馬の胃潰瘍サプリは毎日あげても大丈夫?
馬の飼養管理 - 2022年10月01日 (土)

馬は胃潰瘍を起こし易い動物であることが知られており、その要因としては、一日中コンスタントに胃酸が分泌されること、および、胃袋の上半分を占める扁平上皮部がpH変化に弱い構造であること、などが挙げられています。また、レースや長距離輸送など、ストレスの多い馬ほど、胃潰瘍を発症しやすいことも知られています。
一般的に、自然な環境で生活している馬では、一日の3/4以上の時間を、青草を食むことに費やすため、唾液や粗飼料が持続的に胃内に入ってくることから、胃酸が中和されて胃潰瘍の発症には至りません。馬の唾液は、重炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液であるため、これが胃酸を緩衝してくれますし、咀嚼されて細片化した牧草が、物理的に胃壁を覆って保護する役目を果たします。
しかし、厩舎飼いされている馬では、飼い付けの時間に集中的に摂食するため、その合間には胃酸が中和されず、胃潰瘍を起こし易い胃内環境となってしまいます。このため、胃潰瘍を患っている馬に対しては、胃酸を緩衝する作用を持ったサプリメントが飼料添加されることがあり、酸とアルカリの両方のイオンを吸収することで、胃内pHが急激に変化するのを防ぐ効能が期待されます(上記リンク)。
近年では、馬の胃潰瘍を予防する効能を謳った多種類のサプリが市販されており、此処の製品によって、緩衝作用の強さや、効果の持続時間が異なるものの、いずれも、胃内環境が急激に酸性に傾くのを防ぐことが出来ます。過去の研究では、アルファルファ乾草では、胃酸を中和する効果が高いことが示されており、また、海草から誘導されるカルシウムも、緩衝作用があることが報告されています。

馬の胃潰瘍を予防するサプリメントは、胃酸の分泌を抑制する効果は無く、あくまで、分泌された胃酸を中和するのみであり、その効能も、摂取してから数時間しか持続しません。このため、そのようなサプリメントを常に飼料添加していても、馬の消化器に対して悪影響を及ぼす可能性は非常に低く、長期的に飼料添加することで弊害を生じる心配もありません。この点が、プロトンポンプ拮抗剤(オメプラゾール等)などの胃酸の分泌自体を抑制する薬剤とは、根本的に作用メカニズムが異なるポイントになります。
一方で、胃潰瘍を予防するサプリメントは、それが胃内にある間しか緩衝作用を発揮することは出来ず、摂食物と一緒に幽門を通過して小腸に流れて行ってしまうと、胃酸を中和する効能も得られないことになります。つまり、サプリメントの飼料添加は、あくまで補助的な役割に過ぎず、小まめに放牧に出してあげたり、給餌回数を増やしたり、スローフィーダーを用いて摂食時間を延長するなど、胃潰瘍を予防するための飼養管理の効果を補填する目的で使用する、という認識が重要であると言えます。

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参考資料:
Clair Thunes, PhD. Can I Feed My Horse an Acid-Buffering Supplement Long-Term? The Horse, Commentary, Digestive System, Digestive Tract Problems, Diseases and Conditions, Horse Care, Nutrition, Sports Medicine, Supplements, Ulcers: Sep19, 2022.