エコーでの馬の肩関節注射
話題 - 2022年10月10日 (月)

エコーを使った馬の肩跛行の診断麻酔が試みられています。
参考文献:Schneeweiss W, Puggioni A, David F. Comparison of ultrasound-guided vs. 'blind' techniques for intra-synovial injections of the shoulder area in horses: scapulohumeral joint, bicipital and infraspinatus bursae. Equine Vet J. 2012 Nov;44(6):674-8.
この研究では、超音波誘導または盲目的注射法を介して、造影剤と染色剤(メチレンブルー)の混合液を、肩関節(Shoulder joint: Scapulohumeral joint)、二頭筋滑液嚢(Bicipital bursa)、棘下滑液嚢(Infraspinatus bursa)に注射して、その後に、CT検査および剖検が行われました。その結果、超音波誘導が用いられた場合には、全ての注射箇所において100%の成功率が達成されたのに対して、盲目的注射での成功率は、肩関節では50%、二頭筋滑液嚢では62%、棘下滑液嚢では62%にとどまりました。
また、超音波誘導では、針を刺し直す回数が有意に少なくて済んだことが示され、診断麻酔の際に周囲組織の損傷を防げる、という利点もあると考えられました。さらに、“溶液が抵抗なく入っていく”という所見が、注射成功の目安にならなかったケースが、全体の三割に及んでおり、超音波誘導像において溶液が関節&滑液嚢内に流入していくのを視認することの重要性が再確認されるデータが示されました。これらの結果から、馬の肩跛行に対する診断麻酔(または治療薬の注入)の際には、超音波誘導を用いることで、より正確かつ安全な薬剤の注射が可能になることが示唆されました。

一般的に、馬の前肢のビッコでは、疼痛原因が肘よりも上に存在すると推測される場合には、単に“肩跛行”という曖昧な推定診断が下されることもあります。しかし、適切な治療と予後判定のためには、本当に肩に痛みがあるのか?、もしそうなら、肩のどこに痛みがあるのか?、などを慎重に確定診断することが重要であると言えます。今回の研究では、盲目的な通常の注射法では平均44秒かかったのに対して、超音波誘導による注射法では平均76秒かかったに過ぎず、約30秒を余分に費やすだけで、正確かつ安全な診断麻酔ができる手法は、非常に有効であると考えられます。
馬の肩部の診断麻酔は、通常の診療の中では実施する回数が少なく、獣医師の熟練が不十分である場合もあるため、超音波像上で狙いを定めながら針穿刺して、超音波像上での容積流入を確認しながら薬剤を注入することで、注射技術を向上できるという利点もあります。また、肩関節の変性関節疾患や、非感染性の二頭筋滑液嚢炎&棘下滑液嚢炎の治療のための、抗炎症剤およびヒアルロン酸の注射に際しても、100%の成功率を達成できる超音波誘導は、とても有用な手技であると言えるのではないでしょうか。
最上写真は、超音波誘導での肩関節の注射法で、1は肩甲骨、2は上腕骨、白星印は肩関節、白矢印は針を示しています。また、上写真は、超音波誘導での二頭筋滑液嚢の注射法で、1は二頭筋腱の外側頭、2は上腕骨外結節の頭側隆起、白星印は二頭筋滑液嚢、白矢印は針を示しています。そして、下写真は、超音波誘導での棘下滑液嚢の注射法で、1は棘下筋腱、2は上腕骨大結節の外側部、白星印は棘下滑液嚢、白矢印は針を示しています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2012 Feb 15. doi: 10.1111/j.2042-3306.2011.00540.x.
参考文献:
Fuglbjerg V, Nielsen JV, Thomsen PD, Berg LC. Accuracy of ultrasound-guided injections of thoracolumbar articular process joints in horses: a cadaveric study. Equine Vet J. 2010 Jan;42(1):18-22.
Schumacher J, Livesey L, Brawner W, Taintor J, Pinto N. Comparison of 2 methods of centesis of the bursa of the biceps brachii tendon of horses. Equine Vet J. 2007 Jul;39(4):356-9.
David F, Rougier M, Alexander K, Morisset S. Ultrasound-guided coxofemoral arthrocentesis in horses. Equine Vet J. 2007 Jan;39(1):79-83.
関連記事:
・乗用馬の球節炎におけるPET検査
・馬の後膝をエコー検査する注意点
・馬の蹄踵痛における診断麻酔の複雑さ
・馬の“横風”跛行での鑑別診断
・馬の球節骨片でのエコー検査
・馬の管部への診断麻酔の手法
・馬の圧迫バンによる神経ブロックへの影響
・膝関節の診断麻酔で蹄跛行が消える?
・馬の大腿骨骨折のエコー検査
・馬の跛行検査8:診断麻酔指針
・効き目が丸一日も続く局所麻酔薬