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馬の経口投与の方法

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一般的に、馬に治療薬を投与する場合には、数日間にわたる投薬を要することが多いため、獣医師の往診料の高騰を避けるため、クライアント自身が投与することが多いですが、この際には、筋内投与や静脈内投与に比較して、馬主や飼養管理者が内服薬を経口投与させる方法がより安全になります。例として、フレグモーネや輸送熱に対する抗生物質投与では、通常は、五日間または十日間にわたる投与となるため、注射針の穿刺を要する筋注のリスクを避けて、経口投与できる薬剤が選択されることがあります。また、胃潰瘍に対する胃酸抑制剤や、浸潤性腸疾患に対する抗炎症剤など、投与期間が数週間から数ヶ月にわたる治療においても、クライアント自身による経口投与が行なわれることが一般的です。ここでは、馬に対する内服薬の経口投与について解説します。

参考資料:
Oral medication tips for horse owners: EquiDoc Veterinary Services.
10 Tips for Giving Horses Oral Medications: The Horse, Special Report.
Give Oral Medication to Difficult Horse: Horse Side Vet Guide.
Barakat C. Giving Medication by Mouth. EQUUES: Jul25, 2019.
How to give oral medication: Rideau St Lawrence Veterinary Services.

馬に対する内服薬の経口投与では、クスリを飼料に混和して摂食させる方法が簡単です。この場合、粉末薬であればそのまま、錠剤であれば粉状に砕いてから飼料に混和させます。錠剤を砕くには、市販の乳鉢で粉砕したり、ジップロック等のプラスティック袋に入れて木槌で叩いたり、もしくは、ヒト用のコーヒー豆の粉砕器を使用することも出来ます(使用後の洗浄をシッカリ行なう要あり)。なお、粉状になったクスリを、ヒトが吸い込んだり接種すると健康を害する可能性があるため(特にクロラムフェニコール等の抗生物質では)、処置時には必ずマスクをつけて、経口投与後には手指を洗浄するようにします。

通常、馬用に生成された粉末薬であれば、リンゴ味などが付けてあることが殆どですが、そうでない粉末薬や錠剤の場合には、苦味が強いため、嗜好性が落ちることがあります。このため、フスマ等の甘味のある濃厚飼料に混ぜたり、すりおろした人参やリンゴに混和して、他の飼料とは別にして、飼い付け前に給与することが大切です(薬剤の全量を接種したかを確認するため)。もし、他の飼料と一緒に給餌する場合には、残飼が無いかを必ず確認するようにします。

一方、内服薬を飼料に混和させても、その味を嫌悪して完食しない馬に対しては、用手にて内服させる方法が推奨されます。この場合、前述と同様に、粉末薬であればそのまま、錠剤であれば粉状に砕いてから、シリンジ内で蜂蜜もしくは糖蜜と混和して、馬の口内に注入することで用手にて嚥下させることが一般的です。蜂蜜や糖蜜の代わりに、水道水に混和して経口投与させることも可能ですが、粘稠度の高いものと混ぜたほうが、馬が吐き出してしまうリスクが低くなります。馬は、舌をあまり器用に操作できないため、粘り気のある物体を口内に注入すると、それを吐き出すことが難しく、最終的に全量を嚥下してくれることが一般的です。また、蜂蜜や糖蜜と混ぜることで、薬剤そのものの苦味を中和してくれるというメリットもあります。

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内服薬と蜂蜜/糖蜜をシリンジ内で混ぜるときには、少し大きめのサイズのシリンジを使うことで、混和するときに粉がこぼれにくく、口内への注入も容易になります(内筒を押し込む距離が短くなるため)。使うシリンジは、通常の注射用シリンジの先端をノコギリで切断したものを使うと、内服薬と蜂蜜/糖蜜を混ぜるのも容易で、混ぜた薬剤の全量を確実に注入することが出来ます。シリンジの先端がカテーテル装着用になっているものを使えば、先端をノコギリで切る必要が無くなりますが、シリンジのハブ部分に薬剤が残ってしまい、全量を注入できないというデメリットがあります。また、動物の経口投与に用いる専用の金属製シリンジも市販されていますが、やや高価で、内部を洗浄する手間も掛かるため、通常のシリンジを用いて、それを定期的に廃棄するほうが簡易だと言えます。

シリンジ内で、粉状にした薬剤と蜂蜜/糖蜜を混和させる際には、まず少量の蜂蜜/糖蜜をシリンジに入れておき、その上に粉を入れて、さらにその上から蜂蜜/糖蜜を追加して、マドラーや割り箸などを用いて、薬剤と蜂蜜/糖蜜を十分に混ぜ合わせます。この際、内筒を上下させて、ゴム部分に蜂蜜/糖蜜を馴染ませておくと、後で内筒を押し込むのが容易となります。錠剤を乳鉢で砕いた場合には、乳鉢の底面に薬剤がこびり付くことが多いため、プラスチック製のスプーン等でそぎ落として、必ず薬剤の全量をシリンジ内に移動させるようにします。

実際に内服薬を投与する際には、馬に無口と曳き手を装着させて、馬の頭部の保定や制御を容易にすることが望ましく、もし可能であれば、補助者に保定を援助してもらいます。経口投与を嫌悪して、頭部を高く挙上してしまう馬の場合には、踏み台を容易しておきます。経口投与は、馬房内で実施しても構いませんが、蹄洗場などの床面がゴムで覆われている場所で実施すれば、万が一に、馬が薬剤を吐き出した場合にも、床に落ちた薬剤をすくい取って、また馬の口内に押し込むことが可能となります。経口投与に強く抵抗する馬に対しては、鼻捻棒を装着して保定することも出来ますが、鼻捻棒を着けられると硬直してしまい、口内に注入された薬剤を嚥下しない馬も多いため、普段から経口投与の手順に慣れさせておいて(薬剤を混ぜない蜂蜜だけを与える等)、鼻捻棒なしで自発的に嚥下させることが望ましいです。

馬の口内にシリンジを挿入する際には、切歯と臼歯の隙間(歯槽間縁)からシリンジ先を押し込むことで、馬がシリンジを嚙み砕いて、プラスチックの破片を誤嚥してしまうリスクを避けられます。この際、いきなりシリンジを口内に入れると、馬が驚いて頭部を挙上してしまうため、利き手にシリンジを持ち、反対の手の指で歯槽間縁(シリンジを入れるのと反対側)の粘膜をマッサージしながら、ゆっくりとシリンジを口内に押し込むと効果的です。その後は、シリンジ先端がノド奥の方向に向けて、シリンジ外筒の半分以上が口内に入るまで押し込み、馬の舌先ではなく、舌の上にシリンジ先がくるようにしてから、内筒を押して、シリンジ内の薬剤を口内に注入します。口内に薬剤が入ってきた瞬間に、急に頭部を挙上する馬もいるため、実施者または補助者が鼻梁に手を当てて、頭部の動きを制御するようにします。なお、舌を引き出しながら経口投与させると、薬剤を気管に誤嚥するため、実施は禁忌とされています。

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馬の舌上に薬剤を注入した後は、シリンジを引き抜くと同時に、下顎を持ち上げて、頭部を挙上させるようにします(鼻梁が地面と平行になるくらいの高さまで)。こうすることで、たとえ馬が口を開け閉めしても、舌上の薬剤が床に垂れてしまう事がなくなります。通常は、30秒ほど頭部を挙上させておけば、馬は口内にある薬剤を嚥下してくれるので、馬のノドの動きを注視しておくようにします。もし、馬がその状態のまま硬直して、なかなか嚥下をしない場合には、歯槽間縁を指でマッサージしたり、ノドをさすったり、持ち上げている頭部を左右に揺することで、馬が嚥下するのを促します。その後は、手を放して、馬の頭部を自由にしますが、口先に手をかざしておいて、万が一に、馬が薬剤を吐き出した場合には、それを受け止めて、再度、口内に押し込むようにします。経口投与の直後に、角砂糖などを与えれば、陽性強化(Positive reinforcement)で、馬が経口投与を嫌悪してしまうのを防ぎ、また、薬剤の苦味を紛らわせることも出来ます。

経口投与に使用したシリンジは、十分に水洗して、内筒を入れた状態で乾燥させることで、ゴム部分が膨張してしまうのを防ぎます。また、乳鉢やマドラーなどの器具も、毎回きれいに水洗しておきます。もし、同じシリンジを何度も使うことで、内筒が押し込みにくくなった場合には、ゴム部分にワセリンを塗って使うのが有効です。

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参考動画:GVEC How To Series: How To Give Oral Medications To Your Horse.





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