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馬の空腸の吻合術

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馬の空腸の切除および吻合術のまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技は成書や論文をご確認ください。

一般的に、馬の小腸における外科的疾患は絞扼性となることが多く、虚血性壊死した部位を切除および吻合することになります。小腸の吻合では、大腸と比べて、術後に内腔狭窄したときの弊害が大きく、また、縫合部が癒着してしまうと、腸管が折れ曲がって通過障害となる危険性が高いという特徴があります。このため、内径維持と癒着防止を図りながら、内容物の漏出も防ぐ必要があり、大腸の吻合術よりも正確な施術が求められます。



空腸の端々吻合術

馬の空腸同士の吻合術では、まず、切除端から70~100cmを閉鎖して内容物の漏出を防ぎますが、この時には、ドワイヤン腸鉗子で掴むよりは、ペンローズドレインで結ぶほうが、組織侵襲が少なく癒着も起こりにくいと言われています。また、空腸の切除端は、50~60度の角度をつけて切り落とす(腸間膜付着側が鋭角となる)、または、S字状なるように切除することで、吻合箇所がラッパズボン状になり、吻合後に出来るだけ広い内腔を得るように努めます(下写真)。

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馬の空腸の端々吻合では、粘膜同士および漿膜同士を縫い合わせる縫合法(レイヤー・トゥ・レイヤー縫合:下図左)があり、内反させないため内容物漏出のリスクは高いものの、内腔の狭窄を最小限に抑えることが出来ます。このため、近位側の空腸を吻合する場合など、内腔狭窄を避けたいときに実施されることもあります。ただ、内反縫合でないからと言って、内径が常に維持される訳ではなく、腸管を周回させて糸をかけている以上、内圧上昇時に腸管膨満する度合いは、正常な空腸よりは落ちてしまいます。また、ヒトや犬猫で汎用されるギャンビー縫合は(下図右)、漿膜面に露出する糸が多くなり、癒着を生じやすいことから、馬で使用される割合は低いと言えます。

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空腸の内反縫合では、一層または二層に縫合する方法があり、後者の場合、一層目は全層縫合で、二層目はレンベルト縫合またはカッシング縫合で行なわれることが一般的です(下図左)。これらは何れも連続縫合ですが、全周を二回または三回に分けて縫うことで(通常は腸間膜側とその対側で留めて計二回の縫合)、“巾着の引きヒモ作用”(Purse-string effect)を抑えることが推奨されます。また、二層目をカッシング縫合にすると、漿膜面に露出する糸が最小限になるため、癒着を起こすリスクは低くなりますが、“巾着の引きヒモ作用”については、レンベルト縫合よりも大きくなります。一方、二層目をレンベルト縫合にすると、内反させる度合いはカッシング縫合よりも多いため、出来るかぎり一層目に近い箇所を縫うこと、針の刺入と刺出の距離を最小限すること(ただ筋層まではシッカリ刺入させる)、などの工夫が必要です。

なお、腸壁が肥厚化または虚弱化している時には、術後の緩みや漏出を防ぐ意味で、より強い内反を二層に施すことが求められます。その場合には、レンベルト縫合を二重に行なう、一層目をコンネル縫合にする、などの選択肢がありますが、腸壁の内反が大きくなり過ぎるため、あまり推奨されていません。一般的に、端々縫合した箇所の内径が、指3本(人差し指~薬指)の幅に及ばなければ、術後に内腔狭窄および通過障害を起こすと言われています(下図右)。

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一方、空腸の内反縫合を一層のみで行なう場合には、レンベルト縫合を単純縫合(8~10mm間隔)で実施する方法が推奨されています。この場合、漿膜面に露出する糸の結び目が多くなるという欠点がありますが、癒着の危険はギャンビー縫合よりは少ないと言われており、また、内反が少なく内腔狭窄を起こしにくい上、“巾着の引きヒモ”作用の心配が無い、という利点があります。また、連続縫合でないため、糸の緩みによる離開のリスクが分散されている(一箇所の糸の緩みで広い領域が離開してしまうことが無い)こともメリットと言えますし、縫合に掛かる時間も、連続縫合を二層おこなうのに比べて、それほど変わる訳ではありません。

なお、一層縫合による端々吻合術では、組織内反が少ない分、内容物の漏出の可能性は残るため、これを補填する意味で、吻合箇所をメタクリル系のシート[1]または接着剤[2]で覆ってしまう処置が併用されることもあります。これによって、漏出物をシートや接着剤の内部に留めて腹膜炎を予防できるだけでなく、吻合箇所が他の部位に癒着するのを抑える効果も期待されます。一方、人工物の代わりに、吻合箇所を腸間膜や大網で包んでしまう方策もありますが、不自然な組織の緊張を生んで腸管が折れ曲がったり、空腸に巻き付いて絞扼させてしまうリスクがあり、あまり推奨されていません。

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空腸の側々縫合術

一般的に、小腸の側々吻合では、端々吻合の内径よりも大きな連絡孔を開けることが出来る、という利点があります。一方で、輪状筋層を横断するように連絡孔を作成するため、腸壁が本来持っている蠕動運動による内容物の移送機能が下がってしまうことや、術後の創口拘縮反応によって、連絡孔の大きさが半分程度にまで小さくなってしまう可能性も示唆されています。馬の空腸同士の吻合における側々吻合術においても、内容物の通過が滞って術後腸閉塞を続発したり、連絡孔を通して腸重責を続発する事象も報告されています。

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空腸同士の側々吻合術では、盲端にした腸管同士を元の向きに並べて、その間に側々吻合を施す方法や(上図)、逆の向きに並べて側々吻合を施す機能的端々吻合(下図:名前は端々だが実質的に側々吻合)などがあります。前者は順蠕動縫合、後者は逆蠕動縫合になり、前者のほうが内容物の移送はスムーズですが、後者のほうが重責を起こしにくいと考えられています。いずれの場合でも、内側(連絡孔の辺縁側)は全層縫合で、外側はレンベルト縫合が使われることが一般的です。

側々吻合は、手縫いだと計四層の縫合が必要となり、漿膜をハンドリングする割合が増えたり(癒着の原因となる)、時間が掛かるという欠点があるため、腸管ステープラー(GIAタイプ)を用いて連絡孔を形成することが多いです。しかし、ヒト用のステープルを馬の消化管に使用したときの強度不足を補うため、周囲を追加で手縫いする場合が多く、漿膜の用手操作や縫合時間を減らす効果は限定的です(内容物による腹腔汚染は抑えやすい)。また、ステープラー機器が高額なのも欠点になります。

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馬の空腸の吻合術において重要なこと

以上のように、馬の空腸の吻合には幾つかの手法があり、それぞれに利点と欠点があります。このため、術者が得意な手法をいつも使ってしまうのではなく、各症例の腸管の状態や吻合する位置などを鑑みて、最も適切な方法を選択することが重要だと言えるでしょう。たとえば、腸管が虚弱な場合には、内反を多めにして吻合箇所の離開や内容漏出を予防することもありますし、ミニチュアホースの細い小腸では、内反による内腔狭窄を避けるため、一層のみの縫合にすることもあり得ます。そのため、複数の吻合方針や縫合手技を習得しておき、そのときの状況で使い分けられる能力を持つのが有益だと言えます。

また、小腸における切除および吻合術では、大腸のそれよりも術後合併症を起こし易く、特に、内腔狭窄では難治性のイレウスを続発することに繋がりますので、正しく縫う技術が必要です。さらに、たとえば網嚢孔捕捉や寄生虫による閉塞などでは、捕捉された小腸を引き抜いたり(下図)、小腸全域から寄生虫を排出させるのに長時間を要してしまい、切除・吻合作業を素早く完了しなければ、麻酔時間が危険なレベルにまで延長してしまうこともあり得ます。その意味では、普段から、吻合に用いる縫合手技は反復練習をしておき、正確かつ短時間で縫える腕を磨いておくことも重要だと言えるでしょう。

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参考文献:
[1] Freeman DE, Schaeffer DJ. Clinical comparison between a continuous Lembert pattern wrapped in a carboxymethylcellulose and hyaluronate membrane with an interrupted Lembert pattern for one-layer jejunojejunostomy in horses. Equine Vet J. 2011 Nov;43(6):708-13.
[2] Lenoir A, Perrin BRM, Lepage OM. Ex Vivo Comparison of a UV-Polymerizable Methacrylate Adhesive versus an Inverting Pattern as the Second Layer of a Two-Layer Hand-Sewn Jejunal Anastomosis in Horses: A Pilot Study. Vet Med Int. 2021 Apr 4;2021:5545758.







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