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突然の重度跛行での見分け方

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馬が突発的に重度の跛行を示したときには、どんな病気が疑われるのでしょうか。

馬の健康問題で一番多いのは跛行ですが、通常では、軽度な歩様異常が徐々に悪化したり、人馬転などの事故の後に跛行を呈します。しかし、時には、まったく荷重できないような非常に重篤な跛行(不負重性跛行)が、前兆も無く、急性発現性に見られることがあります。そのような馬では、速やかに原因を突き止めて、適切な処置を施すことが重要になります。ここでは、そのような突然の重度跛行における鑑別診断について紹介します。

参考資料:
White C. 3-Legged Lameness in Horses: The Likely Players. The Horse: Aug10, 2022.



突然の重度跛行での鑑別診断①:蹄底膿瘍

馬が突発的に不負重性跛行を示した場合、最も頻繁に見られる原因として、蹄底膿瘍が挙げられます。これは、蹄底の角質下に膿が溜まってしまう病気で、運動時の衝撃で生じた蹄底血腫(挫跖)が膿瘍に悪化したり、異物穿孔や装蹄釘から雑菌が入って化膿してしまうことで発症します。また、蹄底血腫の段階でも、重度跛行を呈することもあります。通常は、肢動脈拍動の亢進や、蹄鉗子での圧痛を認め、直近の強度運動や装蹄などの病歴を確認します。

対処としては、蹄底の血腫だけの場合は、抗生物質の全身投与と蹄の水冷だけで治癒することもありますが、もし罹患肢への荷重がまったく出来ないほど痛みが重いときには、既に血腫から膿瘍に進行していると推測されます。その場合には、蹄内の膿を出すことが大切となるため、蹄底の圧痛箇所や白線部位を削切して、膿瘍の排液を試みます。また、膿瘍が深部にあるときには、蹄の浸漬療法(濃塩水の入ったプラスティックバッグに蹄を入れてテープで固定する)または塩漬療法(蹄底に塩を詰めて段ボール板などで蓋をしてテープで固定する)が実施され、痛みの強さによっては抗炎症剤や鎮痛剤を服用させます。

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突然の重度跛行での鑑別診断②:骨折

馬の重度跛行では、骨折の可能性も常に考える必要があります。一般的に、骨折が疑われるのは、強度運動(追い切りやレース、障害飛越など)、転倒や人馬転などの事故、複数頭での放牧(他馬に蹴られた可能性あり)などの直後となります。しかし、ただ馬房にいただけなのに、翌朝には骨折していたという事象も散見されます。たとえば、後肢であれば、馬房壁を蹴った拍子に、蹄骨などの指骨を折ることがあり、また、寝ころんだ後、起き上がるタイミングで踏ん張った後肢が滑走すると、強い捻転負荷が掛かって、管骨や脛骨の骨折に至るとも言われています。さらに、馬房トビラや飼い桶などに肢が引っ掛かって、激しく暴れることでも骨折は起こりえます(前肢と後肢のいずれも)。

馬が骨折している場合には、熱感や圧痛を触診したり、肢端の不安定性、捻髪音の聴診などで疑われる箇所を見極め、レントゲン撮影によって確定診断が下されます。もし、亀裂骨折が疑われるがレントゲン画像にヒビが映っていなかったり、蹄骨の静脈溝とヒビが見分けにくい時には、一週間の安静後に再撮影します(骨折部の骨吸収でヒビが明瞭化するため)。骨折と診断された馬に対しては、その病態に応じて、保存療法(ギプスや副木の装着)または外科的治療(螺子固定やプレート固定)が適応可能かを判断します。残念ながら、体躯に近い骨(上腕骨や大腿骨)が折れていたり、開放骨折になると予後不良となりやすいものの、近年の医療技術の進歩によって、治療可能なタイプの馬の骨折も増えてきています。

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突然の重度跛行での鑑別診断③:感染性関節炎

馬の関節が細菌感染を起こして、感染性の関節炎を続発すると、非常に強い疼痛を呈するため、不負重性跛行の症状が見られます。子馬においては、初乳からの移行抗体の摂取が不十分であったり、臍膿瘍を起こした場合、原発性の細菌性関節炎を発症することがあります。罹患した関節は、重度の腫脹と圧痛を起こし、関節液検査の異常所見(白血球数増加、蛋白濃度上昇、好中球率増加)によって確定診断されます。治療では、関節内腔の洗浄と抗生物質注入が実施され、重傷の場合には、局所肢灌流が適用されることもあります。更に、これらに不応性の症例では、関節鏡手術が必要になる子馬もいます。

一方、成馬では、血行性に細菌侵入することは稀で、通常は、関節包まで穿孔するような重度の外傷、フレグモーネや膿瘍から隣接する関節への感染波及、獣医師の関節注射療法の失宜など、関節へ細菌が混入する要因があり、その結果として感染性の関節炎に至ることが多いです。このため、跛行を示した直近の数日~数週間にわたる病歴に関して、慎重に稟告を取ることが大切です。診断法と治療法は子馬の場合と同じであり、成馬では、難治性で予後不良となるリスクが、子馬よりも高いことが知られています。なお、細菌の侵入部位によっては、関節以外にも、感染性の腱鞘炎や滑液嚢炎などの病態を取ることもあります。

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突然の重度跛行での鑑別診断④:フレグモーネ

馬の重度跛行を起こす疾患としては、フレグモーネ(蜂窩織炎)も挙げられ、これは、皮下組織の細菌感染によって、浮腫と疼痛を起こす病気になります。フレグモーネにおいて、不負重性跛行を呈するほど痛みが強いときには、広範囲にわたる皮下組織の腫れと熱感が触知されることが殆どですので、確定診断は難しくありません。治療としては、抗生物質と抗炎症剤の投与、および、罹患箇所の水冷などが行なわれ、経過が長引いたときには局所肢灌流も試みられます。

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突然の重度跛行において重要なこと

成馬が突発的に不負重性跛行を呈した際には、まず現場で行なう事としては、前述のような病歴(強度運動、人馬転、穿孔性外傷など)、および、処置歴(直近の装蹄や関節注射など)が無かったかを思い出しつつ、跛行肢に明瞭な腫脹や熱感が見当たらないか否かを確認します。これらに当てはまらない場合には、上記の③や④は考えにくいため、①または②を考慮して、速やかに獣医師に連絡を取り、蹄鉗子検査やレントゲン検査を実施してもらうようにしましょう。なお、蹄底膿瘍では、球節後面を触ることで肢動脈拍動の亢進を触知できることが多いですが、蹄骨骨折などでも同じ所見が見られるので、それだけで、①だと確定するのは適当ではありません。

一般的に、突然の重度跛行では、蹄底膿瘍である確率が最も高いものの、万が一、骨折を起こしていたケースを考えて、レントゲン検査が済むまでは、馬は馬房から出さずに、出来るだけ歩かせないようにします。もし、当日もしくは翌日のうちに往診してもらえるのであれば、馬は馬房内に張り馬にして、寝起きを制限するのが望ましいです。跛行の原因が亀裂骨折だった場合に、寝起きすることで完全骨折に悪化してしまうリスクがあるからです。また、蹄底膿瘍の治療としての抗生物質の投与や跛行肢の水冷なども、診断結果が判明するまでは待つのが基本です。

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一方で、重度跛行を示した馬の様子から、明らかに骨折が疑われるのであれば(肢がブラブラになっていたり、粉砕骨折片がこすれ合う音や感触がある等)、獣医師が到着する前であっても、適切な応急処置(バンテージと副木の装着)を施すことが重要です。骨折箇所が不安定なままで、鋭い骨折片の先端が皮膚を穿孔してしまうと、開放骨折となって一気に生存率が下がってしまうからです。たとえ、応急処置をした後であっても、バンテージ越しにレントゲンを撮るのは問題ありません。

兎にも角にも、確定診断が下されるまでは、最悪のケースを想定して、現場で可能な最大限の対応策を取るのが望ましいと言えます。そのためにも、上記の4つの鑑別診断の特徴を知り、初動の方策を知っておくと、次にまた重度跛行の馬が出たときに役立つかもしれません。

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