馬の文献:息労(Camargo et al. 2007)
文献 - 2022年09月30日 (金)

「トリメトキノール:回帰性気道閉塞の罹患馬における噴霧化投与および経口投与後の気管支拡張作用」
Camargo FC, Robinson NE, Berney C, Eberhart S, Baker S, Detolve P, Derksen FJ, Lehner AF, Hughes C, Tobin T. Trimetoquinol: bronchodilator effects in horses with heaves following aerosolised and oral administration. Equine Vet J. 2007; 39(3): 215-220.
この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に対する有用な治療法を検討するため、六頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、乾草給餌および藁敷料に曝露することで呼吸器症状を誘発(Induction of respiratory signs)してから、トリメトキノールの噴霧化投与(Aerosolized administration)および経口投与(Oral administration)を実施して、その後の肺機能(Lung function)の評価が行われました。
結果としては、トリメトキノールの噴霧化投与では、胸膜緊張最大変化(Maximal change in pleural pressure)の減退を生じる、用量依存的な気管支拡張効果(Dose-dependent bronchodilation)が認められ、心拍数(Heart rate)の増加や他の副作用(Side effect)の発現は認められませんでした。また、高濃度のトリメトキノールの噴霧化投与では、投与から30分後と、二~四時間後という、二相性の効能が見られました。一方、トリメトキノールの経口投与では、探知可能(Measureable)なレベルの肺機能の改善作用は示されませんでした。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、噴霧化トレトキノールによる吸引療法(Inhalation therapy)を介して、良好な肺機能の改善作用が期待できることが示唆されました。
一般的に、非選択性(Non-selective)のベータ・アドレナリン受容体作動薬(Beta-adrenoceptor agonist)であるトリメトキノールは、人間の喘息(Asthma)の治療に応用されており(Konkar et al. J Pharmacol Exp Ther. 1999;291:875)、馬に対する経口投与および経気管支投与(Intra-tracheal administration)においては、一過性の気管支拡張作用(Short-lived bronchodilation)の他に、非常に強い心刺激性(Extremely potent cardiac stimulant)(発汗、興奮、頻脈、etc)が示されています(Camargo et al. EVJ. 2006;38:563)。今回の研究では、トリメトキノールの吸引投与によって、良好な気管支拡張を示しながら、心機能への有害作用(Adverse effect)は確認されておらず、馬の回帰性気道閉塞に対する効果的かつ安全な治療薬として応用可能である事が示唆されました。
この研究では、トリメトキノールの噴霧化投与によって、投与の五分後から気管支拡張効果が示され始め、30分~一時間にわたって継続しており、パーブテロール(Pirbuterol)やアルブテロール(Albuterol)などの他のベータ・アドレナリン受容体作動薬と同程度に、迅速な効能を呈していました。そして、胸膜緊張最大変化の改善度合いは、パーブテロールの吸引投与では58%の減退(Derksen et al. EVJ. 1996;28:306)で、アルブテロールの吸引投与では57%の減退(Derksen et al. AJVR. 1999;60:689)であったのに対して、今回の研究におけるトリメトキノールの吸引投与では75%の減退に達しており、他の二種類の気管支拡張薬に比べて、より高い気管支拡張作用を誘導できる可能性があると考察されています。
この研究では、トリメトキノールの経口投与によって、探知可能なレベルの肺機能の向上効果は認められておらず、馬におけるこの薬剤の経口的な生物学的利用率の低さ(Low oral bioavailability)が示されました。一方、人間の医学分野では、より高濃度の薬剤を一日三~四回にわたって経口服用することで、充分な気管支拡張作用が発揮されていますが、馬に対しては、潜在的な副作用発現の危険性を考慮して、投与濃度の更なる上昇は試みられませんでした。
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