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馬は自分の名前を知っている?

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フランス人のジャン・フランソワ・ピニョンさんは、たくさんの馬を使ってサーカスのような演技をすることで有名な、馬のトレーナー及びパフォーマーです。彼の演技のなかでは、10頭以上の馬たちが巨大なアリーナの中で、頭絡も曳き手も付けないで、踊るように美しい演技をするのですが、ピニョンさんが細かい指示を出しているようには見えません。

ピニョンさんによると、馬が自分の名前を理解するように調教することは出来ると言いますし、昔は、ピニョンさんも馬を名前で呼んでいたそうです。しかし、馬同士がコミュニケーションを取るときには、名前でお互いを認識している訳ではないという事が分かり、今ではピニョンさんも、「馬のやり方」で馬たちとコミュニケーションを取っているのだそうです。

参考資料:
Christa Leste-Lasserre, MA. Do Horses Know Their Names? Probably, But It’s Complicated. The Horse, Topics, Behavior, Horse Care, Welfare and Industry: Feb24, 2022.


動画:Jean-Francois Pignon - Black and White Show



馬は個性を認識しているのか?

イタリアのピサ大学の馬行動学の専門家であるパオロ・バラーグリ博士は、馬が自分の名前を認識することは、基本的なオペラント条件づけの範囲を越えていると述べています。つまり、馬が自分自身と名前を関連付けること自体が、彼らの認知能力を超越しているのだそうです。

哲学的に深いレベルの話をすると、馬が自分の名前を知っているかを考える前に、馬がお互いを、個性を持った特別な存在として認識しているか、という基本的な疑問に答える必要が出てきます。過去の研究によると、馬は特定の人間と、その人の声や写真とを合致させる事ができ、馬と他の動物を見分ける事も可能であり、また、長期間に別離していた馬同士がお互いを覚えていることも分かっています。

ピニョンさんも、馬が個性というコンセプトを持っていることは疑いがないと言います。彼の演技に参加する馬のなかにも、その馬の兄弟が必ず隣りに来るようにする個体もいて、他の大勢の馬の中から、自分の兄弟を特別な存在だと分かっているのは間違いないようです。

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私は私であって、名前は自分自身を示すシンボルでしかない

バラーグリ博士によると、馬が他の馬を特別な存在だと認識するからと言って、馬が自分自身のことも特別な存在だと思っているかは分からないと述べています。実は、「自分自身」というコンセプトはかなり複雑なものであり、人間以外の動物には無いのではないかと考えられてきました。

ただ、バラーグリ博士によると、馬が自分を自分だと感じていることは分かっているそうです。近年の研究では、馬の頬にバツ印をつけた状態で鏡の前を歩かせたところ、馬は自分の頬についたバツ印を消そうと、前肢で頬をこする行動を示したそうです。つまり、馬は鏡に映った馬と、自分自身とを一致させることが出来たことになり、馬が自分自身を特定の存在だと意識していると言えそうです。

しかし、だからと言って、馬が自分自身の存在と、音として聞こえる名前を一致させることが出来るとは限らない、という見解をバラーグリ博士は持っています。むしろ、馬にとっては、名前が音として耳に入ることは、楽しい経験の一部分となっているに過ぎないのかもしれません。馬は、特定の人間と触れ合えるのを幸せと感じますし、その幸福感には、その人から与えられる食べ物以外にも、その人の声も含まれているからです。

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馬にとって名前とは人間の言語の一部に過ぎない

ピニョンさんによると、馬につけられた名前というものは、人間の都合で発明された物でしかなく、人間同士が一緒に活動するときには、名前で呼び合うことで、誰が誰かを識別するのが便利だからそれを使っているに過ぎないと述べています。このため、たとえ馬が名前を呼ばれて、耳から入る音としてその「名前」を認識したとしても、それを馬自身のアイデンティティを指し示すものとして理解することは無いと考えられます。なぜなら、馬は特定の音で、お互いの個性を識別している訳ではないからです。

ピニョンさんは、馬は非常に繊細な方法でコミュニケーションを取っていると述べており、それには耳の動きや顔の表情が含まれます。人間は洗練された言語を使っているお陰で、逆に、繊細な方法で意志を伝え合うのが苦手なのかもしれません。このため、ピニョンさんが馬とコミュニケーションを取るときには、馬を名前で呼ぶこともなく、一切の言葉や音を発することもなく、目を見ることで意識を全て通じ合える(It’s all in the eyes)と述べています。

馬は、50メートル離れた位置からでも、人間が見つめているのが、自分なのか、自分の隣りにいる馬なのかが分かると言います。ピニョンさんが馬を見つめるとき、馬たちは、いまコミュニケーションを取られているのが自分だと分かっており、ピニョンさんが目を見ることで指示を与えれば、その通りに動いてくれます。ピニョンさんの演技のなかで、まるで馬が勝手に動いているように見えるのは、そのような「馬のやり方」で、ピニョンさんが馬に指示を出しているからなのかもしれません。

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このエントリーのタグ: ヒトと馬 動物学 行動学 学術

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