馬の病気:線維化筋症
馬の運動器病 - 2013年08月26日 (月)

線維化筋症(Fibrotic myopathy)について。
後肢の機械性跛行(Mechanical lameness)を呈する疾患のひとつで、歩幅の前方短縮(Shortened cranial phase)と後肢の急激な尾側牽引(Rapid caudal limb movement)に伴う特徴的な雁様踏着(Goose-step)が見られます。通常は常歩時に顕著に観察され、速歩や駈歩をしている時には消失します。一般的にこの異常歩様は、外傷性裂傷(Traumatic laceration)、ウェスタン競技のスライディングストップによる筋線維断裂、後肢が頭絡に引っ掛かる事などで、半腱様筋(Semitendinosus muscle)が損傷して線維症(Fibrosis)を起こすことに起因しますが、大腿部への筋肉内薬物投与や、神経損傷(Neuropathy)から発症する事も知られています。慢性症例では、骨化筋症(Ossifying myopathy)の病態を呈し、また、病変が半膜様筋(Semimenbranosus muscle)や大腿二頭筋(Biceps femoris muscle)におよぶ場合もあります。
線維化筋症の診断は、通常、視診で下されますが、軽度の歩様異常では、鶏跛(Stringhalt)との慎重な鑑別を要します。また、触診では発症筋郡の硬化腫脹を確認し、超音波検査(Ultrasonography)では高エコー性(Hyperechoic)の線維症所見によって、半腱様筋炎(Semitendinosus myositis)との鑑別診断を行います。
線維化筋症の治療としては、半腱様筋の脛骨付着腱切断術(Semitendinosus tibial insertion tenotomy)によって、過緊張を取り除く手法が有効で、脛骨付着腱の後、術中触診で踵骨付着腱(Calcaneal insertion)の緊張が確認された場合には、この腱の切除術も施されます。半腱様筋の筋切除術(Myotomy)および筋腱切除術(Myotenectomy)は、局所麻酔(Local anesthesia)を介して起立位手術(Standing surgery)での施術が可能ですが、遷延出血(Prolonged hemorrhage)や術創離開(Incisional dehiscence)などの術後合併症の危険が高く、また術部陥没等の外観もおもわしくないため、実施は推奨されていません。
線維化筋症の予後は一般に良好で、1~2週間以内に歩様改善が見られる場合が殆どです。しかし、神経損傷を病因とする症例では、対側後肢(Contralateral hind limb)における異常歩様の再発(Recurrence)が起こる可能性が示唆されているため、発症筋部の生検(Biopsy of affected muscles)を行って、外傷性線維症との鑑別診断(Differential diagnosis)が試みられる場合もあります。
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