馬の反復トレーニングは3回まで?
馬の飼養管理 - 2022年08月31日 (水)

馬のトレーニングでの反復練習に関する知見が発表されています。
ドイツのギーセン大学の研究者は、馬の反復トレーニングについて研究しています。一般的に、ホースマンが馬をトレーニングする時に、同じ動作を何回反復させるかに関しては、トレーナーが感覚的に判断することが多いそうですが、同研究者によると、反復トレーニングの回数が多すぎれば、時間のロスになるだけでなく、馬が退屈してしまう結果になると述べています。この影響について解明すれば、トレーニングの効率化、および、馬のウェルフェア向上に役立つと期待されます。
参考資料:
Christa Leste-Lasserre, MA. Study: Less Can Be More When Training Horses. The Horse, Topics, Behavior & Handling, Horse Care, Horsemanship Science, Welfare and Industry: Aug15, 2022.
この研究では、20頭の馬に対して、後退、頭部下垂、後肢挙上、および、頭部を横へ屈曲させるという運動を、週に2回の頻度で六週間にわたって調教しました。その際、同じ運動を反復させる回数を3回または6回にして、馬たちがこれらの運動を学んでいく効率性を評価しました。各馬に対しては、合図に対する反応の良さや、反応に要する用手操作の力具合い、および、反応までの素早さが点数化されました。
その結果、第一週の時点では、6回ずつ反復練習させた方が、3回ずつよりもトレーニング効果が高かったものの、全六週間の調教が完了した時点では、6回ずつと3回ずつの反復練習によって、トレーニング効果には有意差が無かったことが示されました。このため、馬に新しいスキルを調教する時には、反復トレーニングする回数は3回までとすることで、充分なトレーニング効果を上げながら、馬が退屈してしまうのを防げるという考察がなされています。

この研究では、様々なスキルを馬に教える時に、3回ずつのトレーニングを週2回という頻度で実施すれば良いという結果が示され、馬という動物の理解力や記憶力の高さが示されたと言えます。一方、今回の実験では、頭部や肢を動かすという、特別な身体能力は要らない運動内容を調教する実験でしたので、反復練習の回数が少なくて済んだ可能性もあります。このため、より難易度が高く、馬体の柔軟性や特定部位の筋力を要する運動内容(お辞儀させたり、後肢で立ち上がるなど)に関しは、3回以上の反復練習、または、週2回以上の頻度が必要になるかを検討すべきなのかもしれません。
また、同研究者は、今後の課題として、反復練習の回数によって、馬の長期記憶に対する影響が出るかを評価する必要があるとも述べています。確かに、今回の実験では、六週間の調教期間の最中に、トレーニング効果を評価していますので、もし、一度教えたスキルを何年も継続して記憶させるためには、馬が少し飽きを覚えるくらい、何度も何度も反復練習をさせる方が、トレーニング効果が高いのかもしれません。
さらに、今回の実験では、馬に特定のスキルを学ばせる動機付けとしては、合図や手で押す力を、目的行動の達成時に中止するという「負の強化(Negative reinforcement)」が応用されていました。一方で、馬のトレーニングにおいては、目的行動の達成時に馬が好きなエサを与えたり、エサと同調記憶させたクリック音を出す器具を使う(クリッカートレーニング)など、「正の強化(Positive reinforcement)」が応用されることもあります。今後は、反復回数によるトレーニング効果の差異を、正の強化においても検証すべきなのかもしれません。

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