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馬の鼻中隔の切除術

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馬の鼻中隔の亜全切除術についてのまとめです。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。

馬の鼻中隔の疾患は稀ですが、シスト変性、過誤腫、膿瘍、外傷性肥厚、骨折性壊死、長軸性変形、腫瘍、真菌性鼻炎などによって、鼻中隔の肥厚や変形を生じて、通気障害や気道閉塞、呼吸雑音、鼻汁排出、顔面変形等の症状を呈することがあります。そのような症例では、鼻中隔を切除することで症状改善が見られることがあります。

通常、馬の鼻中隔切除術は、全身麻酔下での横臥位で実施され、まず頚部での気管切開術を行ない、気管挿管から吸入麻酔を維持します。鼻中隔を亜全切除するためには、前頭洞の吻側にあたる箇所に外径19mmの円鋸孔を開ける(鼻骨が傾斜しはじめる部位)ことで、鼻中隔の尾側端にアプローチします。半円形に皮膚と骨膜を切開し、円鋸で骨に孔を開けて粘膜を切開すれば、鼻中隔は容易に視認可能です。そして、幅の狭い骨ノミを用いて、鼻中隔切除の尾側辺を切ったあと、線鋸(産科ワイヤー)または骨ノミを用いて、鼻中隔切除の腹側辺と背側辺を切ります(上図内の点線)。線鋸を使う場合には、円鋸孔から挿入したワイヤーの両端を、左右の鼻孔から出してハンドルを着け、ドワイヤン鉗子でワイヤーをガイドしながら(鼻中隔の床部または天井部にワイヤーを押し付けながら)、鼻中隔の最も腹側および背側を切っていきます。骨ノミに比べて、線鋸を使うほうが、出血が少なく、腹側をより広く切ることが出来ます。その後、腹側と背側の切開線をつなぐように、メス刃で吻側辺を切りますが、この際、吻側5cmの鼻中隔を残すようにします(鼻翼軟骨と鼻孔を支持させるため)。4つの辺すべてを切開した後は、切った鼻中隔をバルセラム鉗子で掴んで鼻孔から引き出します。その後、触診または内視鏡で、鼻中隔切除部位を確認し、中隔組織が残っている場合は、フェリス・スミス・ロンジュールで掻把します。

上図内の記号:(A)鼻中隔、(B)前頭洞、(C)脳腔、(D)咽頭部、(E)喉頭部、(点線)鼻中隔の亜全切除域、(破線)鼻中隔のほぼ完全に切除するため、尾側辺を60度の角度で斜めに切るときの切開線。

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また、鼻中隔をほぼ完全に切除する変法も報告されており、この場合、円鋸を通した骨ノミで、鼻中隔の尾側辺を、咽頭側に60度の角度で切開します。そして、鼻中隔の尾側端の後方を周るように線鋸を通しますが、この際には、鼻腹道から咽頭へと挿入したワイヤーの先端を、反対の鼻孔から挿入した内視鏡で視認し、生検チャンネルを通した把持器具で掴んで、鼻孔まで引き戻します。その後は、前述と同様に、鼻中隔切除の腹側辺と背側辺を切ります。そして、この変法としては、尾側辺を線鋸で切る術式(3ワイヤー法[1])も提唱されており(上図)、線鋸のワイヤーをカテーテル内に通した状態で鼻中隔の後方を通過させ、鼻中隔切除の尾側辺を切ることで、鼻中隔の後方に渡したワイヤーが、周囲組織を侵襲するのを抑えます。

そして、近年では、喉頭切開術を介して鼻中隔を切除する2ワイヤー法の術式[2]も報告されています(下図)。この場合、まず喉頭切開術を行ない、そこから挿入した線鋸ワイヤー(カテーテル内にワイヤーを通して挿入する)を、鼻中隔の後方を半周回するように左右の鼻孔から出し、ハンドルを着けて引くことで、鼻中隔切除の腹側辺を切ります。その後、喉頭切開部から長いドワイヤン鉗子を挿入し、咽頭部を通過させて、鼻中隔の尾側部を斜め方向(60度の角度)に掴んで、この鉗子に沿って線鋸で切っていくことで、鼻中隔切除の尾側辺と背側辺を一本のワイヤーで切ることが可能となります。尾側辺を切り終わり、背側辺を切っている最中にも(ワイヤーが鉗子先端を過ぎたあと)、ドワイヤン鉗子で鼻中隔を堅固に保持しておくことで、線鋸が鼻中隔の最も背側部を切っていくのを支持します(既に腹側辺を切られている鼻中隔が、背側辺を切っていくにつれ不安定になって、腹側へと反ってしまうのを防ぐため)。その後には、鼻中隔切除の吻側辺をメス刃で切って、鼻中隔切除を完了させます。喉頭切開術を介した2ワイヤー法では、円鋸術を介した3ワイヤー法に比較して、鼻中隔の後方にワイヤーを通す作業が容易であること(特に頭部のサイズが小さい子馬の場合)、鼻中隔切除の尾側辺を切る位置や角度を制御しやすいこと(ドワイヤン鉗子で鼻中隔尾側部を堅固に掴んでワイヤーのガイドとしているため)、術中の出血量を抑えやすいこと(3ワイヤー法では円鋸を開けた時点で出血が起きるため)、頭部の外観を保てること(円鋸箇所の骨造成で外観を損なう危険が無いため)、などの利点が挙げられています。

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さらに、近年では、骨フラップを介して背側から鼻中隔にアプローチする術式[3]も報告されています(下写真)。この術式では、左右の鼻腔にまたがる6~10cm長の骨フラップが開けられ(幅は多様)、骨ノミを用いて鼻中隔と鼻骨との結合部が切開されました。その後、鼻中隔の吻側部と尾側部が、斜め方向にロチェスター・ペアン止血鉗子で挫滅され、メイヨー剪刀で鼻中隔を切開したあと、ロチェスター・オシュナー鉗子で鼻中隔組織を把持して捻じるように切除しました(鼻中隔の残存箇所は、ロンジュールで掻把されました)。その後は、骨フラップを元の位置に戻して、コーナーに開けたドリル孔を吸収糸で固定しました。この手法では、鼻中隔の全体を切除するのは難しく、また、骨フラップが中央部で折れてしまうと、術後に陥没して通気障害を続発する(プレート固定するための二度目の手術を要する)というデメリットが挙げられています。一方、鼻中隔を止血鉗子で挫滅してから切開するため、術中の出血を制御しやすいのは利点であると考察されています。

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いずれの術式においても、鼻中隔の切除後には、鼻腔内にガーゼを詰めることで圧迫止血を施します。この際、詰めるガーゼの量が多すぎると、咽頭部へと迷入して誤嚥や窒息の原因となることから(鼻中隔が無いため、ガーゼが後方に入り込み易いため)、ガーゼを適切量にすること、ガーゼをストッキネット内に充填した状態で詰めて、ストッキネットの前端は鼻孔周囲に縫い付けておくこと、などが推奨されています。術後には、48~72時間でガーゼを引き抜き、抗生物質投与は5~6日間続け、鼻中隔の切除箇所が完治するまでは(通常4~6週間)、一日一回の鼻腔洗浄を行なうことが提唱されています。

馬の鼻中隔切除では、切除箇所の尾側に過剰な肉芽形成を生じて、気道閉塞の合併症を起こすリスクが指摘されています。このため、上述の円鋸術を介した3ワイヤー法や、喉頭形成術を介した2ワイヤー法によって、鼻中隔切除の尾側辺を、咽頭側に60度の角度で切ることで、より咽頭側の領域(内腔が広い)にて肉芽形成が起こるため、術後に気道閉塞を起こしにくくなるという利点が挙げられています。上記の研究[2]では、鼻中隔切除後の篩骨と硬口蓋との距離は(下写真内のE-HP)、円鋸術を介した3ワイヤー法では60mm(中央値)であったのに比べて、喉頭形成術を介した2ワイヤー法では69mm(中央値)となっており、やや広い内腔を得られることが示されています。一方、鼻中隔の切除端と鼻甲介洞が癒着することで、持続的な呼吸雑音や運動不耐性を続発するケースがあることも知られています。また、六か月齢以下の子馬や、鼻橋が平らなスタンダードブレッド種においては、術後に頭部の外観を損なう割合が高いことも報告されています。

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参考文献:
[1] Doyle AJ, Freeman DE. Extensive nasal septum resection in horses using a 3-wire method. Vet Surg. 2005 Mar-Apr;34(2):167-73.
[2] Loinaz RJ, Boutros CP, Rakestraw PC, Taylor TS. Evaluation of a laryngotomy approach for near-total resection of the nasal septum in the horse. Vet Surg. 2012 Jul;41(5):643-8.
[3] Shoemaker RW, Wilson DG, Fretz PB. A dorsal approach for the removal of the nasal septum in the horse. Vet Surg. 2005 Nov-Dec;34(6):668-73.




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