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馬の副鼻腔への円鋸術

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馬の副鼻腔への円鋸術についてのまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。

円鋸術は、馬の副鼻腔にアクセスするための最も古典的な術式で、副鼻腔炎の排膿や病巣掻把、腫瘍・シスト、篩骨血腫等の摘出、上顎臼歯の抜歯処置などの目的で実施されます。円鋸術では、直径6.4mmから25.0mmまで、様々なサイズの穴が開けられますが、広範囲の副鼻腔にアプローチするためには、前頭骨にやや大きめ(19mm以上)の円鋸孔を開けて、前頭洞にアクセスする術式が有用です。また、歯根部や鼻甲介洞にアプローチする場合には、吻側または尾側の上顎洞への円鋸孔を開けることもあります。多くの症例で、鎮静と物理保定を用いて、立位にて円鋸術を実施しますが、馬の気性や病態の重篤度によっては、全身麻酔下(横臥位)で施術されることもあります。

上図の記号は下記を示しています。(A)前頭洞への円鋸孔の位置、(B)尾側上顎洞への円鋸孔の位置、(C)吻側上顎洞への円鋸孔の位置、(D)鼻中隔への円鋸孔の位置、(a)前頭洞、(b)篩骨迷路、(c)前頭上顎洞開口部、(d)腹鼻甲介の背側嚢、(e)尾側上顎洞、(f)背側鼻甲介洞、(g)吻側上顎洞、(h)顔稜部、(i)眼窩下孔、(j)鼻涙管走行、(点線)背側鼻甲介洞の内側床。

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通常、副鼻腔の洗浄や病巣掻把を目的として、前頭洞への円鋸孔を開ける場合には、左右の内眼角を結んだ線と正中線の交点から、外側に1~2cm、上方へ2~5cmの位置が、円の中心となります(上写真)。皮膚切開は半円状で、骨膜まで一括して切開を施し、円鋸孔の縁よりも10~15mm広い範囲を切開することで、皮膚縫合と外観維持を容易にします。一般的に、円鋸の術創は、3~4週間で完治して、外観の問題も残らないと言われています。

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しかし、近年の研究では、前頭洞への円鋸術を行なうときに、鼻上顎開口部を外科的に広げることで、術後の排液をより良好にする術式が提案されており、また、鼻孔を通して背側鼻甲介洞を穿孔することで、更に広い排液路を形成できることも示されています。この際、左右の内眼角を結んだ線よりも1.5cm下方に円鋸孔を開けることで(上写真右)、鼻上顎開口部へのアクセスが容易になるという知見が示されています。上写真左は、左右の内眼角を結んだ線より2cm上方(通常の前頭洞の円鋸術)での円鋸孔を示しています。

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一方、腫瘍や篩骨血腫の摘出、広範な病巣掻把を要する場合には、よりサイズの大きな円鋸孔が必要になります。このため、前頭骨フラップの変法として前頭洞に円鋸孔を開ける場合には、鼻涙管から5cm軸側、正中線から4cm外側、左右の内眼角を結んだ線から2cm下方の位置が、円の中心となり、直径5cmの大きな円鋸孔を開けます(上写真)。この際、鼻涙管の走行は、内眼角と鼻切痕を結んだ線になります。皮膚切開は半円状ですが、眼周囲の神経損傷を避けるため、半円の弧が正中側になるようにします。

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上顎洞への円鋸孔を開ける場合には、馬の年齢を考慮する必要があります。通常、尾側の3つの臼歯(第一~第三後臼歯)の歯槽は、上顎洞の腹外側壁を形成していますが、三歳以下の馬では、この歯槽が眼窩下孔のほぼ真下にあるのに対して、四歳以上の馬では、徐々に歯が大きくなり、上顎洞も拡張していきます。成馬では、第四前臼歯と第一後臼歯は、吻側上顎洞からアクセス可能で、第二および第三後臼歯は、尾側上顎洞からアクセス可能となっています(上図)。

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一般的に、上顎洞への円鋸孔を開ける位置は、鼻涙管と顔稜部のあいだで、鼻涙管から1~2cm下方で、かつ、尾側上顎洞への円鋸孔では内眼角から2~4cm吻側、吻側上顎洞への円鋸孔では内眼角から4~8cm吻側の位置が、円の中心になります(上写真:黄矢印は前頭骨フラップの軸側縁)。皮膚切開は、前頭洞の場合と同様で、円鋸孔の縁よりも10~15mm広い範囲を切開するように努めます。この部位での円鋸の術創も、やはり術後の3~4週間で治癒することが知られています。通常、上顎洞への円鋸術では、前頭洞ほど広範囲な外科的アクセスを要しないことから、サイズの小さい孔が開けられることが多いと言えます。

円鋸の術創は、病巣掻把や抜歯などの手術目的が達成された場合には、すぐに縫合閉鎖されます。この場合、皮下識と一緒に骨膜を縫い寄せておくことで、円鋸孔が新生骨で充填されるのを促します(切り取った円状の骨を戻すことはしない)。一方、継続的な副鼻腔洗浄を要する症例では、円鋸孔を開けたままにしておき、一日二回程度、生食による副鼻腔洗浄を実施して、術創は肉芽増生による二次癒合で閉鎖することが一般的です。

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参考動画:Flushing a Horse's Sinus (Foundation Equine Clinic)


参考文献:
Bach FS, Bohler A, Schieder K, Handschuh S, Simhofer H. Surgical enlargement of the nasomaxillary aperture and transnasal conchotomy of the ventral conchal sinus: Two surgical techniques to improve sinus drainage in horses. Vet Surg. 2019 Aug;48(6):1019-1031.




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