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マイクロチップで馬の検温

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馬の体温を測るために、体内に埋め込んだマイクロチップを使う方法が検討されています。

馬の体温は、様々な病気で上がり、その診断や経過観察に必要であるのみならず、暑熱環境での運動後のクールダウンの目安としたり(熱射病予防のため)、妊娠牝馬の分娩タイミングを事前に知るためにも応用されています(分娩の数時間前から体温低下するため)。一般的に、馬の体温は直腸で測られますが、手間が掛かったり、馬に蹴られるリスクを伴うこともあります。

そこで、馬の体内に埋め込むマイクロチップ型の温度センサーを使って、馬の検温を実施する手法が検討されています。近年、犬猫と同様に、馬の個体識別においても、マイクロチップを埋め込む手法が用いられており、乗馬競技や競馬の登録にも取り入れられています。馬にチップを埋め込む処置には、多少の不快感を伴いますが、個体識別のための焼き印(海外の一部地域で汎用されている)よりはストレスが少ないことが示されています[1]。

マイクロチップによる馬の検温に関する研究では、項靭帯に埋め込んだマイクロチップで馬の体温を測定したところ、直腸温よりも低い値が出ることが分かりました[2]。また、マイクロチップは気温の影響を大きく受けることも知られており、気温が15.6℃を下回るときには、上回るときよりも有意に低い温度を示すため、馬の発熱状態を検知する場合の感度は低い(60%以下)という知見が示されています[3]。

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しかし、項靭帯に埋め込んだマイクロチップでも、同一個体の体温変化をモニタリングするには有用であり、妊娠牝馬の体温を測定したところ、分娩のタイミングを探知する目的には使えることが示されました[4]。マイクロチップによる検温では、分娩を3時間前に探知する感度は86%(直腸温だと100%)であり、分娩がその日の夜だと探知する感度は71%(直腸温だと43%)であったと報告されています。

一方、筋肉内にマイクロチップを埋め込む手法も試みられており、運動中には直腸温よりも高い値を示すことが知られています。馬の中心静脈温を基準(ゴールドスタンダード)とした場合、直腸温との相関は中程度(相関係数[R]=0.71)に過ぎなかったのに比べ、筋肉内に埋め込んだマイクロチップで測った温度を見ると、胸筋ではR=0.94、臀筋ではR=0.90と高い相関を示していました[5]。

さらに、運動後のクールダウンによる体温低下を測定したところ、胸筋内のマイクロチップでの検温が、中心静脈温と最も高い相関を得られる(運動直後はR=0.88、水冷後は0.61)ことが分かり、項靭帯内のマイクロチップによる検温では相関が低い(運動直後はR=0.47、水冷後は0.25)という結果が示されました[5]。しかし、この研究では、中心静脈温と直腸温には、比較的に良好な相関が見られていました(運動直後はR=0.84、水冷後は0.54)。

以上のように、マイクロチップを用いた検温によって、馬の飼養管理に役立つこともあると言えそうです。ただ、個体識別のために頚部に埋め込むマイクロチップが、温度センサーの機能も搭載していれば、それを分娩探知などに有効利用していくことは、充分に将来性があると推測されますが、一方で、検温のみを目的として、筋肉等にマイクロチップを埋め込むことは、実利的および倫理的にも許容できるかを慎重に判断すべきかもしれません。

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参考文献:
[1] Lindegaard C, Vaabengaard D, Christophersen MT, Ekstøm CT, Fjeldborg J. Evaluation of pain and inflammation associated with hot iron branding and microchip transponder injection in horses. Am J Vet Res. 2009 Jul;70(7):840-7.
[2] Goodwin S. Comparison of Body Temperatures of Goats, Horses, and Sheep Measured With a Tympanic Infrared Thermometer, an Implantable Microchip Transponder, and a Rectal Thermometer. Contemp Top Lab Anim Sci. 1998 May;37(3):51-55.
[3] Robinson TR, Hussey SB, Hill AE, Heckendorf CC, Stricklin JB, Traub-Dargatz JL. Comparison of temperature readings from a percutaneous thermal sensing microchip with temperature readings from a digital rectal thermometer in equids. J Am Vet Med Assoc. 2008 Aug 15;233(4):613-7.
[4] Korosue K, Murase H, Sato F, Ishimaru M, Endo Y, Nambo Y. Assessment for predicting parturition in mares based on prepartum temperature changes using a digital rectal thermometer and microchip transponder thermometry device. J Vet Med Sci. 2012 Jul;74(7):845-50.
[5] Kang H, Zsoldos RR, Woldeyohannes SM, Gaughan JB, Sole Guitart A. The Use of Percutaneous Thermal Sensing Microchips for Body Temperature Measurements in Horses Prior to, during and after Treadmill Exercise. Animals (Basel). 2020 Dec 2;10(12):2274.

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