馬の文献:息労(Rush et al. 1998c)
文献 - 2022年08月27日 (土)
「回帰性気道閉塞の罹患馬に対するベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的および非経口的投与後における副腎皮質機能の変化」
Rush BR, Worster AA, Flaminio MJ, Matson CJ, Hakala JE. Alteration in adrenocortical function in horses with recurrent airway obstruction after aerosol and parenteral administration of beclomethasone dipropionate and dexamethasone, respectively. Am J Vet Res. 1998; 59(8): 1044-1047.
この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に有用な治療法を検討するため、六頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、カビた乾草および藁(Moldy hay and straw)に七日間暴露することで呼吸器症状を誘発してから、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的および非経口的投与(Aerosol and parenteral administration of beclomethasone dipropionate and dexamethasone)を行い、三週間にわたる副腎皮質機能の変化(Alteration in adrenocortical function)の評価が行われました。
結果としては、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的投与の後、二日間にかけて、内在性コルチゾル生成の抑制(Suppression of endogenous cortisol production)が認められましたが、投与終了後の二~四日間のあいだには、対照郡と同程度の値まで回復していました。また、副腎皮質刺激ホルモン刺激検査(Adrenocorticotropic hormone [ACTH] stimulation test)が行われた際の血清コルチゾル濃度(Serum cortisol concentration)の上昇度合いは、治療郡と対照郡のあいだで有意差は認められませんでした。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対する、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的投与では、副腎皮質機能の低下が生じるものの、その変化は一時的で、投薬終了から数日以内には基底値まで回復しており、ACTH刺激試験の結果にも影響を与えなかった(探知可能な副腎皮質機能の異常は起きていなかった)ことが示唆されました。
一般的に、馬の回帰性気道閉塞に対する、全身性のコルチコステロイド投与では、副腎皮質抑制(Adrenocortical suppression)に伴って、筋肉消耗(Muscular wasting)、高血糖(Hyperglycemia)、多飲多尿(Polyuria and polydipsia)、蹄葉炎(Laminitis)、免疫抑止(Immunosuppression)などの合併症が生じる危険性があります(Cohen and Carter. JAVMA. 1992;200:1682, Eyre et al. AJVR. 1979;40:135, MacHarg et al. AJVR. 1985;46:2285)。そして、デキサメサゾンおよびプレドニゾロンの非経口的投与(Parenteral administration)では、24時間以内に血中コルチゾル濃度が低下し、投与中止から三~四日後に基底値まで回復することが報告されています(Slone et al. AJVR. 1983;44:280, Autefage et al. EVJ. 1986;18:193)。また、単一回のコルチコステロイドの全身性投与後には、ACTH刺激試験における副腎皮質機能の低下が確認され、その回復には14~21日間を要したことも示されています(Toutain et al. AJVR. 1984;45:1750, Chen et al. J Vet Pharmacol Ther. 1992;15:240, Lapointe et al. EVJ. 1993;54:1310)。
この研究では、コルチコステロイドが噴霧的投与された際には、全身性投与に比べて、コルチゾル生成抑制の重篤度が低く、その回復も迅速で、かつ、副腎皮質機能の低下は認められなかった事から(少なくともACTH刺激試験の結果に基づけば)、コルチコステロイドの噴霧的投与における安全性を裏付けるデータが示されたと結論付けられています。また、人間の医学領域における、喘息(Asthma)に対する抗炎症剤の吸引療法(Inhalation therapy)を見る限り、その安全性は極めて高いことから(Barnes and Pedersen. Am Rev Respir Dis. 1993;148:S1)、今回の研究で認められた、内在性コルチゾル生成の抑制自体が、予想外の成績であったと考察されています。そして、このような薬剤効果が見られた要因としては、肺上皮(Pulmonary epithelium)や鼻咽頭粘膜(Nasopharynx mucosa)から吸収された薬剤が全身性に作用したり(噴霧的投与されたコルチコステロイドのうち、23%が下部気道に達する)、人間に比べて馬のほうが、コルチコステロイドによる視床下部~下垂体~副腎皮質軸(Hypothalamic-pituitary-adrenocortical axis)への抑制作用が起き易かった可能性が指摘されています。
一方、人間の医学領域において、コルチコステロイドの噴霧的投与に起因する有害作用(Adverse effect)としては、口腔カンジダ症(Oral candidiasis)、発声障害(Dysphonia)、喉への刺激作用(Throat irritation)などが報告されています(人間においては、鼻からではなく口から吸引するため)(Wyatt et al. N Eng J Med. 1978;299:1387, Kass et al. Chest. 1977;71:703, Reed. Am Rev Respir Dis. 1990;14:82)13,19,22,23)。これらの症状は、馬においては判定が難しい場合が多いものの、今回の研究において数頭の馬に認められた、咳嗽(Coughing)や鼻汁排出(Nasal discharge)の症状は、回帰性気道閉塞に起因するものだけでなく、吸引療法による上部気道への刺激作用から生じたケースもありうる、という考察がなされています。
この研究では、対照郡の馬においては、試験開始から三週間にかけて、血清コルチゾル濃度が徐々に低下していく傾向が見られました。この理由については、この論文内では明瞭には結論付けられていませんが、試験環境への順化(Acclimatization)を反映している可能性がある、という考察がなされています。
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結果としては、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的投与の後、二日間にかけて、内在性コルチゾル生成の抑制(Suppression of endogenous cortisol production)が認められましたが、投与終了後の二~四日間のあいだには、対照郡と同程度の値まで回復していました。また、副腎皮質刺激ホルモン刺激検査(Adrenocorticotropic hormone [ACTH] stimulation test)が行われた際の血清コルチゾル濃度(Serum cortisol concentration)の上昇度合いは、治療郡と対照郡のあいだで有意差は認められませんでした。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対する、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的投与では、副腎皮質機能の低下が生じるものの、その変化は一時的で、投薬終了から数日以内には基底値まで回復しており、ACTH刺激試験の結果にも影響を与えなかった(探知可能な副腎皮質機能の異常は起きていなかった)ことが示唆されました。
一般的に、馬の回帰性気道閉塞に対する、全身性のコルチコステロイド投与では、副腎皮質抑制(Adrenocortical suppression)に伴って、筋肉消耗(Muscular wasting)、高血糖(Hyperglycemia)、多飲多尿(Polyuria and polydipsia)、蹄葉炎(Laminitis)、免疫抑止(Immunosuppression)などの合併症が生じる危険性があります(Cohen and Carter. JAVMA. 1992;200:1682, Eyre et al. AJVR. 1979;40:135, MacHarg et al. AJVR. 1985;46:2285)。そして、デキサメサゾンおよびプレドニゾロンの非経口的投与(Parenteral administration)では、24時間以内に血中コルチゾル濃度が低下し、投与中止から三~四日後に基底値まで回復することが報告されています(Slone et al. AJVR. 1983;44:280, Autefage et al. EVJ. 1986;18:193)。また、単一回のコルチコステロイドの全身性投与後には、ACTH刺激試験における副腎皮質機能の低下が確認され、その回復には14~21日間を要したことも示されています(Toutain et al. AJVR. 1984;45:1750, Chen et al. J Vet Pharmacol Ther. 1992;15:240, Lapointe et al. EVJ. 1993;54:1310)。
この研究では、コルチコステロイドが噴霧的投与された際には、全身性投与に比べて、コルチゾル生成抑制の重篤度が低く、その回復も迅速で、かつ、副腎皮質機能の低下は認められなかった事から(少なくともACTH刺激試験の結果に基づけば)、コルチコステロイドの噴霧的投与における安全性を裏付けるデータが示されたと結論付けられています。また、人間の医学領域における、喘息(Asthma)に対する抗炎症剤の吸引療法(Inhalation therapy)を見る限り、その安全性は極めて高いことから(Barnes and Pedersen. Am Rev Respir Dis. 1993;148:S1)、今回の研究で認められた、内在性コルチゾル生成の抑制自体が、予想外の成績であったと考察されています。そして、このような薬剤効果が見られた要因としては、肺上皮(Pulmonary epithelium)や鼻咽頭粘膜(Nasopharynx mucosa)から吸収された薬剤が全身性に作用したり(噴霧的投与されたコルチコステロイドのうち、23%が下部気道に達する)、人間に比べて馬のほうが、コルチコステロイドによる視床下部~下垂体~副腎皮質軸(Hypothalamic-pituitary-adrenocortical axis)への抑制作用が起き易かった可能性が指摘されています。
一方、人間の医学領域において、コルチコステロイドの噴霧的投与に起因する有害作用(Adverse effect)としては、口腔カンジダ症(Oral candidiasis)、発声障害(Dysphonia)、喉への刺激作用(Throat irritation)などが報告されています(人間においては、鼻からではなく口から吸引するため)(Wyatt et al. N Eng J Med. 1978;299:1387, Kass et al. Chest. 1977;71:703, Reed. Am Rev Respir Dis. 1990;14:82)13,19,22,23)。これらの症状は、馬においては判定が難しい場合が多いものの、今回の研究において数頭の馬に認められた、咳嗽(Coughing)や鼻汁排出(Nasal discharge)の症状は、回帰性気道閉塞に起因するものだけでなく、吸引療法による上部気道への刺激作用から生じたケースもありうる、という考察がなされています。
この研究では、対照郡の馬においては、試験開始から三週間にかけて、血清コルチゾル濃度が徐々に低下していく傾向が見られました。この理由については、この論文内では明瞭には結論付けられていませんが、試験環境への順化(Acclimatization)を反映している可能性がある、という考察がなされています。
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