カテゴリ:診療のエントリー一覧
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馬の食道粘膜反転術
診療 - 2023/02/21一般的に、食道(Esophagus)という組織に対する手術では、重篤な雑菌混入(Severe bacterial contamination)が起きやすく、複数の筋層の機能回復を要するという特徴から、外科的手技の難易度が高いことが知られています。以下は、食道粘膜反転術(Esophageal mucosal inversion)についての概要解説です。馬における食道粘膜反転術は、圧出性食道憩室(Pulsion esophageal diverticula)の外科的整復のために実施されます。頚部...
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馬の食道切除術
診療 - 2023/02/20一般的に、食道(Esophagus)という組織に対する手術では、重篤な雑菌混入(Severe bacterial contamination)が起きやすく、複数の筋層の機能回復を要するという特徴から、外科的手技の難易度が高いことが知られています。以下は、食道切除および吻合術(Esophageal resection and anastomosis)についての概要解説です。馬における食道の部分切除術(Partial resection)および吻合術は、難治性の食道狭窄(Refractory esophagea...
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馬の食道筋切開術
診療 - 2023/02/19一般的に、食道(Esophagus)という組織に対する手術では、重篤な雑菌混入(Severe bacterial contamination)が起きやすく、複数の筋層の機能回復を要するという特徴から、外科的手技の難易度が高いことが知られています。以下は、食道筋切開術(Esophagomyotomy)についての概要解説です。馬における食道筋切開術は、食道狭窄(Esophageal stricture)における内腔拡張のために実施されます。しかし、食道閉塞に続発する狭窄症は...
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馬の食道切開術
診療 - 2023/02/18一般的に、食道(Esophagus)という組織に対する手術では、重篤な雑菌混入(Severe bacterial contamination)が起きやすく、複数の筋層の機能回復を要するという特徴から、外科的手技の難易度が高いことが知られています。以下は、食道切開術(Esophagotomy)についての概要解説です。馬における食道切開術は、難治性の食道閉塞(Refractory esophageal obstruction)の遊離、嚥下した異物の除去(Foreign body removal)、管腔内...
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馬の補液10:補液計算の例題3
診療 - 2022/11/27馬の補液療法(Fluid therapy)の例題3。患馬は、急性発現性(Acute onset)の軽度疝痛症状(Mild colic)、発熱(Fever)、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)などの症状を示し、経鼻カテーテルによってオレンジ色~茶色で腐敗臭(Fetid odor)を示す多量の胃逆流液(Gastric reflux)の排出が認められ、胃除圧(Gastric decompression)によって疼痛症状の顕著な改善と、その後の沈鬱症状(Depression)が見られました。...
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馬の補液9:補液計算の例題2
診療 - 2022/11/27馬の補液療法(Fluid therapy)の例題2。患馬は、48時間にわたる漸進発現性(Gradual onset)の中程度下痢症(Moderate diarrhea)、発熱(Fever)、抑欝(Depression)、食欲不振(Anorexia)などの症状を呈し、風土性(川沿いでの飼養)とサルモネラ症(Salmonellosis)の陰性反応から、ポトマック熱(Potomac horse fever)であるという推定診断が下されました。入院時の脱水重篤度は、臨床症状と血液検査結果から10%と推測さ...
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馬の補液8:補液計算の例題1
診療 - 2022/11/27馬の補液療法(Fluid therapy)の例題1。患馬は、16時間にわたる漸進発現性(Gradual onset)の中程度疝痛(Moderate colic)を呈し、直腸検査(Rectal examination)において摂食物を充填して硬化した骨盤曲(Firm ingesta-filled pelvic flexure)が触知され、大結腸便秘(Large colon impaction)の推定診断が下されました。入院時の脱水重篤度は、臨床症状と血液検査結果から5%と推測されました。(1)体液量、細胞外液量(E...
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馬の補液7:栄養輸液
診療 - 2022/11/26馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。疝痛馬の治療に際しては、胃液逆流(Gastric reflux)、小腸閉塞(Small intestinal ileus)、食道通過障害(Esophageal obstruction)などの罹患馬において、摂食停止が三日間以上に及ぶ場合には、補液療法を介しての栄養補助(Nutritional support)が必要になります。成馬における安静時必要栄養量は、正常時体重×21+975(kcal)で計算されますが、補液中へのブドウ糖...
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馬の補液6:酸塩基平衡
診療 - 2022/11/26馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。代謝性アシドーシス(Metabolic acidosis)は、疝痛の罹患馬に最も多く見られる酸塩基不均衡(Acid-base imbalance)で、血液pHおよび重炭酸イオン(Bicarbonate ion: HCO3)の下降を特徴とし、ナトリウム損失を伴う血液量減少症(Hypovolemia)、下痢症(Diarrhea)による消化管からの重炭酸損失、食道閉塞(Esophageal obstruction)の初期病態における過剰な流涎中への...
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馬の補液5:カルシウム補正
診療 - 2022/11/26馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。低カルシウム血症(Hypocalcemia)は、多くの疝痛症例において見られ、乳酸アシドーシス(Lactic acidosis)、内毒素誘発性のカルシウム恒常性変動(Endotoxin-induced changes in calcium homeostasis)、小腸からのカルシウム吸収不全(Small intestinal calcium malabsorption)などに起因すると考えられています。しかし、血中のカルシウムの大部分はアルブミンと結合...
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馬の補液4:電解質の補正
診療 - 2022/11/25馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。ナトリウムは細胞外液(Extracellular fluid: ECF)の主成分で、カリウムは細胞内液(Intracelullar fluid: ICF)の主成分であるため、血清カリウム濃度は全身のカリウム損失量の目安としての信頼性は低いことが知られています。しかし、ナトリウムとカリウムは常に細胞膜チャンネルを介しての交換が行われているため、血清ナトリウム濃度はECFのナトリウム量のみならず、...
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馬の補液3:電解質不均衡
診療 - 2022/11/25馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。低ナトリウム血症(Hyponatremia)は、急性大腸炎(Acute colitis)や下痢症(Diarrhea)を起こすサルモネラ症(Salmonellosis)、ポトマック熱(Potomac horse fever)、クロストリディウム症(Clostridiosis)などにおいて好発し、腹腔や腸管内腔へのナトリウム漏出を起こす腹膜炎(Peritonitis)や大結腸捻転(Large colon torsion)、および過剰な流涎中へのナトリウ...
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馬の補液2:補液剤の量と種類
診療 - 2022/11/24馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。馬の補液療法の実施に際して、合計補液量の計算は、損失水分量(Water deficit)、維持水分量(Maintenance)、持続損失量(Ongoing losses)、追加水分量(Additional fluid requirement)の合計によって算出され、脱水症の治療に際しては12時間にわたる補液後、血液検査で経過をモニタリングして次の12時間の補液量を再計算する指針が一般的です。つまり、損失水分量+...
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馬の補液1:脱水症の診断
診療 - 2022/11/24馬の疝痛治療における補液療法(Fluid therapy)について。体重500kgの馬体の総水分量は約300L(体重の60%)で、このうち細胞内液(Intracellular fluid: ICF)が約200L、細胞外液(Extracellular fluid: ECF)が約100Lを占めます。細胞外液の内訳は、血液およびリンパ液中の血漿(Plasma)が25~30L、間質液(Interstitial fluid)が40~45Lとなり、残りの約30Lを経細胞液(Transcellular fluid)が占め、これには消化管内腔液(G...
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馬のストリートネイル手術
診療 - 2022/11/13馬のストリートネイル手術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬のストリートネイル手術(Street nail procedure)は、釘傷などによる感染性舟嚢炎の治療法になります。舟嚢のような滑膜組織では、その内腔に血管が無く、滑液を通して酸素や栄養を届けています。このため、もし釘傷によって雑菌が入ってしまうと、それを貪食する白血球も少数しか動員されないた...
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馬の半腱様筋腱切断術
診療 - 2022/11/13馬の半腱様筋腱の切断術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬の後肢に発症する機械性跛行として半腱様筋の線維化筋症(Fibrotic myopathy)があり、歩幅の頭側相で後肢が急激に尾側引張されることで、特徴的な雁様踏着という歩様を示します。この疾患の治療法としては、線維化組織の切除や筋切除術も可能ですが、より侵襲性の少ない術式として、線維化している...
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馬の外側指伸筋腱切除術
診療 - 2022/11/12馬の外側指伸筋腱の切除術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬の後肢に発症する機械性跛行として鶏跛(Stringhalt)があり、飛節と膝関節の不随意性過剰屈曲を示す疾患で、球節を高く挙上しながら歩く歩様が見られます(通常は、常歩においてのみ)。そして、鶏跛に対する外科的治療では、外側指伸筋腱の切除術が試みられることがありますが、鶏跛歩様の改善度...
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馬の切腱術の予後
診療 - 2022/11/08馬の慢性蹄葉炎に対する外科的治療としては、深屈腱の切断術(切腱術)が挙げられますが、ここでは、切腱術のあとの予後に関する知見を紹介します。参考文献:Bras RJ. Life After Deep Digital Flexor Tenotomies: How to manage hoof lameness II. Proc AAEP, 2020(66), 398-403.一般的に、馬の慢性蹄葉炎において、蹄骨の変位が進行してしまい、適切な装蹄療法を施しているにも関わらず、十分な蹄壁伸長が認められない症例に対...
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馬の切腱術の術式
診療 - 2022/11/07馬の深屈腱の切断術(切腱術)についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬の切腱術は、管部中央部または繋部での施術が可能で、どちらの手法でも、深屈腱から蹄骨に掛かる緊張力を緩和する効果が期待されます。しかし、通常は、管部中央部での切腱術が選択される場合が多く、その要因としては、手技が簡易であること、立位での施術が可能であること、腱鞘組織への侵襲...
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馬の切腱術のタイミング
診療 - 2022/11/07蹄葉炎の馬において、いつ切腱術を実施するかは迷い処なのかもしれません。ここでは、馬の切腱術を実施するタイミングについての知見を紹介します。参考資料:Christa Leste-Lasserre, MA. Well-Timed Tenotomy Can Save Laminitic Horses’ Lives. The Horse, Topics, AAEP Convention 2020, Article, Hoof Care, Hoof Problems, Horse Care, Lameness, Laminitis (Founder), Lower Limb, Vet and Professional: Jan13, 2021.馬の...
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馬の瞼板縫合術
診療 - 2022/11/06瞼板縫合術(Tarsorrhaphy)について瞼板縫合術は、上下の瞼板を縫合閉鎖して眼瞼の開閉性を止める手法で、顔面麻痺(Facial paralysis)や眼瞼腫脹(Eyelid swelling)によって眼瞼の閉鎖が出来ない症例や、様々な角膜手術(Corneal surgery)の術後に角膜表層の術野を保護する目的で実施されます。角膜手術の術後症例に対しては、一般的に一時性瞼板縫合術(Temporary tarsorrhaphy)が応用されます(上図)。この術式では、眼瞼...
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馬の結膜フラップについて
診療 - 2022/11/06結膜フラップ(Conjunctival flap)について。結膜フラップは、潰瘍(Ulceration)などの創傷性に生じた角膜欠損部位(Traumatic corneal defect)を覆い、血液および栄養供給(Blood/Nutritional supply)を施し、細菌や真菌などの病原菌への免疫抵抗を付加することで、角膜組織の治癒を促す目的で実施されます。結膜フラップは、角膜実質(Corneal stroma)に及ぶ深部潰瘍(Deep ulcer)、および深部潰瘍に続発するデスメ膜瘤(D...
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馬の眼瞼裂傷の縫合法
診療 - 2022/11/05眼瞼裂傷(Eyelid laceration)の縫合法について。眼瞼は血液供給が豊富で、治癒の活発な組織であるため、ほぼ全ての眼瞼裂傷の病態において外科的整復を試みるべきであることが提唱されています。また、眼瞼端(Eyelid edge)の再生は起こりにくいため、垂れ下がっている眼瞼組織片(Hanging lacerated eyelid fragment)も切除せず縫合癒合させ、壊死組織の病変清掃(Necrotic tissue debridement)も最小限にとどめるべきである...
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馬の眼瞼下洗浄システムの設置方法
診療 - 2022/11/05眼瞼下洗浄システム(Subpalpebral lavage system)について。眼瞼下洗浄システムは、最も確実かつ簡易に眼&眼瞼へと治療薬を作用させる手法で、患馬へのストレスを最小限に抑えながら、4~8時間おきの頻繁な投薬を可能とします。また、退院後または往診後に、馬主&管理者自身による治療継続を選択肢にできることから、大幅な治療費の削減を期待することが出来ます。最も一般に応用される上眼瞼への眼瞼下洗浄システムの設置に際...
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馬の眼瞼の局所麻酔法
診療 - 2022/11/04眼瞼の無痛化(Eyelid analgesia)について眼科検査および眼周囲の外科手術においては、一般的に眼瞼の無痛化(Analgesia)と無動化(Akinesia)の両方が必要とされ、このうち眼瞼の無痛化は、感覚神経の局所麻酔(Regional block of sensory nerve)によって達成されます。眼瞼の感覚は、三叉神経(Trigeminal nerve)の眼分枝(Ophthalmic branch)および上顎分枝(Maxillary branch)によって支配され、三叉神経の眼分枝からは...
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馬の眼科検査8:鼻涙管造影
診療 - 2022/10/30鼻涙嚢造影術(Dacryocystorhinography)について。鼻涙嚢造影術は、鼻涙管(Nasolacrimal duct)の内部に造影剤を通過させてレントゲン検査を行う診断法で(上記写真)、鼻涙管通過障害(Nasolacrimal duct obstruction)、無孔鼻側涙点(Imperforate nasal punctum)、鼻涙管偏位(Nasolacrimal duct deviation)の診断のために実施されます。鼻涙管内へは通常3~5mLの造影剤が注入され、側方向(Lateral)、背腹方向(Ventrolat...
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馬の眼科検査7:超音波検査
診療 - 2022/10/30眼組織の超音波検査(Ocular ultrasonography)について。超音波検査は、安全、迅速、かつ比較的安価に、眼内または眼球後部組織(Intraocular/Retrobulbar structures)の検査を実施できることから、多くの眼疾患の診断法として応用されています。眼組織の超音波検査においては、深い検査深度は必要ではないものの、高い解像度(High resolution)を要することが多いため、眼内組織の検査には10-MHzのプローブが使われ、眼球後部...
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馬の眼科検査6:眼底鏡検査
診療 - 2022/10/29眼底鏡検査(Ophthalmoscopy)について。眼底鏡を介して、硝子体(Vitreous)、網膜(Retina)、視神経(Optic nerve)などの眼底(Fundus)にある組織の視診を行う診断法で、直接眼底鏡検査(Direct ophthalmoscopy)と間接眼底鏡検査(Indirect ophthalmoscopy)の二つの手法が用いられます。眼底鏡検査は、散瞳薬(Mydriasis)を点眼投与を要するため、威嚇反射試験(Menace response examination)や瞳孔反射試験(Pupillary r...
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馬の眼科検査5:眼圧検査
診療 - 2022/10/29眼圧検査(Tonometry)について。眼内圧の測定(Measurement of intraocular pressure)は、圧平眼圧測定法(Applanation tonometry)による角膜緊張(Corneal tension)の評価を介して行われることが一般的です(=間接眼圧検査:Indirect tonometry)。馬における眼圧検査の適応症としては、角膜浮腫(Corneal edema)、眼窩外傷(Orbital trauma)、水晶体脱臼(Lens luxation)などが挙げられ、また、緑内障(Glaucoma)の診断...
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馬の眼科検査4:顕微鏡検査
診療 - 2022/10/29生体顕微鏡検査(Biomicroscopy examination)について。生体顕微鏡検査は、透過照明(Transillumination)および反帰照明(Retroillumination)の二つの手法を介して、角膜(Cornea)、前眼房(Anterior chamber)、虹彩(Iris)、黒質体(Corpora nigra)、水晶体(Lens)、前側硝子体(Anterior vitreous)の異常を検査する方法で、散瞳薬の使用前と使用後における視診が行われ、また、角膜の厚さ(Corneal thickness)、角膜の...
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馬の眼科検査3:染色試験
診療 - 2022/10/28眼科色素検査(Ophthalmic dye examination)について。眼科色素の局所塗布は、角膜(Cornea)、結膜(Conjunctiva)、鼻涙管(Nasolacrimal duct)の疾患の診断法として重要で、角結膜の培養および細胞診(Corneoconjunctival culture and cytology)の検体採取を行った後に実施されます(眼科色素によって病原菌増殖が抑制される可能性があるため)。しかし、角膜検体の採取時に点眼麻酔(Topical anesthesia)が使用された場合...
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馬の眼科検査2:培養と細胞診
診療 - 2022/10/28角結膜培養&細胞診(Corneoconjunctival culture and cytology)について。角膜または結膜検体の培養および細胞診は、馬の眼科検査(Ophthalmic examination)における重要な診断法の一つで、適応症としては、全てのタイプの潰瘍性角膜炎(Ulcerative keratitis)、化膿性の眼性&鼻涙管浸出液(Purulent ocular/nasolacriminal discharge)、感染性の眼瞼炎&結膜炎(Infectious blepharitis/conjunctivitis)、角膜または結膜の...
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馬の眼科検査1:視診と流涙試験
診療 - 2022/10/28視診と脳神経検査(Cranial nerve evaluation)について。眼科検査(Ophthalmic examination)の実施に際しては、触診(Palpation)、鎮静(Sedation)、局所麻酔(Local anesthesia)などを行う前に、両眼の視診および脳神経検査が実施することが重要です。視診では、患馬の頭部の正面に立ち、眼窩骨(Bony orbits)、眼瞼(Eyelids)、眼球(Globes)、瞳孔(Pupils)の対称性(Symmetry)を検査すると共に、眼瞼や角膜(Cornea...
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去勢してもオスっ気が取れない馬
診療 - 2022/10/25一般的に、牡馬を去勢した後には、テストステロン濃度は六時間後には基底値まで低下しており、牡馬様の行動は、去勢の8週間後までには徐々に消失することが知られています。しかし、この期間を過ぎても、オスっ気が取れない馬に対しては、原因および対処を検討する必要が出てきます。まず原則として、精巣を切除したオス馬(騙馬)においても、春季や初夏の時期に牡馬用行動を示すことは、一定数の個体において認められることが知...
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馬の陰睾と単精巣症の見分け方
診療 - 2022/10/25牡馬における停留精巣の治療を行なうときには、単精巣症との鑑別を要する症例もあります。一般的に、停留精巣(いわゆる陰睾)とは、一ヶ月齢以降になっても、精巣が陰嚢内まで下降していない病態を指しています。この場合、精巣が鼠経管の内部や内鼠経輪の内側、もしくは、腹腔の深部に位置している事から、これを摘出するために、通常の去勢とは異なる処置が必要になります。一方で、もともと精巣が一個しか無いという牡馬もおり...
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馬の会陰尿道切開術
診療 - 2022/10/24馬の会陰尿道切開術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。オス馬における、尿道の坐骨湾曲部の会陰尿道切開術は、膀胱結石の摘出、血尿症の治療、および、尿道結石や陰茎腫瘍による尿路閉塞の整復のために実施されます。通常は、起立位で施術され、鎮静と硬膜外麻酔(会陰皮膚の浸潤麻酔を要することも)のあと、術部の剃毛と消毒を実施します。そして、会陰縫線上...
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馬の鼠径停留精巣の切除術
診療 - 2022/10/24馬の鼠径停留精巣の切除術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。停留精巣(いわゆる陰睾)は、生後一ヶ月を過ぎても、精巣が陰嚢内まで下降していない発生学的な病態を指し(上図のCryptorchid testicle)、発生率は左側精巣のほうが高いことが知られています。停留した精巣には、精子の生成能は無いものの、テストステロン分泌は見られるため、発情行動や気性の荒...
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馬の球節固定術
診療 - 2022/10/17馬の球節(中手指骨間関節または中足指骨間関節)の固定術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬に対する球節固定術は、懸垂装置の破損によって球節の掌側支持機能が失われた場合や、球節の重篤な関節疾患などによって疼痛管理が困難な場合に適応されます。このうち、前者では懸垂装置の機能を回復させる外科的措置(テンションバンドワイヤーの設置)が必要にな...
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馬の冠関節固定術
診療 - 2022/10/17馬の中節骨の粉砕骨折に対する冠関節固定術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬の中節骨の骨折では、粉砕骨折の病態が最も多いことが知られており、冠関節への捻転負荷、浅屈腱による過張力、冠関節の過伸展によって発症すると言われています。中節骨は上下に短く、腱や靭帯による緊張が掛かる骨であるため、骨折によって圧潰され、冠関節の脱臼を起こし易いこ...
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馬の基節骨骨折の螺子固定術
診療 - 2022/10/16馬の基節骨の縦骨折に対する螺子固定術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬の基節骨の骨折は、到着時の衝撃や荷重中の捻転負荷によって発症して、縦骨折、背側骨折、遠位関節骨折、掌側隆起骨折、骨端骨折、斜位骨幹骨折、背側裂離骨折などに分類されます。このうち、矢状部の完全縦骨折は、最も頻繁に発症する骨折タイプの一つで、単一関節性骨折、変位性骨折...
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馬の鼻中隔の切除術
診療 - 2022/10/07馬の鼻中隔の亜全切除術についてのまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。馬の鼻中隔の疾患は稀ですが、シスト変性、過誤腫、膿瘍、外傷性肥厚、骨折性壊死、長軸性変形、腫瘍、真菌性鼻炎などによって、鼻中隔の肥厚や変形を生じて、通気障害や気道閉塞、呼吸雑音、鼻汁排出、顔面変形等の症状を呈することがあります。そのような症例では、鼻中隔を切除することで症状改善が見...
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馬の副鼻腔への骨フラップ
診療 - 2022/10/07馬の副鼻腔への骨フラップについてのまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。骨フラップは、馬の副鼻腔に外科的にアプローチするときに実施され、コの字形の骨切術によって開窓することから、円鋸術と比較して、より広い術野を確保し、広範な副鼻腔エリアにアクセスできるという利点があります。馬の副鼻腔への骨フラップでは、主に、上顎洞(下写真左)または前頭洞(下写真右)...
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馬の副鼻腔への円鋸術
診療 - 2022/10/06馬の副鼻腔への円鋸術についてのまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。円鋸術は、馬の副鼻腔にアクセスするための最も古典的な術式で、副鼻腔炎の排膿や病巣掻把、腫瘍・シスト、篩骨血腫等の摘出、上顎臼歯の抜歯処置などの目的で実施されます。円鋸術では、直径6.4mmから25.0mmまで、様々なサイズの穴が開けられますが、広範囲の副鼻腔にアプローチするためには、前頭骨にや...
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馬の鼻翼ヒダの切除術
診療 - 2022/10/06馬の鼻翼ヒダの切除術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。鼻翼ヒダ(Aler folds)は、鼻腔の背吻側部に位置しており、真の鼻孔と、その内側にある憩室(いわゆる偽の鼻孔)を隔てています。また、腹鼻甲介軟骨の延長である鼻翼軟骨は、鼻翼ヒダの尾側部に付着し、横鼻筋に挙上されることで、偽の鼻孔を拡げる役目を担っています。しかし、この鼻翼ヒダが長過ぎた...
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馬の麻酔覚醒の手法
診療 - 2022/09/14馬の麻酔覚醒の手法について総括です。あくまで概要解説ですので、詳細は成書や論文をご確認ください。馬は、獣医師が取り扱う家畜のなかでも、麻酔を掛けるのが最も難しい動物であることが知られており、その大きな要因の一つが、麻酔覚醒の難しさにあります。過去の知見を見ると、馬の全身麻酔では、覚醒時の事故率が1~2%に上ると言われており、犬のそれより数十倍も高いことが知られております。このため、麻酔下から安全に馬...
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馬の結腸の吻合術
診療 - 2022/08/28馬の結腸の切除および吻合術のまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技は成書や論文をご確認ください。馬の結腸の切除・吻合術は、結腸捻転で虚血性壊死した腸管の除去のために実施されることが一般的です。捻転を整復した後は、結腸テーブル上で骨盤曲切開術を行ない、腸内容物を排出しますが、結腸内に水を残し過ぎないよう注意します。結腸の切除は盲腸結腸ヒダの位置(もしくはそれより骨盤曲側)で行なうので、腸管...
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馬の結腸の切開術
診療 - 2022/08/28馬の結腸の切開術のまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技は成書や論文をご確認ください。馬の結腸切開術は、大結腸の内容物を排出するために実施される処置です。適応症としては、結腸食滞が大量かつ硬化している場合に、それを遊離および排出させるために行なわれるほか、結腸捻転で虚血性壊死した箇所の結腸を切除・吻合するときに、結腸内容を空っぽにしておくために実施されます。また、結腸内の結石や砂を摘出し...
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馬の空回腸と盲結腸の吻合術
診療 - 2022/08/28馬における空回腸と盲結腸の吻合術のまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技は成書や論文をご確認ください。馬の空回腸を盲腸または結腸に吻合する治療法は、空腸、回腸、盲腸の何れか(または複数)が、絞扼による壊死、または機能不全を呈した場合に、正常な部位同士を吻合して、空腸または盲腸の異常部位を切除もしくは迂回する目的で実施されます。具体的な術式としては、①空腸盲腸吻合、②回腸盲腸吻合、③回腸結腸...
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馬の空腸の吻合術
診療 - 2022/08/27馬の空腸の切除および吻合術のまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技は成書や論文をご確認ください。一般的に、馬の小腸における外科的疾患は絞扼性となることが多く、虚血性壊死した部位を切除および吻合することになります。小腸の吻合では、大腸と比べて、術後に内腔狭窄したときの弊害が大きく、また、縫合部が癒着してしまうと、腸管が折れ曲がって通過障害となる危険性が高いという特徴があります。このため、内...
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馬の開腹術と腹腔探索
診療 - 2022/08/27馬の開腹術と腹腔探索のまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技は成書や論文をご確認ください。馬の開腹術は、全身麻酔下での背臥位で実施されることが一般的です。剃毛する範囲は、胸骨と肋骨端、および、左右鼠径部までの領域となります(上図左)。手術の開始時には、執刀医が馬の左側に、サブオペが馬の右側に立ちます(上図中)。ドレーピングでは、腹底全面をアイオバンで覆ったのち、通常の正中開腹術では、頭側...