馬の文献:息労(Leguillette et al. 2002)
文献 - 2022年09月16日 (金)
「回帰性気道閉塞の罹患馬における肺機能と気管支肺胞洗浄液の細胞学的検査結果に対するペントキシフェリンの効果」
Leguillette R, Desevaux C, Lavoie JP. Effects of pentoxifylline on pulmonary function and results of cytologic examination of bronchoalveolar lavage fluid in horses with recurrent airway obstruction. Am J Vet Res. 2002; 63(3): 459-463.
この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に対する有用な治療法を検討するため、十頭の回帰性気道閉塞の罹患馬に対して、二週間にわたるペントキシフェリンの経口投与(Oral administration)を実施してから、肺機能(Pulmonary function)の評価と、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage sample)の細胞学的検査(Cytologic examination)が行われました。
結果としては、ペントキシフェリンの経口投与から八日後および十五日後には、肺循環抵抗(Pulmonary resistance)および動的伸長性(Dynamic elastance)の有意な減退が認められましたが、投与から十五日後の気管支肺胞洗浄液の細胞学的検査には、有意な変化は見られませんでした。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、ペントキシフェリン投与によって、ある程度の肺機能の改善効果が期待できることが示唆されました。一方、全ての馬において、アトロピンの投与後に肺循環抵抗の低下が認められ、気管支痙攣(Bronchospasm)が呼吸器症状の発現に関与していることが再確認されました。また、ペントキシフェリンの経口投与の際に、コーンシロップと混ぜて与えた場合には、薬剤の吸収阻害が起こり、血清濃度(Serum concentration)に大きなバラツキが生じた事が報告されています。
一般的に、回帰性気道閉塞の罹患馬では、気管支痙攣、気管支周囲細胞浸潤(Peribronchial cell infiltration)、気道内への好中球性浸出液の貯留(Accumulation of neutrophilic exudates in the lumen of the small airways)が生じることが知られており、その治療のためには、抗炎症剤(Anti-inflammatory agents)としてのコルチコステロイドや気管拡張剤(Bronchodilator)の投与が行われますが、これらの薬剤の長期的使用に際しては、合併症(Complication)や薬剤効能減退(Diminished drug efficacy)などが問題となります。一方、気道平滑筋収縮の制御(Regulation of smooth muscle tone)と炎症性細胞の活性化(Activation of inflammatory cells)には、リン酸ジエステル加水分解酵素(Phosphodiesterases)の働きが強く関与している事から、この酵素の化学的変質(Chemical alteration)を施すことで、回帰性気道閉塞の治療効果が誘導できると仮説されています。そして、メチルキサンチン誘導体(Methylxanthine derivative)であるペントキシフェリンは、リン酸ジエステル加水分解酵素の非選択性抑制剤(Nonselective inhibitor)として作用して、気管支拡張を誘導できることに加えて(Cortijo et al. Br J Pharmacol. 1993;108:562)、炎症性サイトカイン(Proinflammatory cytokine)による好中球活性を抑制したり、超酸化物ラジカルの生成減退(Decreases the production of superoxide radicals)などの効能を示すことが報告されています(Neuner et al. Immunology. 1994;83:262, Oka et al. J Med. 1991;22:371, Currie et al. J Leukoc Biol. 1990;47:244)。
この研究では、ペントキシフェリンの投与後に、肺機能指標の改善は認められましたが、気管支肺胞洗浄液の性状は有意には変化しておらず、この観点から言えば、馬の回帰性気道閉塞に対するペントキシフェリンの効能は、抗炎症作用よりも気管支拡張作用のほうが大きい、という仮説も成り立ちます(コルチコステロイドの併用を要する?)。しかし、他の文献では、回帰性気道閉塞の罹患馬に対するコルチコステロイドの投与においても、気管支肺胞洗浄液の検査値に顕著な変化が見られない場合でも、肺機能が良好に回復する事もあるため(Lapointe et al. AJVR. 1993;54:1310, Grunig et al. EVJ. 1989;21:145)、今回の研究のデータのみから、ペントキシフェリンの持つ抗炎症作用を過小評価(Under-estimation)するのは適当ではない、という考察がなされています。
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結果としては、ペントキシフェリンの経口投与から八日後および十五日後には、肺循環抵抗(Pulmonary resistance)および動的伸長性(Dynamic elastance)の有意な減退が認められましたが、投与から十五日後の気管支肺胞洗浄液の細胞学的検査には、有意な変化は見られませんでした。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、ペントキシフェリン投与によって、ある程度の肺機能の改善効果が期待できることが示唆されました。一方、全ての馬において、アトロピンの投与後に肺循環抵抗の低下が認められ、気管支痙攣(Bronchospasm)が呼吸器症状の発現に関与していることが再確認されました。また、ペントキシフェリンの経口投与の際に、コーンシロップと混ぜて与えた場合には、薬剤の吸収阻害が起こり、血清濃度(Serum concentration)に大きなバラツキが生じた事が報告されています。
一般的に、回帰性気道閉塞の罹患馬では、気管支痙攣、気管支周囲細胞浸潤(Peribronchial cell infiltration)、気道内への好中球性浸出液の貯留(Accumulation of neutrophilic exudates in the lumen of the small airways)が生じることが知られており、その治療のためには、抗炎症剤(Anti-inflammatory agents)としてのコルチコステロイドや気管拡張剤(Bronchodilator)の投与が行われますが、これらの薬剤の長期的使用に際しては、合併症(Complication)や薬剤効能減退(Diminished drug efficacy)などが問題となります。一方、気道平滑筋収縮の制御(Regulation of smooth muscle tone)と炎症性細胞の活性化(Activation of inflammatory cells)には、リン酸ジエステル加水分解酵素(Phosphodiesterases)の働きが強く関与している事から、この酵素の化学的変質(Chemical alteration)を施すことで、回帰性気道閉塞の治療効果が誘導できると仮説されています。そして、メチルキサンチン誘導体(Methylxanthine derivative)であるペントキシフェリンは、リン酸ジエステル加水分解酵素の非選択性抑制剤(Nonselective inhibitor)として作用して、気管支拡張を誘導できることに加えて(Cortijo et al. Br J Pharmacol. 1993;108:562)、炎症性サイトカイン(Proinflammatory cytokine)による好中球活性を抑制したり、超酸化物ラジカルの生成減退(Decreases the production of superoxide radicals)などの効能を示すことが報告されています(Neuner et al. Immunology. 1994;83:262, Oka et al. J Med. 1991;22:371, Currie et al. J Leukoc Biol. 1990;47:244)。
この研究では、ペントキシフェリンの投与後に、肺機能指標の改善は認められましたが、気管支肺胞洗浄液の性状は有意には変化しておらず、この観点から言えば、馬の回帰性気道閉塞に対するペントキシフェリンの効能は、抗炎症作用よりも気管支拡張作用のほうが大きい、という仮説も成り立ちます(コルチコステロイドの併用を要する?)。しかし、他の文献では、回帰性気道閉塞の罹患馬に対するコルチコステロイドの投与においても、気管支肺胞洗浄液の検査値に顕著な変化が見られない場合でも、肺機能が良好に回復する事もあるため(Lapointe et al. AJVR. 1993;54:1310, Grunig et al. EVJ. 1989;21:145)、今回の研究のデータのみから、ペントキシフェリンの持つ抗炎症作用を過小評価(Under-estimation)するのは適当ではない、という考察がなされています。
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