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馬の文献:息労(Robinson et al. 2002)

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「息労の治療のための三種類のコルチコステロイドの効能」
Robinson NE, Jackson C, Jefcoat A, Berney C, Peroni D, Derksen FJ. Efficacy of three corticosteroids for the treatment of heaves. Equine Vet J. 2002; 34(1): 17-22.

この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に対する有用な治療法を検討するため、九頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、乾草給餌および藁飼料に曝露することで呼吸器症状を誘発してから、プレドニゾンの経口投与(Oral administration)、デキサメサゾンの経静脈投与(Intravenous administration)、デキサメサゾン・イソニコチン酸の筋肉内投与(Intramuscular administration)の三種類の治療を実施してから、肺機能(Pulmonary function)の評価と、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage sample)の細胞学的検査(Cytologic examination)が行われました。

結果としては、デキサメサゾンの経静脈投与から三日以内には、胸膜緊張最大変化(Maximal change in pleural pressure)、肺循環抵抗(Pulmonary resistance)、動的伸展性(Dynamic compliance)などの肺機能の診断指標(Diagnostic parameters)が有意に改善しており、その効能は、患馬を放牧した場合と同程度に達していました。また、デキサメサゾンの経静脈投与から十日以内には、気管支肺胞洗浄液における好中球数(Total neutrophil count)の割合が有意に減少していました。一方、デキサメサゾン・イソニコチン酸の筋肉内投与では、九頭のうち八頭において迅速な効能が認められたものの、プレドニゾンの経口投与では、九頭うち五頭において、投与から十日目以降での肺機能の改善が示されました。しかし、これらの二つの投与郡(筋肉内投与、経口投与)では、気管支肺胞洗浄液の性状には有意な変化は見られませんでした。

このため、今回の研究で試験された三種類の薬剤&投与法のうち、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、デキサメサゾンの経静脈投与が最も効果的であることが示唆されました。しかし、一般的には、デキサメサゾンの経静脈投与では、蹄葉炎(Laminitis)などの合併症(Complications)を続発する危険性が否定できないことから、その実施が躊躇されて、より安全性が高いと言われている、プレドニゾンの経口投与が選択される場合もあります。今回の研究では、一週間以上にわたる治療が実施される場合には、プレドニゾンの経口投与によっても、ある程度の治療効果が発揮されることが示されましたが、九頭のうち四頭では治療効果が確認されておらず、その有用性については、さらにサンプル数を増やした臨床応用が必要とされると考えられました。

この研究では、陰性対照(Negative control)としての無投薬郡の他に、陽性対照(Positive control)として厩舎飼いから放牧飼養への変更郡が含まれました。そして、このような環境要因の改善(アレルギー抗原である藁や乾草への曝露を無くす)を施すことで、どんな薬剤投与にも及ばない、極めて迅速な症状改善が認められました。この事から、馬の回帰性気道閉塞の治療に際しては、クスリによる治療は所詮付加的なものであり、飼養環境の改善(Improvement in environment)によって迅速かつ効果的な症状回復(Rapid/Effective resolution of clinical signs)を試みるという、治療方針の大前提を再確認させるデータが示されたと考察されています。

この研究で試験されたデキサメサゾン・イソニコチン酸は、筋肉内投与ができるタイプのコルチコステロイドで、獣医師による静脈内投与を要しないため、馬主や管理者による処置が可能であるという利点があります。今回の研究では、肺機能の改善に関して言えば、デキサメサゾン・イソニコチン酸の筋肉内投与によって、デキサメサゾンの経静脈投与と同程度の迅速な効能が示されました(気管支肺胞洗浄液の好中球数は、それほど有用な治療効果の指標ではない)。しかし、九頭のうち一頭では治療効果が確認されておらず、実際の症例に対する治療においても、不応性(Refractory)を示す馬が存在する可能性があると推測されています。

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