2007;21:356)。しかし、人間の喘息患者(Asthmatic human patients)への持続的投与では、顕著なタキフィラキシーを生じることが知られており、これは、副作用(Adverse effect)の発現に関しては良い性状(Positive attribute)であるとも言えますが、気管支拡張作用(Bronchodilatory effects)の効能が減退するため、同一の投与濃度を続けている場合には、呼吸器症状の悪化につながるケースもあります。また、クレンブテロールには、抗炎症作用(Anti-inflammatory effect)もあり、馬を含めた多くの動物種において、杯細胞の粘液生成を減少(Decrease in mucus production by goblet cells)させる効能も示されています(Laan et al. Vet J. 2006;171:429, Van den Hoven et al. Vet Res Commun. 2006;30:921)。

この研究では、クレンブテロールおよび生食のいずれの投与時においても、エピネフリンの皮内注射による発汗機能は、有意には変化していませんでした。この理由としては、汗腺のベータ2受容体(Sweat gland beta-2 adrenoceptors)に対する刺激が不十分であったため、薬剤による下方制御(Down-regulation)が明確には示されなかったこと、もしくは、発汗試験の感度が不十分(Insufficient sensitivity of the sweat test)であったこと、等が挙げられています。今回の研究で用いられた試験法は、臨床的に有意性(Clinically relevant)のある、無汗症(Anhidrosis)または発汗減少症(Hypohidrosis)の診断に応用されていますが(Evans. Br Vet J. 1966;122:117, Selvaraj et al. Indian Vet J. 2001;78:790)、薬剤の有害作用に起因するような、軽度の発汗異常を探知するには、診断能が充分に高くなかった可能性が指摘されています。

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エコー誘導による馬の下歯槽神経ブロック

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馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。ここでは、下顎臼歯の抜歯のために実施される下歯槽神経ブロックの手法について比較検討した知見を紹介します。

参考文献:
Lloyd-Edwards RA, Ferrao-van Sommeren A, Hermans H, Tersmette AA, Veraa S, van Loon JPAM. Comparison of blind, ultrasound- and neurostimulator-guided methods of percutaneous inferior alveolar nerve block. Equine Vet Edu. Oct12, 2022. doi.org/10.1111/eve.13720. Online ahead of print.

この研究では、馬の屠体頭部、または、全身麻酔した実馬を用いて、下記のような複数の手法を用いて、下歯槽神経(三叉神経の下顎枝)への造影剤と染色剤の注射が行なわれ、CT画像と組織検査によって注射手技の正確性が評価されました。
腹側アプローチ:下顎臼歯の噛合面から尾側に引いた線と、それに直角に交わり外眼角を通る線との交点を下顎孔の位置として推定して、下顎骨水平枝の腹側部から骨の内側面へと脊髄針(18G, 90mm)を刺入させ、背側へと針を進めていき、下顎孔の箇所と思われる深さに針先が達した時点で注射する(上図)。
尾側アプローチ:前述と同様に下顎孔の位置を推定して、下顎骨の水平枝と垂直枝の中間から骨の内側面へと脊髄針(18G, 90mm)を刺入させ、背吻側へと針を進めていき、下顎孔の箇所と思われる深さに針先が達した時点で注射する(下写真)。
エコー誘導での腹側アプローチ:下顎骨の下方から超音波プローブを当てて(脊髄針の内側または外側)、下顎骨内側面にある下顎孔の位置を画像で確認した後(最下写真の緑矢印)、下顎骨水平枝の腹側部から骨の内側面へと脊髄針(18G, 90mm)を刺入させ、画像上で針の進入を視認しながら、下顎孔の位置に針先が達した時点で注射する。

結果としては、注射液が下顎孔の部位を覆っていた割合は、腹側アプローチでは63%、尾側アプローチでは75%であったのに対して、エコー誘導での腹側アプローチでは95%に及んでいました。また、針先と下顎孔との距離(中央値)は、腹側アプローチ(19mm)や尾側アプローチ(18mm)に比べて、エコー誘導での腹側アプローチでは4mmと顕著に近くなっていました。このため、馬の下歯槽神経ブロックに際しては、エコー画像で脊髄針を誘導することで、下顎孔の位置へと適切に針先を導くことが可能になることが示唆されました。ただ、これら三群のあいだで、統計的な有意差はありませんでした。

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一方、この研究では、注射液が下歯槽神経に達していた割合は、腹側アプローチでは50%であったのに対して、尾側アプローチでは88%、エコー誘導での腹側アプローチでは86%と顕著に高くなっていました。一方、注射液が舌神経に達していた割合は、腹側アプローチでは75%、尾側アプローチでは50%、エコー誘導での腹側アプローチでは71%でした。このため、下歯槽神経を適切にブロックしながら、舌神経ブロックを回避するという意味では、尾側アプローチが最も優れている可能性が示唆されました。ただ、これら三群のあいだで、統計的な有意差はありませんでした。

この研究では、注射液の総量は1mLとかなり少なく、また、注射法による実験的な有意差は無かったことから、実際の臨床症例では比較的に多量(10-20mL)の局所麻酔薬が注射されることを考えると、腹側および尾側の何れのアプローチでも、良好な下歯槽神経のブロックが達成される(エコー誘導無しで)と推測されています。過去の文献[1]では、下歯槽神経ブロックの正確性としては、腹側アプローチでは59%、尾側アプローチでは73%であったことが報告されています。また、他の文献[2]では、エコー誘導による針穿刺によって、下歯槽神経ブロックの成功率は81%であったという報告もあります。

馬の頭部の解剖学を見ると、下歯槽神経のやや背側を舌神経が走行しているため、腹側から針穿刺したほうが(腹側アプローチ)、針先が下顎孔よりも上方に達してしまった場合、誤って舌神経も一緒にブロックしてしまう事象が起こり易いと考えられます。過去の文献[3]では、舌神経も一緒にブロックされてしまうと、術中に舌麻痺を生じて、舌を噛んでしまう事故が起こることが知られています。しかし、複数回の針穿刺を避けるためには、やはり十分な量の麻酔薬を注射して、下歯槽神経を確実にブロックしながら、舌麻痺は常に起こり得るものと認識して、処置前から処置後まで持続的に開口器を装着させて事故を予防する、という方針が現実的なのかもしれません。

なお、この研究では、神経刺激装置誘導でのアプローチも試みられましたが、他手法よりも成績が劣るため、ここでは省略しています。ただ、術者がこの装置に熟練することで、注射手技の正確さが向上する可能性も示唆されています。

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Photo courtesy of J Vet Dent. 2019 Mar;36(1):46-51 (doi: 10.1177/0898756419844836.), and the Proceeding of American Association of Equine Practitioners. Fletcher BW. How to Perform Effective Equine Dental Nerve Blocks. Dec4, 2004.

参考文献:
[1] Harding PG, Smith RL, Barakzai SZ. Comparison of two approaches to performing an inferior alveolar nerve block in the horse. Aust Vet J. 2012 Apr;90(4):146-50.
[2] Johnson JP, Peckham RK, Rowan C, Wolfe A, O'Leary JM. Ultrasound-Guided Inferior Alveolar Nerve Block in the Horse: Assessment of the Extraoral Approach in Cadavers. J Vet Dent. 2019 Mar;36(1):46-51.
[3] Caldwell FJ, Easley KJ. Self-inflicted lingual trauma secondary to inferior alveolar nerve block in 3 horses. Equine Vet Edu. 2012;24(3):119-123.

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馬の抜歯後に起こる菌血症

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馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。ここでは、馬の抜歯治療をした後に起こる菌血症に関する知見を紹介します。

参考文献:
Kern I, Bartmann CP, Verspohl J, Rohde J, Bienert-Zeit A. Bacteraemia before, during and after tooth extraction in horses in the absence of antimicrobial administration. Equine Vet J. 2017 Mar;49(2):178-182.

この研究では、ドイツのハノーバー大学の馬病院において、抜歯治療が実施された症例馬のうち、治療前の四週間のあいだに抗生物質が投与されていなかった20頭において、抜歯前の病巣の拭き取り検体、および、抜歯前と抜歯後における血液検体の細菌培養が実施されました。その結果、抜歯治療を受けた症例馬のうち90%(18/20頭)において、術後に菌血症の続発が確認されており、血液中から分離された菌は、抜歯箇所から分離された菌と一致していました。

このため、馬の抜歯治療においては、口腔内病変の原因菌が、抜歯箇所から血流に侵入することが示唆されており、そのような一過性の菌血症が、馬体の他臓器への細菌感染を続発する危険性が懸念されました。この研究では、術後合併症として他の部位での細菌感染は起きておらず、また、抜歯箇所の歯肉病態の重篤度も評価されていませんでした。今後の研究では、抜歯前における口腔内の殺菌処置や、抜歯前に数日間以上の抗生物質投与を行なうことで、抜歯後の菌血症を予防できるか否かを評価するのが有用だと考えられました。

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この研究では、抜歯後に血液から分離された細菌としては、フソバクテリウム属菌、プレヴォテラ属菌、アクチノマイセス属菌などが挙げられており、また、歯科疾患の発症によって、馬の口腔内細菌叢における嫌気性菌やグラム陰性菌の割合が増加することが示唆されています。このため、馬の歯科疾患に対する抜歯治療を実施する際には、特に、重篤な細菌感染を伴う疾患や、抜歯前に抗生物質療法が行なわれていなかった症例に対しては、口腔内または病巣部の拭き取り検体を採取して、細菌培養検査および抗生物質感受性試験を行ない、術後にアグレッシブな抗生物質投与を実施することが提案されています。

ヒトの医療分野や犬においては、抜歯や口腔内の外科的処置によって、口腔内の細菌が血流に侵入する現象が知られており[1,2]、また、馬においても、抜歯治療による菌血症から、細菌性髄膜炎を続発したという症例報告や [3,4]、抜歯後に頭頚部の膿瘍や血栓性静脈炎を続発したという知見があります[5]。また、馬における類似の事象としては、口腔内細菌の侵入によって右側心内膜炎が継発しうるという報告や[6]、頭部の蜂窩織炎を治療する際に、血行性に眼組織に細菌感染が波及したという症例報告もあります[7]。このため、馬の抜歯処置においては、術後の稀な合併症として、菌血症および他臓器への細菌感染を考慮して、適宜な予防対策を講じる必要があるのかもしれません。

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参考文献:
[1] Kinane DF, Riggio MP, Walker KF, MacKenzie D, Shearer B. Bacteraemia following periodontal procedures. J Clin Periodontol. 2005 Jul;32(7):708-13.
[2] Nieves MA, Hartwig P, Kinyon JM, Riedesel DH. Bacterial isolates from plaque and from blood during and after routine dental procedures in dogs. Vet Surg. 1997 Jan-Feb;26(1):26-32.
[3] Arndt S, Kilcoyne I, Heney CM, Wong TS, Magdesian KG. Bacterial meningitis after dental extraction in a 17-year-old horse. Can Vet J. 2021 Apr;62(4):403-407.
[4] Zetterstrom S, Groover E, Lascola K, Cole R, Velloso A, Boone L. Meningitis After Tooth Extraction and Sinus Lavage in a Horse. J Equine Vet Sci. 2021 Feb;97:103323.
[5] Horbal AA, Reardon RJM, Froydenlund T, Jago RC, Dixon PM. Head and neck abscessation and thrombophlebitis following cheek tooth extraction in a pony. Equine Vet Edu. 2019;31(10):523-529.
[6] Verdegaal EJMM, de Heer N, Meeertens NM, Maree JTM, Sloet van Oldruitenborgh-Oosterbaan MM. A right-sided bacterial endocarditis of dental origin in a horse. Equine Vet Edu. 2006;18(4):191-195.
[7] Racine J, Borer-Germann SE, Navas de Solis C, Stoffel MH, Klopfenstein M, Klopfenstein Bregger MD. Treatment and ophthalmic sequelae in a horse with facial cellulitis and orbital abscess. Equine Vet Edu. 2017;29(11):594-599.

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馬の臼歯の抜歯治療での長期合併症

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馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。

ここでは、馬の臼歯の抜歯治療における、長期的な合併症の発生状況を調査した知見を紹介します。この研究では、英国のエジンバラ大学の獣医病院において、2004~2018年にかけて、臼歯の抜歯治療が実施された428頭の症例馬における、医療記録の回顧的解析、および、長期的な合併症に関する聞き取り調査が行なわれました。

参考文献:
Kennedy R, Reardon RJM, James O, Wilson C, Dixon PM. A long-term study of equine cheek teeth post-extraction complications: 428 cheek teeth (2004-2018). Equine Vet J. 2020 Nov;52(6):811-822.

結果としては、症例馬428頭のうち、臼歯の抜歯による合併症の発生率は13.6%(58/428頭)に上っており、このうち、臨床的に長期的な弊害を及ぼしたケースは約六割(34/58頭)に達していました。そして、合併症の内訳としては、歯槽の腐骨形成が最も多く、歯槽組織の細菌感染を伴っているものも見られました。また、罹患臼歯のうち、第二前臼歯~第四前臼歯の抜歯では、他の臼歯の抜歯に比べて、合併症の発生率が有意に高いことが示されました。

この研究では、歯根感染を呈していた症例では、そうでない症例に比べて、有意に高い合併症の発生率が認められました。さらに、抜歯の手法を見てみると、口腔側から引き抜いた場合に比べて、歯根部から叩き出したり、最小侵襲性の経頬壁アプローチにて抜歯された場合では、合併症の発生率が有意に高いことも分かりました。ただ、歯科疾患の発症から抜歯治療までの期間は、医療記録で不明なケースもあり、解析されていませんでした。

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以上の結果から、馬の臼歯の抜歯においては、前臼歯が罹患している場合や、術前に既に歯根の細菌感染を伴っていた場合には、十分な病巣掻把や術後の抗生物質療法を実施して、歯槽腐骨などの合併症の予防に努めることの重要性が再確認されました。また、口腔側から引き抜く抜歯法のほうが、合併症が少ない傾向が認められましたが、これは他の術式のほうが、歯槽骨損傷などのリスクが高いという可能性が否定できない一方で、初診時での細菌感染が進行していて、口腔側から引き抜けないほど変性および虚弱化した症例ほど、術後の合併症に繋がりやすかったという可能性も考えられました。過去の文献[1]でも、口腔側から引き抜くほうが、他の術式に比較して、術後合併症が少ないという知見が示されています。

また、馬の抜歯治療に関する他の文献[2]を見ると、下顎骨の臼歯での抜歯においては、合併症の発生率は6.6%(20/302頭)となっており、最も多い合併症は、やはり歯槽腐骨形成(18/20頭)となっていました。また、第二前臼歯および第一後臼歯の抜歯において、他の臼歯に比べて、合併症の発生率が有意に高かったことも報告されています。なお、これらの症例では、下顎部への瘻管形成(5/20頭)や下顎骨膿瘍(4/20頭)を続発したケースも見られました。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2020 Nov;52(6):811-822. (doi: 10.1111/evj.13255. Epub 2020 Apr 9.); Front Vet Sci. 2020 Aug 13;7:504. (doi: 10.3389/fvets.2020.00504.)

参考文献:
[1] Caramello V, Zarucco L, Foster D, Boston R, Stefanovski D, Orsini JA. Equine cheek tooth extraction: Comparison of outcomes for five extraction methods. Equine Vet J. 2020 Mar;52(2):181-186.
[2] Gergeleit H, Bienert-Zeit A. Complications Following Mandibular Cheek Tooth Extraction in 20 Horses. Front Vet Sci. 2020 Aug 13;7:504.

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馬の文献:炎症性気道疾患(Richard et al. 2012)

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「炎症性気道疾患の罹患馬におけるサーファクタント蛋白Dの血清濃度」
Richard EA, Pitel PH, Christmann U, Lekeux P, Fortier G, Pronost S. Serum concentration of surfactant protein D in horses with lower airway inflammation. Equine Vet J. 2012; 44(3): 277-281.

この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の有用な診断法を検討するため、42頭のスタンダードブレッド競走馬における、内視鏡検査(Endoscopy)、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の細胞学的検査(Cytologic examination)、および、安静時とトレッドミル運動後の、サーファクタント蛋白D(Surfactant protein D)の血清濃度(Serum concentration)の測定が行われました。

結果としては、42頭の患馬のうち、気管支肺胞洗浄液の検査結果から、22頭が炎症性気道疾患の罹患馬、20頭が対照馬(Control horses)に分類され、症例馬のほうが対照馬に比べて、安静時およびトレッドミル運動後のいずれにおいても、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が有意に高かった事が示されました。このため、スタンダードブレッド競走馬においては、血清中のサーファクタント蛋白D濃度が、炎症性気道疾患の生物指標(バイオマーカー:Biomarker)として応用可能であり、疾患の早期発見およびスクリーニングに有用である可能性が示唆されました。一方、サーファクタント蛋白Dの血清濃度と、気管支肺胞洗浄液の細胞学的検査値とのあいだには、有意な相関は認められず、血清中のサーファクタント蛋白D濃度が、炎症性気道疾患の病態の重篤度(Severity)を評価するための、定量的指標(Quantitative parameter)になりうるか否かに関しては、肺機能検査(Lung function testing)等を併用した実験による更なる検討を要すると考えられました。

一般的に、サーファクタント蛋白Dは、コレクチン系統蛋白(Collectin family protein)に分類される生体防御レクチンの一つで、主に、肺胞二型細胞(Alveolar type-2 cells)や無繊毛性気管支内皮細胞(Non-ciliated bronchiolar epithelium cells: Clara cells, etc)によって合成され、病原体浄化(Clearance of pathogens)のための生得的肺防御(Innate pulmonary defense)の機能を担うことが知られています(Wright. Nat Rev Immunol. 2005;5:58)。そして、人間の医学領域では、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が、慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease)などの炎症性肺疾患(Pulmonary inflammatory diseases)における、診断指標および予後判定指標(Predictive and prognostic marker)として応用されています(Hartl and Griese. Eur J Clin Invest. 2006;36:423, Lomas et al. Eur Respir J. 2009;34:95)。一方、馬に対する応用例としては、実験的な細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)の罹患馬において、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が、有意に上昇する事が報告されています(Hobo et al. J Vet Med Sci. 2007;69:827)。

一般的に、サーファクタント蛋白Dの血清濃度は、呼吸器の異常によって特異的に変化するわけではなく、生殖器官(Reproductive tract)や関節液(Joint fluid)からも検出されているため(Kankavi and Roberts. Can J Vet Res. 2004;68:146, Kankavi et al. Anim Reprod Sci. 2007;98:259, Sorensen et al. Immunobiol. 2007;212:381)、実際の臨床症例における検査値の解釈(Interpretation)には、併発疾患の存在を考慮する必要があると考えられます。また、馬への臨床応用に際しては、サーファクタント蛋白Dの血清濃度によって、炎症性気道疾患の発見だけではなく、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)や回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)などの、他の呼吸器疾患との鑑別診断(Differential diagnosis)が可能であるか否かについても、今後の検証を要すると考察されています。

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馬の病気:炎症性気道疾患

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