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つまずく馬は要注意

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ホースマンの中には、自馬が頻繁につまづく事を心配されている方もいらっしゃるようです。つまずきは、トレーニングの妨げになったり、パフォーマンス低下になる以外にも、人馬転のリスクが増えることで、ヒトと馬の両方の健康と福祉に有害と言えます。ここでは、つまずく馬における発生要因や対策について紹介します。

参考資料:
Rachel Gottlieb, DVM. Why Does My Horse Stumble After Jumping? The Horse, Topics, Arthritis & Degenerative Joint Disease, Diagnosing Hoof Lameness, Horse Care, Musculoskeletal System: Aug5, 2020.
Christa Leste-Lasserre, MA. Stumbles and Missteps: What’s Causing Your Horse’s Clumsiness? The Horse, Topics, Diagnosing Lameness, Diseases and Conditions, Hoof Care, Neurologic Disease, Sports Medicine: Feb20, 2019.
What Causes a Horse to Stumble? Horse Illustrated, Horse Care, Horse Injuries, Wound Care, and Lameness: Dec18, 2014.



馬の運動に関わる蹉跌の要因

馬が騎乗中に蹉跌症状(つまずくこと)を示す場合、単に周囲の物の動きや音に気を取られていたり、疲労で肢の運びが弱かっただけのケースもあります。しかし、馬が足元に注意散漫な性格であるのであれば、地上横棒やキャバレティ通過などの運動メニューによって、前方地面への馬の集中力を高めるトレーニングが推奨されます。また、馬がハミ受けせずに頭部挙上して、いわゆる馬体の前後が繋がっていない状態になると、推進力の伝達がうまくいかなくなり、つまずく結果につながると言われています。

また、鞍が背中にフィットしていない場合には、背筋痛を続発して、歩法変更(移行)の際に推進不正を起こして蹉跌することもあります。同様に、騎乗者の座り方が左右不均等である場合にも、馬がそのバランスを取り戻すために、体躯を傾けたり捻じったりする必要が出てくるため、蹉跌の原因になることもあります。加えて、鞍や騎乗者の失宜を馬が矯正しようとする動作によって、筋疲労や筋痛を引き起こしますので、更につまずく徴候を頻繁に示すようになるとも言われています。対策としては、鞍の装着検査を起こし馬具に起因する病態を除外診断すると共に、調馬索でのウォームアップを取り入れるなど、馬に負担の少ない運動メニューで筋力強化を図ることが推奨されます。

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馬の健康に関わる蹉跌の要因

馬が頻繁につまずく時には、肢勢異常や健康問題を抱えていることも考えられます。蹄の問題としては、蹄尖過長(アンダーランヒールを伴う場合もある)の不正蹄形をしている馬では、物理的に言って、蹄の応力中心距離(Lever arm)が長くなるため、蹄を離地するのに余計な力が必要となってしまいます。それに加えて、蹄の反回も悪くなってしまう事から、前肢を前方に引き出す過程で、球節以下が過剰に返ってしまい、踏着時に蹄尖が地面に引っ掛かる(=蹉跌症状)という結果に繋がります。対策としては、適切な削切を装蹄師に施してもらうことが大切で、蹄形によっては治療用蹄鉄の装着を要することもあります。

また、馬が蹄に疼痛を抱えている場合には、つまずく事が多いと言われており、最も一般的なのは、ナビキュラー病による蹄踵痛になります。この病態では、馬が蹄踵への衝撃を避けようとして、歩幅を狭くして、可能な限り蹄尖先着しようと試みるため、蹉跌をしやすくなります。同様に、挫跖(蹄底血腫)や蹄膿瘍においても、正常な踏着動作を馬が変えようとすることで、頻繁につまずく事になります。対策としては、獣医師の跛行検査によって、蹄部疼痛の有無、疼痛箇所、慢性か急性かの鑑別をして、必要な加療を施すことになります。なお、馬が肩に違和感がある時には、前肢の伸展不足から、つまずき易くなると考えられてきましたが、肩跛行が疑われる馬の多くで、実は蹄の痛みが元凶であるケースがあることが知られています。

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一方、馬が関節炎を患っている場合にも、罹患関節の可動域低下を招き、歩様に悪影響が及ぶと、不正な接地動作から蹉跌症状を示すようになります。関節炎の好発部位としては、蹄関節(=ローリングボーン)、冠関節(=ハイリングボーン)、球節、前膝などがあります。これらも、獣医師による歩様検査やレントゲンで診断が下され、疼痛緩和のための注射療法が施されます。

さらに、馬が神経器疾患に罹患していた場合にも、頻繁につまずく動作を示すことがあります。これには、感覚神経の機能不全による固有受容器損失(自分の四肢の位置を認識できなくなる)から蹉跌を起こすことが一般的で、運動神経の機能不全による運動失調(自分の意志に合わせて筋肉を動かすのが困難になる)を伴うこともあります。具体的な病態としては、ウォブラー症候群、ヘルペスウイルス感染症、寄生虫迷入による中枢神経炎、頚椎や腰椎の外傷による神経損傷などが含まれます。この場合、鎮痛剤の投与に不応性を示すのが特徴で、綿密な神経学的検査で、罹患箇所や重篤度を判定し、治療の可否や予後を判定することが必要です。

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馬の蹉跌症状は、原因が特定できないケースも多く、加療に長期間を要する病態もあります。しかし、つまずきは大きな健康問題の前兆であることを認識して、病因の解明に努めると同時に、つまずきの頻度を減らせるような運動管理や医学的治療を実施することが重要になってきます。

「つまずいたって良いじゃないか、人間だもの」という考えは、馬には当てはまらないのだと思います。

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このエントリーのタグ: 飼養管理 跛行 運動 調教 疾病予防 関節炎 蹄病 装蹄

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