馬の文献:息労(Jackson et al. 2000)
文献 - 2022年09月08日 (木)
「回帰性気道閉塞(息労)の治療における環境とプレドニゾンの相互作用」
Jackson CA, Berney C, Jefcoat AM, Robinson NE. Environment and prednisone interactions in the treatment of recurrent airway obstruction (heaves). Equine Vet J. 2000; 32(5): 432-438.
この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に対する有用な治療法を検討するため、十二頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、乾草給餌および藁飼料に暴露することで呼吸器症状を誘発(Induction of respiratory signs)してから、二週間にわたる環境要因の改善(乾草からペレットへの飼料変更、藁からオガへの敷料変更)、および、プレドニゾンの経口投与(Oral administration)を実施して、肺機能(Pulmonary function)の評価と、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage sample)の細胞学的検査(Cytologic examination)が行われました。
結果としては、胸膜緊張最大変化(Maximal change in pleural pressure)、肺循環抵抗(Pulmonary resistance)、動的伸縮性(Dynamic elastance)などの肺機能の診断指標(Diagnostic parameters)は、環境要因の改善から三日以内に迅速な向上(Rapid improvement)を示しており、この際には、プレドニゾンの経口投与を併用した場合としなかった場合とで、有意差はありませんでした。一方、気管支肺胞洗浄液における細胞総数(Total cell count)や好中球数(Total neutrophil count)は、環境要因の改善から七日以内に有意な減少を示しましたが、プレドニゾンの経口投与が併用された場合には、三日以内に有意な減少を示していました。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、飼料や敷料などの変更による環境改善を介して、良好な肺機能の回復が認められ、コルチコステロイド投与の併用は必ずしも要しない事が示唆されました。
この研究では、馬の回帰性気道閉塞の治療に際しては、環境改善によってアレルギー抗原を減退することを最優先とすべきであり、抗炎症剤の投与は付加的な手法と見なすべきであるという、治療方針の大前提を再確認するデータが示されたと言えます。今回の研究における環境改善+プレドニゾン投与では、環境改善のみの場合に比べて、気管支肺胞洗浄液の組成は有意に良かったものの、この所見と肺機能の回復には明瞭な相関は認められず、コルチコステロイド投与を併用することで、治療効果を顕著に上がることを裏付ける証拠は示されていません。馬の回帰性気道閉塞に関する他の文献でも、患馬を厩舎飼いから放牧飼養に切り替えたり、埃の少ない敷料(裁断紙やウッドチップ)へと変更したり、乾草からペレットの給餌に変えることで、呼吸器症状の消失や肺機能の改善が見られた、という多くの報告がなされています(Thomson and McPherson. EVJ. 1984;16:35, Tesarowski et al. AJVR. 1996;57:1214, Vandenput et al. EVJ. 1998;30:93, Vandenput et al. AJVR. 1998;155:189)。
この研究では、実際の臨床症例への状況を再現するため、厩舎全体の飼養環境は変化させず、患馬のいる一個の馬房に対してのみ環境要因の改善(藁→オガ、乾草→ペレット)が実施されましたが、これによって、上述のような充分な治療成績が認められました。このため、馬の回帰性気道閉塞に対する治療では、罹患馬の馬房のみに対策を講じれば充分であり、隣りや周囲の馬房に抗原因子が残っていても、治療効果には有意には影響しない事が示唆されました。一方、馬房の上部(厩舎の屋根裏空間など)に乾草や藁が収納されているケースでは、患馬の馬房のみに環境改善を施しても、落下性のアレルギー抗原は残存するため、適切な治療にはつながらない可能性があると考えられました。
この研究では、治療開始の七日目と十四日目において、アトロピンを投与して、その投与前と投与15分後における肺機能の評価行われました。その結果、いずれの時点(七日目と十四日目)においても、アトロピンが投与されることで、全ての肺機能指標(胸膜緊張最大変化、肺循環抵抗、動的伸縮性)が有意に向上しており、つまり、馬の回帰性気道閉塞における呼吸器症状の発現には、気管支痙攣(Bronchospasm)が関与している事が示唆されました。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、環境要因の改善に併行して、気管支拡張剤(Bronchodilator)を投与することで、臨床症状や肺機能の改善効果が増長される可能性がある、という考察がなされています。
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馬の病気:息労
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結果としては、胸膜緊張最大変化(Maximal change in pleural pressure)、肺循環抵抗(Pulmonary resistance)、動的伸縮性(Dynamic elastance)などの肺機能の診断指標(Diagnostic parameters)は、環境要因の改善から三日以内に迅速な向上(Rapid improvement)を示しており、この際には、プレドニゾンの経口投与を併用した場合としなかった場合とで、有意差はありませんでした。一方、気管支肺胞洗浄液における細胞総数(Total cell count)や好中球数(Total neutrophil count)は、環境要因の改善から七日以内に有意な減少を示しましたが、プレドニゾンの経口投与が併用された場合には、三日以内に有意な減少を示していました。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、飼料や敷料などの変更による環境改善を介して、良好な肺機能の回復が認められ、コルチコステロイド投与の併用は必ずしも要しない事が示唆されました。
この研究では、馬の回帰性気道閉塞の治療に際しては、環境改善によってアレルギー抗原を減退することを最優先とすべきであり、抗炎症剤の投与は付加的な手法と見なすべきであるという、治療方針の大前提を再確認するデータが示されたと言えます。今回の研究における環境改善+プレドニゾン投与では、環境改善のみの場合に比べて、気管支肺胞洗浄液の組成は有意に良かったものの、この所見と肺機能の回復には明瞭な相関は認められず、コルチコステロイド投与を併用することで、治療効果を顕著に上がることを裏付ける証拠は示されていません。馬の回帰性気道閉塞に関する他の文献でも、患馬を厩舎飼いから放牧飼養に切り替えたり、埃の少ない敷料(裁断紙やウッドチップ)へと変更したり、乾草からペレットの給餌に変えることで、呼吸器症状の消失や肺機能の改善が見られた、という多くの報告がなされています(Thomson and McPherson. EVJ. 1984;16:35, Tesarowski et al. AJVR. 1996;57:1214, Vandenput et al. EVJ. 1998;30:93, Vandenput et al. AJVR. 1998;155:189)。
この研究では、実際の臨床症例への状況を再現するため、厩舎全体の飼養環境は変化させず、患馬のいる一個の馬房に対してのみ環境要因の改善(藁→オガ、乾草→ペレット)が実施されましたが、これによって、上述のような充分な治療成績が認められました。このため、馬の回帰性気道閉塞に対する治療では、罹患馬の馬房のみに対策を講じれば充分であり、隣りや周囲の馬房に抗原因子が残っていても、治療効果には有意には影響しない事が示唆されました。一方、馬房の上部(厩舎の屋根裏空間など)に乾草や藁が収納されているケースでは、患馬の馬房のみに環境改善を施しても、落下性のアレルギー抗原は残存するため、適切な治療にはつながらない可能性があると考えられました。
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