馬の病気:サラピン
馬の運動器病 - 2013年08月25日 (日)

サラピン(“Thorough-pin”)について。
足根外筒(Tarsal sheath)に特発性腱鞘炎(Idiopathic tenosynovitis)を生じる疾患で、軽度~慢性の深屈腱炎(Deep digital flexor tendinitis)に起因すると考えられていますが、直接的な原因は特定されない場合もあります。また、鎌状飛節(Sickle hock)、牛型飛節(Cow hock)などの異常肢勢(Abnormal limb conformation)が発症素因(Predisposing factors)となる可能性も指摘されています。
サラピンの症状としては、近位底側足根部(Proximal planter aspect of hock)における腱鞘の膨満(Tendon sheath effusion)を特徴とし、指圧を介しての滑液の動態によって、肢内側と肢外側に生じた二つの嚢胞が連絡しあっている事を確認します。サラピン自体は、非炎症性、無疼痛、無跛行の病態であるため、触診によって底側足根部に腫脹を起こす他の疾患(飛節軟腫、飛端腫)との鑑別診断(Differential diagnosis)をすることが重要です。また、超音波検査(Ultrasonography)を用いて、嚢胞の出処の確定、滑膜肥厚(Thickening of synovial membrane)の有無、深屈腱炎の重篤度(Severity)を診断します。吸引採取した滑液の性状検査では、蛋白濃度と白血球数が正常値である事を確認して、炎症性・感染性の他の疾患との区別を行います。
サラピン自体は無疼痛かつ無跛行の病態であるため、外観を改善する目的を除けば、特別な治療は必要とされません。溜まった滑液の吸引(Synovial fluid aspiration)のみでは、短期間で再充満が起きる事から、腱鞘の膨満を持続的に改善するため、腱鞘内へのコルチコステロイド投与と圧迫包帯を併用する手法が推奨されています。慢性症例では関節鏡手術(Arthroscopy)を介しての、腱鞘洗浄(Tendon sheath flush)と滑膜柔毛切除術(Synovectomy)によって、滑液の過剰分泌(Over-production of synovial fluid)を抑制する治療法も試みられています。また、腱鞘内へのアトロピン投与によって滑膜退縮(Shrinkage of synovium)を促し、腱鞘膨満を改善する療法も経験的に施されていますが、作用機序に関する科学的裏付けはまだありません。
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