COX-2限定阻害薬:馬の去勢手術での効能
話題 - 2022年10月14日 (金)

これまで、馬の軟部組織の痛みには、フルニキニンメグルミン(バナミン®)が投与されることが多かったですが、近年では、副作用の少ない新しいタイプの薬剤が応用されてきています。
一般的に、馬の抗炎症・鎮痛剤としては、COX-1およびCOX-2の両方の炎症介在物質を阻害する薬剤(フルニキニンメグルミン等)が使用されてきましたが、COX-1は胃腸粘膜の新陳代謝にも関わっているため、これを阻害することで、胃潰瘍や大腸炎などの副作用が起こることがあります。このため、安全性の面では、COX-2だけを限定的に阻害する薬剤のほうが好ましいと言えますが、その反面、抗炎症や鎮痛の効果は劣るのではないかと考えられてきました。
ここでは、馬の去勢手術における、COX-2限定阻害薬の効果を検証した知見を紹介します。この研究では、30頭の馬に去勢手術を実施した後、10頭にはフルニキニンメグルミン、10頭にはフィロコキシブ(COX-2限定阻害薬)、残りの10頭にはメロキシカム(COX-2限定阻害薬)が投与され、術後の一週間にわたる身体検査、血液検査、腹水検査が行なわれました。
参考文献:
Gobbi FP, Di Filippo PA, Mello LM, Lemos GB, Martins CB, Albernaz AP, Quirino CR. Effects of Flunixin Meglumine, Firocoxib, and Meloxicam in Equines After Castration. J Equine Vet Sci. 2020 Nov;94:103229.
結果としては、フルニキニンメグルミンに比べて、フィロコキシブやメロキシカムの投与群のほうが、去勢後の包皮腫脹や後肢強直が有意に重篤であり、また、頻脈を呈した馬の割合も多かったことが分かりました。一方、血中の好中球数や腹水中の蛋白濃度では、三郡のあいだに有意差はありませんでした。このため、牡馬の去勢手術では、COX-2限定阻害薬であるフィロコキシブやメロキシカムによって、抗炎症や鎮痛の効果は得られるものの、去勢箇所の腫れや頻脈を抑える効能は、フルニキニンメグルミンの方が優れていると結論付けられています。なお、この研究で見られた頻脈症状は、去勢箇所の疼痛に比例して増加したと考えられました。

この研究では、非特異的なCOX阻害薬であるフルニキニンメグルミン、および、COX-2限定阻害薬であるフィロコキシブやメロキシカムは、いずれも静脈投与する製品が選択されていました。しかし、去勢術後の投薬では、馬主や飼養管理者による経口投与のほうが実践的であると考えられるため、内服薬を用いてこれらの薬剤の効能を比較したときに、抗炎症および鎮痛作用に有意差が出るかどうかを評価する必要があると言えます。また、胃潰瘍による疝痛症状や、大腸炎による軟便などについても、内服薬のCOX-2限定阻害薬による副作用の少なさが示されるかもしれません。
この研究では、腹水検査の所見として、去勢直後に腹水には赤色化や混濁が認められ、術後の七日目にかけて正常に近づいていく傾向が示されましたが、これらの所見には、三つの薬剤のあいだで有意差は確認されませんでした。また、腹水サンプルの蛋白濃度にも、群間差は認められていません。このため、COX-2限定阻害薬であるフィロコキシブやメロキシカムは、手術箇所の炎症や腫脹に対する効能は低かったものの、腹腔内の炎症に対する効能は同程度に得られるという可能性はあるかもしれません。
この研究では、メロキシカムの投与群において、10頭中の8頭で発熱症状が認められ、これは、去勢箇所の炎症度合いに相関していると考察されています。また、フィロコキシブやメロキシカムの投与群のうち、13%の馬に後肢跛行が認められており、これは、去勢箇所の浮腫よりも疼痛に起因すると推測されています。さらに、メロキシカムの投与群においては、血液検査でのクレアチニンやALPの濃度が上昇している傾向が見られましたが、他の臨床・血液所見を鑑みて、これらが腎機能や肝機能への悪影響を示すか否かは結論付けられていませんでした。
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