馬の圧迫バンによる神経ブロックへの影響
話題 - 2022年10月11日 (火)

馬の跛行検査における神経ブロックは、疼痛を限局化するのに有用であり、原因疾患の確定診断には必須の手順であると言われています。しかし、神経ブロックで投与された局所麻酔薬は、時間が経つと注射箇所よりも近位側に浸潤されることから、無痛化領域が予測以上に拡大してしまい、診断麻酔に対する反応性の解釈が難しくなり、疼痛箇所を誤診するリスクが指摘されています(上図の青色領域が予測される無痛化領域です)。
ここでは、遠位肢に装着された圧迫バンテージによる、神経ブロックの局所麻酔薬への効果を評価した論文を紹介します。この研究では、九頭の健常な成馬を用いて、前肢の掌側指神経の周囲に造影剤を注射したあとに経時的にX線撮影を行ない、繋ぎ(注射箇所の近位側)に圧迫バンを装着した場合としない場合とで、造影剤の浸潤度合いが比較されました。
参考文献:
Gylling SMK, Frandsen SS, Ostergaard S, Thomsen MH, Christophersen MT, Kruger T, Jacobsen S. The effect of a compression bandage on the distribution of radiodense contrast medium after palmar digital nerve blocks. Equine Vet J. 2019 Mar;51(2):261-265.

結果としては、神経周囲に注射された造影剤は、圧迫バンを装着することで、近位側への浸潤する度合いが有意に減退することが分かり(上写真)、また、造影剤がリンパ管を通って近位側へと流出する現象(下写真)も、圧迫バンによって抑えられることが示されました。このため、掌側指神経麻酔によって蹄踵部の無痛化を施したあとは、繋ぎに圧迫バンを巻いておくことで、無痛化される領域が拡大してしまうのを防ぐと同時に、無痛化の作用が長続きすると推測されました。特に、リンパ管を介して局所麻酔薬が流出するのを抑制することで、検査肢の全体が無痛化されたり、馬体全身への鎮静作用を生じるのを防げる、という大きなメリットが挙げられています。

また、過去の類似研究(下記リンク)では、低四点神経麻酔の箇所に造影剤を注射して、経時的なX線検査による造影剤の浸潤度合いが評価されました。その結果、掌側神経や掌側中手神経の周囲に注射された造影剤は、注射箇所よりも近位側へと浸潤するという現象が見られ(下写真左)、リンパ管を通って前腕部まで流出したり(下写真右)、腱鞘内部に迷入する事象も見られました。この際、浸潤した麻酔薬の量は少なく、神経走行を鑑みても、管部近位側を無痛化してしまうリスクは低いと考えられましたが、やはり、無痛化領域の拡大を考慮して、診断麻酔への陽性or陰性を解釈する必要があると考えられました。また、低四点神経麻酔では、剃毛や厳重な消毒を行なって、腱鞘の医原性感染を予防することの大切さが再確認されました。

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参考文献:
Nagy A, Bodo G, Dyson SJ, Compostella F, Barr AR. Distribution of radiodense contrast medium after perineural injection of the palmar and palmar metacarpal nerves (low 4-point nerve block): an in vivo and ex vivo study in horses. Equine Vet J. 2010 Sep;42(6):512-8.
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