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障害飛越の反抗や落下を科学する

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乗馬における障害飛越競技は、馬術競技の一つで、障害物が設置されたコースを、乗馬して通過する技術を競う競技です。障害飛越の採点は、基本的に減点方式で行なわれ、障害物を逃避したり拒止した場合を反抗、バーを落下させたり障害を壊した場合を落下として、いずれも減点行為となりますが、反抗を二回繰り返したり、落馬や経路違反した場合などでは失権となります。

今回は、障害飛越における減点(主に反抗や落下)が起こる要因について、科学的に解析した知見を紹介します。この研究では、国際馬術連盟開催の複数の障害飛越競技大会(国際大会と地方大会の両者を含む)のビデオ記録を用いて、計222頭の競技馬(計144人の騎乗者)が行なった合計9,114回の飛越(計320個の障害物)における減点行為の発生状況の調査と、その発生に関わる因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Nicova K, Bartosova J. Still beyond a chance: Distribution of faults in elite show-jumping horses. PLoS One. 2022 Mar 16;17(3):e0264615. doi: 10.1371/journal.pone.0264615.

結果としては、全体としての減点行為の発生率は7.85%で、障害物の難易度が上がるごとに減点行為の発生リスクが有意に増加していました。また、最も減点行為が起こり易かった障害物は、水濠と組み合わさった垂直障害で、三連バーや壁状の障害物は減点行為が起こりにくいことが示されました。さらに、過去の競技会で完走した回数が多い騎乗者ほど、減点行為を起こすリスクが低いことも分かりました。そして、単一障害に比較して、連続障害のほうが、減点行為が有意に起こり易かった(一つ目および二つ目の障害物の何れも)ことも判明しています。これらのデータは、今後のコースデザインにおいて、経路の難易度の調整や、調教面に配慮した経路設定する際に役立つと考察されています。

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この研究において、最も減点行為が起こり易い障害物は、水濠と組み合わさった垂直障害であり、二番目に減点行為が起こり易い障害物も、水濠と組み合わさったオクサー障害となっていました。これらの要因としては、水面に映る影を馬が恐がる傾向にあったこと、飛越の弧を予測するのが難しいこと、地面と水面とのコントラストの違いが踏切を難しくすること、等が挙げられています。今回の研究対象である、高いレベルの障害馬においても、やはり、水濠と組み合わさった障害物の難易度は高いことが示されたことから、飛越トレーニングの段階においても、水濠を飛び越える調教が重要であることが再確認されたと言えます。一方、壁状の障害物における減点行為が少なかったという結果は、他の文献[1]の知見と相反する面もありますが、特殊な形状の障害物であることから、騎乗者がアプローチの速度や角度に十分に注意を払うなどのバイアスが働いたため、結果的に減点行為の少なさに繋がったと推測されています。

この研究では、二連続の障害のうちで減点行為が起こる確率は、最初の障害のほうが高かったのに対して、三連続の障害のうちで減点行為が起こる確率は、最初の障害が一番低かったことが分かりました。このうち、二連続の障害の事象は、二番目の障害物が視界に入って、人馬の注意がそらされたことや、障害間の距離によっては、最初の垂直障害を飛越する弧をフラットにしにくかったこと、等が考えられました。一方、三連続の障害の事象に関しては、地方大会でのデータだけを見ると、三連障害の最後の障害物が最も減点行為を起こし易くなっており、この影響で、三連続の最初の障害物に比較して、相対的な減点発生率が上がったものと考察されています。

この研究では、障害へのアプローチにおける歩様速度や、アプローチ角度は、減点行為とは有意には相関していませんでした。また、障害物の高さ、障害物の装飾度合い、アプローチラインの違い(直線v.s.回転)なども、減点行為の起こり易さとは相関していませんでした。一般的に、馬の左脳刺激(右目で障害物を見る場合)は「習慣」に対応しているのに対して、右脳刺激(左目で障害物を見る場合)は「警戒」に対応するため、馬の不安や緊張を生じることが知られています。このため、今回の研究者の仮説では、左回転でアプローチする場合には、左目で障害物を見ながら接近するため、右脳刺激によって馬が不安に駆られて、減点行為の発生率が上がると推測されていましたが、研究データからはその傾向は認められませんでした。これに関しては、今回の研究対象となったような高いレベルの競技馬であれば、左右両回転でのアプローチから飛越するトレーニングを十分に積んでいたことや、熟練した騎乗者は、たとえ左回転のアプローチであっても、馬の頭頚を屈曲させて両目で障害物を視認させていたこと、などの考察がなされています。なお、過去の文献[1,2]を見ると、馬が障害物から逃避する割合は、直線アプローチよりも回転アプローチの方が高かったものの、この影響は地方大会でのみ認められ(統計的に有意な影響)であり、国際大会レベルの競技では影響を与えていなかったと報告されています。

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この研究では、第一走行での歩様速度(6.09m/s)と比較して、ジャンプオフでの歩様速度(7.03m/s)は、当然ながら有意に速くなっており、また、ジャンプオフにおける歩様速度が速いほど、減点行為を起こすリスクは低くなっていました。これは、速度を上げること自体が、減点を減らすメリットを生むという解釈ではなく、ジャンプオフの後半に出走する騎乗者ほど、技術が高く減点が少ない傾向があり、さらに、先に走行した人馬のタイムに基づいて、歩様速度を速めるケースが多かったためと考察されています。一方、この研究における歩様速度は、経路全体の走行タイムから算出されているため、此処の障害物へとアプローチする瞬間の歩様速度を計測することで、飛越成功への影響度合いをより正確に評価できるという考察もなされています。

今回の研究では、国際大会だけのデータを見ると、経路の後半に配置された障害物ほど、減点行為を起こす確率が高くなっていました。これは、馬の筋疲労の影響が出たと推測されますが、それに加えて、コースデザイナーが競争性を増す目的で、経路の終盤に難易度の高い障害物を配置したためであると考察されています。一方、地方大会だけのデータを見ると、三~四番目の障害物で減点行為が多かったものの、逆に、十番障害以降での減点行為は少ない傾向が認められました。これは、コースデザイナーが馬の調教面でのメリットを考慮して、経路の終盤での障害物の難易度を下げることで、経路を完走しようという馬のモチベーションを向上させるためであったと考察されています。

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参考文献:
[1] Stachurska A, Pieta M, Nesteruk E. Which obstacles are most problematic for jumping horses? Applied Animal Behaviour Science. 2002;77(3):197–207. 10.1016/S0168-1591(02)00042-4.
[2] Marlin D, Williams J. Faults in international showjumping are not random. Comparative Exercise Physiology. 2020;16(3):235–41. doi: 10.3920/cep190069 WOS:000522158800009.

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