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馬の旋回癖への対処法

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馬の旋回癖とは、馬房の中で、円を描くように歩き回る動作を持続的に繰り返す異常行動を指し、サク癖や熊癖と並んで、馬の悪癖の一つに挙げられています。馬によっては、旋回するだけでなく、壁を蹴ったり前掻きする行動を伴うこともあり、また、パドック放牧に出したときにも旋回を繰り返す個体も見られます。ここでは、馬の旋回癖への対処法について紹介します。

参考資料:
Khawaja AA. Horse Stall Anxiety: All You Need to know! KeepingPet: Jan6, 2022.
Blocksdorf K. Why Horses Stall Walk or Fence Walk. TheSprucePets: Oct25, 2019.
Stall Vices Linked to Digestive Discomfort in Horses. Kentucky Eq News: Nov9, 2017.
Murphy M. Stopping stall walking in horses. Spalding Laboratories: Aug20, 2014.
Camargo AF. Stereotypic Behavior in Horses. University of Kentucky.



馬の旋回癖の原因と弊害

馬の旋回癖の原因は、ハッキリとは特定されておらず、此処の馬によって差異があると考えられていますが、一般的に、馬が退屈さや苛立ちを感じて、それを発散する行動であると言われています。その要因としては、他の馬から離れている孤独感、および、エサを食べていない時間や、馬房で過ごしている時間が長すぎることが挙げられています。馬という動物は、本来、群れで暮らしていて、一日の時間の3/4以上を摂食に費やす生活スタイルであるからです。また、馬が何かに怯えている場合にも、旋回癖を示すとも考えられています。

一方、馬の健康面に問題がある時にも、痛みや違和感に起因する苛立ちや不安感から旋回行動を示すことがあると言われており、最も多いのは、胃潰瘍によって慢性的な腹痛を呈しているケースが挙げられています。また、腸管への砂貯留による腹部鈍痛、慢性的な尿路感染による排尿時の痛みや違和感によって、馬が苛立ちや不安を覚える可能性もあります。さらに、メス馬の発情周期に伴うフケ行動、および、卵巣の腫瘍によってホルモン動態が不安定になった際にも、精神的な苛立ちから旋回行動に至ることもあります。

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馬が旋回癖になってしまうと、一日中歩き回ることで筋疲労を起こして、騎乗時のパフォーマンス低下、および、腱靭帯の疾患を誘発する(筋疲労状態で運動すると球節の過沈下を起こすため)という弊害があります。また、馬房の敷料が糞尿とかき混ぜられて、馬房掃除の手間が増えるだけでなく、蹄鉄の釘が緩んで落鉄を起こし易くなることもデメリットです。また、壁を蹴ることで、後肢の怪我を続発するリスクもあります。さらに、放牧中に旋回をする馬では、牧草が掘り返されて地面が露出したり(砂の誤嚥を誘発する)、蹄跡が深くなってしまうことも弊害だと言えます。



馬の旋回癖への対処法

馬の旋回癖を止めさせるためには、馬房にゴム板やタタミ等の障害物を吊るして、物理的に歩き回りにくくする方策もありますが、殆どの場合、障害物を避けながら狭い範囲で旋回を続けたり、旋回を止めて熊癖を始めるなどの問題を生じることが知られています。また、馬自身が旋回をすることで、退屈さや苛立ちを発散させている場合には、それを強制的に制限することで、馬が不機嫌な気性になって、ハンドリングや調教に弊害をきたす可能性もあります。

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旋回癖のある馬に対しては、退屈さを取り除くため、小まめに放牧することが推奨されており、馬房掃除の時間に放牧場に出したり、運動後に馬場に暫く放してから手入れをする、等の方法が挙げられます。また、騎乗時の運動メニューに多様性を持たせることも、馬が退屈さを感じないために有用であり、例えば、丸馬場で運動をさせてみる、外乗に出かける、ドレッサージュの競技馬であっても障害飛越をさせてみる等を、低頻度でも良いので行なってみることが推奨されています。さらに、休馬日でも完休にせずに、曳き馬や放牧することも良案だと言えます。

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また、旋回する馬に対しては、一日の摂食時間を長くすることで、退屈さを紛らわすのも有益であり、飼い付けの回数を増やす、もしくは、スローフィーダーを用いて給餌することで、飼料を完食するまでに時間を掛けさせる、などの方策があります。よりシンプルに、乾草を与える際に、一箇所ではなく、馬房の四隅に分散して置くだけでも、摂食に掛ける時間を延ばすことが可能です。また、苛立ちによって旋回行動を示すような神経質な馬に対しては、気性を落ち着かせるサプリを飼料添加してみるのも一案だと言えます。さらに、馬によっては、馬房に遊具を吊るすことで、退屈さを軽減できることもあります。

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一方、馬が旋回をする原因が孤独感である場合には、騎乗するときに、必ず他の馬と一緒に運動してあげるのが有効であり、また、放牧する際にも、他の馬と一緒に放牧場に出すことが推奨されます。また、馬房トビラに窓を開ける(又は、馬房のあいだの隔壁を格子にする)ことで、隣りや向かいの馬房の馬と顔を合わせられるようにすることも有益です。さらに、馬房壁に鏡を取り付けることで、馬が孤独感を持ちにくくする方策も試みられています。そして、もし可能であれば、旋回癖のある馬を広めの馬房に移して、ポニーや山羊を一緒に飼養することで、孤独感を無くして旋回を止めさせられる事もあります。

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これらの飼養管理法の変更を試してみても、旋回癖が改善されない場合には、旋回癖の原因が健康問題に起因する可能性を鑑みて、獣医師の健康診断を受けることが推奨されます。具体的には、胃潰瘍による腹部疼痛が原因でないかを確認するため、内視鏡検査による胃の内診や、胃酸抑制剤(オメプラゾール等)の試験的投与で症状の変化を監視する、などの方策が取られます。また、メス馬のフケ行動、砂疝、尿路感染などを除外診断してもらう(血液検査、糞便沈殿検査、尿検査等)ことも有用だと言えます。

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馬の旋回癖に関して重要なこと

馬の旋回癖は、馬体に弊害をもたらし、馬の飼養を難しくする可能性がありますが、それを「悪いクセ(悪癖)」だと決めつけるのではなく、精神的な苛立ちや不安感、退屈さ、もしくは、孤独感を表現している行動なのだと見なして、根本的な対処法を模索してあげることが大切だと言えます。旋回行動を、馬からの救難シグナルだと認識すれば、ホースマンの役目は、そのシグナルを強引に止めることではなく、シグナルが指し示している飼養管理の課題を探して、改善を図ってあげる事なのではないでしょうか。

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