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「青い光」で馬のクッシング病対策

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馬のブルーライトマスクとクッシング病について

ブルーライトマスクとは、馬に装着させる面子(マスク)の眼の部分に、青い光を発する電球が取り付けられている馬具を指します。これまで繁殖馬においては、夜間に馬房の証明を灯すことで概日リズムを調整して、繁殖期の初回排卵を早めるというライトコントロールという管理法が実践されてきましたが、ブルーライトマスクを装着させることで、屋内照明を同じように作用して、放牧場で飼養しながらライトコントロール効果を得られることが知られています。

一方、馬のクッシング病(下垂体中葉機能異常症)は、ACTHの過剰分泌と循環コルチゾル濃度の上昇を引き起こす疾患です。クッシング病の罹患馬では、多毛症、蹄葉炎、削痩、多尿多飲などの症状を示すことが一般的で、内科治療では、ドーパミン作動薬(ぺルゴライド)の投与が行なわれますが、病態を完全にコントロールするのは難しいと言われています。ここでは、クッシング病の罹患馬に対して、ブルーライトマスクを装着させることで季節性ホルモン動態を調整して、多毛症の制御を試みた研究を紹介します。

参考資料:
Christa Leste-Lasserre, MA. Blue Light Therapy Might Ease PPID Horses’ Coat Problems. The Horse, Topics, Cushing's Disease, Diseases and Conditions, Hair Loss, Horse Care, Older Horse Care Concerns: Jun21, 2022.
Miller AB, Murphy BA, Adams AA. Impact of blue light therapy on plasma adrenocorticotropic hormone (ACTH) and hypertrichosis in horses with pituitary pars intermedia dysfunction. Domest Anim Endocrinol. 2022 Jan;78:106651.

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ブルーライトマスクによるクッシング病への効果

この研究では、クッシング病の罹患馬18頭を用いて、七月から十月の期間にブルーライトマスクを装着させて、日照時間を一日14.5時間になる状態を維持させ、血液検査や毛量の評価が実施されました。その結果、ブルーライトマスクを装着したクッシング病の馬では、対照群と比較して、ACTHの血中濃度には影響が無かったものの、体毛の量は有意に少なかったことが示されました。なお、全ての馬では、実験前のTRH刺激試験によって、クッシング病の診断が下されました。

一般的に、馬は夏毛と冬毛が生え変わる年内サイクルを持ち、晩夏から初冬にかけて日照時間が減少してくることを感知して、長い冬毛が伸びてきますが、クッシング病の馬ではこの反応が強く出てしまい、多毛症の臨床症状を呈することが知られています。今回の研究では、クッシング病の馬にブルーライトマスクを装着させることで、秋季の日照時間の短縮を遅らせて、多毛症の徴候を制御することが出来るという考察がなされています。

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ブルーライトマスクとクッシング病について重要なこと

今回の報告では、ブルーライトマスクによって、体毛が伸び過ぎるという徴候を緩和できるという知見は示されましたが、ACTHの血中濃度には有意差が無く、クッシング病の病態そのものを良化させた訳ではないと推測されました。このため、蹄葉炎や多飲多尿などの他の弊害への対策は続けていく必要がある、という警鐘が鳴らされています。

この論文の研究者は、次の実験を計画中で、約60頭のクッシング病の罹患馬に対して、一年を通してブルーライトマスクを装着させ、多毛症を抑えるという試みだそうです。ただ、概日リズムを、年間を通して人為的に操作することで、他のホルモンの季節性動態に悪影響が出る可能性も否定できないため、効能と副作用の慎重な評価をすべきなのかもしれません。

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関連記事:
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このエントリーのタグ: 飼養管理 サイエンス 厩舎管理 皮膚病

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