fc2ブログ
RSS

馬の文献:冠関節固定術(Sod et al. 2010)

Blog_Litr0404_z010_Sod2010_Pict1.jpg

「馬の冠関節固定術の生体力学的比較:DCPと二本の経関節皮質骨螺子または三本の経関節皮質骨螺子」
Sod GA, Riggs LM, Mitchell CF, Hubert JD, Martin GS. An in vitro biomechanical comparison of equine proximal interphalangeal joint arthrodesis techniques: an axial positioned dynamic compression plate and two abaxial transarticular cortical screws inserted in lag fashion versus three parallel transarticular cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2010; 39(1): 83-90.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、30本の屍体前肢(Cadaveric forelimb)を用いて、一枚のダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)と二本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws)の併用、もしくは三本の5.5mm経関節皮質骨螺子による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、圧迫性および捻転性の生体力学的試験(Compressive/Torsional biomechanical testing)の両方において、DCPと螺子を併用する術式のほうが、螺子のみを用いる術式に比べて、有意に高い降伏荷重(Yield load)、降伏硬度(Yield stiffness)、破壊荷重(Failure load)を有することが示されました。このため、DCPと二本の螺子を併用させる冠関節固定術では、三本の螺子のみを用いる術式に比べて、より堅固な関節の不動化(Immobilization)と、それに伴う早期の骨癒合(Bony fusion)が期待されることが示唆されました。

この研究では、馬の麻酔覚醒(Anesthesia recovery)における術部への負荷を再現するため、単周期の圧迫性力学的試験(Single cycle compressive biomechanical testing)が実施され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均29キロニュートン、三本の螺子のみを用いる術式では平均23キロニュートンの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、体重が450~550kgの馬の麻酔覚醒時には、各前肢に21キロニュートンの荷重が生じることが知られており(Rybicki et al. J Biomech. 1977: 701)、この研究で用いられたいずれの術式においても、麻酔覚醒の際に生じる負荷に対して、計算上は十分に耐えられることが示唆されました。

この研究では、馬が馬房内で歩き回るときの術部への負荷を再現するため、周期性の疲労試験(Cyclic fatigue testing)が実施され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均9万6千回、三本の螺子のみを用いる術式では平均7万5千回の負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、馬が馬房内で歩き回る歩数は、一時間当たり190歩であることが知られており(McDuffee et al. AJVR. 2000: 234)、この結果、DCPと二本の螺子を併用する術式では三週間前後、三本の螺子のみを用いる術式では二週間前後の周期性負荷に耐えられる、というデータが示されました。

この研究では、馬が肢をねじったり、回転運動をするときの術部への負荷を再現するため、単周期の捻転性力学的試験(Single cycle torsional biomechanical testing)が選択され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均107-Nm/rad、三本の螺子のみを用いる術式では平均77-Nm/radの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、成馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)は、560-Nm/radの負荷に耐えうることが知られており(Hansonet al. AJVR. 1995; 56: 233)、この研究で用いられた術式ではこの二割弱の強度しかないことが示されました。このため、上述の単周期の圧迫性試験で示唆されている強度に関わりなく、馬の冠関節固定術の麻酔覚醒時には、ギプスなどの外固定法(External fixation)を用いて、インプラント損傷の予防に努めることが重要である、という考察がなされています。

Photo courtesy of Vet Surg. 2010; 39(1): 83-90.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Jones et al. 2009)

Blog_Litr0404_z009_Jones2009_Pict1.jpg

「重度の骨関節炎の罹患馬に対する限定的外科アプローチによる冠関節固定術」
Jones P, Delco M, Beard W, Lillich JD, Desormaux A. A limited surgical approach for pastern arthrodesis in horses with severe osteoarthritis. Vet Comp Orthop Traumatol. 2009; 22(4): 303-308.

この研究論文では、重度の骨関節炎(Severe osteoarthritis)を呈した馬に対する、限定的外科アプローチ(Limited surgical approach)を介しての冠関節固定術(Pastern arthrodesis)の治療効果を評価するため、2000~2007年にかけて、冠関節固定術が応用された11頭の患馬(12箇所の冠関節)の医療記録(Medical records)の解析が行われました。

この研究で試みられた限定的外科アプローチでは、従来法である冠関節の側副靭帯(Collateral ligament)を切断し、冠関節を一時的に脱臼(Temporary pastern joint luxation)させて関節軟骨(Articular cartilage)を除去する方法ではなく、関節を脱臼させることなく、ドリル穿孔(3.2mm、4.5mm、または5.5mmのドリルビットを使用)によって関節軟骨を削切する手法が用いられました。そして、関節軟骨の除去後、プレートと経関節螺子(Trans-articular lag screws)の併用(八箇所の冠関節)、もしくは経関節螺子のみを用いた術式(四箇所の冠関節)によって、冠関節の不動化(Immobilization)が行われました。

結果としては、11頭の患馬のうち、10頭が少なくともグレード一段階の跛行改善(Lameness improvement)を示し、八頭は意図した用途への使役に復帰(Returned to intended use)したことが報告されています。このため、骨関節炎を呈した馬においては、限定的外科アプローチを介しての冠関節固定術によって、良好な治癒と予後が期待できることが示唆されました。また、術後にインプラント破損が起きたのは、11頭の一頭のみで、背側繋部における過剰な骨増生(Excessive bone formation)が認められた馬は、11頭中の二頭にとどまりました。

この研究では、術後に遠位肢ギプス(Distal limb cast)の装着を要した期間は平均13日間で、入院期間は平均19日間であったことが報告されています。他の文献(Knox and Watkins. Equine Vet J. 2006; 38: 538)によれば、冠関節固定術後のギプス装着期間は14日間、入院期間は25日間であったことが報告されています。このため、限定的外科アプローチでは、側副靭帯の切断を要しないため、術後に冠関節の安定性が維持されやすく、術部の良好な治癒と、入院期間の短縮につながった、という考察がなされています。

この研究では、冠関節固定術の治癒が不完全であった三頭の患馬(=意図した用途への使役に復帰できなかった馬)のうち、二頭は経関節螺子のみを用いた術式による関節不動化が実施されていました。このため、限定的外科アプローチによる冠関節固定術では、関節軟骨は部分的にしか除去されないため、基節骨と中節骨の骨癒合(Bony fusion)が起きにくい場合が多く、プレートと経関節螺子を併用した、より強固な関節固定術を要すると考えられました。

この研究で用いられた術式では、冠関節を脱臼させて広範囲にわたる関節軟骨を除去する過程が必要でないため、手術時間は平均111分で、他の文献(Knox and Watkins. Equine Vet J. 2006; 38: 538)で示されている冠関節固定術の手術時間である144分よりも顕著に短い傾向が示されました。

Photo courtesy of Vet Comp Orthop Traumatol. 2009; 22(4): 303-308.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Wolker et al. 2009)

Blog_Litr0404_z008_Wolker2009_Pict1.jpg

「馬の冠関節固定術:無頭漸減不定ピッチのチタン螺子と5.5mmステンレス皮質骨螺子の生体力学的比較」
Wolker RR, Carmalt JL, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a biomechanical comparison of two parallel headless, tapered, variable-pitched, titanium compression screws and two parallel 5.5 mm stainless-steel cortical screws. Vet Surg. 2009; 38(7): 861-867.

この研究論文では、螺子のみを用いての馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、Acutrak-Plusと呼ばれる無頭漸減不定ピッチのチタン螺子(Headless, tapered, variable-pitched, titanium compression screws)、およびAO規格の5.5mmステンレス皮質骨螺子(Stainless-steel cortical screws)を使用しての冠関節固定術が施され、その固定部位の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、屈曲性の生体力学的試験(Bending biomechanical testing)における硬度(Stiffness)や屈曲モーメント(Bending moment)などの測定値には、Acutrak-Plus螺子とAO螺子のあいだに有意差は認められませんでした。Acutrak-Plus螺子は、インプラント除去が必要とされず、無頭のため過剰な骨増生(Excessive bone formation)が生じにくく、また、骨と螺子の境界(Bone-screw-interface)がより密着していることから、インプラント破損を起こす危険が低いという利点が挙げられています。このため、馬の冠関節固定術においても、Acutrak-Plus螺子を用いることで、AO螺子に匹敵する物理的な強度を維持しながら、インプラント除去を要さず、過剰骨増生やインプラント破損などの術後合併症(Post-operative complication)の危険を抑える効果が期待されることが示唆されています。

この研究では、前肢の冠関節固定術のほうが後肢に比べて、有意に高い硬度を示しました。この理由は明確には考察されていませんが、近位管部(Proximal aspect of meta-carpus/tarsus)から切除された前肢には、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)の一部である種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)によって冠関節を支持する機能が働いたこと、および、第三中手骨の掌側面(Palmar surface of third metatarsal bone)に存在する深屈腱の副靭帯(Accessory ligament of the deep digital flexor tendon)は保たれているので、力学的試験の際に掛けられた荷重の一部は深屈腱に作用したこと、などの要因が挙げられています。

この研究では、生体力学試験の実施の際に生じる誤差を最小限にするため、関節軟骨(Articular cartilage)を残したまま冠関節固定術が行われましたが、馬の冠関節固定術では、術後の骨癒合(Bony union)を促進させる目的で関節軟骨は除去されることが一般的です。また、Acutrak-Plus螺子によって作用される骨片間の圧迫力(Compressive force)は、AO螺子の四割程度であることが報告されていることから(Galuppo et al. Vet Surg. 2002; 31: 201)、関節軟骨の無くなった基節骨遠位端(Distal end of proximal phalanx)と中節骨近位端(Proximal end of middle phalanx)との接触部位には、十分な圧迫を加えられない可能性もあります。このため、Acutrak-Plus螺子を用いた術式の治療効果に関しては、実際の臨床症例への応用を介して評価することが必要である、という考察がなされています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Sod et al. 2007)

Blog_Litr0404_z007_Sod2007_Pict1.jpg

「馬の冠関節固定術の体外力学的比較:スプーン型プレートおよび軸性DCPと遠軸性経関節螺子」
Sod GA, Mitchell CF, Hubert JD, Martin GS, Gill MS. In vitro biomechanical comparison of equine proximal interphalangeal joint arthrodesis techniques: prototype equine spoon plate versus axially positioned dynamic compression plate and two abaxial transarticular cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2007; 36(8): 792-799.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、18本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、馬用のスプーン型プレート(Equine spoon plate)、もしくは一枚のダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)と二本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws: TLS)の併用による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、圧迫性および捻転性の生体力学的試験(Compressive/Torsional biomechanical testing)の両方において、スプーン型プレートのほうがDCPと螺子を併用した術式に比べて、有意に高い降伏荷重(Yield load)、硬度(Stiffness)、破壊荷重(Failure load)を有することが示されました。このため、スプーン型プレートを用いた冠関節固定術では、DCPと螺子を併用する手法に比べて、より堅固な関節の不動化(Immobilization)と、それに伴う早期の骨癒合(Bony union)が期待されることが示唆されました。

この研究で使用されたスプーン型プレートは、馬の冠関節固定術のために開発されたもので、冠関節の背側面におけるインプラントの断面積は254-mm2(DCPでは68-mm2)、慣性モーメント面積(Area moment of inertia)は0.072-cm4(DCPでは0.007-cm4)というように、従来法であるDCPと螺子を併用した術式よりも、顕著に高い物理的強度を達成できると考えられました。また、スプーン型プレートの設置は、手技的にDCPと螺子を併用した術式よりも簡単で、また、値段も$225と比較的に安価であることから、今後の臨床症例に対する治療効果の検証が期待されると推測されています。

この研究では、馬の麻酔覚醒(Anesthesia recovery)における術部への負荷を再現するため、単周期の圧迫性力学的試験(Single cycle compressive biomechanical testing)が選択され、スプーン型プレートでは平均124キロニュートン、DCPと螺子の併用では平均29キロニュートンの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、体重が450~550kgの馬の麻酔覚醒時には、各前肢に21キロニュートンの荷重が生じることが知られています(Rybicki et al. J Biomech. 1977: 701)。つまり、この研究で用いられたいずれの術式においても、麻酔覚醒の際に生じる負荷に対して、計算上は十分に耐えられることが示唆されました。

この研究では、馬が馬房内で歩き回るときの術部への負荷を再現するため、周期性の疲労試験(Cyclic fatigue testing)が選択され、スプーン型プレートでは平均62万回、DCPと螺子の併用では平均10万回の負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、馬が馬房内で歩き回る歩数は、一時間当たり190歩であることが知られており(McDuffee et al. AJVR. 2000: 234)、この結果、スプーン型プレートでは四ヵ月半にわたる周期性負荷に耐えうるのに対して、DCPと螺子の併用では一ヶ月未満の周期性負荷にしか耐えられないことが示されました。

この研究に用いられた二つの術式では、スプーン型プレートは八本の螺子(基節骨に五本、中節骨に三本)で固定されたのに対して、DCPと螺子の併用では、三本のプレート固定用の螺子と(基節骨に二本、中節骨に一本)、二本の経関節螺子しか用いられておらず、この螺子の数の差が物理的強度に影響した可能性は否定できません。また、スプーン型プレートの臨床応用に際しては、その設置に際して数多くの螺子が使用されることで、術後に冠関節背側面に過剰な仮骨増殖(Excessive callus formation)が起こることも考えられます。

Photo courtesy of Vet Surg. 2007; 36(8): 792-799.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Knox et al. 2006)

Blog_Litr0404_z006_Knox2006_Pict1.jpg

「プレートと螺子の併用による馬の冠関節固定術:1994~2003年の53症例」
Knox PM, Watkins JP. Proximal interphalangeal joint arthrodesis using a combination plate-screw technique in 53 horses (1994-2003). Equine Vet J. 2006; 38(6): 538-542.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より治療効果の高い術式を評価するため、1994~2003年において、プレート(DCP: Dynamic Compression Plate)と螺子の併用による冠関節固定術が応用された、53頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、53頭の患馬のうち、経過追跡(Follow-up)が出来なかった七頭を除くと、治癒が達成された馬(=意図した使役への復帰を果たした馬)の割合は87%(40/46頭)で、また、騎乗使役された馬を見ても、85%(23/27頭)において意図したレベルの運動復帰が達成されたことが報告されています。このため、馬の冠関節固定術においては、プレートと螺子を併用する術式によって、十分に堅固な関節固定と治癒が達成され、良好な予後を示す馬が多いことが示唆されました。

この研究の術式では、一枚の幅の狭いDCP(三孔、四孔、または五孔)と二本の経関節螺子(Trans-articular lag screws: 5.5mm)による冠関節の不動化(Immobilization)、および関節軟骨の除去(Articular cartilage removal)が実施され、海綿骨の移植(Cancellous bone graft)を要した馬はありませんでした。この論文の筆者の他の文献では、三孔DCPと二本の螺子を併用する術式は、三本の螺子のみを用いる術式よりも、周期性負荷(Cyclic loading)に対する金属疲労耐性(Fatigue resistance)が有意に高いことが示唆されています。

この研究では、治癒が達成された馬の割合は、前肢の冠関節固定術では81%(20/25頭)、後肢の冠関節固定術では95%(20/21頭)であったことが示されました。また、騎乗使役された馬を見ても、意図したレベルの運動復帰が達成された馬の割合は、前肢の冠関節固定術では73%(8/11頭)、後肢の冠関節固定術では94%(15/16頭)であったことが報告されています。つまり、前肢よりも起立時の体重負荷や運動時の負重が少ない後肢のほうが、冠関節固定術における予後は一般的に良い傾向が認められました。

この研究では、冠関節固定術が応用された53頭の患馬において、遠位肢ギプス(Distal limb cast)の装着期間は平均14日で、このうち、装着期間が15日未満であった症例は93%(50/53頭)にのぼり、二度目のギプス装着を要した馬は8%(4/53頭)だけであったことが報告されています。他の文献を見ると、螺子のみによる冠関節固定術における遠位肢ギプスの装着期間は、平均27日間(MacLellan et al. Vet Surg. 2001; 30: 454)、平均57日間(Martin et al. JAVMA. 1984; 184: 1136)、平均62日間(Caron et al. Vet Surg. 1990; 19: 196)などとなっています。このため、螺子のみを用いる術式に比べて、プレートと螺子を併用する術式では、より強固な関節固定と早期の骨癒合(Bony union)が期待され、その結果、遠位肢ギプスの装着を短期間に抑えることが出来たと考察されています。

この研究では、それぞれの患馬の適応症(Indication)を見ると、骨関節炎(Osteoarthritis)では治癒成功率は86%(18/21頭)、冠関節亜脱臼(Pastern joint subluxation)では治癒成功率は100%(9/9頭)、軟骨下嚢胞(Subchondral bone cyst)では治癒成功率は100%(6/6頭)、そして、中節骨骨折(Middle phalanx fracture)では治癒成功率は100%(6/6頭)などとなっています。しかし、感染性関節炎(Septic arthritis)を呈した患馬における治癒成功率は50%%(2/4頭)で、他の適応症と比べて予後が悪い傾向が見られました(統計的な有意差は無し)。

この研究では、三孔DCPによる冠関節固定術では治癒成功率は93%(25/27頭)であったのに対して、四孔DCPによる冠関節固定術では治癒成功率は88%(15/17頭)で、この二つの術式の違いによる予後の有意差は見られませんでした。また、両側性(Bilateral)の冠関節固定術では治癒成功率は80%(4/5頭)であったのに比べて、片側性(Unilateral)の冠関節固定術では治癒成功率は88%(36/41)で、両側性と片側性の違いによる有意差も認められませんでした。

この研究では、十頭の患馬において、術後の5~9ヵ月目にインプラントの除去を要し、これらの馬では、インプラント周囲の放射線透過性(Radiolucency around implants)、過剰な骨増殖(Excessive osteoproliferation)、持続性跛行(Persistent lameness)、排膿孔形成(Draining tract formation)などが観察され、また、四頭の患馬において、将来の競技能力や外見的美容への影響を心配する馬主の依頼によって、インプラントの除去が選択されました。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2006; 38(6): 538-542.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Read et al. 2005)

Blog_Litr0404_z005_Read2005_Pict1.jpg

「馬の冠関節固定術:二本の5.5mm皮質骨螺子と三本の5.5mm皮質骨螺子の生体力学的比較」
Read EK, Chandler D, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a mechanical comparison of 2 parallel 5.5 mm cortical screws and 3 parallel 5.5 mm cortical screws. Vet Surg. 2005; 34(2): 142-147.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、三本の5.5mm皮質骨螺子(Cortical screws)もしくは二本の5.5mm皮質骨螺子による、冠関節固定術の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、冠関節固定部の三点屈曲性生体力学検査(Three-point bending biomechanical testing)では、最大曲げモーメント(Maximum bending moment)や多層硬度(Composite stiffness)などの測定値において、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式のほうが、手技的にも簡易で、手術時間を短縮できると考えられ、螺子の数を三本に増やしても、物理的強度の向上にはつながらないことが示唆されました。

この研究では、三本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、40%(12/30本)の螺子が破損したのに対して、二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、35%(7/20本)の螺子が破損したことが報告されており、二つの術式のあいだに顕著な違いは見られませんでした。また、生体力学検査の終了点には、その八割において基節骨が折れることで、冠関節固定術部位の破損に至っていました。

この研究で用いられた術式においては、三本の5.5mm皮質骨螺子の慣性モーメント面積(Moment of inertia)は34.2mm4で、二本の5.5mm皮質骨螺子の慣性モーメント面積である22.8mm4よりも顕著に大きかったものの、冠関節固定部の強度そのものには反映してしませんでした。このため、馬の冠関節固定術においては、関節固定箇所の強度は、螺子が挿入されている箇所の骨の強さによって決定され、螺子自体の強度は直接的な因子ではない、という考察がなされています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Watt et al. 2002)

Blog_Litr0404_z004_Watt2002_Pict1.jpg

「馬の冠関節固定術:二枚の3.5mm七孔幅広DCPと4.5mm五孔幅狭DCPの生体力学的比較」
Watt BC, Edwards RB 3rd, Markel MD, McCabe R, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a biomechanical comparison of two 7-hole 3.5-mm broad and two 5-hole 4.5-mm narrow dynamic compression plates. Vet Surg. 2002; 31(1): 85-93.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、二枚の3.5mm七孔の幅の広いDCP(bDCP)もしくは二枚の4.5mm五孔の幅の狭いDCP(nDCP)を用いた術式による、冠関節固定術の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、冠関節固定部の三点屈曲性生体力学検査(Three-point bending biomechanical testing)では、多層硬度(Composite stiffness)、降伏点(Yield point)、最大曲げモーメント(Maximum bending moment)などにおいて、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二枚の五孔nDCPを用いた術式のほうが、手技的にも簡易で、手術時間の短縮につながり、二枚の七孔bDCPを用いた術式と同程度の強度の関節固定術を達成できることが示唆されました。また、二枚の七孔bDCPによる冠関節固定術が行われた肢では、11%(15/140本)の螺子が破損したのに対して、二枚の五孔nDCPによる冠関節固定術が行われた肢では、8%(8/100本)の螺子が破損したのみであったことが報告されています。

この研究では、七孔bDCPに使用された螺子は直径3.5mmで慣性モーメント面積(Moment of inertia)は1.6mm4であったのに対して、五孔nDCPに使用された螺子は直径4.5mmで慣性モーメント面積は4mm4で、顕著に強度が高いことが示されています。しかし、そのぶん、七孔bDCPでは四本多い螺子を挿入させることが出来るため(二枚のプレートを使った術式においては)、結果的に五孔nDCPと同程度の物理的強度を得られた、という考察がなされています。

犬の屍体肢を用いた他の文献(Johnstonet al. Vet Surg. 1991; 20: 235)では、七孔bDCPのほうが、五孔nDCPよりも強度が高いことが報告されており、この研究の結果とは相反するデータが示されています。これは、馬の基節骨(Proximal phalanx)および中節骨(Middle phalanx)における皮質骨(Cortical bone)は、犬の脛骨(Tibia)における皮質骨よりも厚く、螺子の保持力(Holding power)が高かったことが影響していると考えられています。また、上述の犬の文献では、片方の骨片に対して、七孔bDCPでは三本の3.5mm螺子、五孔nDCPでは二本の4.5mm螺子が挿入されているのに対して、馬の冠関節固定術では、中節骨に対して、七孔bDCPでは二本の3.5mm螺子、五孔nDCPでは一本の4.5mm螺子が挿入されているのみであるため、七孔bDCPの術式における「細いが数の多い螺子を使える」という利点が十分に発揮されず、五孔nDCPに比べて有意な強度向上につながらなかった、という考察もなされています。

この研究では、七孔bDCPのほうが、五孔nDCPよりも設置が難しい傾向が示されました。この理由としては、七孔bDCPにおいては、(1)僅かながら長めのプレートを使う必要があるので、プレート遠位端が末節骨伸筋突起(Extensor process of distal phalanx)に接触する危険があること、(2)中節骨に二本の螺子を挿入する必要があるため、螺子の先端が舟状骨(Navicular bone)に達する可能性があること、などが挙げられており、二つの術式のあいだに物理的強度の有意差が無いことを考慮すると、敢えて七孔bDCPを選択する利点は少ないと提唱されています。しかし、中節骨の粉砕骨折(Comminuted fracture)に対して冠関節固定術が応用される場合などにおいては、中節骨の骨折片の整復のために、プレート一枚あたり二本の螺子を使えるという選択肢が広がるため、骨折治療という目的においては、その多用途性(Versatility)を向上できるという利点があると考察されています。

この研究では、検体準備の際に生じる手技的な誤差を減らすため、関節軟骨(Articular cartilage)を残したまま冠関節固定術が施されました。ただ、実際の臨床症例では、術後の骨癒合(Bony union)を促進するため、関節軟骨を外科的に削切する場合が多く、この結果、基節骨と中節骨のあいだの接触面積(Contact area)が減少すると考えられることから、臨床上の冠関節固定術における手術直後の強度は、この研究の計測値よりも低くなると推測されています。

この研究では、同筆者の他の文献において(Watt et al. Vet Surg. 2001; 30: 287)、三本の4.5mm皮質骨螺子および二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式を試験しており、この際のデータと、今回の研究のデータを比較すると、螺子固定よりもプレート固定のほうが(五孔nDCPまたは七孔bDCPの違いに関わらず)、より堅固な冠関節の不動化(Immobilization)を達成できるという結果が示されています。このため、冠関節脱臼(Pastern luxation)や重篤な中節骨骨折(Severe middle phalanx fracture)など、冠関節の周囲軟部組織(Peri-articular soft tissue)が損傷され、関節の安定性が低下している病態に対しては、プレート固定を積極的に実施するべきであると考えられました。

Photo courtesy of Vet Surg. 2002; 31(1): 85-93.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Watt et al. 2001)

Blog_Litr0404_z002_Watt2001_Pict1.jpg

「馬の冠関節固定術:三本の4.5mm皮質骨螺子と二本の5.5mm皮質骨螺子の生体力学的比較」
Watt BC, Edwards RB 3rd, Markel MD, McCabe R, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a biomechanical comparison of three 4.5-mm and two 5.5-mm cortical screws. Vet Surg. 2001; 30(3): 287-294.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)においてより強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、三本の4.5mm皮質骨螺子(Cortical screws)もしくは二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、冠関節固定部の屈曲性生体力学検査(Bending biomechanical testing)では、最大曲げモーメント(Maximum bending moment)や硬度(Stiffness)などにおいて、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式のほうが、手技的にも簡易で、三本の4.5mm皮質骨螺子を用いた術式と同程度の強度の関節固定術を達成できることが示唆されました。また、三本の4.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、53%(16/30本)の螺子が破損または屈曲したのに対して、二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、25%(5/20本)の螺子が破損または屈曲したのみで、後者の術式のほうが有意に少ない数の螺子が損傷したことが報告されています。

この研究では、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式を見ると、前肢の冠関節固定術のほうが後肢の冠関節固定術に比べて、有意に高い最大曲げモーメントの計測値を示しました。この理由としては、(1)前肢の屍体肢では繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)が保たれていて、種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)による冠関節の支持機能が作用したこと、(2)前肢には深屈腱の副靭帯(Accessory ligament of the deep digital flexor tendon)(=遠位支持靭帯:Distal check ligament)が存在するので、掛けられた負荷の一部が深屈腱によっても中和されたこと、(3)馬の前肢には体重の六割以上が掛かるので、一般的に前肢のほうが後肢よりも強度の高い構造であったこと、の三つの要因が挙げられています。

この研究では、生体力学試験における手技的な誤差を減らすため、関節軟骨(Articular cartilage)を除去することなく冠関節固定術が施されました。しかし、実際の臨床症例に対する手術では、術後の骨癒合(Bony union)を促進するため関節軟骨を外科的に削切することが強く推奨されています。この際には、球状の形をしている基節骨遠位端(Distal region of proximal phalanx)では関節軟骨除去によって半径が減少し、受け皿状の形をしている中節骨の近位端(Proximal region of middle phalanx)では関節軟骨除去によって半径が増加することから、関節軟骨が除去された場合には二つの骨端の接触面積(Contact area)が少なくなると予想されます。このため、臨床上の冠関節固定術における手術直後の強度は、この研究の計測値よりも低くなる可能性があるという考察がなされています。

Photo courtesy of Vet Surg. 2001; 30(3): 287-294.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:冠関節固定術(Schaer et al. 2001)

Blog_Litr0404_z001_Schaer2001_Pict1.jpg

「22頭の馬における冠関節固定術」
Schaer TP, Bramlage LR, Embertson RM, Hance S. Proximal interphalangeal arthrodesis in 22 horses. Equine Vet J. 2001; 33(4): 360-365.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis: Proximal interphalangeal arthrodesis)の治療効果を評価するため、1986~1998年にかけて、冠関節の慢性骨関節炎(Chronic osteoarthritis)や繋部の重度外傷(Severe traumatic injury of pastern)の外科的治療のために、冠関節固定術が応用された22頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、螺子固定のみによる冠関節固定術が行われた患馬では、前肢の場合には50%(3/6頭)、後肢の場合には88%(7/8頭)の馬が健常状態(Soundness)まで回復したのに対して、螺子固定とプレート固定が併用された患馬では、前肢の場合には50%(1/2頭)、後肢の場合には80%(4/5頭)の馬が健常状態まで回復したことが報告されています。このため、短期生存率(Short-term survival rate)は71%(15/21頭)で、冠関節固定術による外科的療法では、比較的に良好な予後が期待されることが示唆されました。また、馬の冠関節固定術では、後肢のほうが前肢よりも予後が良い傾向が見られましたが、二つの術式の違い自体は、その予後には顕著に影響しないと考えられました。

一般的に、馬における冠関節固定術は、冠関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)および中節骨骨折(Middle phalanx fracture)などの治療に応用されます。この研究では、22頭の患馬のうち、15頭が冠関節の慢性骨関節炎を呈し、残りの7頭が繋部外傷を呈し、冠関節の慢性骨関節炎の罹患馬のほうが、繋部外傷の罹患馬よりも予後が良い傾向が示されました。また、中節骨における重度の粉砕骨折(Severe comminuted fracture)は除外されています。つまりこの研究では、冠関節の支持機能を担う周辺軟部組織(Peri-articular soft tissue)の機能が極度に失われた患馬はあまり含まれていないと考えられ、これが比較的に良好な予後を示した要因の一つである可能性もあります。このため、今後の研究では、重度の骨折症例などの医療記録を解析することで、冠関節の安定性(Pastern joint stability)が損失した症例に対して、どの術式の冠関節固定術を用いるべきかを検証する必要があると考察されています。

この研究では、螺子固定のみによる冠関節固定術が行われた患馬では、遠肢ギプス(Distal limb cast)の装着を要した期間は平均13週間、跛行が消失するまでに要した期間は平均12ヶ月であったのに対して、螺子固定とプレート固定が併用された患馬では、遠肢ギプスの装着を要した期間は平均5週間、跛行が消失するまでに要した期間は平均8ヶ月というように、有意に短期間であったことが報告されています。また、螺子固定のみの術式では、二頭の患馬における術後レントゲン検査(Post-operative radiography)によって、インプラントの損傷(Implant failure)が確認されました。これは、螺子固定とプレート固定を併用した術式のほうが、より堅固な冠関節の不動化(Stabilization)を達成でき、短期間での治癒につながったためと考察されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2001; 33(4): 360-365.

関連記事:
馬の冠関節固定術
関連記事

馬の文献:炎症性気道疾患(Read et al. 2012)

「炎症性気道疾患の罹患馬におけるクレンブテロールの持続的投与による気道反応性および発汗への影響」
Read JR, Boston RC, Abraham G, Bauquier SH, Soma LR, Nolen-Walston RD. Effect of prolonged administration of clenbuterol on airway reactivity and sweating in horses with inflammatory airway disease. Am J Vet Res. 2012; 73(1): 140-145.

この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)に有用な治療法を検討するため、八頭の炎症性気道疾患の罹患馬に対して、三週間にわたるクレンブテロールまたは生食の持続的投与(Prolonged administration)を行い、それを、一ヶ月の休薬期間(Washout period)をはさんでの交差試験(Cross-over testing)として実施して、その後に、容積変動流速計測法(Flowmetric plethysmography)およびヒスタミン気管支吸入誘発試験(Histamine broncho-provocation test)による肺機能評価(Lung function assessment)と、エピネフリンの皮内注射(Intradermal injection)による発汗機能(Sweating function)の評価が行われました。

結果としては、総気道閉塞を35%増加させるのに必要なヒスタミン濃度(Concentration of histamine required to increase total airway obstruction by 35%: PC35)を薬剤の判定指標とした場合、クレンブテロール投与開始から14日目までには、生食投与時に比べて、このPC35値が有意に増加しており、吸引ヒスタミンへの気道反応性(Airway reactivity)が、クレンブテロールによって減退された事が示されました。しかし、八頭の実験馬のうち七頭において、クレンブテロール投与開始から21日目までには、PC35値が基底値(Baseline value)よりもむしろ減少しており、クレンブテロールの持続的投与に起因して、急速耐性(タキフィラキシー:Tachyphylaxis)が発生したことが示されました。このため、炎症性気道疾患の罹患馬に対しては、クレンブテロールの持続的投与によって、気管支拡張作用(Bronchodilatory effects)という薬剤の効能が、二~三週間で急速に失われる事が示唆されました。

一般的に、クレンブテロールは、ベータ2アドレナリン受容体作動薬(Beta-2 adrenoceptor agonist)として、可逆性気管支痙攣(Reversible bronchospasm)の改善効果を有し、馬に対しては、回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)および炎症性気道疾患の治療に用いられています(Erichsen et al. EVJ. 1994;26:331, Mair. Vet Rec. 1996;138:89, Couetil et al. JVIM. 2007;21:356)。しかし、人間の喘息患者(Asthmatic human patients)への持続的投与では、顕著なタキフィラキシーを生じることが知られており、これは、副作用(Adverse effect)の発現に関しては良い性状(Positive attribute)であるとも言えますが、気管支拡張作用(Bronchodilatory effects)の効能が減退するため、同一の投与濃度を続けている場合には、呼吸器症状の悪化につながるケースもあります。また、クレンブテロールには、抗炎症作用(Anti-inflammatory effect)もあり、馬を含めた多くの動物種において、杯細胞の粘液生成を減少(Decrease in mucus production by goblet cells)させる効能も示されています(Laan et al. Vet J. 2006;171:429, Van den Hoven et al. Vet Res Commun. 2006;30:921)。

この研究では、クレンブテロールおよび生食のいずれの投与時においても、エピネフリンの皮内注射による発汗機能は、有意には変化していませんでした。この理由としては、汗腺のベータ2受容体(Sweat gland beta-2 adrenoceptors)に対する刺激が不十分であったため、薬剤による下方制御(Down-regulation)が明確には示されなかったこと、もしくは、発汗試験の感度が不十分(Insufficient sensitivity of the sweat test)であったこと、等が挙げられています。今回の研究で用いられた試験法は、臨床的に有意性(Clinically relevant)のある、無汗症(Anhidrosis)または発汗減少症(Hypohidrosis)の診断に応用されていますが(Evans. Br Vet J. 1966;122:117, Selvaraj et al. Indian Vet J. 2001;78:790)、薬剤の有害作用に起因するような、軽度の発汗異常を探知するには、診断能が充分に高くなかった可能性が指摘されています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:炎症性気道疾患

関連記事

エコー誘導による馬の下歯槽神経ブロック

20221123_Blog_Topic197_CmpBlUSgInfAlvNBlk_Pict1.jpg

馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。ここでは、下顎臼歯の抜歯のために実施される下歯槽神経ブロックの手法について比較検討した知見を紹介します。

参考文献:
Lloyd-Edwards RA, Ferrao-van Sommeren A, Hermans H, Tersmette AA, Veraa S, van Loon JPAM. Comparison of blind, ultrasound- and neurostimulator-guided methods of percutaneous inferior alveolar nerve block. Equine Vet Edu. Oct12, 2022. doi.org/10.1111/eve.13720. Online ahead of print.

この研究では、馬の屠体頭部、または、全身麻酔した実馬を用いて、下記のような複数の手法を用いて、下歯槽神経(三叉神経の下顎枝)への造影剤と染色剤の注射が行なわれ、CT画像と組織検査によって注射手技の正確性が評価されました。
腹側アプローチ:下顎臼歯の噛合面から尾側に引いた線と、それに直角に交わり外眼角を通る線との交点を下顎孔の位置として推定して、下顎骨水平枝の腹側部から骨の内側面へと脊髄針(18G, 90mm)を刺入させ、背側へと針を進めていき、下顎孔の箇所と思われる深さに針先が達した時点で注射する(上図)。
尾側アプローチ:前述と同様に下顎孔の位置を推定して、下顎骨の水平枝と垂直枝の中間から骨の内側面へと脊髄針(18G, 90mm)を刺入させ、背吻側へと針を進めていき、下顎孔の箇所と思われる深さに針先が達した時点で注射する(下写真)。
エコー誘導での腹側アプローチ:下顎骨の下方から超音波プローブを当てて(脊髄針の内側または外側)、下顎骨内側面にある下顎孔の位置を画像で確認した後(最下写真の緑矢印)、下顎骨水平枝の腹側部から骨の内側面へと脊髄針(18G, 90mm)を刺入させ、画像上で針の進入を視認しながら、下顎孔の位置に針先が達した時点で注射する。

結果としては、注射液が下顎孔の部位を覆っていた割合は、腹側アプローチでは63%、尾側アプローチでは75%であったのに対して、エコー誘導での腹側アプローチでは95%に及んでいました。また、針先と下顎孔との距離(中央値)は、腹側アプローチ(19mm)や尾側アプローチ(18mm)に比べて、エコー誘導での腹側アプローチでは4mmと顕著に近くなっていました。このため、馬の下歯槽神経ブロックに際しては、エコー画像で脊髄針を誘導することで、下顎孔の位置へと適切に針先を導くことが可能になることが示唆されました。ただ、これら三群のあいだで、統計的な有意差はありませんでした。

20221123_Blog_Topic197_CmpBlUSgInfAlvNBlk_Pict2.jpg

一方、この研究では、注射液が下歯槽神経に達していた割合は、腹側アプローチでは50%であったのに対して、尾側アプローチでは88%、エコー誘導での腹側アプローチでは86%と顕著に高くなっていました。一方、注射液が舌神経に達していた割合は、腹側アプローチでは75%、尾側アプローチでは50%、エコー誘導での腹側アプローチでは71%でした。このため、下歯槽神経を適切にブロックしながら、舌神経ブロックを回避するという意味では、尾側アプローチが最も優れている可能性が示唆されました。ただ、これら三群のあいだで、統計的な有意差はありませんでした。

この研究では、注射液の総量は1mLとかなり少なく、また、注射法による実験的な有意差は無かったことから、実際の臨床症例では比較的に多量(10-20mL)の局所麻酔薬が注射されることを考えると、腹側および尾側の何れのアプローチでも、良好な下歯槽神経のブロックが達成される(エコー誘導無しで)と推測されています。過去の文献[1]では、下歯槽神経ブロックの正確性としては、腹側アプローチでは59%、尾側アプローチでは73%であったことが報告されています。また、他の文献[2]では、エコー誘導による針穿刺によって、下歯槽神経ブロックの成功率は81%であったという報告もあります。

馬の頭部の解剖学を見ると、下歯槽神経のやや背側を舌神経が走行しているため、腹側から針穿刺したほうが(腹側アプローチ)、針先が下顎孔よりも上方に達してしまった場合、誤って舌神経も一緒にブロックしてしまう事象が起こり易いと考えられます。過去の文献[3]では、舌神経も一緒にブロックされてしまうと、術中に舌麻痺を生じて、舌を噛んでしまう事故が起こることが知られています。しかし、複数回の針穿刺を避けるためには、やはり十分な量の麻酔薬を注射して、下歯槽神経を確実にブロックしながら、舌麻痺は常に起こり得るものと認識して、処置前から処置後まで持続的に開口器を装着させて事故を予防する、という方針が現実的なのかもしれません。

なお、この研究では、神経刺激装置誘導でのアプローチも試みられましたが、他手法よりも成績が劣るため、ここでは省略しています。ただ、術者がこの装置に熟練することで、注射手技の正確さが向上する可能性も示唆されています。

20221123_Blog_Topic197_CmpBlUSgInfAlvNBlk_Pict3.jpg

Photo courtesy of J Vet Dent. 2019 Mar;36(1):46-51 (doi: 10.1177/0898756419844836.), and the Proceeding of American Association of Equine Practitioners. Fletcher BW. How to Perform Effective Equine Dental Nerve Blocks. Dec4, 2004.

参考文献:
[1] Harding PG, Smith RL, Barakzai SZ. Comparison of two approaches to performing an inferior alveolar nerve block in the horse. Aust Vet J. 2012 Apr;90(4):146-50.
[2] Johnson JP, Peckham RK, Rowan C, Wolfe A, O'Leary JM. Ultrasound-Guided Inferior Alveolar Nerve Block in the Horse: Assessment of the Extraoral Approach in Cadavers. J Vet Dent. 2019 Mar;36(1):46-51.
[3] Caldwell FJ, Easley KJ. Self-inflicted lingual trauma secondary to inferior alveolar nerve block in 3 horses. Equine Vet Edu. 2012;24(3):119-123.

関連記事
このエントリーのタグ: 歯科 治療

馬の抜歯後に起こる菌血症

20221122_Blog_Topic196_BactmaToothExtrctAB_Pict1.jpg

馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。ここでは、馬の抜歯治療をした後に起こる菌血症に関する知見を紹介します。

参考文献:
Kern I, Bartmann CP, Verspohl J, Rohde J, Bienert-Zeit A. Bacteraemia before, during and after tooth extraction in horses in the absence of antimicrobial administration. Equine Vet J. 2017 Mar;49(2):178-182.

この研究では、ドイツのハノーバー大学の馬病院において、抜歯治療が実施された症例馬のうち、治療前の四週間のあいだに抗生物質が投与されていなかった20頭において、抜歯前の病巣の拭き取り検体、および、抜歯前と抜歯後における血液検体の細菌培養が実施されました。その結果、抜歯治療を受けた症例馬のうち90%(18/20頭)において、術後に菌血症の続発が確認されており、血液中から分離された菌は、抜歯箇所から分離された菌と一致していました。

このため、馬の抜歯治療においては、口腔内病変の原因菌が、抜歯箇所から血流に侵入することが示唆されており、そのような一過性の菌血症が、馬体の他臓器への細菌感染を続発する危険性が懸念されました。この研究では、術後合併症として他の部位での細菌感染は起きておらず、また、抜歯箇所の歯肉病態の重篤度も評価されていませんでした。今後の研究では、抜歯前における口腔内の殺菌処置や、抜歯前に数日間以上の抗生物質投与を行なうことで、抜歯後の菌血症を予防できるか否かを評価するのが有用だと考えられました。

20221122_Blog_Topic196_BactmaToothExtrctAB_Pict2.jpg

この研究では、抜歯後に血液から分離された細菌としては、フソバクテリウム属菌、プレヴォテラ属菌、アクチノマイセス属菌などが挙げられており、また、歯科疾患の発症によって、馬の口腔内細菌叢における嫌気性菌やグラム陰性菌の割合が増加することが示唆されています。このため、馬の歯科疾患に対する抜歯治療を実施する際には、特に、重篤な細菌感染を伴う疾患や、抜歯前に抗生物質療法が行なわれていなかった症例に対しては、口腔内または病巣部の拭き取り検体を採取して、細菌培養検査および抗生物質感受性試験を行ない、術後にアグレッシブな抗生物質投与を実施することが提案されています。

ヒトの医療分野や犬においては、抜歯や口腔内の外科的処置によって、口腔内の細菌が血流に侵入する現象が知られており[1,2]、また、馬においても、抜歯治療による菌血症から、細菌性髄膜炎を続発したという症例報告や [3,4]、抜歯後に頭頚部の膿瘍や血栓性静脈炎を続発したという知見があります[5]。また、馬における類似の事象としては、口腔内細菌の侵入によって右側心内膜炎が継発しうるという報告や[6]、頭部の蜂窩織炎を治療する際に、血行性に眼組織に細菌感染が波及したという症例報告もあります[7]。このため、馬の抜歯処置においては、術後の稀な合併症として、菌血症および他臓器への細菌感染を考慮して、適宜な予防対策を講じる必要があるのかもしれません。

20221122_Blog_Topic196_BactmaToothExtrctAB_Pict3.jpg

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

参考文献:
[1] Kinane DF, Riggio MP, Walker KF, MacKenzie D, Shearer B. Bacteraemia following periodontal procedures. J Clin Periodontol. 2005 Jul;32(7):708-13.
[2] Nieves MA, Hartwig P, Kinyon JM, Riedesel DH. Bacterial isolates from plaque and from blood during and after routine dental procedures in dogs. Vet Surg. 1997 Jan-Feb;26(1):26-32.
[3] Arndt S, Kilcoyne I, Heney CM, Wong TS, Magdesian KG. Bacterial meningitis after dental extraction in a 17-year-old horse. Can Vet J. 2021 Apr;62(4):403-407.
[4] Zetterstrom S, Groover E, Lascola K, Cole R, Velloso A, Boone L. Meningitis After Tooth Extraction and Sinus Lavage in a Horse. J Equine Vet Sci. 2021 Feb;97:103323.
[5] Horbal AA, Reardon RJM, Froydenlund T, Jago RC, Dixon PM. Head and neck abscessation and thrombophlebitis following cheek tooth extraction in a pony. Equine Vet Edu. 2019;31(10):523-529.
[6] Verdegaal EJMM, de Heer N, Meeertens NM, Maree JTM, Sloet van Oldruitenborgh-Oosterbaan MM. A right-sided bacterial endocarditis of dental origin in a horse. Equine Vet Edu. 2006;18(4):191-195.
[7] Racine J, Borer-Germann SE, Navas de Solis C, Stoffel MH, Klopfenstein M, Klopfenstein Bregger MD. Treatment and ophthalmic sequelae in a horse with facial cellulitis and orbital abscess. Equine Vet Edu. 2017;29(11):594-599.

関連記事
このエントリーのタグ: 歯科 治療

馬の臼歯の抜歯治療での長期合併症

20221122_Blog_Topic195_LngTrmChkTeeth428_Pict1.jpg

馬の歯科疾患では、保存療法に難治性を呈した症例においては、罹患歯の抜歯が根治療法として選択される場合もあります。

ここでは、馬の臼歯の抜歯治療における、長期的な合併症の発生状況を調査した知見を紹介します。この研究では、英国のエジンバラ大学の獣医病院において、2004~2018年にかけて、臼歯の抜歯治療が実施された428頭の症例馬における、医療記録の回顧的解析、および、長期的な合併症に関する聞き取り調査が行なわれました。

参考文献:
Kennedy R, Reardon RJM, James O, Wilson C, Dixon PM. A long-term study of equine cheek teeth post-extraction complications: 428 cheek teeth (2004-2018). Equine Vet J. 2020 Nov;52(6):811-822.

結果としては、症例馬428頭のうち、臼歯の抜歯による合併症の発生率は13.6%(58/428頭)に上っており、このうち、臨床的に長期的な弊害を及ぼしたケースは約六割(34/58頭)に達していました。そして、合併症の内訳としては、歯槽の腐骨形成が最も多く、歯槽組織の細菌感染を伴っているものも見られました。また、罹患臼歯のうち、第二前臼歯~第四前臼歯の抜歯では、他の臼歯の抜歯に比べて、合併症の発生率が有意に高いことが示されました。

この研究では、歯根感染を呈していた症例では、そうでない症例に比べて、有意に高い合併症の発生率が認められました。さらに、抜歯の手法を見てみると、口腔側から引き抜いた場合に比べて、歯根部から叩き出したり、最小侵襲性の経頬壁アプローチにて抜歯された場合では、合併症の発生率が有意に高いことも分かりました。ただ、歯科疾患の発症から抜歯治療までの期間は、医療記録で不明なケースもあり、解析されていませんでした。

20221122_Blog_Topic195_LngTrmChkTeeth428_Pict2.jpg

以上の結果から、馬の臼歯の抜歯においては、前臼歯が罹患している場合や、術前に既に歯根の細菌感染を伴っていた場合には、十分な病巣掻把や術後の抗生物質療法を実施して、歯槽腐骨などの合併症の予防に努めることの重要性が再確認されました。また、口腔側から引き抜く抜歯法のほうが、合併症が少ない傾向が認められましたが、これは他の術式のほうが、歯槽骨損傷などのリスクが高いという可能性が否定できない一方で、初診時での細菌感染が進行していて、口腔側から引き抜けないほど変性および虚弱化した症例ほど、術後の合併症に繋がりやすかったという可能性も考えられました。過去の文献[1]でも、口腔側から引き抜くほうが、他の術式に比較して、術後合併症が少ないという知見が示されています。

また、馬の抜歯治療に関する他の文献[2]を見ると、下顎骨の臼歯での抜歯においては、合併症の発生率は6.6%(20/302頭)となっており、最も多い合併症は、やはり歯槽腐骨形成(18/20頭)となっていました。また、第二前臼歯および第一後臼歯の抜歯において、他の臼歯に比べて、合併症の発生率が有意に高かったことも報告されています。なお、これらの症例では、下顎部への瘻管形成(5/20頭)や下顎骨膿瘍(4/20頭)を続発したケースも見られました。

20221122_Blog_Topic195_LngTrmChkTeeth428_Pict3.jpg

Photo courtesy of Equine Vet J. 2020 Nov;52(6):811-822. (doi: 10.1111/evj.13255. Epub 2020 Apr 9.); Front Vet Sci. 2020 Aug 13;7:504. (doi: 10.3389/fvets.2020.00504.)

参考文献:
[1] Caramello V, Zarucco L, Foster D, Boston R, Stefanovski D, Orsini JA. Equine cheek tooth extraction: Comparison of outcomes for five extraction methods. Equine Vet J. 2020 Mar;52(2):181-186.
[2] Gergeleit H, Bienert-Zeit A. Complications Following Mandibular Cheek Tooth Extraction in 20 Horses. Front Vet Sci. 2020 Aug 13;7:504.

関連記事
このエントリーのタグ: 歯科 治療

馬の文献:炎症性気道疾患(Richard et al. 2012)

Blog_Litr0511_008_Richard2012_Pict1.jpg

「炎症性気道疾患の罹患馬におけるサーファクタント蛋白Dの血清濃度」
Richard EA, Pitel PH, Christmann U, Lekeux P, Fortier G, Pronost S. Serum concentration of surfactant protein D in horses with lower airway inflammation. Equine Vet J. 2012; 44(3): 277-281.

この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の有用な診断法を検討するため、42頭のスタンダードブレッド競走馬における、内視鏡検査(Endoscopy)、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の細胞学的検査(Cytologic examination)、および、安静時とトレッドミル運動後の、サーファクタント蛋白D(Surfactant protein D)の血清濃度(Serum concentration)の測定が行われました。

結果としては、42頭の患馬のうち、気管支肺胞洗浄液の検査結果から、22頭が炎症性気道疾患の罹患馬、20頭が対照馬(Control horses)に分類され、症例馬のほうが対照馬に比べて、安静時およびトレッドミル運動後のいずれにおいても、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が有意に高かった事が示されました。このため、スタンダードブレッド競走馬においては、血清中のサーファクタント蛋白D濃度が、炎症性気道疾患の生物指標(バイオマーカー:Biomarker)として応用可能であり、疾患の早期発見およびスクリーニングに有用である可能性が示唆されました。一方、サーファクタント蛋白Dの血清濃度と、気管支肺胞洗浄液の細胞学的検査値とのあいだには、有意な相関は認められず、血清中のサーファクタント蛋白D濃度が、炎症性気道疾患の病態の重篤度(Severity)を評価するための、定量的指標(Quantitative parameter)になりうるか否かに関しては、肺機能検査(Lung function testing)等を併用した実験による更なる検討を要すると考えられました。

一般的に、サーファクタント蛋白Dは、コレクチン系統蛋白(Collectin family protein)に分類される生体防御レクチンの一つで、主に、肺胞二型細胞(Alveolar type-2 cells)や無繊毛性気管支内皮細胞(Non-ciliated bronchiolar epithelium cells: Clara cells, etc)によって合成され、病原体浄化(Clearance of pathogens)のための生得的肺防御(Innate pulmonary defense)の機能を担うことが知られています(Wright. Nat Rev Immunol. 2005;5:58)。そして、人間の医学領域では、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が、慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease)などの炎症性肺疾患(Pulmonary inflammatory diseases)における、診断指標および予後判定指標(Predictive and prognostic marker)として応用されています(Hartl and Griese. Eur J Clin Invest. 2006;36:423, Lomas et al. Eur Respir J. 2009;34:95)。一方、馬に対する応用例としては、実験的な細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)の罹患馬において、サーファクタント蛋白Dの血清濃度が、有意に上昇する事が報告されています(Hobo et al. J Vet Med Sci. 2007;69:827)。

一般的に、サーファクタント蛋白Dの血清濃度は、呼吸器の異常によって特異的に変化するわけではなく、生殖器官(Reproductive tract)や関節液(Joint fluid)からも検出されているため(Kankavi and Roberts. Can J Vet Res. 2004;68:146, Kankavi et al. Anim Reprod Sci. 2007;98:259, Sorensen et al. Immunobiol. 2007;212:381)、実際の臨床症例における検査値の解釈(Interpretation)には、併発疾患の存在を考慮する必要があると考えられます。また、馬への臨床応用に際しては、サーファクタント蛋白Dの血清濃度によって、炎症性気道疾患の発見だけではなく、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)や回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)などの、他の呼吸器疾患との鑑別診断(Differential diagnosis)が可能であるか否かについても、今後の検証を要すると考察されています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:炎症性気道疾患

関連記事

馬の虚血再灌流障害でのポストコンディショニング

20221107_Blog_Topic194_IRI_IPoC_MucoInjJejn_Pict1.jpg

馬の小腸の絞扼性疾患(空腸捻転や有茎性脂肪腫、網嚢孔捕捉など)では、絞扼を整復して虚血していた箇所に血流を回復させると、その再灌流が原因で組織損傷が起こってしまうという現象が知られており、また、その際に流出する炎症性物質によって、他の部位の腸管が通過障害(術後イレウス)を続発したり、全身の多臓器が損傷を受けるという危険性が指摘されています。

ここでは、そのような虚血再灌流障害(Ischemia-reperfusion injury)を予防するための方法として、虚血ポストコンディショニング((Ischaemic post-conditioning: IPoC)の効果を検証した知見を紹介します。この研究では、14頭の実験馬を用いて、全身麻酔下の開腹術で空腸にアプローチした後、90分間の虚血状態を作り出し、それを単に再灌流させた場合と(対照群)、再灌流と再度の血流遮断を30秒おきに三回繰り返した場合で(IPoC群)、脈管循環と酸素化の測定、および、腸壁の組織学的検査が行なわれました。

参考文献:
Verhaar N, Breves G, Hewicker-Trautwein M, Pfarrer C, Rohn K, Burmester M, Schnepel N, Neudeck S, Twele L, Kastner S. The effect of ischaemic postconditioning on mucosal integrity and function in equine jejunal ischaemia. Equine Vet J. 2022 Mar;54(2):427-437.

結果としては、対照群と比較して、IPoC群では、血流遮断するたびに脈管循環は減少していたものの、初回以降では酸素飽和度は変化していませんでした。また、IPoC群では、粘膜絨毛露出が有意に少ない(腸粘膜バリアーの機能温存)ことが分かり、粘膜から漿膜への流動速度も有意に減少(傍細胞不透過性の維持)していました。一方で、タイトジャンクション構成蛋白質(Claudin-1, Claudin-2, Occludin)の活性には、両群で有意差は認められませんでした。

20221107_Blog_Topic194_IRI_IPoC_MucoInjJejn_Pict2.jpg

以上の結果から、馬の空腸における虚血再灌流障害に対しては、IPoC処置を施すことで、小腸粘膜への組織損傷を抑えられる可能性が示唆されました。ただ、腸管の生存性の影響や、蠕動機能の回復度合い、および、術後イレウスの発生率などは評価されておらず、今後の研究では、実験モデルを用いた長期的な経過追跡や、実際の小腸絞扼症例への臨床応用を通して、生物学的に有意な虚血再灌流障害の予防効果が得られるか否かを評価する必要があると考察されています。

ヒト医療における虚血ポストコンディショニングは、主に急性心筋梗塞の治療に適応されており、血栓を溶解させた後、血流再開と再遮断を30~60秒おきに数回繰り返すという手法が取られており[1]、また、動物実験では、虚血状態の腸管にも応用されており、細胞死や組織浮腫を抑える効果が示されています[2]。IPoC処置によって、虚血再灌流障害が減退されるメカニズムとしては、低酸素誘導因子アルファの活性亢進や、アルドース還元酵素などの組織修復に役立つ物質が、急激な再灌流で洗い流されるのを抑えることが挙げられています[3,4]。

20221107_Blog_Topic194_IRI_IPoC_MucoInjJejn_Pict3.jpg

今回の実験モデルでは、虚血再灌流を作成した空腸が1メートルと短かったため、数ヶ所の腸間膜脈管を止血鉗子で掴んだり放したりすることで、血流の再開と再遮断が繰り返されました。しかし、実際の臨床症例では、より長い距離の空腸が虚血に陥る場合も多いと推測され、その場合には、血流を再遮断する手法として、腸間膜根側の太い脈管を用手で圧迫したり、捻転や絞扼していた箇所を整復するのを、段階的に行なうなどの手法が提唱されています。勿論、重度の虚血性壊死を起こしていて、罹患部の切除と吻合術を要するのが確実なケースでは、IPoC処置を施す価値は低いと推測されています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2022 Mar;54(2):427-437. (doi: 10.1111/evj.13450.)

参考文献:
[1] Lou B, Cui Y, Gao H, Chen M. Meta-analysis of the effects of ischemic postconditioning on structural pathology in ST-segment elevation acute myocardial infarction. Oncotarget. 2017 Dec 16;9(8):8089-8099.
[2] Chu W, Li S, Wang S, Yan A, Nie L. Ischemic postconditioning provides protection against ischemia-reperfusion injury in intestines of rats. Int J Clin Exp Pathol. 2015 Jun 1;8(6):6474-81.
[3] Jia Z, Lian W, Shi H, Cao C, Han S, Wang K, Li M, Zhang X. Ischemic Postconditioning Protects Against Intestinal Ischemia/Reperfusion Injury via the HIF-1α/miR-21 Axis. Sci Rep. 2017 Nov 23;7(1):16190.
[4] Wen SH, Ling YH, Li Y, Li C, Liu JX, Li YS, Yao X, Xia ZQ, Liu KX. Ischemic postconditioning during reperfusion attenuates oxidative stress and intestinal mucosal apoptosis induced by intestinal ischemia/reperfusion via aldose reductase. Surgery. 2013 Apr;153(4):555-64.

関連記事
このエントリーのタグ: 疝痛 疾病予防

馬の虚血再灌流でのリドカイン投与

20221107_Blog_Topic193_IRI_RemoteLungInjury_Pict1.jpg

馬の小腸の絞扼性疾患(空腸捻転や有茎性脂肪腫、網嚢孔捕捉など)では、絞扼を整復して虚血していた箇所に血流を回復させると、その再灌流が原因で組織損傷が起こってしまうという現象が知られており、また、その際に流出する炎症性物質によって、他の部位の腸管が通過障害(術後イレウス)を続発したり、全身の多臓器が損傷を受けるという危険性が指摘されています。

ここでは、そのような虚血再灌流障害(Ischemia-reperfusion injury)における肺損傷や、その予防法を評価した知見を紹介します。この研究では、20頭の実験馬を用いて、全身麻酔下の開腹術で空腸にアプローチした後、70分間の虚血とその後の60分間の再灌流を実施して、この際にリンゲル投与(対照群)またはリドカイン投与(治療群)を行ない、各群での肺組織検体を採取して、病理組織学的検査と免疫染色検査による炎症反応や組織損傷が評価されました。

参考文献:
Montgomery JB, Hamblin B, Suri SS, Johnson LE, New D, Johnston J, Kelly J, Wilson DG, Singh B. Remote lung injury after experimental intestinal ischemia-reperfusion in horses. Histol Histopathol. 2014 Mar;29(3):361-75.

結果としては、対照群の馬では、虚血再灌流障害に起因して、肺胞内および肺脈管への好中球集積が認められ、炎症関連物質(IL-8, TLR4, TLR9)の発現が確認されました。また、フォンウィレブランド因子陽性の血小板の増加も認められ、播種性血管内凝固(DIC)などの凝血異常疾患を示唆する所見も見られました。そして、肺組織の炎症介在物質(TNF-alpha)の活性も、健常な肺組織と比較して、有意に増加していました。

20221107_Blog_Topic193_IRI_RemoteLungInjury_Pict2.jpg

また、この研究では、リドカイン投与された治療群では、肺胞内や肺脈管での好中球数が有意に少なく、マクロファージ数は有意に増加していましたが、ミエロペルオキシダーゼの活性は対照群と比べて変化していませんでした。以上の結果から、馬の腸管の虚血再灌流障害では、炎症性物質の全身循環への流入によって、肺組織の損傷を起こし得ることが示されましたが、リドカイン投与によって、肺の炎症反応を軽減できる可能性が示されました。

過去の文献では、大腸炎を起こした馬の好中球においては、内因性/外因性経路の障害によって、アポトーシス反応が遅延してしまい、これが全身性炎症反応症候群(SIRS)を悪化させる一要素になることが知られています。[1]。また、この好中球のアポトーシス遅延の原因として、TNF-alphaおよびTLR4の活性亢進も挙げられています[2]。そして、近年の文献では、馬の虚血再灌流に起因する肺組織の炎症でも、好中球のアポトーシス遅延を生じることが示されており、肺脈管内マクロファージを枯渇する処置によって、このアポトーシス反応を制御できることが示されています[3]。

20221107_Blog_Topic193_IRI_RemoteLungInjury_Pict3.jpg

この研究では、馬の虚血再灌流における肺の組織学的な変化が評価されていますが、臓器レベルでの機能障害を引き起こすのか否かは明らかにされていません。このため、今後の研究では、実際の開腹術において、虚血部位を再灌流させた後(腸捻転の部位を外科的整復した後)、どの段階で生物学的に有意な肺胞組織の損傷を生じるのかを、経時的な組織検査を通して解明する必要があると言えます。

なお、馬の内毒素血症に継発する敗血症では、リドカイン投与では十分にSIRSを抑制できないことも知られてきており、また、虚血再灌流での腸壁組織への損傷も、リドカイン投与(プレコンディショニング処置)では減退できないことが報告されています[4]。このため、虚血再灌流による他臓器障害を予防する作用についても、リドカインの有効な投与量や投与のタイミングを確立させていく必要があると言えそうです。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

参考文献:
[1] Anderson SL, Singh B. Neutrophil apoptosis is delayed in an equine model of colitis: Implications for the development of systemic inflammatory response syndrome. Equine Vet J. 2017 May;49(3):383-388.
[2] Anderson SL, Townsend HGG, Singh B. Role of toll-like receptor 4 and caspase-3, -8, and -9 in lipopolysaccharide-induced delay of apoptosis in equine neutrophils. Am J Vet Res. 2018 Apr;79(4):424-432.
[3] Anderson SL, Duke-Novakovski T, Robinson AR, Townsend HGG, Singh B. Depletion of pulmonary intravascular macrophages rescues inflammation-induced delayed neutrophil apoptosis in horses. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2021 Jan 1;320(1):L126-L136.
[4] Verhaar N, Pfarrer C, Neudeck S, Konig K, Rohn K, Twele L, Kastner S. Preconditioning with lidocaine and xylazine in experimental equine jejunal ischaemia. Equine Vet J. 2021 Jan;53(1):125-133.

関連記事
このエントリーのタグ: 疝痛 治療

馬の虚血再灌流障害における空腸の虚弱性

20221106_Blog_Topic192_IRI_JejnmAscdnColon_Pict1.jpg

馬の小腸の絞扼性疾患(空腸捻転や有茎性脂肪腫、網嚢孔捕捉など)では、絞扼を整復して虚血していた箇所に血流を回復させると、その再灌流が原因で組織損傷が起こってしまうという現象が知られており、また、その際に流出する炎症性物質によって、他の部位の腸管が通過障害(術後イレウス)を続発したり、全身の多臓器が損傷を受けるという危険性が指摘されています。

ここでは、そのような虚血再灌流障害(Ischemia-reperfusion injury)の病態を評価した知見を紹介します。この研究では、七頭の実験馬を用いて、開腹術で空腸と結腸にアプローチして、70分間の虚血後の60分間の再灌流モデル、および、120分間の膨満とその後の除圧のモデルを作成して、各時点での腸管検体の病理組織学的検査および電子顕微鏡検査が行なわれました。

参考文献:
Dabareiner RM, Sullins KE, White NA, Snyder JR. Serosal injury in the equine jejunum and ascending colon after ischemia-reperfusion or intraluminal distention and decompression. Vet Surg. 2001 Mar-Apr;30(2):114-25.

結果としては、空腸の70分間の虚血によって、漿膜毛細血管の充血、中皮細胞層の部分的/完全損失、基底膜露出などが生じており、その後の60分間の再灌流によって、中皮細胞層の完全消失、漿膜浮腫、赤血球/白血球浸潤、内皮間連結部損失による毛細血管狭窄などを生じて、基底膜を越えて非顆粒好中球の漿膜面への浸潤も確認されました。これらの所見は、無処置の部位の空腸よりも、有意に重篤になっていました。

一方、空腸の120分間の膨満では、中皮細胞損失、漿膜浮腫、リンパ管拡張、赤血球浸潤などが認められ、毛細血管内皮損傷による赤血球漏出も見られました。その後の除圧によって、漿膜浮腫と白血球浸潤が悪化して、毛細血管内皮細胞の腫脹も見られました。そして、虚血よりも膨満モデルにおいて、漿膜浮腫や細胞浸潤が有意に大きいことが分かりました。これらの所見についても、無処置の部位の空腸よりも有意に重度であったと報告されています。

20221106_Blog_Topic192_IRI_JejnmAscdnColon_Pict2.jpg

そして、結腸の虚血と再灌流では、部分的な中皮細胞層の損失を認めたのみで、漿膜浮腫や細胞浸潤などは、無処置の箇所の結腸と有意差はありませんでした。また、結腸の膨満と除圧では、明瞭な異常所見は認められず、無処置の箇所の結腸と比較して、有意差は無いことが分かりました。

以上の結果から、馬の空腸は、虚血と再灌流によって多様な漿膜組織の損傷を引き起こし、結腸よりも虚血再灌流障害に虚弱であることが示されました。一方、膨満によっては、馬の結腸は殆ど異常所見が無かったのに対して、空腸では様々な形態の組織損傷を引き起こしており、除圧をすることで悪化する所見が確認されました。

20221106_Blog_Topic192_IRI_JejnmAscdnColon_Pict3.jpg

過去の文献では、馬の腸管への虚血再灌流によって、重篤な粘膜損傷が生じることが知られており、内毒素血症やフリーラジカルの血流迷入による多臓器損傷を介して、予後不良の要因となることが知られています [4-6]。そして、今回の研究では、腸管の虚血再灌流から、漿膜にも重度の組織損傷を生じることが再確認され、空腸の絞扼性疾患を呈した臨床症例では、術後の癒着や腸管キンクによる物理的イレウスの病因になりうることが示唆されました。

一方で、馬の空腸の膨満では、病理的異常所見は少ないという知見もありますが[8]、この場合は中程度の内圧(18cmH2O)を四時間続ける実験モデルを用いていました。そのため、今回の実験では、重度の内圧(25cmH2O)を二時間続けるモデルによって、重度の組織損傷が誘導させることが確認されました。このため、実際の臨床症例での空腸絞扼では、虚血を受けた箇所だけでなく、絞扼部よりも上流(近位側)で空腸膨満を起こした箇所でも、深刻な漿膜損傷を引き起こして、整復後にも広範な空腸領域における機能障害の病因になるという可能性が示唆されました。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

参考文献:
[1] Sullins KE, Stashak TS, Mero KN. Pathologic changes associated with induced small intestinal strangulation obstruction and nonstrangulating infarction in horses. Am J Vet Res. 1985 Apr;46(4):913-6.
[2] Freeman DE, Cimprich RE, Richardson DW, Gentile DG, Orsini JA, Tulleners EP, Fetrow JP. Early mucosal healing and chronic changes in pony jejunum after various types of strangulation obstruction. Am J Vet Res. 1988 Jun;49(6):810-8.
[3] Allen D Jr, White NA, Tyler DE. Factors for prognostic use in equine obstructive small intestinal disease. J Am Vet Med Assoc. 1986 Oct 1;189(7):777-80.

関連記事
このエントリーのタグ: 疝痛 サイエンス

馬の文献:炎症性気道疾患(Richard et al. 2009)

「無症候性の炎症性気道疾患がインパルス・オシロメトリー評価された馬の呼吸器機能に与える影響」
Richard EA, Fortier GD, Denoix JM, Art T, Lekeux PM, Van Erck E. Influence of subclinical inflammatory airway disease on equine respiratory function evaluated by impulse oscillometry. Equine Vet J. 2009; 41(4): 384-389.

この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)の有用な診断法を検討するため、プアパフォーマンスのため来院した34頭のスタンダードブレッド競走馬における、インパルス・オシロメトリー(Impulse oscillometry)による呼吸器機能(Respiratory function)の評価、および、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の細胞学的検査(Cytologic examination)が行われました。

結果としては、34頭の患馬のうち、気管支肺胞洗浄液の検査結果から、19頭が炎症性気道疾患の罹患馬、15頭が対照馬(Control horses)に分類され、症例馬のほうが対照馬に比べて、インパルス・オシロメトリー検査での呼吸器抵抗(Respiratory resistance)および呼吸器リアクタンス(Respiratory reactance)の測定値が、有意に悪化している事が示されました。このため、競走馬におけるインパルス・オシロメトリー検査によって、顕著な呼吸器症状(Respiratory clinical signs)を呈していない無症候性炎症性気道疾患(Subclinical inflammatory airway disease)に対しても、高感度(High sensitivity)での診断ができる可能性が示唆されました。また、他の文献では、安静呼吸状態(Eupnoeic conditions)における肺機能検査においても、食道バルーン法では認められないほどの僅かな変化を、インパルス・オシロメトリー法によって探知できた事が報告されています(Pirrone et al. Vet J. 2007;173:144)。

この研究で試験されたインパルス・オシロメトリー法は、強制振動負荷原理(Principle of forced oscillation technique)を応用した非侵襲性呼吸器機能検査法(Non-invasive respiratory function testing)で、迅速かつ簡易に、呼吸器インピーダンス総量(Total respiratory impedance)、気道抵抗(Airway resistance)、肺の弾性容量(Elastic capacity of the lungs)、換気均一性(Homogeneity of ventilation)などを評価する事ができます(Peslin and Duvivier. J Appl Physiol. 1998;84:553)。そして、馬に対する臨床応用においては、インパルス・オシロメトリー法のほうが、食道バルーン法(Esophageal balloon technique)よりも、高感度に呼吸器機能を評価できる事が知られています(Van Erck et al. EVJ. 2006;38:52)。

この研究では、炎症性気道疾患の罹患馬において、呼吸器抵抗&リアクタンスの有意な悪化が認められ、これは、息労(Heaves)(=回帰性気道閉塞:Recurrent airway obstruction)の罹患馬におけるインパルス・オシロメトリー検査によって確認された、下部気道閉塞(Lower airway obstruction)の所見とも合致していました(Young et al. J Appl Physiol. 1997;82:983)。一方、今回の研究では、炎症性気道疾患が吸気&呼気インピーダンス指標(Inspiratory and expiratory impedance parameters)の両方に影響することが示されましたが、これは単に肺換気の領域的不均一性(Regional heterogeneity in pulmonary ventilation)に起因していた可能性もあるため、このような変化の有意性(Significance)については、更なる検証を要すると考察されています。

この研究では、気管支肺胞洗浄液の好酸球数および肥満細胞数(Eosinophil and mast cell counts)と、インパルス・オシロメトリー法による検査値とのあいだに、有意な相関が認められました。一方で、気管支肺胞洗浄液の好中球数(Neutrophil count)は、呼吸器機能測定値とは相関していませんでした。このため、肺機能に影響を及ぼす下部気道閉塞と、気管浸出液(Tracheal mucus)や咳嗽(Cough)などの炎症性症状の発現は、それぞれ異なった細胞学的機序で誘導されている可能性があると考察されています(好中球は炎症のみを誘導し、好酸球&肥満細胞は気道閉塞のみを誘導する?)。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:炎症性気道疾患

関連記事

サク癖する馬は疝痛になり易い?

20221106_Blog_Topic191_CribRetroEvalRFColic_Pict1.jpg

サク癖は、馬用語で「グイッポ」とも呼ばれ、固定された物体を前歯で咥えて、それを支点にして頭頚部を屈曲させながら空気を飲み込むような動作を指します。

ここでは、サク癖をする馬としない馬で、疝痛の発生状況の違いを比較した知見を紹介します。この研究では、米国のUCデービスの獣医大学病院にて、2006~2008年に診察を受けた227頭の疝痛馬および347頭の対照馬において、馬主への聞き取り調査および疝痛病態に関する医療記録の回顧的調査、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Malamed R, Berger J, Bain MJ, Kass P, Spier SJ. Retrospective evaluation of crib-biting and windsucking behaviours and owner-perceived behavioural traits as risk factors for colic in horses. Equine Vet J. 2010 Nov;42(8):686-92.

結果としては、サク癖をする馬の割合は、疝痛馬群では11%(25/227頭)であり、対照馬群での6.3%(22/347頭)よりも有意に高くなっており、サク癖をする馬では疝痛馬群に含まれる確率が二倍近く増加する(OR=1.85)ことが分かりました。一方で、熊癖をする馬の割合は、疝痛馬群(4.8%)と対照馬群(3.5%)で有意差が無く、旋回癖のある馬の割合も、疝痛馬群(9.7%)と対照馬群(7.9%)で有意差が無いことが分かりました。そして、蹴癖、前掻き、木かじり、床舐めなどの悪癖をする馬に関しても、疝痛との有意な関連性は認められませんでした。

20221106_Blog_Topic191_CribRetroEvalRFColic_Pict2.jpg

この研究では、疝痛の疾患別にサク癖をする馬の割合が調査され、それには、盲腸鼓脹(いわゆる風気疝)、結腸食滞(いわゆる便秘疝)、結腸捻転、結腸変位、砂疝、腸結石、網嚢孔捕捉などが含まれましたが、サク癖する馬としない馬とで、どの疾患の発症率にも有意差は無いことが分かりました。また、疝痛の重篤度についても調査され、補液などの内科的治療のみで完治した症例(軽症疝痛)と、開腹術による外科的治療を要した症例(重度疝痛)とに分類されましたが、サク癖する馬としない馬とで、軽症または重症の疝痛になる比率に有意差は無いことが示されました。

この研究では、疝痛馬と対照馬を比較して、疝痛発症の危険因子を解析したところ、20歳以上の高齢馬では、疝痛になるリスクが二倍以上も高くなる(20~24歳ではOR=2.85、25歳以上ではOR=2.43)ことが示されました。一方、馬の品種や性別、神経質な性格であるか否かは、疝痛の発症とは相関していませんでした。そして、飼養管理に関する要因としては、直近一週間で飼養環境に変化があった馬では、疝痛になるリスクが四倍近く高くなる(OR=3.93)という結果が示されました。

20221106_Blog_Topic191_CribRetroEvalRFColic_Pict3.jpg

以上の結果から、サク癖をする馬においては、疝痛の有病率が高い傾向が認められたものの、疝痛馬群に占める割合は11%に過ぎず、発症する疾患の種類や重篤度との関連性も認められないことから、サク癖すること自体が疝痛のリスクを上げるという、因果関係の証明/推測は出来ないと結論付けられています。そして、サク癖を誘発するようなストレスの多い飼養環境(放牧が少ない、飼い付け回数が少ない、粗飼料の不足など)に置かれることが疝痛の原因となっている(サク癖は原因ではなく結果)、という可能性が指摘されており、また、疝痛の危険因子としては、加齢や飼養環境の急激な変化のほうが、影響力が大きいというデータが示されています。

この研究では、疝痛の原因疾患について分類して調査され、通説的に言われている、サク癖する馬には風気疝(盲腸鼓脹)が多いというデータは確認されませんでした。過去の文献[1]では、サク癖の動作中の透視装置撮影によって、実際には空気を嚥下していないことが示されており、サク癖と消化器のガス性膨満には関連性が無いと考えられています。また、他の文献[2]では、サク癖と網嚢孔捕捉の発症が関連するという知見もありますが、今回の研究では、その傾向は認められませんでした。さらに、他の文献[3]では、サク癖と側頭舌骨変形性関節症の発症が関連しているという知見もありますが、今回の研究では、消化器以外の疾患との関連性は調査されていませんでした。

20221106_Blog_Topic191_CribRetroEvalRFColic_Pict4.jpg

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

参考文献:
[1] McGreevy PD, Richardson JD, Nicol CJ, Lane JG. Radiographic and endoscopic study of horses performing an oral based stereotypy. Equine Vet J. 1995 Mar;27(2):92-5.
[2] Archer DC, Freeman DE, Doyle AJ, Proudman CJ, Edwards GB. ssociation between cribbing and entrapment of the small intestine in the epiploic foramen in horses: 68 cases (1991-2002). J Am Vet Med Assoc. 2004 Feb 15;224(4):562-4.
[3] Saito Y, Amaya T. ymptoms and management of temporohyoid osteoarthropathy and its association with crib-biting behavior in 11 Japanese Thoroughbreds. J Equine Sci. 2019;30(4):81-85.

関連記事
このエントリーのタグ: 行動学 飼養管理 疝痛 呼吸器病

馬はサク癖を見て真似をする?

20221105_Blog_Topic190_CribBrdPrdsOwPcptn_Pict1.jpg

サク癖は、馬用語で「グイッポ」とも呼ばれ、固定された物体を前歯で咥えて、それを支点にして頭頚部を屈曲させながら空気を飲み込むような動作を指します。

ここでは、馬がサク癖を始める要因について調査した知見を紹介します。この研究では、米国のコーネル大学の調査で、401名の馬主に対して聞き取り調査が行なわれ、計3,574頭の飼養馬におけるサク癖の発生状況の調査、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Albright JD, Mohammed HO, Heleski CR, Wickens CL, Houpt KA. Crib-biting in US horses: breed predispositions and owner perceptions of aetiology. Equine Vet J. 2009 May;41(5):455-8.

結果としては、調査対象の3,574頭のうち、サク癖の発生率は4.4%(162/3,574頭)であり、このうち、サラブレッド種での発生率が13.3%(16/120頭)と最も高く、次いで、ウォームブラッド種が5.5%となっていました。その結果、クォーターホース種(発生率4.8%)およびアラブ種(発生率3.0%)と比較して、サラブレッドのほうが二倍~五倍もサク癖をしやすい(順にOR=2.19およびOR=5.0)という傾向が認められました。

この研究では、馬がサク癖を始める要因として、飼養環境の影響と回答した馬主は54.5%で、他の馬がサク癖しているのを見て真似をすると回答した馬主も48.8%に達していました。しかし、サク癖行動を取っていた馬のうち、実際に、他の馬がサク癖をする目にしていたのは僅か1%に留まっていました。なお、馬の品種や血統などの遺伝性素因が、サク癖の発生に影響すると回答した馬主は3.4%に過ぎませんでした。

20221105_Blog_Topic190_CribBrdPrdsOwPcptn_Pict2.jpg

この研究では、各馬の飼養環境の違いによるサク癖の発生率を比較したところ、単独で飼養されている馬では12.3%に上ったのに対して、他の馬と一緒に放牧されている馬では5.9%、他の馬を観察できる馬では5.9%、他の馬を観察および接触できる馬では5.6%となっていました。このため、他の馬の行動を観察できる飼養環境でも、サク癖の発生率は上がらないだけでなく、他馬との視覚的/直接的な接点がない馬ほど、サク癖しやすい傾向が認められました。

以上の結果から、馬がサク癖を始めるときには、他の馬のサク癖行動を見て真似をするという要因は非常に小さいと推測され、馬主の見解とは隔たりがあることが分かりました。過去の文献でも、サク癖は他の馬の真似をすることで覚える、と回答した馬主が72%に上ったという報告があります[1]。一方、他の文献では、馬が新しい調教内容を学習するときには、既に体得している他馬の行動を目にすることで、より学び易くなるという知見もあることから[2]、ストレスの多い環境に置かれた馬が、他馬のサク癖行動を目にすることで、同じ行動を開始する一要素となる可能性は否定できないと考察されています。

また、この研究では、サラブレッド種のほうが他品種に比べて、サク癖をする割合が有意に高いというデータが示されており、この要因としては、ストレスを受けやすい気性の馬が多いという理由の他にも、レース前に長距離輸送や飼料制限があるなどの、使役環境に起因するストレスが関与していた可能性も指摘されています。一方で、今回の調査対象となった馬のうち、サラブレッド種の割合は3.4%(120/3,574頭)とかなり低いことから、サク癖する馬が数頭増えるだけで発生率の数値が上がり易いなど、データ解析の不安定性があったという懸念も示されています。

20221105_Blog_Topic190_CribBrdPrdsOwPcptn_Pict3.jpg

なお、この研究では、単独で飼養されている馬では(一頭飼育の個人馬主)、サク癖の発生率が12%以上と、比較的に高い値を示していました。この要因としては、他の馬との接触が無いことが、孤独感や退屈さを助長して、サク癖の発生要因となった可能性がありますが、単独で飼養されている馬は僅か21頭(全体の0.06%)であったことから、これを結論付けるには、よりサンプル数の多い追加研究を要すると考察されています。

いずれにしても、約20頭に一頭の馬はサク癖をする(サラブレッドに限れば七頭に一頭)という調査結果を見ると、馬のウェルフェア向上のためには、サク癖の発生メカニズムを行動学的に解明する努力を続けて、効果的な予防対策を確立していくことが大切だと述べられています。また、馬主の見解と実状との乖離についても、適宜の情報発信が有益だと考えられます。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

参考文献:
[1] McGreevy PD, French NP, Nicol CJ. The prevalence of abnormal behaviours in dressage, eventing and endurance horses in relation to stabling. Vet Rec. 1995 Jul 8;137(2):36-7.
[2] Krueger K, Heinze J. Horse sense: social status of horses (Equus caballus) affects their likelihood of copying other horses' behavior. Anim Cogn. 2008 Jul;11(3):431-9.

関連記事
このエントリーのタグ: 行動学 飼養管理
≪前のページ≪   1ページ/64ページ   ≫次のページ≫

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: 40代
住所: 茨城県
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

取り上げて欲しいトピックがあれば下記まで
E-mail: rowdyponies@gmail.com

最新記事

ブログメニュー

サイト内タグ一覧

推薦図書

FC2カウンター

関連サイト

リンク

カレンダー

01 | 2023/02 | 03
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 - - - -

馬獣医療機器

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

ホースケア用品

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
54位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
6位
アクセスランキングを見る>>

FC2ブログランキング

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

関連サイト

QRコード

QR