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手術手袋は二重に着けよう

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近年のヒトの医療では、外科医が手術手袋を二重に装着することはスタンダードとなっており、その理由は、手術手袋の穿孔が意外に頻繁に起こっているエビデンスが示されてきたからです。

馬の手術では、ヒトの手術と異なって、患者の血液に触れることでエイズやB型肝炎などが伝搬するリスクは無いものの、一方で、馬はヒトよりも感染に弱いため、外科医の手指に存在する細菌を術創に移してしまわないように(いくら手指をスクラブしても細菌数をゼロには出来ないため)、手術用の手袋を二重に着けることが重要だと考えられます。

参考資料:
Double Gloving, Increase your peace of mind with twice the protection. Article, MediCare Products: Jul7, 2017.
Wicklin SV. Busting 5 Double-Gloving Myths. Outpatient Surgery Magazine, Staff Safety: Feb4, 2015.



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手術手袋を二重に着ける意味

ヒト医療の研究では、整形外科手術で使用された1,500枚以上の手術手袋を調査したところ、穿孔が認められた手袋は3.58%であり、充分に高い頻度であると考えられました。さらに重要なのは、これらのうちで、肉眼で確認できなかった手袋の穿孔は62%に達していた事であり、知らず知らずに術創汚染を引き起こす可能性を考慮して、やはり手袋は二重に装着しておくことが必要だと言えます。

また、別の研究では、股関節や膝関節の手術において、二重に装着された手袋を調査したところ、外側の手袋が穿孔する確率は10.9%であったのに比較して、外側と内側の手袋が両方とも穿孔する確率は3.3%と大きく下がっており、さらに、内側の手袋だけが穿孔する確率は0.4%に過ぎませんでした。このため、手術手袋を二重に着けるのは、外側の手袋で内側の手袋を守る意味でも重要だと考えられました。

一方、手術手袋を二重に着けるときに、外側の手袋のほうを透けて見えるタイプにしておく事で、穿孔が起こった際にも、手袋のレイヤー間に侵入した血液を視認することが容易になります。ヒト医療の研究では、外科医が手袋を二重に装着していた場合には、外側の手袋の穿孔に気付く確率は86.5%に達していたのに対して、一重しか装着していなかった場合には、その手袋の穿孔に気付く確率は36.8%と大きく下がっていました。



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手術手袋の穿孔に関わる要因

ヒト医療分野の研究では、手術のタイプによる違いも調査されており、手袋の穿孔が確認されたケースで一番多いのは消化器の手術(全体の44.5%)であり、次が整形外科の手術(34.7%)となっていました。このため、ドリルやスクリューなどの鋭利な器具を扱う整形外科的な処置が、必ずしも穿孔の危険性を一番高くする訳ではないと言えそうです。また、オペの人員のうち、補助医の手袋が穿孔していた場合は45.8%となっており、執刀医の手袋が穿孔していた場合(33.4%)よりも多くなっていました。

さらに、手袋が穿孔する原因を調査した研究によると、縫合針を操作することが原因で手袋が穿孔した場合が43.4%と最も多いことが分かり、メスを操作した場合(17.1%)や、シリンジを操作した場合(12.1%)と比べても突出していました。このため、縫合作業では、針は可能な限り把針器で操作して、指で直接触らないことが大切だと言えそうです。また、手袋の穿孔箇所を調査したところ、利き手でないほうの手の人差し指が最も穿孔が多いことが判明しており、これも、縫合針を把針器に掴み直すときに、一番良く使う指であるためと推測されています。

加えて、手術手袋の穿孔は、手術時間が長くなるほど発生しやすいことも知られています。手袋穿孔の時間帯を調査した研究では、二時間以内の手術で手袋が穿孔する確率は4.2%であったのに対して、二時間以上の手術において手袋が穿孔する確率は11.7%にまで跳ね上がっていました。このデータを回帰分析すると、手術時間が10分間長くなるごとに、手袋が穿孔するリスクは1.12倍になることも分かりました。このため、ヒトの手術では、穿孔の有無に関わらず、90~150分おきに手袋を交換することが推奨されています。

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馬の手術における手袋装着で重要なこと

以上のように、手術手袋の穿孔に関する研究は、馬の手術に特定した形では実施されていませんが、ヒトよりも大きく重い腸管や骨を操作することを考えれば、上述のヒト医療の研究で示された確率と同等、もしくはより高い確率で、手袋の穿孔が発生しうると推測されます。このため、馬の手術においても、①常に手袋を二重に装着する(手術のタイプに関わらず)、②手術に入る外科医は全員が手袋を二重に装着する(執刀医だけでなく補助医も)、③手袋で縫合針を操作するのは避ける(針の取り出しや持ち直しも出来るだけ把針器を使って行なう)、④約二時間おきに手袋を交換する(または創傷洗浄や皮膚縫合の前の段階で手袋を交換する)、などの方針が望ましいのかもしれません。

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