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疝痛手術後の牝馬での出産率

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妊娠牝馬に対する疝痛手術後の、出産率が検証されています。
参考文献:Drumm NJ, Embertson RM, Woodie JB, Ruggles AJ, Hopper SA, Fimmers R, Handler J. Factors influencing foaling rate following colic surgery in pregnant Thoroughbred mares in Central Kentucky. Equine Vet J. 2013 May;45(3):346-9.

もし、妊娠中の繁殖牝馬が疝痛になってしまった場合、全身麻酔を要する開腹手術をすると、流産してしまうのではないか?という葛藤が常に生じます。このため、患馬の年齢や在胎期間に応じた予後予測ができれば、手術適応の判断の際に有用と考えられます。この研究では、1993~2007年にかけて、妊娠中に疝痛手術が実施された228頭の繁殖牝馬における、医療記録の回顧的解析が行われました。

結果としては、228頭の患馬における術後の出産率は、手術の時点での在胎期間が16日未満の場合には45%、16~39日の場合には49%、40~89日の場合には76%、90~269日の場合には68%、269日以上の場合には60%となっており、つまり、在胎期間が40日未満であった場合には、40日以上であった場合に比べて、無事に出産できる確率が半分以下に低下する(オッズ比:0.41)ことが報告されています。また、患馬の年齢が15歳未満であった場合には、15歳以上であった場合に比べて、無事に出産できる確率が四分の一程度まで低下する(オッズ比:0.26)ことが示されました。さらに、手術前の疝痛の経過時間が、五時間以上であった場合には、五時間未満であった場合に比べて、無事に出産できる確率が半分以下まで低下する(オッズ比:0.44)ことも報告されています。

一方、疝痛のタイプ別(原発疾患の種類)に見た出産率には有意差が見られず、絞扼性病変と非絞扼性病変とのあいだにも、出産率に有意差は認められませんでした。しかし、症例郡を全体的に見ると、小腸疾患に比べて大腸疾患のほうが、術後の出産率はやや低い傾向が見られました。また、手術中の低血圧の有無や、術後の内毒素血症の有無においても、出産率に有意差は示されませんでした。今回の研究では、妊娠維持の目的で、入院期間中に黄体ホルモン作用物質(ゲスターゲン)が投与された患馬は九割に上っていましたが、入院前の投与記録が曖昧であったため、ゲスターゲン投与と出産率の関係は評価されていませんでした。

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過去の文献では、妊娠中に疝痛手術を受けた繁殖牝馬における出産率は、54~80%まで様々でしたが[1,2,3]、今回の研究では、200頭以上というサンプル数の多いデータ解析によって、67%(152/228頭)という出産率が示されました。ちなみに、今回の研究の対象地域(ケンタッキー州)における健常な妊娠牝馬における出産率は、全体では78%で、在胎期間が40日以上の場合には87%である事が知られています[4,5]。また、過去の文献では、術中に低血圧や低酸素症を呈した場合には、出産率が低下すると言う知見も示されており[1,2]、今回の研究でも、統計的な有意差こそ無かったものの、術中低血圧を起こした場合のほうが、術後の出産率がやや低くなる傾向にありました。

以上のような研究結果および過去の知見を総合すると、妊娠牝馬の疝痛手術においては、在胎期間が40日未満であったり、疝痛経過が五時間以上であったり、患馬の年齢が15歳以上であった場合には、術後に出産率の低下を招く可能性が高く、また、術中の低血圧や低酸素症などが、術後の出産率に悪影響を及ぼす危険性も排除できないと考えられました。一方、馬の飼養頭数や取引回数が非常に多い米国では、疝痛馬における退院後の経過追跡は必ずしも容易ではなく、“無事に出産した”ことを定義する手段としては、馬主への電話確認ではなく、子馬が北米騎手倶楽部に登録されたことを基準としており、手続きのミスや、非登録で転用された事例があれば、出産率が過小評価されていた可能性も否定できないと推測されました。

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参考文献:
[1] Santschi EM, Slone DE, Gronwall R, Juzwiak JS, Moll HD. Types of colic and frequency of postcolic abortion in pregnant mares: 105 cases (1984-1988). J Am Vet Med Assoc. 1991 Aug 1;199(3):374-7.
[2] Boening KJ, Leendertse IP. Review of 115 cases of colic in the pregnant mare. Equine Vet J. 1993 Nov;25(6):518-21.
[3] Chenier TS, Whitehead AE. Foaling rates and risk factors for abortion in pregnant mares presented for medical or surgical treatment of colic: 153 cases (1993-2005). Can Vet J. 2009 May;50(5):481-5.
[4] Bosh KA, Powell D, Shelton B, Zent W. Reproductive performance measures among Thoroughbred mares in central Kentucky, during the 2004 mating season. Equine Vet J. 2009 Dec;41(9):883-8.
[5] Allen WR, Brown L, Wright M, Wilsher S. Reproductive efficiency of Flatrace and National Hunt Thoroughbred mares and stallions in England. Equine Vet J. 2007 Sep;39(5):438-45.

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