馬の月盲をスマホアプリで診断?
話題 - 2022年09月11日 (日)

馬の月盲とは、ブドウ膜炎が一定期間おきに繰り返し発症する疾患で、馬回帰性ブドウ膜炎とも呼ばれます。この病気は、慢性になると難治性で、馬の失明の最も多い原因となっており、早期診断と早期治療が重要であると言われています。このため、獣医師の眼科検査に依存しなくても、馬主や飼養管理者が、馬の眼をカメラで撮影して、人工知能が画像解析することで月盲の診断を自動で下せる、というシステムが検討されています。
参考文献:
May A, Gesell-May S, Müller T, Ertel W. Artificial intelligence as a tool to aid in the differentiation of equine ophthalmic diseases with an emphasis on equine uveitis. Equine Vet J. 2022 Sep;54(5):847-855.
この研究では、馬の眼を写した2,346枚の画像を、畳み込みニューラルネットワークを用いてスマホアプリの人工知能に解析させて、健常な眼、月盲、他の眼疾患を鑑別するよう練習させた後、検証用の画像261枚を同様に解析させて、鑑別診断の正確さが評価されました。その結果、人工知能による馬の眼病鑑別の正確さは、練習画像では99.82%に達しており、また、検証画像では96.66%に上っていました。このため、スマホアプリを使って馬の眼を撮影して、その画像を人工知能に解析させるだけで、かなり信頼性の高い月盲の鑑別診断ができることが示唆されました。なお、下写真(B)は健常眼、(C)は軽度の月盲、(D)は中程度~重度の月盲、(E)は虹彩癒着を伴う月盲を示してします。

一般的に、獣医師が馬の月盲を診断するときには、内眼の異常に着目して、前眼房や硝子体の浸出液、瞳孔の不整、内眼の緑色様所見を指標とします。しかし、この研究の人工知能は、内眼における鮮明かつ均一性のある外貌を健常眼の指標として見なしており、また、背側にある構造物を主な評価対象としていました。一方、スマホアプリの画像では、後眼房の異常を見ることは困難であり、網膜剥離や視神経炎などを鑑別診断することは難しいと考えられました。また、スマホアプリで鑑別診断するときには、光源が特に大切であり、屋外で使用すると、日光が角膜に反射して、診断可能なクォリティの画像が得にくいと考察されています。
この研究で用いられた全ての画像は、散瞳薬を使用する前に撮影された馬の眼であり、獣医師以外のユーザーが鑑別診断を試みることを想定すれば、散瞳させていない画像による鑑別能が重要だと考察されています。また、散瞳させていない馬の眼を人工知能が評価するときには、虹彩辺縁ではなく瞳孔の形状を評価対象とするため、人工知能の練習用の画像には、月盲と他の眼病を含めておき、単純に瞳孔サイズだけで健常眼と月盲を見分けてしまわないように促すべきであると考察されています。

馬の月盲を鑑別するオンラインアプリ(Equine-A-Eye)
この研究では、スマホアプリによる月盲の診断は、あくまで厩舎サイドで実施される簡易的な検査であり、眼病の目安になるものの、疑わしき所見が発見された場合には、速やかに獣医師の精密検査を受けて、正しい診断を下し、必要な加療を遅延なく実施すべきである、という警鐘が鳴らされています。なお、この研究で実施されたスマホアプリは、上記のリンクで試用することが可能です。
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