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馬の関節鏡でも局所麻酔を

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馬の手根関節の関節鏡手術は、小片骨折片の摘出、および、変性関節疾患のクリーニング手術(軟骨病巣掻把や滑膜切除術)などの目的で実施されることが多く、競走馬の臨床において、最も頻繁に行なわれる手術の一つです。今回は、局所麻酔薬の関節内投与によって、関節鏡手術中の疼痛管理を行なった知見を紹介します。

参考文献:
Gaesser AM, Varner KM, Douglas HF, Barr CA, Hopster K, Levine DG. The effect of intra-articular mepivacaine administration prior to carpal arthroscopy on anesthesia management and recovery characteristics in horses. Vet Surg. 2020 Oct;49(7):1343-1349.

この研究では、手根関節内の小片骨折を呈した22頭の症例馬に対して、関節鏡手術の直前にメピバカインの関節内投与を実施して(半数の症例は生食の関節内投与をした対照群)、術中のTPR所見、動脈血圧の測定値、麻酔薬追加投与の有無、および、麻酔覚醒のクォリティスコアなどの回顧的解析が行なわれました。

結果としては、対照群において、関節膨満した時の動脈血圧値の上昇、および、骨折片を除去した時の心拍数の増加が認められたのに対して、局所麻酔群では、そのような疼痛反応は見られなかったというデータが示されました。また、局所麻酔群では、対照群と比較して、関節膨満した時および骨折片を除去した時に、疼痛反応の兆候(心拍数の増加)が有意に減少していました。

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また、対照群のうち2頭では、関節鏡手術の最中に麻酔薬の投与を要しましたが、局所麻酔群では、術中に疼痛管理のための麻酔薬の追加投与を要した馬はいなかったことも報告されています。なお、麻酔覚醒におけるクォリティスコアには、対照群と局所麻酔群のあいだで、有意差は認められませんでした。

これらの結果から、馬の手根関節における関節鏡手術では、術前に局所麻酔薬の関節内投与を行なうことで、術中の関節疼痛が緩和されて、麻酔維持が容易になることが示唆されています。この手法は、手根関節以外の関節における関節鏡手術や、関節腔に及んでいる骨折の内固定手術(管骨外顆骨折や基節骨矢状骨折など)においても、術中の疼痛管理を補助する目的で応用可能であると推測されました。

近年、馬の全身麻酔では、バランス麻酔の重要性が認識され、麻酔維持薬と一緒に、鎮痛効果の得られる手法が併用されており、これには、鎮痛薬(オピオイド等)の全身投与や、手術箇所より近位側での神経ブロックなどが含まれます。しかし、手根関節を鎮痛できる正中神経および尺側神経のブロックでは、ナックリング症状を呈して麻酔事故を誘発するリスクが懸念されますので、この研究のような、関節麻酔を併用する方針のほうが好ましいのかもしれません。

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一方で、局所麻酔薬が関節内腔に鎮痛作用を及ぼすには、関節注射から10分間以上は待つ必要があるため、術中に不必要な待ち時間を生む(麻酔総時間が延びてしまう)ことも考えられます。このため、術野洗浄やドレーピングの作業前に関節注射を済ませることで時間を節約するなど、効率的な手順を検討する必要があるかもしれません。

この研究では、関節鏡手術に局所麻酔を併用した場合でも、麻酔覚醒の質には有意差は確認されませんでした。このため、今後の研究では、広範な軟骨下骨の掻把処置や、盤状骨折の螺子固定など、侵襲性と疼痛がより大きいと思われる症例において、麻酔覚醒の段階でもメリットが得られるのかどうかを、症例数をもっと増やして評価する必要があると言えるでしょう。

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