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馬の寝起きを制限する飼養法

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馬の寝起きを制限することのメリット

馬は他の家畜と異なり、起立装置という解剖学的な特異性があるため、長期間に渡って駐立したまま生活できるという動物学的な特徴があります。このため、馬が馬房内で寝起きするのを制限して、駐立させたまま繋留する管理方法が実施可能となり、幾つかのメリットがあります。馬の年齢や体力にもよりますが、通常、一ヶ月程度であれば、馬は寝起きせずに生活することが出来ます。

馬の寝起き制限が有用である状況としては、人馬転や蹴傷等によって、亀裂骨折を発症した場合が挙げられます。馬の骨格のうち、体躯に近い長骨(大腿骨、上腕骨、脛骨など)にヒビが入った場合、キャスト固定するのが困難であるため、寝起きを制限して、亀裂骨折から完全骨折へと悪化してしまうのを防ぐという保存療法が選択されることがあります。また、脛骨や橈骨の骨折をプレート固定+キャスト装着した場合でも、キャストが骨の緊張面を変化させてインプラント破損するリスクがあるため(通常のプレート固定は緊張面に施されるため)、術後の数週間は寝起きさせないという治療方針が取られることもあります。

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一方、下腿部や前腕部などの裂傷を、外科的に縫合閉鎖した症例においても、縫った箇所の皮膚のテンションが強い場合には、やはり、抜糸までの期間は寝起きを制限して、縫合箇所が裂開してしまうのを防ぐことがあります。寝起きで罹患肢を屈伸すると、皮膚の緊張が高まって、せっかく縫った傷が、はじけて開いてしまうからです。同様に、臀部・腹部に起こった外傷や火傷、および、去勢の創部などにも、敷料が付着して感染を起こすのを防ぐため、1~2週間のあいだ寝起きを制限することもあります。

さらに、第三腓骨筋断裂や飛節脱臼などの治療で、後肢の全肢キャスト(蹄から後膝の直下まで及ぶキャスト)を装着させた場合には、膝関節の曲げ伸ばしが妨げられることで(馬の後肢には相反装置があるため)、寝起きの際に股関節を脱臼する危険を避けるため、キャストを外すまでの期間は駐立のまま飼養することがあります。前肢への全肢キャストでは、後肢よりもリスクは低いですが、馬の気性によっては、不自由な肢で起き上がる際の事故を防ぐため、やはり寝起きを制限する飼養法を選ぶときもあります。



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馬の寝起きを制限する手法

馬の寝起きを制限する方法として、最も簡易なのは、敷料を完全に取り除いて、空っぽの馬房で飼養することになります(上写真)。通常、敷料が無い状態では、馬は床に横たわるのを躊躇するためです。しかし、この手法では、馬が気にせずに、強引に床に寝そべってしまうという可能性は否定できず、また、糞尿の上を馬が歩き回るため、蹄叉腐爛などを発症する懸念もあります。ただ、そっぱり癖のある馬は、下記のような張り馬にするのが難しいため、この方法を選択するしかない事もあります。

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一方、張り馬にして寝起きを制限する方法としては、クロスタイ繋留があり(上写真)、これは、蹄洗場に馬を繋ぐときと同様に、頭絡に着けた2本の引き縄を、馬房の左右の壁に繋いで張り馬の状態にします。一般的に、馬は起立位から床に座り込むときに、一度、頭を床面まで下げてバランスを前に移し、四肢を集合させる姿勢を取るので、クロスタイで頭部を下垂できなくすると、馬は寝起きする事が難しくなります。しかし、この手法では、馬は一箇所に立ち続けることになるため、退屈してストレスが溜まることが多く、また、頭部を動かせる狭い範囲に、水桶と飼い桶の両方を吊るすのが難しくなる事もあります。

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別の手法としては、馬の頭上にワイヤーを通して(馬房の対角線に沿って)、そのワイヤーに設置した滑車と頭絡とを短いロープで繋ぐという、ヘッドタイ繋留というやり方もあります(上写真)。この場合、ロープのせいで頭部を下垂できないので、馬が寝そべるのを予防しながらも、滑車がワイヤーに沿って滑って移動するので、馬は馬房の中を歩き回れてストレスが少なく生活できます。また、馬房の対角線の二つのコーナーに、水桶と飼い桶を分けて設置できるというメリットもあります。欠点としては、クロスタイよりも拘束力は低いので、馬が力任せにロープを引きちぎって、床に座り込んでしまう可能性は残ります。なお、滑車ロープと頭絡を繋ぐ部位には、結束バンドやビニール紐を輪を入れておき、馬が本気で引っ張ったときには千切れてくれる(馬が頭頚部を痛める心配が減る)ようにしておきます。

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さらに、馬の寝起きを完全に防ぐ方法としては、馬に吊起帯を装着させて、天井のホイストで吊り上げるやり方もあります(上写真)。この場合、馬が力任せに座り込んでしまう可能性は低く、馬が吊起帯の“使い方”に慣れてくると、吊起帯に体重を預けて睡眠できるようになります。また、クロスタイやヘッドタイと異なり、馬の頭頚部の自由度が高く、床面近くまで頭を下垂できるので、気道粘膜の絨毛エスカレーターが機能して、下部気道の炎症を起こしにくくなります。一方、吊起帯による寝起き制限では、ヘッドタイ繋留と異なり、馬は馬房内を歩き回ることは出来ず、ホイストの真下で旋回するだけとなるため、ストレス軽減はヘッドタイのほうが優れています。また、ホイストで吊り上げる度合いをうまく調整しないと、腰角や肩端などに褥瘡を起こしてしまうこともあります。



馬の寝起きを制限するときに重要なこと

亀裂骨折などの症例において、寝起きを制限する飼養管理を行なうときには、馬が強引に寝そべろうとしてロープに絡まるなど、事故や怪我の可能性は否定できないので、必ず、数時間おきに馬の様子を見に行ったり、馬房の天井にオンラインカメラを設置して監視するなどの方策が推奨されます。また、飲水や摂食が充分に行えているかを毎日チェックするのを忘れず、発熱や発咳などの気道炎症の徴候が無いかも注視するようにします。寝起き制限を正しく適応すれば、幾つかの病態の保存療法が可能になるものの、馬の生活の質を著しく下げてしまわないよう、細やかな飼養管理を実施してあげることが重要になってくると言えます。

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