馬の文献:息労(Couetil et al. 2003)
文献 - 2022年09月20日 (火)
「北米における馬の回帰性気道閉塞の危険因子の解析:1990~1999年の1444症例」
Couetil LL, Ward MP. Analysis of risk factors for recurrent airway obstruction in North American horses: 1,444 cases (1990-1999). J Am Vet Med Assoc. 2003; 223(11): 1645-1650.
この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)の病因論(Etiology)を検討するため、1990~1999年に回帰性気道閉塞の診断が下された1444頭の馬、他の1444頭の対照馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)による、回帰性気道閉塞の危険因子(Risk factors)の評価が行われました。
結果としては、馬の年齢が上がるほど回帰性気道閉塞を発症しやすい傾向が認められ、四歳未満の馬と比較した場合、四~七歳の馬では五倍近く(オッズ比:4.9)、七歳以上の馬では六~七倍も(オッズ比:6.2~6.6)、回帰性気道閉塞の有病率(Prevalence)が高かった事が示されました。このデータは、回帰性気道閉塞の平均発症年齢が九歳で、他の疾患の平均発症年齢よりも有意に高かったという、他の文献の知見とも合致していました(Dixon et al. EVJ. 1995;27:422, Bracher et al. EVJ. 1991;23:136)。この要因としては、馬が回帰性気道閉塞を発症するまでには、遷延的なアレルギー抗原への曝露(Prolonged exposure)を要する事が上げられています(Robinson. Equine Respiratory Disease. 2001)。
この研究では、性別によって回帰性気道閉塞の発症し易さが異なる傾向が認められ、種牡馬(Stallion)に比べた場合、去勢馬(Gelding)では有病率に有意差(Significant differences)は無かったものの、牝馬(Mare)では四割以上(オッズ比:1.4)も回帰性気道閉塞の有病率が高かった事が示されました。この要因については、明瞭には結論付けられていませんが、メス馬のほうがアレルギー反応を起こしやすい遺伝子素因(Genetic predisposition)を持っていた可能性や、品種による飼養環境の違いが、回帰性気道閉塞の発症度合いに関与していた可能性が指摘されています。
この研究では、品種によって回帰性気道閉塞の発症し易さが異なる傾向が認められ、ポニーに比べた場合、サラブレッド種では三倍(オッズ比:3.0)、アメリカン・トロッター種およびモルガン種では二倍以上(オッズ比:2.1~2.3)、アラブ種では二倍近くも(オッズ比:1.9)、回帰性気道閉塞の有病率が高かった事が示されました。このように、サラブレッド種が、回帰性気道閉塞を発症しやすかった要因としては、競走能力を基に繁殖が続けられ、遺伝的類似性(Genetic similarity)が高い品種であること(つまり、あるタイプの病気を起こしやすい遺伝子が、濃くなっている場合が考えられること)、および、長距離輸送(Long-distance transportation)の回数が多い飼養形態から、ホコリの多い馬運車内に長時間置かれるという環境因子が、回帰性気道閉塞の発症に関与している危険性があること、などが上げられています。
この研究では、晩冬から春先にかけて回帰性気道閉塞を発症しやすい傾向が認められ、七月に比べた場合、一月~三月では二倍以上(オッズ比:2.1~2.7)、四月~六月でも二倍程度(オッズ比:1.5~2.4)、回帰性気道閉塞の有病率が高かった事が示されました。この要因としては、冬場には放牧から厩舎飼いに移行する馬が多いこと(より埃っぽい環境に移ること)、および、牧草地の青草ではなく乾草給餌(粉塵を吸い込みやすい)に切り替えられる馬が多いこと、などが上げられています。
この研究の限界点としては、(1)回帰性気道閉塞と夏季牧草関連性閉塞性肺疾患(Summer pasture-associated obstructive pulmonary disease: SPAOPD)との鑑別診断は下されておらず、何頭のSPAOPDの罹患馬が含まれていたのかは明確でないこと、(2)回帰性気道閉塞のため来院した症例のみが対象であるため、一般的な回帰性気道閉塞の病態を正確に反映しているとは限らないこと(症状の軽い回帰性気道閉塞は、来院しない場合も多かった?)、(3)回帰性気道閉塞の診断方法は、それぞれの臨床医によってまちまちで、どの程度の馬に対して確定診断(Definitive diagnosis)が下されていたかは考慮されていないこと、などが上げられています。
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結果としては、馬の年齢が上がるほど回帰性気道閉塞を発症しやすい傾向が認められ、四歳未満の馬と比較した場合、四~七歳の馬では五倍近く(オッズ比:4.9)、七歳以上の馬では六~七倍も(オッズ比:6.2~6.6)、回帰性気道閉塞の有病率(Prevalence)が高かった事が示されました。このデータは、回帰性気道閉塞の平均発症年齢が九歳で、他の疾患の平均発症年齢よりも有意に高かったという、他の文献の知見とも合致していました(Dixon et al. EVJ. 1995;27:422, Bracher et al. EVJ. 1991;23:136)。この要因としては、馬が回帰性気道閉塞を発症するまでには、遷延的なアレルギー抗原への曝露(Prolonged exposure)を要する事が上げられています(Robinson. Equine Respiratory Disease. 2001)。
この研究では、性別によって回帰性気道閉塞の発症し易さが異なる傾向が認められ、種牡馬(Stallion)に比べた場合、去勢馬(Gelding)では有病率に有意差(Significant differences)は無かったものの、牝馬(Mare)では四割以上(オッズ比:1.4)も回帰性気道閉塞の有病率が高かった事が示されました。この要因については、明瞭には結論付けられていませんが、メス馬のほうがアレルギー反応を起こしやすい遺伝子素因(Genetic predisposition)を持っていた可能性や、品種による飼養環境の違いが、回帰性気道閉塞の発症度合いに関与していた可能性が指摘されています。
この研究では、品種によって回帰性気道閉塞の発症し易さが異なる傾向が認められ、ポニーに比べた場合、サラブレッド種では三倍(オッズ比:3.0)、アメリカン・トロッター種およびモルガン種では二倍以上(オッズ比:2.1~2.3)、アラブ種では二倍近くも(オッズ比:1.9)、回帰性気道閉塞の有病率が高かった事が示されました。このように、サラブレッド種が、回帰性気道閉塞を発症しやすかった要因としては、競走能力を基に繁殖が続けられ、遺伝的類似性(Genetic similarity)が高い品種であること(つまり、あるタイプの病気を起こしやすい遺伝子が、濃くなっている場合が考えられること)、および、長距離輸送(Long-distance transportation)の回数が多い飼養形態から、ホコリの多い馬運車内に長時間置かれるという環境因子が、回帰性気道閉塞の発症に関与している危険性があること、などが上げられています。
この研究では、晩冬から春先にかけて回帰性気道閉塞を発症しやすい傾向が認められ、七月に比べた場合、一月~三月では二倍以上(オッズ比:2.1~2.7)、四月~六月でも二倍程度(オッズ比:1.5~2.4)、回帰性気道閉塞の有病率が高かった事が示されました。この要因としては、冬場には放牧から厩舎飼いに移行する馬が多いこと(より埃っぽい環境に移ること)、および、牧草地の青草ではなく乾草給餌(粉塵を吸い込みやすい)に切り替えられる馬が多いこと、などが上げられています。
この研究の限界点としては、(1)回帰性気道閉塞と夏季牧草関連性閉塞性肺疾患(Summer pasture-associated obstructive pulmonary disease: SPAOPD)との鑑別診断は下されておらず、何頭のSPAOPDの罹患馬が含まれていたのかは明確でないこと、(2)回帰性気道閉塞のため来院した症例のみが対象であるため、一般的な回帰性気道閉塞の病態を正確に反映しているとは限らないこと(症状の軽い回帰性気道閉塞は、来院しない場合も多かった?)、(3)回帰性気道閉塞の診断方法は、それぞれの臨床医によってまちまちで、どの程度の馬に対して確定診断(Definitive diagnosis)が下されていたかは考慮されていないこと、などが上げられています。
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