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馬の副鼻腔への骨フラップ

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馬の副鼻腔への骨フラップについてのまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。

骨フラップは、馬の副鼻腔に外科的にアプローチするときに実施され、コの字形の骨切術によって開窓することから、円鋸術と比較して、より広い術野を確保し、広範な副鼻腔エリアにアクセスできるという利点があります。馬の副鼻腔への骨フラップでは、主に、上顎洞(下写真左)または前頭洞(下写真右)へアプローチする術式が用いられます。上図では、①が吻側上顎洞、②が尾側上顎洞、⑤が前頭洞、⑧が背側鼻甲介洞をあらわし、点線が上顎洞への骨フラップの領域を示しています。

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馬の頭部の解剖学では、上顎洞の吻側縁は、顔稜部の吻側端から眼窩下孔へと引いた線となり、上顎洞の腹側縁は、顔稜部に沿った線となり、上顎洞の尾側縁は、内眼角から顔稜部の尾側端へと引いた線となり、さらに、上顎洞の背側縁は、眼窩下孔から内眼角へと引いた線となります。上顎洞の骨フラップでは、この長方形の範囲内で、コの字形に骨を切って開窓しますが、内眼角から鼻切痕へと走行している鼻涙管への損傷を避けるため、上顎洞の背側縁の骨を残し、吻側縁・腹側縁・尾側縁の3つを切ることで、コの字形の骨切術を施します。通常は、歯根から十分に距離を取る意味で、コの字の腹側辺の尾側から切り始めるのが最も安全であると言われています。また、コの字の吻側辺は、顔稜部の吻側端よりも尾側で、コの字の尾側辺と平行な向きとします。

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一方、馬の前頭洞への骨フラップでは、コの字の尾側辺は、眼窩上孔と内眼角の中間点から正中線へと直角に引いた線となり、コの字の外側辺は、内眼角の2~2.5cm内側から始まり、内眼角と眼窩下孔の距離の下方2/3の地点まで伸びる線となり、さらに、コの字の吻側辺は、外側辺の吻側端から正中線へと直角に引いた線となります。この際、内眼角から鼻切痕へと走行する鼻涙管を損傷させないよう、外側辺の吻側部は正中線に向けてやや斜めに角度をつけることが重要です。上図では、①が吻側上顎洞、②が尾側上顎洞、③が腹側鼻甲介洞、④が蝶口蓋洞、⑤が前頭洞、⑥が篩骨迷路、⑦が前頭上顎開口部、⑧が背側鼻甲介洞をあらわし、点線が前頭洞への骨フラップの領域を示しています。

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骨フラップのための骨切術のラインを決めた後は、その約1cm外側をコの字に皮膚切開しますが(上写真左)、骨膜まで一括で切開して、骨切術ラインから両側に5mmほど骨膜を反転させておきます。コの字形の骨切術は、骨ノミまたはサージカルソーで実施されますが、特に電動器具で切るときには、生食で切開部を持続的に冷却して、発熱による骨壊死を予防します。骨を切るときは、コの字形の内側に向けて切開面をやや傾斜させることで、骨を閉めたときに安定するようにします。コの字の3つの辺を切った後は、骨をゆっくりと持ち上げて、残りの一辺の箇所を折ることで、コの字の領域を完全に開窓させます(上写真右)。上顎洞の骨フラップでは、吻側と尾側区画のあいだの隔壁を、幅の狭い骨ノミで切開する必要があります。

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副鼻腔の病巣を切除・掻把した後は、術後に副鼻腔内への蓄膿や滲出液貯留が続発するのを防ぐため、鼻道への排液路を作成しておくことが推奨されます。前頭洞や鼻甲介洞からの膿や滲出液を、鼻道へと排出するために開ける穴の位置は、術中に尿カテーテルを挿入して、鼻甲介洞の最も底になる箇所を確認してから、長いケリー鉗子等を用いて鼻甲介洞壁を穿孔させることで排液孔を作成します。この穿孔処置では、かなり多量の出血を起こすことから、他の外科的処置が完了して、圧迫止血用のガーゼ等が準備できてから実施します。また、吻側上顎洞から鼻道への排液孔は、若齢馬では眼窩下孔より背側ですが、高齢馬ではそれより腹側になります。なお、これらの排液孔には、ドレインチューブを留置しておき、一次疾患の治癒後にチューブを引き抜くことで、排液路が持続的に開いた状態にできます。上図では、赤点線で示したエリアが、背側および腹側の鼻甲介洞から鼻道への排液孔を開ける場所を示しています。

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副鼻腔への外科的処置が終了した後は、広範囲に出血を呈することが多いため、副鼻腔内にガーゼを詰めることで圧迫止血を施します。この場合には、詰めたガーゼが咽頭側へと迷入して窒息するのを防ぐため、ストッキネットの中にジャバラ状にガーゼを充填させたものを副鼻腔内に詰める手法が有効です(上図)。この際、ガーゼは生食で湿らせてから充填させること(ガーゼが血液を吸い込んで固まってしまい、鼻孔から引き抜けなくなるのを防ぐため)、ストッキネットの下端は鼻孔周囲に縫い付けておくこと(ストッキネットを吸引して窒息するのを防ぐため)、および、ストッキネットの両端は堅固に結んで、ガーゼが抜け出ないようにすること、などが重要です。 

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また、骨フラップを閉鎖する前に、術後の副鼻腔洗浄に用いるチューブを設置しておくことが一般的です。この洗浄ラインは、コの字の骨切術のコーナーに設置することもありますが、チューブが骨癒合を妨げるリスクを考慮して、骨切術の周囲に別の穴を開けてチューブを挿入することが有用です。骨フラップの閉鎖では、コの字に切開した骨膜を吸収糸で連続縫合することで、コの字に切った骨を押し付けるようにします。もし、切った骨が安定しない場合には、コの字の二箇所のコーナーに小穴を開けて、針金または非吸収糸によって切った骨を固定しておきます。その後は、皮下識と皮膚を吸収糸で連続縫合しますが、コの字の皮膚切開部のコーナーに瘻孔形成する場合が多いため、この箇所は堅固に縫合閉鎖しておきます。

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近年の症例報告では、左右両方の副鼻腔に発症した嚢胞に対して、左右の前頭洞にまたがるように、大きな骨フラップを開ける術式も示されており、片方ずつ小さな骨フラップを開けるのに比べて、より広範な術野を確保でき、病巣の摘出や掻把が容易になると考察されています。しかし、この骨フラップを開ける際には、鼻中隔を切開する必要があり、このときに強い疼痛を呈することから、特に、立位で施術する際には、適切な神経ブロックを要するというデメリットが挙げられています。また、病巣の位置が左右で異なる場合には、左右にまたがるように開窓しても、必ずしも外科的アプローチが最適化されるとは限らず、また、左右両方の副鼻腔をガーゼで圧迫止血する必要が出たときには、気管切開術を要することになる、という問題点もあります。このため、症例によっては、左右両方の副鼻腔に発症した病態であっても、片方ずつタイミングをずらして、小さな骨フラップで処置するほうが好ましいケースもあると推測されます。

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参考動画:Standing maxillary sinus flap horse surgery: HorseSurgeon(クリックで動画リンク元へ)
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参考文献:
Robert MP, Stemmet GP, Smit Y. A bilateral sinus cyst treated via a bilateral frontonasal bone flap in a standing horse. J S Afr Vet Assoc. 2019 Mar 28;90(0):e1-e6. doi: 10.4102/jsava.v90i0.1729.




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