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馬の文献:息労(Rush et al. 2000)

「回帰性気道閉塞の罹患馬に対する噴霧化ベクロメタゾン・ジプロピオネートの増加的投与濃度における肺機能および副腎抑制」
Rush BR, Raub ES, Thomsen MM, Davis EG, Matson CJ, Hakala JE. Pulmonary function and adrenal gland suppression with incremental doses of aerosolized beclomethasone dipropionate in horses with recurrent airway obstruction. J Am Vet Med Assoc. 2000; 217(3): 359-364.

この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に対する有用な治療法を検討するため、八頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、カビた乾草および藁(Moldy hay and straw)に暴露することで呼吸器症状を誘発してから、噴霧化ベクロメタゾン・ジプロピオネート(Aerosolized beclomethasone dipropionate)の増加的投与濃度(Incremental doses)を実施した後、肺機能(Pulmonary function)および副腎抑制(Adrenal gland suppression)の評価が行われました。

結果としては、低濃度~高濃度の噴霧化ベクロメタゾン・ジプロピオネートの投与から24時間後には、胸膜緊張最大変化(Maximal change in pleural pressure)および肺循環抵抗(Pulmonary resistance)の下降が見られ、三つの濃度による治療効果には有意差がありませんでした。また、肺循環抵抗の改善は、三回の投与が行われた後に認められ、動的肺伸展性(Dynamic compliance)の向上は、中程度または高濃度の噴霧化ベクロメタゾン・ジプロピオネートの投与後のみに見られました。一方、血清コルチゾル濃度(Serum cortisol concentration)の減退は、三つの投与濃度の全てで起こっていましたが、副腎抑制の度合いは中程度または高濃度の投与郡において、有意に大きかった事が報告されています。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、低濃度の噴霧化ベクロメタゾン・ジプロピオネートを投与することで、中程度または高濃度を投与時と同程度の治療効果を誘導しながら、副腎抑制による副作用の危険性を減少できることが示唆されました。

この研究では、噴霧化ベクロメタゾン・ジプロピオネートの投与直後(15分以内)では、肺機能に対する探知可能な効能(Detectable efficacy)は示されておらず、呼吸器閉塞などに対する救急治療(Emergency treatment)においては、抗炎症剤(Anti-inflammatory agents)としてのコルチコステロイドではなく、まず気管支拡張剤(Bronchodilator)の投与を最初に行うべきである、という他の文献の知見を(Derksen et al. AJVR. 1999;60:689)、再確認させるデータが示されたと言えます。さらに、気管支拡張剤を先に用いた後で、コルチコステロイドによる吸引療法(Inhalation therapy)を実施することで、噴霧化薬剤がより深部組織まで到達して、治療効果の増強につながるという知見も示されています(Rush et al. AJVR. 1999;60:764)。

一般的に、人間の医学領域における喘息(Asthma)の治療では、低濃度と高濃度のコルチコステロイド吸引療法によって、治療成績には有意差は認められないという提唱がなされており(Boe et al. Eur Respir J. 1994;7:2179, Hummel and Lehtonen. Lancet. 1992;340:1483)、今回の研究データとも合致するものでした。一方、人間の喘息に関する他の文献では、高濃度のコルチコステロイドによる吸引療法が実施された場合には、非特異的気道反応性亢進(Non-specific airway hyperresponsiveness)をより効果的に制御できる、という知見も示されています(Carpentiere et al. Respiration. 1990;57:100)。しかし、高濃度の抗炎症剤の長期間にわたる使用(Long-term administration)では、有害作用(Adverse effect)が生じる可能性は排除できず(Grebe et al. Clin Endocrinol. 1997;47:297)、文献報告されている研究結果を見る限りでは、コルチコステロイドの高濃度投与を合理化(Rationalize)するのに充分な証拠は示されていない、という警鐘も鳴らされています(Chrousos and Harris. Neuroimmunomodulation. 1998;5:288)。

この研究では、患馬を乾草や藁などのアレルギー抗原の多い環境(Allergen-challenged environment)に置いたままで投薬試験が実施され、投与濃度に相関しない治療効果が認められました。このため、実際の回帰性気道閉塞の臨床症例に対しては、低濃度コルチコステロイドの吸引療法に不応性(Refractory)を示した馬に対しては、やみくもに投与濃度を上げるのは理論的ではなく、管理法改善(飼料や敷料の変更、厩舎飼いから放牧飼養への切り替え、etc)による原因の除去に、最優先に取り組むべきであると考察されています。

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