馬の輸送前には電解質補給を
馬の飼養管理 - 2022年09月01日 (木)

馬の発汗と電解質損失
馬は発汗によって多量の電解質を損失することが知られており、輸送中に汗をたくさんかくことで、筋肉の活動に必要な電解質を使い切ってしまう危険もあります。幸いにも、輸送する時には、前もって電解質サプリメントを補給しておくことで、枯渇するリスクを減らせるという知見が示されています。
カナダのオンタリオ大学の研究では、約8リットル(2ガロン)の低張性電解質液を馬に摂取させることで、筋細胞への水分維持を助けつつ、充分な発汗による馬体冷却作用を得られるという結果が示されました。一般的に、馬の発汗では、大量のナトリウム、カリウム、クロールのほか、少量のマグネシウムとカルシウムも漏出することが知られています。また、ヒトと異なり、馬の汗に含まれるこれらの電解質は、血液よりも濃度が高いとさえ言われています。このため、馬の筋肉は電解質の貯蔵を担っており、発汗によるロスに対応できる仕組みになっています。
参考資料:
Waller AP, Lindinger MI. Pre-loading large volume oral electrolytes: tracing fluid and ion fluxes in horses during rest, exercise and recovery. J Physiol. 2021 Aug;599(16):3879-3896.
Christa Leste-Lasserre, MA. Study: Preload Horses With Electrolytes Before Travel, Exercise. The Horse, Topics, Conditioning, Conditioning For Competition, Horse Care, Nutrition, Nutrition Basics, Sports Medicine, Water & Electrolytes: Feb7, 2022.

馬の発汗と電解質に関する検証
オンタリオ大学の研究では、放射性電解質を馬に投与した後、トレッドミルにて中程度の運動負荷(最大許容運動量の50%)を課して発汗をさせ、電解質の動態を評価する実験を行ないました。その結果、運動前に水だけ与えた馬に比べて、運動前に電解質溶液を投与された馬のほうが、細胞外液からの水分および電解質の損失が少なかったというデータが示されました。さらに、馬が発汗する二時間前までに電解質溶液を摂取させておくことで、発汗による電解質損失にも関わらず、筋細胞への電解質補充が達成され、より長時間にわたるトレッドミル運動をする事ができたという結果になりました。
この研究の結果から、馬を輸送や運動させる前に電解質補給を行なっておくことで、たとえ多量の発汗があっても、水分と電解質バランスが維持されて、筋肉機能を保つのに役立つと結論付けられています。通常、馬の汗は迅速に蒸発してしまうため、見た目以上に多量の汗をかいていると言われており、一時間当たり汗で4リットル、呼気で1リットルの、合計5リットルの水分を失うと推測されています。むしろ、馬体から滴り落ちる汗は、体を冷やす効果は限定的で、体液および電解質のロスになっているのみであると解説されています。

発汗前の電解質補給による効能
馬は輸送や運動による発汗で、水分と一緒に電解質も失うため、飲水させるだけでは脱水症状を防ぐには不十分であり、一般的な飼料からの電解質摂取量を鑑みると、サプリメント等による電解質補給が推奨されると述べられています。勿論、輸送や運動をした後に、電解質溶液を摂取させることも有益ではありますが、発汗する前の段階で電解質を補っておくことで、軟部組織の電解質枯渇を予防すると同時に、馬の健康維持とパフォーマンスの向上にも役立つ、という考察がなされています。
前述の研究者によると、馬の性格によっては、電解質を含有した溶液の味を最初は好まない個体もいるものの、徐々に濃度を上げながら慣らしていくことで、自発的な飲水を介して、発汗前の電解質補給を行なうことが出来るようになると言われています。このため、特に暑いシーズンの競技会参加の場合などに、馬運車で輸送する前(発汗をする二時間前の段階)に電解質溶液を摂取させておくことで、馬の脱水や体力損耗を抑えて、輸送による悪影響のリスクを減らす(筋疲労によるプアパフォーマンス、コズミ、輸送熱など)ことも可能であると推測されています。
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