馬の病気:肢軸異常
馬の運動器病 - 2013年08月27日 (火)

肢軸異常(Angular limb deformity)について。
内外方向への肢軸逸脱(Lateromedial deviation of limb axis)を生じる疾患で、発症部位の遠位側が外側逸脱する場合を外反症(Valgus deformity)、発症部位の遠位側が内側逸脱する場合を内反症(Varus deformity)と呼びます。多くの症例において、外反症は軽度の外転症(Outward rotation)を、内反症は軽度の内転症(Inward rotation)を併発しています。肢軸異常の病因(Etiology)としては、雌馬の妊娠中疾病(胎盤炎、寄生虫症、疝痛)に起因する立方骨不完全骨化(Incomplete ossification of cuboidal bone)や、橈骨や第三中手骨の発育不全と短縮化による、相対的な関節周囲軟部組織の弛緩(Laxity of periarticular structures)などが挙げられます。また、アンバランスな栄養給与や、運動過多による成長板損傷(Damage of growth plate)も発症素因と考えられています。
肢軸異常の視診においては、馬の前方からではなく肢の前方から直視し、手根関節(もしくは足根)、球節、蹄の外転度合いが釣り合っていることを確かめます。触診では、手動矯正(Manual correction)が可能であるか確認します。レントゲン検査(Radiography)では、立方骨不完全骨化、骨端硬化症(Metaphyseal sclerosis)、骨頭楔形化(Epiphyseal wedging)、骨端軟骨異形成(Physeal dysplasia)、骨幹部湾曲(Diaphyseal deviation)など鑑別診断(Differential diagnosis)を行い、術後の経過監視のため外内反症角度を測定します。
肢軸異常の内科的療法としては、馬房休養(Stall rest)、曳き馬運動(Hand-walking)、副木もしくはギプス固定(Splint/Cast fixations)などが有効です。また、装蹄療法(Therapeutic shoeing)としては、外反症には外側蹄側削切(Lateral hoof trimming)と内側蹄側伸長(Medial extension)させた蹄鉄の装着、内反症には内側蹄側削切(Medial hoof trimming)と外側蹄側伸長(Lateral extension)させた蹄鉄の装着によって、内外側負重を均衡化して軸性対称性骨成長(Axially symmetric bone growth)を促します。ただし、内外反症が中程度~重度の症例においては、装蹄療法単独での治療は、不正蹄形や関節軟骨変性(Articular cartilage degeneration)を引き起こすため、外科的療法後の補助的手法として実施することが重要です。
肢軸異常の外科的療法としては、凹側面(Concave aspect)の骨成長加速(Bone growth acceleration)と、凸側面(Convex aspect)の骨成長減速(Bone growth retardation)を基本方針とします。骨成長加速では発症関節に応じて、長骨遠位端(遠位橈骨、遠位管骨、遠位脛骨)の凹側面の骨膜切断術(Periosteal transection)を施し、遠位橈骨では痕跡尺骨(Rudimentary ulna)の除去を行います。骨膜切断術は内外反症矯正度合いによっては、複数回の施術が可能で、過剰矯正(Overcorrection)の危険が無いことが特徴です。骨成長減速では発症関節に応じて、長骨遠位端の凹側面の経成長板架橋形成術(Transphyseal bridging)を実施します。架橋形成(2裸子+ワイヤー)の変わりに、成長板を通過するような螺子固定術(Lag screw fixation through growth plate)が用いられる事もあります。また、術後は視診とレントゲン検査で、過剰矯正(Over-correction)の監視が重要です。そして、重度の病態もしくは加齢によって、長骨成長容量が残り少ない場合には、骨膜切断術と架橋形成術の二つの手術を併用する必要があります。さらに、管骨の骨幹部湾曲や重度の内外転症を示す症例では、段差骨切除術(Step ostectomy)もしくは楔型骨切除術(Wedge ostectomy)による肢軸矯正が試みられます。段差骨切除術では骨片除去による骨短縮化を防げますが、内外転症の矯正に関しては楔型骨切除術の方が手技的に簡易です。
一般に内外反症の角度が大きいほど予後は悪く、また、回転軸が遠位になるほど予後が悪化することが報告されています。成長板の閉鎖時期は、管骨遠位端の方が橈骨遠位端に比べ早期のため、球節の内外反症は生後六ヶ月までに、手根関節の内外反症は生後九ヶ月までに実施することが推奨されています。
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