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子馬の細菌性関節炎による長期的な影響

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子馬の病気を診療するときには、成馬になったときのパフォーマンスへの影響も考慮する必要があります。子馬の細菌性関節炎は、全身疾患による抵抗力減退や、初乳の摂取不全による移行抗体不足が病因となる発症することが多く、抗生物質の全身的又は局所的投与、および、関節洗浄による治療が実施されることが一般的です。

ここでは、子馬の細菌性関節炎が、成長後に競走馬としての能力に対して、どのような長期的な影響を与えるかを調査した研究を紹介します。この研究では、オーストラリアと中国の三つの馬病院において、2009~2015年にかけて、細菌性関節炎の治療のため関節洗浄または関節鏡手術が実施された180日齢以下の子馬における、医療記録および成長後の競走成績の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
O'Brien TJ, Rosanowski SM, Mitchell KD, Carrick JB, Butt TD, Adkins AR. Factors associated with survival and racing performance of 114 Thoroughbred foals with septic arthritis compared with maternal siblings (2009-2015). Equine Vet J. 2021 Sep;53(5):935-943.

結果としては、細菌性関節炎を発症した子馬が退院する確率は78%(90/115頭)であり、このうち、26日齢以下の子馬での退院率は1/5で、多臓器疾患を併発した子馬での退院率は1/6まで低くなることが示されました。また、退院した子馬のうち、競走馬として出走を果たしたのは67%(60/90頭)に及んでおり、同一母馬からの兄弟馬を対照とした場合には、細菌性関節炎の発症馬と対照馬とのあいだで、出走率や競走成績に有意差は無かったことが報告されています。

このため、細菌性の関節炎を発症した子馬においては、退院することが出来れば、将来的な競走馬としての能力には影響は無いというデータが示されましたが、新生馬(26日齢以下)や他の病気(多臓器疾患)を併発しているケースでは、退院前に予後不良となるリスクが高いことが分かりました。つまり、子馬の関節炎では、長期的なパフォーマンス低下の危険性は低いことを鑑みて、一次病態の治癒を目指して、関節洗浄・局所肢灌流・関節鏡などのアグレッシブな治療を実施して、短期生存率(生きて退院する割合)を上げることが重要であると考えられます(特に新生馬や併発疾患がある場合)。

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一方、過去の知見[1]を見ると、2004年の英国のグラスゴー大学の研究では、細菌性関節炎の治療を受けて退院した子馬が、成長後に競走馬として出走する確率は、対照馬の1/3以下にまで下がっていた(オッズ比:0.36)という報告もあります。この研究でも、多臓器疾患を併発していた子馬の退院率は、そうでない子馬の1/7以下とかなり低く(オッズ比:0.13)、また、細菌性関節炎の治療を受けて退院した子馬が、初出走までに要した日数(平均1,757日)は、対照馬が初出走までに要した日数(平均1,273日)よりも有意に多いことも示されています。

さらに、他の知見[2]を見ると、2008年の米国のフロリダ大学の研究では、菌血症の治療を受けて退院した子馬では、競走馬としての勝利数や獲得賞金が、対照馬よりも有意に低いことが示されています。しかし、競走馬として出走する確率や、生涯の出走数には有意差がありませんでした。この研究は、細菌性関節炎ではない菌血症も含めた調査ではありますが、下痢や高体温、クレアチン高値、好中球数高値などの、病態の重篤度をあらわす指標と共に、関節炎を発症した場合には、退院できる確率が有意に低くなることが報告されています。

このような相反するデータが示された要因としては、獣医療の進歩で治療成績が向上した可能性がある一方で、細菌性関節炎の結果として、競走馬としてのパフォーマンスの低下を引き起こしたケースも考えられます。たとえば、関節軟骨の変性によって骨関節炎を続発しやすくなったり、関節周囲組織の線維化が残存して、可動域の制限や屈伸時の違和感など、競走能力を低下させる素因が生じたケースもあり得ます。このため、細菌性関節炎への治療が奏功して、退院できた子馬においても、経時的な関節組織の経過観察を行なって、長期的な競走能力への悪影響を監視することが重要であると考えられました。

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参考文献:
[1] Smith LJ, Marr CM, Payne RJ, Stoneham SJ, Reid SW. What is the likelihood that Thoroughbred foals treated for septic arthritis will race? Equine Vet J. 2004 Jul;36(5):452-6.
[2] Sanchez LC, Giguere S, Lester GD. Factors associated with survival of neonatal foals with bacteremia and racing performance of surviving Thoroughbreds: 423 cases (1982-2007). J Am Vet Med Assoc. 2008 Nov 1;233(9):1446-52.

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このエントリーのタグ: 繁殖学 治療 跛行 手術 子馬

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