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馬の結腸の切開術

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馬の結腸の切開術のまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技は成書や論文をご確認ください。

馬の結腸切開術は、大結腸の内容物を排出するために実施される処置です。適応症としては、結腸食滞が大量かつ硬化している場合に、それを遊離および排出させるために行なわれるほか、結腸捻転で虚血性壊死した箇所の結腸を切除・吻合するときに、結腸内容を空っぽにしておくために実施されます。また、結腸内の結石や砂を摘出したり、小結腸の食滞を遊離させた症例や、直腸裂傷を整復した症例において、その上流にあたる大結腸の内容物を排出するために行なわれることもあります。

一般的に、馬の結腸切開術では、骨盤曲が切開されることが多く、その理由としては、結腸食滞がこの部位に好発することに加えて、結腸ループを真っすぐ伸ばして創外に出したときに、骨盤曲が馬体から一番遠くまで引き出せることが挙げられます。そうすることで、切開および内容排出の作業における腸管汚染の範囲を、結腸ループの先端領域(骨盤曲の周囲)に限局できるため、その洗浄も容易となり、術後の腹膜炎や癒着の危険を抑えることが出来ます。

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馬の結腸切開術の準備

馬の結腸の骨盤曲切開術では、創外に引き出した結腸を慎重に視診および触診して病態確認したあと、結腸テーブルと呼ばれる滑り台状の器具の上に結腸を載せます。この際、骨盤曲が一番下になるようにして、結腸ループの根元(右側の腹側・背側結腸)が捻じれていないことを確認します。結腸テーブルを設置する場所は、馬体の右側にした方が距離的には近いものの、術者や補助者が作業するスペースが狭くなるため、馬体の尾側に設置されることが多いです。

結腸テーブルの表面は、撥水性のドレープ等で覆いますが、腸内容を排出した際に汚染されるため、最低2枚以上を敷いておくのが望ましく、また、馬体側をジャバラ状に折っておき、必要に応じて外側(馬体から遠いほう)に引き出せるようにしておきます。結腸テーブルの後端の下には、排水バケツを置いておき、排出液から食渣を分別するコシ網を設置しておきます。テーブルの上に結腸を載せた後は、上からドレープをかけて、飛び散った水で腹腔が汚染されないようにしたり、結腸の漿膜面にカルボキシメチルセルロース液を滴下して、飛び散った食渣が張り付きにくくする方法も有用です。

その他に、温水が出るホースを2本用意しておき、1本は結腸内への温水注入に、もう1本は排出された腸内容をバケツへと洗い流すのに使います。2本のホースは、別々に温水を止められるようにしておき、結腸内に入れるホースは、腸粘膜を傷付けないよう、やや細目で柔らかい素材にします。

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結腸切開と腸内容の排出

結腸の骨盤曲切開術では、術者(滅菌作業者)、サブオペ(半滅菌作業者)、および、補助者の3名の連携が重要となります。このうち、最も大切なのはサブオペの仕事となり、通常は、結腸テーブルの横で、馬の右側に立ちます(下写真のA:サブオペが右利きの場合)。術者は、腹腔側で馬体の左側に立ち(下写真のB)、補助者は、結腸テーブルの横で、馬の左側に立ちます(下写真のC)。なお、補助者は、滅菌ガウンの装着は不要です。

結腸切開では、まずサブオペが、右手に持ったメスで、骨盤曲の頂点を約10cm切開して、メスはすぐに廃棄します。切開では、全層を一気に切り開いてから、左右に広げるようにします。そして、左手で切開創を保持しながら、右手に持ったホースを結腸内に挿入して温水を注入することで、切開創の周辺の腸内容を排出させます。この時、サブオペは、結腸の漿膜面を押したり絞ることで腸内容を移送しても構いませんが、サブオペが触れた箇所は汚染されるため、出来れば骨盤曲から50cm以内の領域に限定しておきます。

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結腸内容の排出は、腹側および背側結腸のうち、より多くの内容物が詰まっている方から始めます。手順としては、①サブオペが右手のホースを結腸内に挿入する、②サブオペが温水を注入しながら、左手を使って切開創を閉じて結腸内に温水を充満させる、③術者が漿膜を押しながら腸内容をほぐす、④十分にほぐれたらサブオペが左手を放して、切開創から腸内容を排出させる、⑤補助者は2本目のホースから出る温水を使って、排出された腸内容をバケツ方向へと流す、という流れを繰り返します。

排出作業は、手順①→⑤を繰り返しながら、徐々に結腸ループの根元へと進めていきますが、手順①において、結腸内のホース先端が、骨盤曲から遠くなるにつれて、サブオペの押し込む操作では進みにくく、粘膜に引っ掛かって傷付ける危険があるため、術者が漿膜越しに補助しながら、丁寧に挿入します。この際、手順②にて、充分に結腸を充満させてから手順③を行なうことで、用手操作したときの漿膜へのダメージを抑えられます(術後の癒着のリスクを減らせる)。腹側または背側の結腸が空っぽになったら、もう片方も同様に処置します。

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動画:Colic Surgery – Enterotomy (Mid-Rivers Equine Centre)



結腸の切開部位の縫合閉鎖

結腸全域の内容物が排出された後は、骨盤曲の切開創の両端をアリス鉗子または用手で掴んで持ち上げ、二重の連続縫合(全層縫合+カッシング縫合)で切開創を閉鎖します。全層縫合では、粘膜層に確実に縫合糸を通して、術後の腸壁内膿瘍を予防することが大事で、また、カッシング縫合では、内反の度合いは出来るだけ軽度に留めて、結腸内腔の狭窄を抑えます。また、骨盤曲切開の縫合では、有棘縫合糸を使って術式も試みられています[1]。一方、手縫いの代わりに、腸管ステープラー(TAタイプ)を使うことも出来ますが[2]、その際は、切開創が長さ8cm以上の場合は、ステープルを二回かけることが推奨されます。

切開創が閉鎖された後は、結腸の漿膜面を慎重に洗浄して食渣を取り除くことが大切です。この際、結腸の下に敷いていたドレープを交換して、張り付いた食渣は濡れガーゼで拭き取ることで、漿膜面に汚染が残らないように努めます。その後は、結腸ループを腹腔内に戻して、閉腹へと進みます。もしも、漿膜面に発赤や点状出血が見られる場合には、術後に癒着を起こすリスクが高いため、閉腹直前に、腹腔内を抗生物質含有の生理食塩水で洗浄して、カルボキシメチルセルロース液を腹腔内投与することもあります。

なお、結腸の切開箇所を閉鎖する前に、結腸内にミネラルオイルを注入して、術後に食滞が再発するのを予防する方策もありますが、縫合箇所からのオイル漏出を招くリスクもあるため、賛否両論があります。また、結腸変位の症例に対しては、腸内容を排出させる際に、腹側結腸にだけ少量の内容物を残しておいて、その重みで再変位を防ぐという方策もありますが、その効果については論議があります。

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骨盤曲以外の部位での結腸切開術

前述のように、馬の結腸切開術では、骨盤曲を切開することが一般的ですが、盲腸結腸重責を整復する目的や(重責部が引き出せない場合)、結腸内の腸結石が重くて、骨盤曲まで移動できない場合には、右側の腹側または背側結腸を切開する場合もあります。骨盤曲と異なり、右側結腸は創外に出せないため(正中切開の場合)、切開時の腹腔汚染の危険性が高くなることが多いです。このため、骨盤曲を先に切開して結腸内容を排出しておくことが推奨されますが、あまり多量の温水が右側結腸の方へ流れ込まないように注意します。

右側の腹側または背側結腸の切開術では、結腸ループを創外に出して、その重みで牽引させることで、切開箇所が腹腔の奥深くにならないようにします。切開箇所を決めたら、その周囲に滅菌プラスチックバッグを縫い付け、結腸の下に濡らしたガーゼを敷いておくことで、漏出した腸内容物による腹腔汚染を最小限に抑えるように努めます。切開部位は、腹側結腸であれば、外側ヒモと内側ヒモの中間点、もしくは、外側ヒモの真上として、背側結腸では、腸間膜の対側とします。切開後は、サクションを使って漏出した内容物を取り除きながら、迅速に重責した消化管の切除処置(下図左)、または、腸結石の摘出処置を行ないます(下図右)。

処置後は、切開創を二重の連続縫合(全層縫合+カッシング縫合)で閉鎖します。漿膜面に付着した食渣は、濡れガーゼで可能な限り拭き取り、閉腹前には、抗生物質含有の生理食塩水での腹腔洗浄を三回以上は実施します。

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馬の結腸の切開術で重要なこと

結腸の切開術は、消化器の様々な外科疾患に応用される、汎用性の高い術式であるため、手順を熟知しておいて、スムーズに作業を進めることが大切です。特に、若手の馬獣医師は、上記の骨盤曲切開術におけるサブオペの仕事を担当することも多いため、正しい作業手順を記憶して練習しておくことで、手術時間の短縮に寄与して、漿膜面の汚染を最小限に抑えることが出来ます。

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参考文献:
[1] Sinovich M, Archer DC, Meunier NV, Kelly PG. Ex vivo comparison of barbed sutures for pelvic flexure enterotomy in horses. Vet Surg. 2020 Apr;49(3):487-495.
[2] Rosser J, Brounts S, Slone D, Lynch T, Livesey M, Hughes F, Clark C. Pelvic flexure enterotomy closure in the horse with a TA-90 stapling device: a retrospective clinical study of 84 cases (2001-2008). Can Vet J. 2012 Jun;53(6):643-7.







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