馬装で不機嫌になる馬
馬の飼養管理 - 2022年09月18日 (日)

馬が馬装されるときに不機嫌になるのは、一般的なことだと思われているかもしれません。しかし、英国の跛行研究者であるスー・ダイソン博士によると、馬の疼痛を上手に管理してあげることで、そのような行動が改善されることも多いと言います。
参考資料:
Betsy Lynch. Grumpy Horse While Tacking and Mounting? That’s Not Normal. The Horse, Topics, Behavior, Pain Managemen: Jan 29, 2022.
Millares-Ramirez EM, Le Jeune SS. Girthiness: Retrospective Study of 37 Horses (2004-2016). J Equine Vet Sci. 2019 Aug;79:100-104.
米国のカリフォルニア大学で行なわれた研究では、腹帯を締められるのを嫌悪する徴候を示した31頭の症例のうち、32%(12/37頭)に胃潰瘍が確認され、オメプラゾール製剤(ガストロガード)の経口投与によって症状改善が認められました。また、それ以外の馬においても、運動器疾患(10頭)、鞍装着不全(3頭)、生殖器腫瘍(1頭)などが確認されたと報告されており、馬が疼痛を感じていた事が、馬装時の不機嫌さに繋がった可能性があると考えられました。
ダイソン博士の話では、ホースマンは馬装時の不機嫌な様子を見慣れてしまって、原因を精査することなくやり過ごしてしまい、その後に、咬み付いたり蹴ろうとする等の、よりアグレッシブな行動を示したときに、始めて獣医師に検査を要請することが多いと述べられています。また、馬装されるときに不機嫌になるのは正常な馬の行動ではなく、それを、疼痛反応の一つであると見なして、原因疾患を早期発見してあげることが重要だと提唱しています。

馬が馬装されるときに見せる行動のうち、疼痛の存在を示唆するものとしては、①ハミ付けのときに直ぐに開口しない、②頭絡を着けるときに頭を上げる(または下げる)、③頭部を挙上する、④頭部を下垂する、⑤頭部を振り回す、⑥クチャクチャと音を立ててハミを噛むのを繰り返す、⑦鼻革を締めるのに抵抗する、⑧歯ぎしりをする、⑨あくびをする、⑩耳をふせる、⑪そわそわと落ち着きが無くなる、⑫鼻先を前肢に擦り付ける、⑬ベロを出して口の周りを舐め回す、⑭尻尾を左右に激しく振る、⑮緊張した目つきで見つめる、⑯目をむく(白目を見せる)、⑰腹帯の方向へ頭部を屈曲させる、⑱噛みつく、⑲蹴ろうとする、⑳前掻きする、などが含まれます。
英国の研究では、200頭の馬における馬装時の仕草や行動を、オーナーではない観察者に評価してもらう実験が行なわれました。この200頭の馬のオーナーに聞き取り調査をした結果では、全ての馬が、快適に騎乗に使役されていると回答されたにも関わらず、他の観察者が、上記のような疼痛行動を認識できた馬は66%に上っていました(そのような行動は、馬装している時間の1/4~1/2の長さに及んでいた)。つまり、普段から見慣れているオーナーにとっては、正常範囲の行動だと思われていることでも、他の観察者では異常だと認識されるというデータが示されています。
そう考えると、ホースマンとしては、馬装中に不機嫌になる僅かな徴候も見逃さず、その時点で精密検査を実施して、潜在的な疼痛性疾患の有無を確認することが重要だと考えられます。

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