秋の疝痛を防ぐ7つの対策
馬の飼養管理 - 2022年09月11日 (日)

馬における秋の疝痛
馬の疝痛のなかでも、便秘疝などの一部の病気は、晩夏から初冬にかけて増加する傾向にあることが知られています。それには、数多くの因子が関与しており、①気温低下に伴って馬の飲水欲が下がること、②馬の食欲が増して早食いをしやすくなること、③牧場等では給餌内容が生草から乾草に変わっていく時期であること、などが含まれます。ここでは、これらの諸要因を踏まえて、秋季に馬が疝痛を発症するのを未然に防ぐ方策を紹介します。
参考資料:
Preventing Fall Colic. Springhill Equine Veterinary Clinic: Sep13, 2021.
Gayle Ecker. Preventing Fall and Winter Colic. Horse Journals: Nov25, 2020.
Mike King. 5 Tips to Protect Your Horse from Fall Colic. CapriCMW: Oct2, 2019.
Flossie Sellers. Fall Changes Contribute to Horse Colic. EquiMed: Oct3, 2017.
Fall (and Colic) Season. Equine blog, Henderson Equine Clinic: Sep27, 2010.
対策1:水桶の水を温かくする
秋から初冬にかけて気温が下がっていき、水桶の水が冷たくなると、馬の自発的な飲水も減少していくため、消化管内で食滞を起こす病因の一つとなります。馬が好む飲用水の温度は、摂氏7~18℃(華氏45-65℉)であると言われています。つまり、飲水が減る秋季でも、ホカホカのお湯を与える必要はなく、水桶の飲用水が冷たくなり過ぎないようにしてあげることが大事になります。具体的には、ヒーターで水を温める水桶や、ウォーターカップのタンクを電熱するシステムを導入するのが理想ですが、それが難しい場合には、ホースで給水する時に水の代わりにお湯を入れたり、日中に数回だけ少量の熱湯を水桶に足して回るなどの方策が考えられます。また、毎日の水桶の減り具合いを記録して、秋季に明らかに飲水量が減ってしまう馬を見つけて、これらの対策を個別に取れれば効率的だと言えます。

対策2:塩や電解質を飼料添加する
秋から初冬にかけて、馬のエサに入れる塩を若干増やしたり、電解質を添加することで、消化器での浸透圧変化による生理的反射が起こり、自発的な飲水欲を増加させることが出来ます。一般的に、体重500kgの成馬における一日あたりの塩の給与量は、約50グラムだと言われており、発汗の多い夏場は、その二倍程度まで増やしても塩分過剰にはなりません。ですので、秋季には、通常の塩の添加量の1.5倍程度に増やしてみて(100グラム/日を越えない範囲で)、自発的な飲水量を維持できるか観察します。ただ、塩によってエサの嗜好性が落ちて、残飼量が増えてしまう馬に対しては、市販の電解質のサプリメントを添加するのも一案です。勿論これらは、全頭に一斉に添加する必要はなく、飲水量の減っている個体を発見して、添加後の自発飲水の変化を注視するのが大切です。
対策3:給餌回数を増やす
馬は季節繁殖動物であることが知られていますが、実は、春だけでなく、秋も馬の繁殖期にあたるため、ホルモン動態の活性化から、食欲が増す馬が多いことが知られています。この結果、秋季には、馬が飼い付け時に早食いしやすくなり、疝痛の発症要因になりうると考えられています。ですので、飼い付け回数を出来るだけ増やしてあげることで、馬が空腹で早食いしてしまうのを防ぐと共に、それぞれの飼い付け時の給餌量を減らせるため、早食いしたとしても食滞になりにくくなります。また、スローフィーダーを使って給餌することで、馬が乾草等をゆっくりと食べるように促す手法も有用です。

対策4:急に寒くなった日は濃厚飼料を半減又は休止する
秋から初冬の気候において問題なのは、単に気温が下がることよりも、急激に寒くなる日が出てくることにあります。真冬でずっと寒い時期よりも、秋季のほうが、食滞性の疝痛が多い傾向にあるのもこのためです。ですので、急激に気温が下がる日には、濃厚飼料の給餌を普段の半分に減らす、もしくは休止することで、異常発酵によるガス貯留や蠕動低下を抑える効果が期待され、風気疝や便秘疝の予防に繋がると言われています。そのような日には、飲水も急に減ることが多いため、水分の摂取不足と穀物摂食が重なったときに生じやすい異常発酵への対策を取るのが有用だからです。勿論これも、全頭に一律に行なうというよりも、秋季に疝痛を起こした前歴のある馬や、放屁や軟便が増加する傾向にある馬には特に役立つ方策だと考えられます。
対策5:ボロ拾いを頻繁に行なう
馬の疝痛の予防では、初期徴候を素早く見つけて、速やかに対処することも重要だと言われています。つまり、馬が疝痛という病的状態になってから対応するのではなく、疝痛になりかけている馬を半日だけでも早く発見できれば、適切な措置(一日だけ絶食させる、用手給水する、曳き馬する等)が取れて、事なきを得ることも多いからです。そのためには、秋季には、一日のうちに行なうボロ拾いの回数を増やすことで、糞便の異常(排便の停滞、硬い便、軟便など)、食欲低下(細かい乾草片が落ちたままになっているなど)、活力低下(馬がずっと座り込んでいた形跡があるなど)といった疝痛の徴候に遅延なく気付けるのかもしれません。

対策6:運動量を急激に変化させない
秋から初冬にかけては、シーズンオフに向けて、競走や競技への参加回数、および、トレーニング内容が変化する時期でもありますが、運動の強度や頻度を急激に変化させないことも、馬の食欲や飲水欲、消化管運動の恒常性を保つうえで重要だと考えられます。一般的に、草食獣である馬は、筋活動に必要な代謝エネルギー量に基づくエサの摂取量に応じて、大腸発酵環境を整備するのに時間が掛かることから、ヒトよりもエネルギー要求量(=運動量)の変動に弱いという特徴があります。このため、たとえば、シーズン最後の競技会を終えた馬であっても、翌週からトレーニングメニューを急に軽くしてしまうのではなく、ゆるやかに運動負荷を漸減させていき、馬体の総エネルギー要求量を激変させないことで、腸内環境の順応にも十分な時間を与えて、ひいては疝痛の予防に寄与していくと考えられます。
対策7:放牧飼いから厩舎飼いへの移行は時間をかけて
牧草地での放牧飼養をしている馬では、新鮮な青草を食していた生活から、冬季の乾草中心の給餌内容への移行を、ゆるやかに行なうことも重要となります。馬の食餌が青草から乾草に変わることで、腸内細菌叢の組成が変化する必要があるだけでなく、牧草の終日摂食から飼い付け時間に給餌されるという生活リズムの違いや、乾燥した飼料を摂取することで飲水量を増やすなど、馬自身が飼養環境の違いに慣れる要因が多数あるからです。このため、牧草の摂食がまだ可能な時期から、一定時間は厩舎に入れて乾草を給餌することを開始して、徐々にその割合を増やしていくのが得策です。くれぐれも、放牧地の青草が無くなってから、慌てて乾草給餌を始めることのないように気をつけましょう。

人間にとって秋は、夏の暑さが去り、気候も穏やかになって、厳しい冬の寒さを迎えるまでの、束の間のリラックスできるシーズンだと思います。しかし、馬にとっては、飼養環境や飼料内容の変化に適応するという難関を乗り越えるため、秋は健康面では大変な季節の一つであると言えます。そういう意味では、秋に起こる馬の疝痛を予防するには、馬の様子(特に飲水量)をつぶさに観察して、この難関で苦労している馬を素早く見つけて、適宜な対策を迅速に取ってあげることに尽きるのかもしれません。
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