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COX-2限定阻害薬:馬の小腸絞扼での効能

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これまで、馬の軟部組織の痛みには、フルニキニンメグルミン(バナミン®)が投与されることが多かったですが、近年では、副作用の少ない新しいタイプの薬剤が応用されてきています。

一般的に、馬の抗炎症・鎮痛剤としては、COX-1およびCOX-2の両方の炎症介在物質を阻害する薬剤(フルニキニンメグルミン等)が使用されてきましたが、COX-1は胃腸粘膜の新陳代謝にも関わっているため、これを阻害することで、胃潰瘍や大腸炎などの副作用が起こることがあります。このため、安全性の面では、COX-2だけを限定的に阻害する薬剤のほうが好ましいと言えますが、その反面、抗炎症や鎮痛の効果は劣るのではないかと考えられてきました。

ここでは、馬の小腸絞扼における、COX-2限定阻害薬の効果を検証した知見を紹介します。この研究では、米国の三つの獣医大学病院(ノースカロライナ、ミシガン、ペンシルベニア)において、2015~2017年にかけて、小腸の絞扼性閉塞のために開腹術が行なわれ、術後にフルニキニンメグルミンまたはフィロコキシブが無作為投与(いずれも静注)された56頭の症例馬における、医療記録の解析、行動様式に基づく腹痛スコアの評価、および、血漿検体を用いた炎症介在物質の活性測定が行なわれました。

参考文献:
Ziegler AL, Freeman CK, Fogle CA, Burke MJ, Davis JL, Cook VL, Southwood LL, Blikslager AT. Multicentre, blinded, randomised clinical trial comparing the use of flunixin meglumine with firocoxib in horses with small intestinal strangulating obstruction. Equine Vet J. 2019 May;51(3):329-335.

結果としては、小腸絞扼の開腹術後の腹痛スコアには、フルニキニンメグルミンとフィロコキシブで有意差は無いことが分かり、血漿サンプルの解析では、フィロコキシブがCOX-1を阻害していない(COX-1により生合成される誘導物質[TXB2]が減少していない)ことが再確認されました。一方、フィロコキシブと比べて、フルニキニンメグルミンの投与群では、内毒素血症の指標となるCD14血中濃度が三倍以上も高かったことが示されています。なお、いずれの薬剤でも、COX-2阻害は達成されている(COX-2により生合成される誘導物質[PGE2]は減少している)ことが確認されました。

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このため、馬の小腸絞扼の開腹術後には、COX-2限定阻害薬であるフィロコキシブを投与することで、フルニキニンメグルミンと同程度な鎮痛効果を得ながら、消化管粘膜への副作用を軽減できると考えられました。この研究で検知された血漿中のCD14活性増加は、非特異的COX阻害薬であるフルニキニンメグルミンによって、胃腸粘膜のバリアー損傷が引き起こされたことに起因すると推測されています。この研究では、フルニキニンメグルミンおよびフィロコキシブの選択は、無作為に実施され、腹痛スコアの評価は盲検とされていたものの、全症例の入院前には、フルニキニンメグルミンが投与されていたことが報告されています。

一般的に、非特異的COX阻害薬による副作用は、胃腸粘膜の新陳代謝を妨げて、胃潰瘍や大腸炎など、消化管壁における炎症を誘発することが挙げられていますが、それに加えて、特に、結腸粘膜のバリアー機能が減退すると、内毒素(LPS)の血中流入量が増加して、全身性炎症反応症候群(いわゆる敗血症)から多臓器不全を続発することが知られています。その結果、肺機能や肝機能が低下して、麻酔ストレスに耐えられなくなる可能性もあります。このため、疼痛制御のためにCOX-2限定阻害薬を選択することは、二次診療施設よりも、むしろ一次診療の場で重要であり、開腹術が必要になったケースを想定して、COX-1活性を出来るだけ温存しておくべきであると提唱されています。

この研究の限界点としては、臨床症例への治験であるため、完全な盲検は実施不可であり、フルニキニンメグルミンとフィロコキシブのうち、どちらが投与されているかを臨床医は把握していたことが挙げられています。その結果、たとえば、フィロコキシブによる鎮痛作用が低いというバイアスの掛かった臨床医では、他の鎮痛剤(オピオイド等)を追加投与したり、経鼻カテーテルによる胃除圧を頻回に実施する(小腸機能不全によるイレウスや胃拡張への対症治療)などの手法で、よりアグレッシブに術後の疼痛管理を試みた可能性は否定できません。その影響もあってか、試験薬の違い(フルニキニンメグルミン v.s. フィロコキシブ)による生存率の差は認められておらず、明確な治療成績の差異を実証するには、約500症例への臨床応用の結果を解析する必要がある(検出力分析と標本サイズ計算から推測)という考察がなされています。

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