馬の病気:胃破裂
馬の消化器病 - 2013年04月09日 (火)

胃破裂(Gastric rupture)について。
馬における胃破裂は、過剰な摂食物、胃液、気体などの蓄積による胃膨満(Gastric distension)の合併症として発症することが一般的ですが、小腸通過障害(Small intestinal obstruction)やイレウスから二次的に胃膨満を起こしたり、特定の原因が分からない特発性病態(Idiopathic condition)によって発症に至る場合もあります。また、慢性の胃潰瘍(Gastric ulceration)によって限局的な粘膜および粘膜下層の薄弱化(Mucosal/Submucosal thinning)を呈したり、長期経過を示した胃拡張(Gastric dilatation)によって胃の血流減少(Decreased blood flow)を生じ、胃壁の梗塞(Stomach wall infarction)を起こすことも病因であると考えられています。
胃破裂の症状としては、破裂時の急激な胃の減圧(Rapid gastric decompression)によって、初期に見られた疼痛症状が急に減退する所見(Sudden relief of initial abdominal pain)を特徴とし、腹膜炎(Peritonitis)と感染性ショック(Septic shock)によって、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、発汗(Sweating)、筋線維束性収縮(Muscle fasciculation)などの症状を示します。腹水検査(Abdominocentesis)では、腹膜炎を示す白血球数の増加と蛋白濃度の上昇が見られる場合もありますが、食物片の混入が認められる症例はあまり多くないことが知られています。また、胃カテーテルによる胃内容物の排出にも関わらず胃破裂を起こす症例もあるため、胃カテーテルによる除圧(Decompression)の病歴のみで、胃破裂を除外診断(Rule-out)するのは適当でないという警鐘が鳴らされています。
胃破裂の羅患馬では、広範囲にわたる腹腔の汚染および感染(Extensive contamination/infection of abdominal cavity)を呈するため、殆どの症例において治療は困難であることから、安楽死処置(Euthanasia)が選択されます。胃破裂の外科的整復(Surgical repair)の成功例は三症例だけ報告されており、このうち二頭は漿膜面に至らない非全層型の裂傷(Partial thickness tear)を起こした不完全破裂(Incomplete rupture)の病態で、もう一頭は粘膜層の裂傷にあわせて、極めて限局的な漿膜層の裂傷(Focal serosal tear)を起こした症例で(裂傷の大きさ=4x4mm)、腹腔内への胃内容物の漏出は殆ど生じていなかったと考えられました。
胃破裂の剖検では、胃の大弯部(Greater curvature)における破裂が最も多いことが報告されており、また、胃膨満に起因すると考えられる病態では、漿膜筋層における裂傷(Seromuscular layer tear)の方が粘膜層の裂傷よりも大きく、始めに胃壁の緊張から漿膜面の損傷を起こしたことが示唆されています。一方、胃潰瘍に起因すると考えられる病態では、全層にわたって均一の大きさの裂傷が認められることから、潰瘍を生じて薄弱化した粘膜面から裂傷が始まったことが示されています。
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