馬の骨折と蹴傷の関連性
馬の飼養管理 - 2022年10月13日 (木)

馬の骨折が発症する原因は、馬の用途によって多様ですが、全般的な馬の骨折の発症要因を解明しようとする試みも成されています。下記の研究では、スイスの二箇所の獣医大学病院において、1990~2014年にかけて、骨折の診断や治療のために来院した1,144頭の馬における、医療記録の解析が行なわれました。
参考文献:Donati B, Furst AE, Hassig M, Jackson MA. Epidemiology of fractures: The role of kick injuries in equine fractures. Equine Vet J. 2018 Sep;50(5):580-586.
結果としては、全ての骨折の発症原因のうち、他の馬に蹴られたことが最も多い(全体の44%)ことが分かり、二番目は転倒、三番目は衝突となっていました。また、全症例を見た場合、開放骨折に至ったケースは45%に及んでおり、死亡率も30%に達していました。さらに、骨折の発生箇所を見ると、最も多いのが放牧場で、二番目が屋外となっていました(三番目が馬場で、四番目は曳き馬中)。

また、骨折した骨を見てみると、最も多いのが副管骨で、次が頭蓋骨となっていました(三番目は基節骨で、四番目は骨盤)。そして、開放骨折の有無や跛行グレードの高さ、重篤な細片化などの要素が、死亡率の高さと相関していることが分かり、さらに、死亡率が50%以上に達した骨折としては、大腿骨、中節骨、基節骨、橈骨、足根骨が挙げられました。
このため、特に馬を放牧場に出すときには、蹴癖のある馬と一緒に放牧するのは絶対に避けることが重要で、また、プロテクターの装着を徹底したり、蹴る可能性がある馬では、後肢の蹄鉄を外しておく、などの予防対策を取ることが推奨されました。この研究では、人馬転や障害物との衝突という、不可抗力とも言える要因だけでなく、蹴傷という他の馬との交錯が主因となる、予防可能な骨折が四割以上を占めるという傾向を示したと言えます。
この研究の結果は、多様な用途の馬群(Heterogeneous equine population)の医療記録から示された骨折の発生状況であり、全般的な馬の骨折における危険因子を示したという意味では有益であると言えます。一方、二次診療施設の症例が調査対象であるため、往診で対応可能な軽症な骨折や、即時に安楽殺となるような致死的骨折は含まれていない、という限界点が指摘されており、また、発症原因が不明な骨折症例も多かったと考察されています。

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