馬の肢巻きの圧はどれくらい持続する?
馬の飼養管理 - 2022年10月05日 (水)

馬の四肢に巻かれるバンテージについて、皮膚に対する圧迫力がどれくらい持続するのかを検証した研究を紹介します。
参考文献:
[1] Canada NC, Beard WL, Guyan ME, White BJ. Measurement of distal limb sub-bandage pressure over 96 hours in horses. Equine Vet J. 2017 May;49(3):329-333.
[2] Canada NC, Beard WL, Guyan ME, White BJ. Effect of bandaging techniques on sub-bandage pressures in the equine distal limb, carpus, and tarsus. Vet Surg. 2018 Jul;47(5):640-647.
米国のカンザス州立大学の研究[1]では、健常馬の管部に皮膚センサーを取り付け、その上から圧迫肢巻きを巻いた後、96時間にわたってバンテージ下の圧迫力が計測されました。この研究では、二種類のバンテージ法が試験されており、一つ目は、肢巻き用のパッドの上から布製バンテージを巻いたもので(ポロラップ)、一般的に、厩舎肢巻きとして使用されるバンテージで、二つ目は、コットンロールの上からガーゼおよび弾性レイヤーを巻いたもので(コンプレッションバンテージ)、通常、医療的な目的で使用される圧迫バンテージでした。
結果としては、コンプレッションバンテージにおける圧迫力は、ガーゼと弾性レイヤーを巻くことで、80mmHgであったものが165mmHgまで上昇しており、創部への圧迫が十分に掛けられていることが示されたものの、肢巻き装着から96時間後には、圧迫力が135mmHgまで減少しており、特に6~12時間後に顕著に減少していたことが分かりました。一方、ポロラップにおける圧迫力は75~85mmHgで、背側部のほうが外側部よりも圧迫力が高かったものの、時間的に有意な変化は認められず、肢巻き装着から24時間後まで、バンテージ下の圧迫力は持続していました。
このため、四肢の治療用に装着されるコンプレッションバンテージでは、少なくとも四日おき(96時間毎)にバンテージを交換することで、バンテージ下の皮膚への圧迫力が持続するという結果が示されました。勿論、創部を保護するという意味では、四日以上の間隔でバンテージ交換することも考えられますが、創部からの滲出液を吸い込んだり、発汗によって内部が蒸れてしまうことを考慮すると、やはり、週二回程度の頻度でバンテージ交換するのが望ましいと言えそうです。一方、立ち腫れの予防などの目的で使用される厩舎肢巻きでは、一日一回は巻き直すことが一般的であり、その頻度(24時間おき)でもバンテージ下の圧迫力は持続することが示唆されました。

同研究者の次の研究[2]では、健常馬の手根部(前膝)に対して、前述と同様のコンプレッションバンテージの装着、または、粘着性素材(エラスチコン等)を用いたコンプレッションバンテージの装着を行なって、その状態で常歩をさせ、その前後において、皮膚センサーによるバンテージ下の圧迫力の測定が実施されました。その結果、コンプレッションバンテージによる圧迫力(154mmHg)は、粘着性素材を用いた場合のほうが低かった(70mmHg)ものの、肢巻きを装着させた状態で馬を常歩させると、粘着性素材を用いたコンプレッションバンテージでは、バンテージ下の圧迫力が維持されるのに対して、通常のコンプレッションバンテージでは、圧迫力が有意に減少することが分かりました。
また、この研究では、足根部(飛節)にもコンプレッションバンテージを装着させ、踵骨隆起の部位にスリットを空けた場合と空けていない場合で、バンテージ下の圧迫力が比較されました。その結果、足根部のコンプレッションバンテージにおいては、踵骨隆起部にスリットを空けることで、圧迫力が急激に低下してしまうことが示されました。さらに、管部へのコンプレッションバンテージ装着において、中身のコットンロールを一重の場合と二重の場合を比較したところ、コットンロールを二重に巻いた方が、有意に圧迫力が低くなることも分かりました。
このため、遠位肢のケガや手術後にバンテージを巻く場合には、①最長でも四日おきにバンテージを巻き直して圧迫力を持続させること、②粘着性素材を使わない場合には、馬が常歩する度合いを最小限に抑えて(バンテージの巻き直しは馬房内で実施する等)、圧迫力の低下を避けること、③コットンロールは厚くなり過ぎないように注意すること、等が有効であると考えられました。一方で、飛節の圧迫バンテージでは、踵骨隆起の部位にスリットを空けないほうが圧迫力は高くなるものの、もともと、飛節などの可動域の大きい箇所への圧迫バンテージはあまり強くは巻けない上に、踵骨隆起部にスリットを空けることで褥瘡を防いだり、馬が後肢を挙上するのを容易にする、などの利点があると推測されます。このため、バンテージ下の圧迫力低下というデメリットを鑑みても、スリットを空けるか否かについては、各症例ごとに選択するべきだと考えられました。

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