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馬の基節骨骨折の螺子固定術

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馬の基節骨の縦骨折に対する螺子固定術についてまとめてみます。あくまで概要解説ですので、詳細な手技については成書や論文を確認して下さい。

馬の基節骨の骨折は、到着時の衝撃や荷重中の捻転負荷によって発症して、縦骨折、背側骨折、遠位関節骨折、掌側隆起骨折、骨端骨折、斜位骨幹骨折、背側裂離骨折などに分類されます。このうち、矢状部の完全縦骨折は、最も頻繁に発症する骨折タイプの一つで、単一関節性骨折、変位性骨折、閉鎖性骨折の病態を取ることが多く、この場合には、螺子固定による内固定術が治療の選択肢となります。この際、粉砕骨折を呈していなければ(骨折片が2つのみ)、穿刺切開創を介した螺子挿入が可能となります。

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この術式は、全身麻酔下での横臥位で実施され、骨折線が矢状面から外側面に抜けている場合には、骨折肢を上にした横臥位を取ります。術野の消毒とドレーピングのあと(駆血帯は通常は不要)、術中X線撮影で骨折片の変位度合いを確認し、骨把持鉗子で骨折片同士を正常な位置に保持した状態で(下図左)、再度X線撮影を行ない、骨折面の密着および関節面の平坦化が達成されていることを確認します。特に、関節面に段差が残っている場合には、荷重時の骨片間のズレによって、螺子の破損や内固定の損失が起きることから(上図左)、術中X線検査で、関節面の状態を精査することに加えて(上図右)、必要に応じて、球節の関節鏡を併用して、関節面の連続性が回復できていることを確認するようにします。また、骨折発症から手術までに日数が経っている場合には、骨折線の部位に別の切開創を設けて、骨折面の内部に生じた血腫を掻把することで、骨折片同士を密着させることもあります。

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挿入する螺子の数は、骨折片の長さによって異なり、最も近位側の螺子は、関節面から十分に距離を置くこと(基節骨には矢状溝があることに注意)、螺子と螺子のあいだは20~25mmは空けること、および、最も遠位側の螺子は、外側骨折片の遠位端から15mm以上は近位側に設置することを考慮します。また、最も近位側の螺子は、基節骨の幅の背側2/3領域の真ん中で、繋靭帯伸肢枝よりも背側の位置に設置します(上図右)。このタイプの骨折片では、通常、3本の螺子によって内固定が施されますが、最も近位側の螺子を最初に設置することになるため、真ん中および最も遠位側の螺子の位置には、先に2mm径のドリルビットを挿入して、骨折片同士を固定させておくと効果的です。

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螺子の位置が決まったら、最も近位側の螺子位置に、穿刺切開創を開けて、ゲルピー開創器で拡げながら、4.5mm径のドリルビットでグライド孔を開けますが(上図左)、この際には、矢状溝に螺子が出ないように、関節面から十分に距離を置くこと、4.5mmドリルスリーブを使って軟部組織を巻き込まないようにすること、ドリルビットの角度を術中X線画像で再確認すること、生食の滴下でドリルビットを冷却しながらドリル穿孔すること、グライド孔は骨折線を越えて、内側の骨折片まで確実に達するようにすること、などに注意します。その後は、グライド孔内の切屑を生食で洗浄してから、3.2mmドリルスリーブを挿入します。もし、関節面の段差が整復できない場合には、このドリルスリーブを使って外側骨折片を操作することで、関節面の連続性を回復させることもあります(上図右)。

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次に、3.2mm径のドリルビットでスレッド孔を開けますが(上図左)、この際には、内側骨折片の皮質骨面を確実に貫通すること(上図右)、生食の滴下でドリルビットを冷却しながらドリル穿孔すること、および、内側の皮膚は損傷させないことに注意します。その後、カウンターシンクを使って、螺子頭が座る窪みを作成しますが(下図左)、この窪みが浅いと、螺子頭に不均一な負荷が加わって螺子が折れたり(下図右)、骨折片そのものが割れてしまう危険もあるので注意します。

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そして、ドリル孔内の切屑を生食で洗浄したあと、デプスゲージを用いて、ドリル孔の深さを計測しますが(下図左)、この際には、先端の鉤は基節骨の近位側に向くようにして、ドリル孔の深さの最長を計るようにします(下図右)。通常は、デプスゲージで測ったドリル孔の深さから、2~4mm短いサイズのコーティカルスクリューを選択するようにします。

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その次には、4.5mm径のタップを用いてスレッド孔に溝を刻みますが、このとき、4.5ドリルスリーブを用いて軟部組織を巻き込まないようにすること、スレッド孔の全長にわたって溝を刻むこと(タップの先端箇所には全周分の刃が無いことに注意)、および、内側の皮膚は損傷させないことに注意します。また、タップは最も折れやすい器具であるため、タッピング操作にはドリル機器を使わず、出来るだけ用手でタッピングすることが推奨されています。

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その後は、選択したコーティカルスクリューを、スクリュードライバーを使って挿入して締めますが(上図左)、最も強く締め付けるのは、全ての螺子が挿入された後にします。その後には、術中X線撮影によって、螺子が関節面や矢状溝に達していないこと、骨折片同士が圧迫されて骨折線が消失(または不明瞭化)していること、螺子先端が反対側の皮質骨面から約溝一個分だけ突出していること、螺子頭が手前の皮質骨面の窪みに収まっていること、などを確認します。

その後、同じ手順を踏みながら、真ん中の螺子、最も遠位の螺子の順で挿入していきますが(上図右)、これらの螺子は、基節骨の幅のほぼ中央もしくはやや背側面に近い箇所に設置すること、最も近位の螺子と平行に挿入すること(たとえ矢状面に直角になっていなくても)などに注意します。その後は、全ての螺子を最も強く締め付けて、骨把持鉗子を外した状態で再度X線撮影を行ない、骨折片同士の密着度合い(骨折線が消失しているか否か)、螺子の長さと角度、関節面の連続性などを確認します。

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なお、近年では、基節骨の縦骨折の内固定術において、最も近位側に螺子を2本挿入して、三角形状の螺子固定(Triangular screw configuration)をするという術式も提唱されています(上図)。この場合には、近位側の2本の螺子のうち、背側の螺子を先に挿入し(1本の場合より少し背側の位置)、その後に掌側または底側にもう1本の螺子を挿入します(基節骨の幅の中央よりも掌側・底側の位置)。そして、3本目(真ん中)の螺子は、近位側の2本の螺子から2.5mm以上は遠位の位置に挿入し、骨折片の長さが十分であれば、その更に遠位側(骨折片遠位端から15mm近位側)の位置に4本目の螺子を挿入します。

このような三角形状の螺子固定に関して、屠体肢を用いた実験[1]では、直線状の螺子固定に比べて、三角形状の螺子固定のほうが、荷重負荷での骨折片間隙の拡大により強固に抵抗して(負荷量と間隙拡大量が相関しない)、骨折病態をより正しく整復したことが報告されています。さらに、臨床症例への治療成績としては[2]、基節骨の完全または不完全縦骨折に対する内固定術において、直線状の螺子固定における競走復帰率(70%)と休養日数(中央値351日)に比較して、三角形状の螺子固定における競走復帰率(81%)と休養日数(中央値289日)は、いずれも顕著に優れていたというデータが示されています。

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基節骨の螺子固定後の麻酔覚醒では、起立時によろめいて、骨折肢に過剰な荷重が掛かり、インプラント破損や骨折部損壊が生じるのを防ぐため、半肢キャストまたは一時的固定装具(いわゆるスキーブーツ)を装着することが推奨されています(上図)。半肢キャストは、2~3週間おきに交換しながら、4~6週間は装着されることが一般的です。ただし、手術時に巻いたキャストは緩み易いことから(手術時には罹患肢が腫脹していることが多いため)、術後の一週間目までに交換することが推奨されています。

通常の基節骨骨折の内固定では、抗生物質投与は10日間投与して、抜糸は術後14日目頃に行ないます。運動では、術後の8週間は完休とし、その後に曳き馬運動を開始して、一ヶ月おきのX線検査で骨折治癒を評価するようにします。もし骨折部が良好に癒合すれば、手術の四ヶ月後から騎乗運動に復帰できることが報告されています。

Photo courtesy of AO Surgery Reference

参考文献:
[1] Labens R, Khairuddin NH, Murray M, Jermyn K, Ahmad RS. In vitro comparison of linear vs triangular screw configuration to stabilize complete uniarticular parasagittal fractures of the proximal phalanx in horses. Vet Surg. 2019 Jan;48(1):96-104.
[2] Findley JA, O'Neill HD, Bladon BM. Outcome following repair of 63 sagittal fractures of the proximal phalanx in UK Thoroughbreds using either a triangular or linear screw configuration. Equine Vet J. 2021 May;53(3):524-529.




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