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馬の拍車キズの対処法

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ホースマンの皆様から、拍車キズ(Spur marks)への対処法について質問を頂くことがあります。ここでは、馬の拍車キズの病因や予防法などに関する知見を紹介します。

英国のハートプリー大学の研究[1]では、馬の拍車キズと騎乗者の拍車タイプについて、ホースマンへの聞き取り調査が行なわれました。その結果、拍車の長さが32mm以上の場合、拍車キズを起こす危険性が有意に高かったことが示唆されており、また、拍車の先端構造が回転するタイプの場合、拍車キズを起こす確率が五割増しになる(オッズ比=1.50)ことも分かりました。同様に、米国のミシガン州での研究[2]においても、馬の拍車キズの発症率が、拍車の長さと正の相関を示すことが報告されています。このため、拍車の形状や種類が、拍車キズの発症に関与している可能性が示されたと言えます。

しかし、これらの結果は、短い拍車を使えば拍車キズが生じないということではなく、拍車の使い方に問題があったときに、拍車が長いほど騎乗者のミスへの許容度が低くなるため、より正確な強さと頻度で拍車を使う技術が求められる、という解釈をすべきだと考えられます。どんなサイズや形状の拍車でも、その使用法を誤れば、拍車キズを生じてしまうリスクはあるからです。なお、前述の英国の研究では、拍車を使っている騎乗者は全体の47%に留まり、女性よりも男性の騎乗者のほうが、拍車を使う割合が三倍近くも高い(オッズ比=2.88)というデータも示されています。

参考文献:
[1] Lemon C, Lewis V, Dumbell L, Brown H. An investigation into equestrian spur use in the United Kingdom. J Vet Behav Clin Appl Res. Dec 2019. DOI:10.1016/j.jveb.2019.10.009.
[2] Uldahl M, Clayton HM. Lesions associated with the use of bits, nosebands, spurs and whips in Danish competition horses. Equine Vet J. 2019 Mar;51(2):154-162.

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馬に拍車キズが出来てしまった、もしくは、拍車キズになりかけている場合には、まず拍車の形状を変えてみることが推奨されます。前述のように、長過ぎる拍車や、先端が回転する構造になっている拍車を避けることに加えて、先端が角ばっているタイプよりも丸い形状のもの、もしくは、先端やアームの金属部がプラスチックで覆われているタイプ(上写真)を使用するのも一案です。さらに、拍車の柄が外向きの角度になっているタイプを使うことで、無意識にカカトが上がっても拍車が入らない(足首を外旋させれば拍車が入る)ように工夫するのも一案です(競技会では使用不可なので注意)。

また、長靴に拍車を取り付ける位置を低くしてみることも有用です。長靴によっては、カカトにある拍車止め(Spur rest)の位置が上すぎる可能性もあるので、拍車の位置を下げて拍車キズが予防できるのであれば、靴屋さんに依頼して、拍車止めを少し下のほうに付け替えてもらいましょう。勿論、拍車ベルトの金具が、キチンと長靴の外側に来ていることも確認しておきます。さらに、ホースマンによっては、馬の肢に巻くラテックスバンテージを拍車の上から巻くことで、拍車キズの予防を図ることもあります。

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馬に拍車キズが出来てしまった際には、拍車そのものを変えることに併せて、拍車キズが生じた箇所を保護する措置が必要になることもあります。拍車キズ予防のための馬具としては、拍車が接触する部分の体躯を一周するように装着させる腹部ラップ(別名:エラスティックガード、ボディプロテクター)や、ゼッケンが腹底近くまで伸びているものがあります(上写真)。また、バリカンで毛刈りをするときに、拍車が接触する部分だけ体毛を残しておく、というのも一案です(下写真)。さらに、ホースマンによっては、オイルやワセリン等を塗布して拍車と皮膚との摩擦を減らすことで、拍車キズを予防することもあります。

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一方、既に拍車キズが生じている場合には、騎乗を続けて良いのかの判断が必要となります。基本的に、キズが皮下識に及んで、滲出液や出血が見られるケースでは、キズが治癒するまで騎乗を中止することが推奨されます。その場合、速やかに獣医師に連絡して、軟膏等を処方してもらい、毎日の消毒処置等を要するかを診断してもらうことが重要です。拍車キズが進行すると、体躯であってもフレグモーネを発症する危険があり、また、拍車キズが治った後に、キズの部位が白毛になってしまう事があります。

もし拍車キズが、脱毛または表皮の擦過傷のみであれば、騎乗を続けることは可能ですが、上述のような対処法を施すことが強く推奨されます。馬の皮膚は薄いため、起こってしまった拍車キズを完治させるには数週間を要することもあるため、悪化を未然に予防することが極めて大切です。なお、皮下識に至る拍車キズが起きていなくても、脱毛等の皮膚病変があれば、日馬連競技会規定(第242条3.1)に定められた「拍車の過剰使用を示唆する兆候」と見なされて、競技の場では失権となる可能性もあるため注意が必要です。

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参考資料:
Kari Garber. Common Causes of Spur Marks and How to Address Them. Dressage Today: Dec 30, 2014.
How to prevent spur marks on your horse. Pro Equine Grooms.
Spur Rub Protection. Adams Horse and Pet Supplies.




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このエントリーのタグ: 馬具 疾病予防 運動 皮膚病

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