子馬をロープで眠らせる方法
馬の飼養管理 - 2022年08月26日 (金)

子馬に対するロープ圧迫による傾寝法
参考文献:
Toth B, Aleman M, Brosnan RJ, Dickinson PJ, Conley AJ, Stanley SD, Nogradi N, Williams CD, Madigan JE. Evaluation of squeeze-induced somnolence in neonatal foals. Am J Vet Res. 2012 Dec;73(12):1881-9.
子馬の獣医的処置に際しては、その子馬の気性や性格が難しい場合には、保定に多くの人手を要したり、獣医師や子馬自身に怪我の危険が伴う事もあります。そのようなケースでは、子馬のお腹の周りにロープを巻き付けて圧迫することで(“の”の字型に二方向にロープを巻いて引っ張る手法)、傾眠(Somnolence)させるという古典的な手法があります(Madigan. Manual of equine neonatal medicine. 3rd eds, Chapter 64th. 1997:364. & Knottenbelt. Equine stud farm medicine and surgery. 3rd eds, Chapter 11th. 2003:361)。
この研究では、ロープ圧迫による傾寝法が行われた健常な子馬において、心拍数、呼吸数、および、直腸体温等の低下が認められました。そして、脳波記録検査では、ロープ圧迫による傾寝によって、徐波睡眠の所見を示し、血漿中のACTH、デヒドロエピアンドロステロン(神経ステロイド)、アンドロステンジオンなどの濃度が上昇していました。一方、侵害性刺激への許容性は、循環中のベータ・エンドルフィン濃度変化とは無関係でした。
このため、子馬に対するロープ圧迫での傾眠法は、胎仔の産道内圧迫に似た機序によって、随意活動の抑制を引き起こしている可能性が示唆されています。そして、このような傾眠法による保定の安全性については、今後の研究で詳細な検証を要すると提唱されています。お腹の周りを圧迫する手法は、立っている牛を自発的に腹臥させたり、吠える子犬を落ち着かせるためにも応用されており、同様な作用メカニズムが働いているか否かについては、更なる獣医行動学的な研究を要する分野なのかもしれません。
この研究では、ロープ圧迫での傾眠法によって、子馬の痛みの閾値は上昇していましたが、この状態は、中程度から重度の疼痛を伴うような外科的治療を実施するには不十分な鎮痛作用であると推測されています。過去の文献では、オピオイドを硬膜外注射することで、痛み閾値の大きな上昇(40V以上)が確認されましたが、この研究での同現象は軽度に留まりました(13V以下)。このため、子馬に対する手術や外科的処置を実施する際には、傾眠させた後に静注の全身麻酔薬を打つか、四肢を保定しながら局所麻酔を使う必要があると推測されます。
ロープ圧迫による傾寝法の手順
ロープの片方の端っこに「もやい結び(Bowline knot)」をつくり、その端をキ甲の位置に保持します。ロープのもう片方の端を、右肩の前から胸前へと下ろし、両前肢のあいだを通過させた後(下図1)、左の腋窩から背側へ上げていき、キ甲の位置の位置で、もやい結びの輪っかに通します(下図2)。このとき、子馬の気管を締め付けないように気をつけます。

次に、キ甲の上部で片側結び(Half-hitch)をつくってから(下図3)、ロープの端を胸郭の周囲に通し、肘のすぐ後方を通過するように、再びキ甲のほうへ上げていきます。そして、一つ目の片側結びの約15cm尾側の位置で、片側結びのループの中にロープ端を通して、尻尾側へとロープを引きます(下図4)。

子馬を傾眠させる準備が出来たら、子馬の後ろに立ち、ロープを一定の割合で徐々に強めに引っ張っていきます(下図5)。子馬が寝ころんだら、同じ強さの力で引っ張り続けることで、約20分間は傾眠させることが出来ます。子馬に蹴られないように、術者は、子馬の背中側からロープを引くようにします(下図6)。

参考資料:
Nancy S Loving. Madigan Foal Squeeze Refresher. Research on neuroinhibitory steroids shows that they work like sedatives in conjunction with other substances during pregnancy and parturition. EquiManagement: Dec3, 2019.
Mayhew IG. Neurological and neuropathological observations on the equine neonate. Equine Vet J Suppl. 1988 Sep;(5):28-33.
Adams R, Mayhew IG. Neurological examination of newborn foals. Equine Vet J. 1984 Jul;16(4):306-12.
effcott LB, Rossdale PD. A radiographic study of the fetus in late pregnancy and during foaling. J Reprod Fertil Suppl. 1979;(27):563-9.
参考動画:

YouTube: Madigan Foal Squeeze Technique (Animal Reproduction Systems)
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
・新生子馬の疝痛での予後
・新生子馬のステルス腸重責
・子馬の臍帯炎の予後判定指標
・子馬と成馬での小腸絞扼の違い
・新生子馬の集中治療での予後判定指標