運動と飼料の管理で馬のコズミ予防を
馬の飼養管理 - 2022年09月15日 (木)

ホースマンの中には、コズミをよく起こす馬の管理に苦労されている方もいらっしゃるようです。
コズミとは、競走や競技のあとの数時間で、筋炎による痛みなどで強直性の歩様を示している症状を指すことが一般的です。馬のコズミは、単なる筋肉痛によるものが殆どですが、重度や頻発する場合には、強度運動によって骨格筋が融解する病気を起こしているケースもあり、これを労作性の横紋筋融解症と呼んでいます。ここでは、この横紋筋融解症の予防法に関する知見を紹介します。
参考資料:
Oke S. Brushing Up on Tying Up in Horses. The Horse: Aug30, 2022.
Recurrent Exertional Rhabdomyolysis. Michigan State University HP.
EquiNews. Nutrition & Health Daily. Kentucky Equine Research: Dec27, 2013.
Cargill. Recurrent Exertional Rhabdomyolysis. Vet Nutrition Info.
過去の調査では、横紋筋融解症は襲歩運動をよく行なう馬(サラブレッド競走馬)に好発することが分かっており、また、症例の65%が牝馬で、48%がナーバスで興奮しやすい馬であることも知られています。馬の横紋筋融解症の病因論は、まだ確定されていませんが、この疾患の好発馬では、筋小胞体のカルシウム蓄積が多いことが分かっており、運動によりカルシウムの急激かつ多量な遊離が起こると、持続的筋収縮とエネルギー代謝中断を生じて、筋線維の破壊に至ると考えられています。一方、乳酸アシドーシスも病因の一つであるという知見もありましたが、近年の研究では、横紋筋融解症の発症時では、筋肉中の乳酸濃度は低く代謝性アルカローシスの病態となっていることが分かっています。
馬の横紋筋融解症を予防するための運動法に関する方策としては、好発馬を無闇に興奮させないことが挙げられています。具体的には、好発馬の馬房は、厩舎の中でも騒音が少なく静かなエリアにすること、運動時間になったら早い順番で騎乗すること、調教最中の順番待ちなどで馬が興奮してしまうのを避けること、獣医師の診察や歯科処置などの際にも、鎮静剤を適切に使用して、不必要な興奮状態に陥らないようにすること、などが提唱されています。また、筋肉内のカルシウム蓄積を抑えるため、強い運動を課した翌日も完休にせず、パドック放牧などを行なって、適度な運動量を維持することも推奨されています。

馬の横紋筋融解症は、サラブレッド種においては、一日の可消化エネルギーが30~35MCal(メガカロリー)に達する馬に好発することが知られており、易消化性炭水化物の過剰給餌や電解質不均衡も発症要因になると言われています。馬の横紋筋融解症を予防するため飼養管理としては、非構造炭水化物(NSC: Nonstructural carbohydrate content)を脂質で代用することが推奨されており、NSCは20%を越えない範囲に留め、一日当たりの可消化エネルギーの20~25%を脂質で給与することが提案されています。このような、低NSCで高脂質の給餌内容を得るため、濃厚飼料をビートパルプに置き換えるのが有用です。一般的に、横紋筋融解症の好発馬に給餌する濃厚飼料は、NSC含有量が12~18%、脂質含有量が10~13%となるものが推奨されています。また、レース前の三日間だけ濃厚飼料を増量して、肝臓へのグリコーゲン貯蔵を増やすことで、強運動時のエネルギー源とする飼養管理法も提唱されています。
馬の横紋筋融解症を予防する他の方策としては、充分な飲水量の維持と、電解質の飼料給餌が挙げられています。近年の調査では、飼料中のナトリウムが不足したり、カルシウムとリンの比が低いことが、横紋筋融解症の発現に関与すると言われています。また、フリーラジカルによる筋損傷が関与している可能性も示唆されていることから、ビタミンEやセレンなどの抗酸化物質を飼料添加することも推奨されています。さらに、前述のようなNSCを脂質に置き換える飼料変更によって、濃厚飼料の給餌量が一日当たり3kgを下回ると、蛋白質、ミネラル、ビタミンなどの不足を招くという警鐘が鳴らされており、適切なサプリメントの飼料添加またはバランサーペレットの給餌が好ましいと提唱されています。

馬の横紋筋融解症は、以前は、“月曜の朝病”(Monday morning disease)と呼ばれており、日曜日に運動させずに月曜日に急な運動を課すことで、この病気が頻発することから病名が付けられました。やはり、馬のコズミの原因となる横紋筋融解症を防ぐためには、運動管理と飼料管理の両方に取り組むことが大切だと言えるでしょう。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.