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馬の文献:息労(DeLuca et al. 2008)

「回帰性気道閉塞に罹患した舎飼い馬における飼料変更にデキサメサゾンの経口投与を併用することによる気道細胞の炎症性遺伝子活性への影響」
DeLuca L, Erb HN, Young JC, Perkins GA, Ainsworth DM. The effect of adding oral dexamethasone to feed alterations on the airway cell inflammatory gene expression in stabled horses affected with recurrent airway obstruction. J Vet Intern Med. 2008; 22(2): 427-435.

この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に有用な治療法を検討するため、十二頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、乾草給餌および藁敷料に曝露することで呼吸器症状を誘発(Induction of respiratory signs)してから、無作為選出(Random selection)した六頭では飼料変更(Feed alterations)を行い、他の六頭では飼料変更にデキサメサゾンの経口投与(Oral administration)を併用して、その後の肺機能(Lung function)の評価、および、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)における気道細胞の炎症性遺伝子活性(Airway cell inflammatory gene expression)の解析が行われました。

結果としては、いずれの治療郡においても、気管支肺胞洗浄液の好中球数(Neutrophil count)や努力呼吸(Breathing efforts)の減退が認められましたが、デキサメサゾンの併用によって、治療失敗(Treatment failure)を呈する確率が有意に低下したことが示されました。また、飼料変更のみの治療郡に比べて、デキサメサゾンの経口投与が併用された治療郡では、気道細胞におけるインターロイキン8(Interleukin-8: IL-8)、キモカイン・リガンド2(Chemokine ligand 2)、インターロイキン1ベータ(IL-1beta)などの遺伝子活性が、三倍~五倍も下方制御(Down-regulation)されていた事が確認されました。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬において、厩舎飼いから放牧飼養への切り替えが難しく、飼料変更による管理法改善(Management improvement)に依存しなければならない場合には、コルチコステロイドの経口投与を併用することで、より効果的な抗炎症効果が誘導できることが示唆されました。

この研究では、デキサメサゾンの経口投与によっても、気管支肺胞洗浄液における好中球増加症が改善されなかった馬は一頭のみでしたが、この馬の気道細胞の炎症性遺伝子活性は、デキサメサゾン投与が奏功した馬に比べても、有意には異なっていませんでした。このため、気管支肺胞洗浄液の性状が変化しなかったのは、グルココルチコイド受容体の欠損(Deficiency of glucocorticoid receptors)、非反応性の受容体アイソフォームの優勢(Predominance of an ineffective receptor isoform)、受容体核内移動の抑制(Inhibition of the nuclear translocation of the receptors)などが原因ではなく、超酸化物ラジカル(Superoxide radicals)やロイコトリエン(Leukotrienes)などの他の化学誘引物質(Chemoattractants)が関与していた可能性がある、という考察がなされています(Art et al. EVJ. 1999;32:397, Lindberg et al. AJVR. 20004;65:289)。

この研究では、気道上皮(Airway epithelium)の炎症性遺伝子活性の減退においては、飼料変更のみの治療郡と、デキサメサゾンの経口投与が併用された治療郡とのあいだで、同程度の効能が確認されました。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬においては、クスリによる内科的治療なしでも、アレルギー抗原への曝露を減らす管理法改善を行うだけで、気道内への好中球遊出(Emigration of neutrophils into the airways)を減退でき、管腔細胞(Airway luminal cells)の炎症性遺伝子活性を静止状態(Quiescent stage)に保てることが示唆されました。また、炎症性サイトカインによって増強される場合のある、トール様レセプター4(Toll-like receptor 4)への気道上皮受容体の活性(Expression of airway epithelial receptors)は、抗炎症剤の投与とは関連していない事が示唆されました。そして、このデータは、回帰性気道閉塞の罹患馬の気道上皮において(急性期および慢性期のいずれにおいても)、トール様レセプター4の活性亢進が確認できなかったという知見とも合致していました(Ainsworth et al. AJVR. 2006;67:669)。

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