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子馬の足根骨不完全骨化による長期的な影響

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子馬の病気を診療するときには、成馬になったときのパフォーマンスへの影響も考慮する必要があります。足根骨の不完全骨化は、立方骨の形成不全や、軟骨内骨化の遅延によって、健常な足根骨の緻密骨形成が妨げられる疾患です。通常は、栄養管理や運動制限によって治療されますが、不完全骨化の改善が遅れると、足根骨の変形や肢勢異常(飛節の外反や内反、鎌状飛節、直飛など)を続発して、慢性跛行や運動能力の低下を引き起こすこともあります。

ここでは、足根骨の不完全骨化が、成長後に競走馬としての能力に対して、どのような長期的な影響を与えるかを調査した研究を紹介します。この研究では、米国の二箇所の馬病院において、1994~2011年にかけて、飛節のX線検査が実施された90日齢以下のサラブレッドの子馬115頭における、医療記録および成長後の競走成績の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Haywood L, Spike-Pierce DL, Barr B, Mathys D, Mollenkopf D. Gestation length and racing performance in 115 Thoroughbred foals with incomplete tarsal ossification. Equine Vet J. 2018 Jan;50(1):29-33.

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この研究では、飛節の側方X線画像に基づいて、足根骨の不完全骨化を、最も重度(グレード1)、重度(グレード2)、中程度(グレード3)、および、軽度(グレード4)という各段階に分類されました(上写真)。また、オッズ比(OR: odds ratio)を算出することで、危険因子の解析が行なわれました。

結果としては、足根骨の不完全骨化が重篤な子馬ほど、成長後に競走馬として出走する確率が低いことが分かり(下表)、対照馬の出走率と比較した場合、グレード1では約1/100(OR=0.01)と極端に低く、グレード2でも約1/8(OR=0.13)とかなり低くなっていました。また、足根骨の不完全骨化が重篤な子馬ほど、三歳までに初出走を果たした馬の割合も低下することが分かり(下表)、対照馬では59%であったのに対して、グレード1では20%、グレード2では19%と、対照馬の半分以下まで低くなっていました。さらに、足根骨の不完全骨化が重篤な子馬ほど、競走馬としての生涯獲得賞金が少ないという傾向も認められ(下表)、グレード1~3の不完全骨化では、対照馬より三万ドル近くも少なくなっていました。

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このため、子馬における足根骨の不完全骨化は、将来的な競走馬としてのパフォーマンスに悪影響を与えることが分かり、出走を果たす確率や獲得賞金の低下につながる、というデータが示され、特に、不完全骨化の重篤度が、極めて重度(グレード1)または重度(グレード2)であった場合には、競走能力を大きく損ねると考えられました。このため、出生直後のX線検査で、足根骨の不完全骨化が認められた子馬に対しては、適切な飼料管理や運動管理療法を施すことで、運動器への悪影響を抑える対策が重要であると言えます。一方で、生後に立方骨が迅速に骨化したり、不完全骨化から異常肢勢を続発しなかった場合には、競走馬として良好なキャリアを送れると推測されるため、特に、三ヶ月齢までの期間では、経時的な四肢の検査を行なっていくことが推奨されます。

また、この研究では、重篤な足根骨の不完全骨化を呈した子馬ほど、妊娠期間が短い傾向が認められ、在胎日数の中央値は、グレード1では296日、グレード2では317日、グレード3では328日、グレード4では337日となっていました。このため、特に、在胎日数が320日を下回るような早産においては、深刻な足根骨の不完全骨化を発症している危険性を考慮して、出生後のX線検査を行ない、適切な対処を取ることが推奨されます。具体的な方策としては、四肢にバンテージやブレースを装着して、体重負荷による足根骨の圧潰を予防したり、立方骨骨化が進むまでは、母馬と一緒に馬房で完休させたり、肢軸異常を矯正する装蹄療法を早期に施すことなどが挙げられます。

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このエントリーのタグ: 繁殖学 治療 跛行 子馬

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