馬の大腿骨骨折のエコー検査
話題 - 2022年10月04日 (火)

大腿骨骨折は、馬の長骨骨折のうち16.5%を占めることが知られており、大型機器を使用しなければX線画像での確定診断が難しいことが知られています(特に近位部の骨折において)。ここでは、エコー検査を用いた馬の大腿骨骨折の診断についての知見を紹介します。
参考文献:
Jones SA, Whitcomb MB, Vaughan B, Goorchenko G, Busch R, Kilcoyne I, Spriet M. Ultrasonographic diagnosis of femoral fractures in large animals. J Am Vet Med Assoc. 2022 Jul 28:1-8. doi: 10.2460/javma.22.02.0081. Online ahead of print.
この研究では、2000~2019年にかけて、UCデービス獣医学部の大学病院で診察された症例のうち、エコー検査またはX線検査によって大腿骨骨折が診断された症例馬6頭における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。その結果、6頭すべての症例において、エコー検査で大腿骨の推定診断が下されたものの、大型X線機器を用いた撮影が実施された馬のうち(6頭中の4頭)、X線画像上で大腿骨骨折を確認できた症例はいなかったことが報告されています。なお、安楽殺後の病理学検査では、エコー検査で示唆された大腿骨骨折が確認されました。

この研究におけるエコー検査では、大腿部を刈毛してエコーゲルを塗布した後、2.5MHzまたは5.0MHzのリニアプローブを用いて、経皮的もしくは経直腸的に大腿骨を描出して(上写真は正常な大腿骨のエコー像)、皮質骨面の不連続性や段差、低エコー性の出血巣の所見を確認することで、大腿骨骨折の推定診断が下されました。特に、大腿骨近位部の骨端骨折(成長板骨折)や大転子の骨折では、X線画像で骨折箇所を映すのは困難であるため(全身麻酔下の仰臥位で撮影すれば可能)、エコー検査で骨折を発見する手法が有用であると考察されています。
この研究では、馬6頭のほか、牛5頭と象1頭も検査されましたが、100%の症例において、エコー検査によって大腿骨骨折の生前診断が下されました。一方で、捻髪音が聴取された症例は25%に留まっており、後躯の聴診で骨折部位の場所や性状を診断するのは困難であると考えられました。また、骨折に伴う後肢の腫脹は83%の症例で認められたものの、浮腫が重力性に下垂してくるため、腫れている箇所から骨折部位を推定するのは信頼性が低いという提唱がなされています。

上写真は、七歳のピントホースに発症した大腿骨の粉砕骨折におけるエコー像で、皮質骨面の段差(白矢印)や、低エコー性の血腫の所見(白矢頭)が認められます。また、下写真は、22歳のクォーターホースに発症した大腿骨大転子の骨折におけるエコー像で、皮質骨面の段差(白矢印)と低エコー性の血腫病変(白矢頭)が確認できます。

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